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7つの迷宮がある世界の『英雄』譚  作者: 空兄
1章 少年と少女達の出会い
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1話 旅立ちの日

「――なさい! ――フレッド!!」


 まどろみの中で声が聞こえた。

 なんだろう? まあいいや、まだ眠い。


 僕は覚めかけていた意識を落とし惰眠を貪ろうとしたが、それは叶わなかった。


「いい加減起きなさいっ! バカ息子っ!!」


 そんな言葉とともに僕の頭に強い衝撃が走った。

 母さんに頭を殴られたようだ。


「痛っ! 酷いよ母さん……」


 僕は母さんを恨めしげな眼差しで睨みつけたが、母さんはそれを気にも留めず僕を見て呆れた顔をしていた。


「やっと成人になったかと思えば……あんたは村を出て冒険者になるんでしょうがっ! しっかりしなさいっ!!」


 近所中に響き渡るような怒声で母さんに怒られてしまった。

 怒声によりはっきりと意識が覚醒したおかげで怒られた理由がわかった。

 これは怒られて当然だ……。


 僕の名前はアルフレッド・クラージュ。

 大陸の北西にあるエーアスト王国のロフォス村という所に住んでいて、母さんの言う通り昨日成人になった。

 ちなみに成人は15歳からだ。


 冒険者というのは迷宮で魔物と戦い生計を立てている人達のことだ。

 冒険者になるには迷宮のある街――例えば僕が向かうエーアスト王国の王都オヌールにある冒険者ギルドで登録する必要がある。

 登録しないとせっかく手に入れたドロップ品を買い取ってもらえないのだ。


 成人でなければ登録できないわけではないけど、僕は母さんとの約束で成人するまで我慢していたんだ。

 それに僕が特別そういう約束をしていたわけじゃない。

 親が冒険者だったり特殊な事情でもない限りそういう風潮がある。


 王都オヌールまでは馬車で1日の距離なのだが、乗り過ごせば次の馬車は明日になってしまう。

 僕は焦って母さんにお礼を言ってから急いで身支度を整え始めた。


「あああああ、そうだった! ごめん母さんありがとう!!」


「はぁ~、こんなんでやってけるのかねぇ」


 慌てて行動し始めた僕の姿を見て、母さんは呆れたように溜息を溢していた。

 自分でもしっかりしなきゃと思うよ。ごめんよ母さん。





「本当に行くのかい……?」


「うん! これが僕の夢だから……」


 家を出ようとしたら母さんが見送りに来てくれて、心配そうな表情に寂しさを織り交ぜて僕に問いかけてきた。


 僕も寂しくないわけではない。

 15年間住んでいた家を、村を出ていくんだ。


 それに父さんは幼いころに亡くなってしまって、母さんは女手一つで僕のことを育ててくれた。

 そんな母さんに僕はとっても感謝しているし1人残していくのも不安だ。


 それでも僕はどうしてもなりたいんだ冒険者に。

 過去に僕の事を救ってくれた『英雄』と謳われる憧れの冒険者みたいになるために。


 それが僕の夢だから!


「……わかったわ。でも死ぬんじゃないよ! それからたまには帰ってきなさい」


 母さんは一瞬だけ、胸が締め付けられているかのように寂しさげな表情を深めたが、すぐに笑顔で僕を送り出してくれた。

 僕に気落ちさせないように、寂しさを押し殺して笑顔を作ってくれているのがわかった。


 永遠の別れじゃない。すぐには無理だけどたまには会いに来よう。

 帰ってきた時に誇れるような冒険者になろうと心に誓い、僕も母さんに笑顔で応えた。


「母さんありがとう。立派な冒険者になって帰ってくるよ……。行ってきますっ!」


「ああ、期待してるよ……。頑張っておいでっ!」


 母さんは旅立つ僕が見えなくなるまで手を振っていてくれた。

 僕も何度か振り返り母さんに手を振り返しながら歩みを進めた。


 馬車の乗合所に向かっていると、村の人達から別れと激励の声を掛けてもらった。

 小さな村でみんなよく知っているし名残惜しさも増してくるが、それでも僕は夢を叶えるために、冒険者になるために、ロフォス村を旅立った。





 馬車の旅は途中で休憩を挟みながらも、順調に王都オヌールへと向かっていき、何事もなく王都オヌールまで辿り着いた。


 王都オヌールは王都だけあって人口100万人を超える大都市で、王都を守護している石造りの立派な城壁が、堅固さと荘厳な歴史を感じさせる。

 その城壁には大きな城門があり、検問の為の列ができているので、馬車を降りた僕もその列に加わる。


 何回か来てるけど、やっぱり大きいなー! 僕も今日からここに住むんだっ!

 しばらく感慨に浸って城壁を眺めていると僕の番になったようで、門兵のおじさんが声を掛けてきてくれた。


「よう坊主。ステータスプレートを見せてくれるか?」


 門兵のおじさんに首にかけていた銀色の板――ステータスプレートを渡す。


 ステータスプレートというのは身分証明書のような物で表面に名前が刻まれている。

 それと専用の装置を使うことによって年齢・出身地・犯罪歴など様々な情報を読み取ったり更新することが出来る

 さらに『ステータス』と唱えることで、自分のステータスを見ることも出来てしまうとっても便利な魔道具なんだ。


 門兵のおじさんは僕からステータスプレートを受け取り、読み取り専用の装置で情報を確認していく。


「ロフォス村の子か! どんな用事で来たんだ?」


「冒険者になりに来ました!」


「おお、男だな坊主! まあ、無茶するんじゃねえぞ」


 検問は毎回緊張する。

 今回は見た目はちょっと怖いけど、優しい門兵のおじさんで良かった。


 門兵のおじさんは雑談を交えながらも、ステータスプレートの情報を確認していた。

 問題がないと確認できたようで僕にステータスプレートを返してくれた。


「よし、犯罪歴も無いな。通っていいぞ!」


 門兵のおじさんからステータスプレートを受け取り、一言お礼を言ってから、城門を潜り王都オヌールの街中へと入っていく。


 相変わらず凄い人の数だ。何度来ても慣れないや……。

 村の買出しなどで何度か王都に来たことがあったが、人の往来が多く、とっても栄えていて、田舎暮らしの僕はなかなか慣れない。


 あれって冒険者だよね?

 場所は知っていたので冒険者ギルドに向けて歩いていると、ちらほらと冒険者であろう格好をした人を見かけた。


 うわあーっ! あの装備かっこいいなー! これから迷宮に行くのかな?

 冒険者達の姿を見かけた僕は、これからの生活に期待を膨らませ足を早めた。


 道中に美味しそうな匂いを漂わせる屋台や、様々な武器や防具が陳列されている店舗を見かけて足を止めかけるが、誘惑を振り切り、小走りで冒険者ギルドへと向かう。


 あ、ここだっ! 相変わらずの立派な建物だなー。

 10分程歩くと3階建ての建物が見えてきた。

 周囲の建物と比べると別格の大きさを誇っている。


 やっと冒険者ギルドに着いたっ!

 僕は高まる興奮と期待に胸を膨らませながら扉に手をかけた。

《作品設定》

1日=24時間 1週間=6日 1ヶ月=30日 1年=12ヶ月

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