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双子になった私たち  作者: 四月三日
8/10

第八話 ジャムパンと牛乳

 入学式からしばらくが経ち、少しずつ新たな生活に慣れを見せ始めた頃、新しい友達を作りだした頃に、私はいまだに新しい友達というものの存在を感じられていなかった。

 私の周りにいるのは、中学校時代からの仲間である白川千尋(しろかわちひろ)大地友里(だいちゆり)天ヶ谷達則(あまがやたつのり)永妻悠平(ながつまゆうへい)、そして双子の光瑠だけだった。

 少なすぎる上にひとり身内じゃないかっていう言葉はいらないよ? そんなこと言われなくても私が一番わかっているので。

 いいじゃん、少なくても。いないよりはマシだもん。

 自分で言ってて悲しくなるから、これ以上考えるのはやめにしよう。


 しかし、流石に知り合いがこれ以上にいないというのも問題だとは思う。実際、このみんなも私から話しかけたわけじゃなくて、向こうから強引にと。

 まあ、女の子になったばっかりだったので、助かったと言えば助かったと思う。悪い人たちじゃないしね。


「うん。ほんと、なんで悪くないんだろうね、頭とかさ」

「うぉい、なんでいきなりそんなこと言われてんの? 俺」

「いや、別に天ヶ谷君に言ったつもりはないよ? ってか、声出してた?」


 ちうぅー。


「思いっきし俺の方見ながら何言ってやがんですかこの人は。あきらかに俺に言ってるようなもんじゃん」

「それに悪くない、って言ってるんだから褒められているんだよ? むしろいいことじゃん。なのになんで不服なのさぁ?」


 ちうぅー。


「あきらかに、こいつ頭悪そうに見えるのに頭いいとかおかしくね? 的なノリで言ってんじゃんかよ。お前そういう時わかりやすいぞ?」

「いやいやいや、そんなこと一切思ってないよ?」

「なーにが、ないよ?だ。目線が泳いでんだよ」


 ちうぅー…………ずずっ、ずっ。


「ってかおい。さっきからパックジュース飲んでるやつ、助け舟出せや」


 昼休み。午前中に帰ってきた実力テストの結果を見てからの昼食中のこと。天ヶ谷君のテスト用紙を見てからの感想が、どうやら思わず口から出ていたらしい。

 でもさ、なんかイラっと来るじゃん? こんな運動バカで勉強なんて下から数えた方が早いっていうようなツンツン頭君が、クラストップで学年三位とか。それで運動の方は別段不得意ではないという。なんとも理不尽ではないか。


「助け舟って言われてもねぇ? そんなの見た目とキャラと比例していないタツが悪いんじゃない?」


 その理不尽に同意してくれる人物が一人。この中で私が一番気の許せる友達である白川千尋である。


「え、まさかの敵対? 予想外過ぎるんですけど」


 味方にもなってない相手からの裏切りに遭い目を見開いている天ヶ谷君。それも仕方ない。だって千尋は私の親友だから。味方に付くのは当たり前なのだよ。

 ちょっとドヤ顔になってみる。おーおー、悔しそうだねー。でもね、頭がいいだけじゃ勝てないんだよ? 世の中は。


「でもまあ光璃と友里はもうちょっと勉強してもいいかもね」

「ギクッ!?」 


 まさかの裏切り。しかも、今まで話に入ってこなかった……入ろうとしなかった友里ちゃんまでも巻き添えにしてというダブルパンチ。とても痛いです、親友よ。


「なんでそこで私まで巻き添えにするかなぁ? ちひろんはー」


 机にだらんと顔と腕を乗せ、購買のパンの袋を開ける友里ちゃん。本日四つ目のジャムパンです。


「実際あたしらの中で80点以下のって光璃と友里だけじゃない」


 チラッと返却されたテスト用紙を見せてくる千尋。その顔には悪意が見られます。私より長い髪の首筋あたりから毛先がクルクルとふんわりとした見た目と、その表情がとてもミスマッチ。思わず泣きそうになってしまうのでやめてほしい。


「でもこの二人はわかってたとは言え、光瑠が点数いいってのは驚いたな」


 永妻君の質問に全員が顔を向ける。もちろん友里ちゃんは牛乳片手にジャムパンを咥えたまま。


「いや、悪いとは思ってるけど皐月の兄妹って聞いたからさ。どうなんだろうなって」

「まあ、義務教育レベルだしな。教科書読み直しとかで案外何とかなるもんだぞ?」

「その時点でびっくりだって。普通教科書読み直しだけじゃここまで点数取れないって」

「そうなのか? まあでも褒められてるんだったら素直に喜ぶとするよ」


 微笑む光瑠。そうなのだ。高校が始まる前に光瑠の学力がどれだけあるのか調べたところ。最初は小学校レベルだったのが高校入学直前には中学校卒業レベルを簡単に超えた。さらには高校の予習にまで手を出す始末。これじゃどっちが上なのかわからないよ、って……


「今のきょうだいって、どっちを上と思っていったの!?」

「え? 光瑠が兄じゃないのか?」


 なんと!? これは由々しき事態だ。なんとか私の方が姉なんだって分からせなきゃ。


「わ、私の方が先に生まれてるから、私が姉だよ!」

「あーはいはい、あんたも苦労してんのねー。お姉さんがよしよししてあげるわよー」

「人の頭ナデナデすんなっ」


 私を抱きしめ頭を撫で始めた千尋の手をどける。千尋は中学校の頃から私を妹扱いしてくる。昔よりは身長が伸びたといっても160センチには届かない、私より低いのにだ。どうしてだろう。胸か。胸なのか。手を払われたことも気にせずに自分の弁当箱を片付けている千尋の胸を見てみる。私のより大きい。巨乳って程でもないけど少なくとも高校一年生の平均よりは大きいと思う。だからかだろうか。

 友里ちゃんの方も見てみる。大きい。まごうことなく大きい巨乳。砲丸でも詰め込んでいるんじゃないかなというくらい。一方の私はというと、この中で一番小さい。むしろ平均よりも小さい。


 くそうっ。


 相手はいないとはいえ、こうも残念だと悔しい。私が姉と思ってもらえる要素がないじゃないか。光瑠はそんなの気にしていないような顔してるし。気にしてる私の方が子供みたいじゃないか。


 どうすれば私がお姉ちゃんと見られるかを考えていたら、その時のふくれっ面をまた子供っぽいと言われた、テスト明けのお昼でした。


さて、彼女たちのキャラがブレ始めてきたぞう。

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