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双子になった私たち  作者: 四月三日
7/10

第七話 バトンを渡そう。そうしよう

久々の投稿になります。

 私立星小鹿(ほしこが)学園は私立のなのに公立高校のように安く、比較的自由な校風が人気の高校であるが、学生からあげられる唯一の問題点は、物凄く周りに何もないド田舎にあるということだ。いや、強いて言えば自然がたくさんあるというべきだろうか。

 そして、その維持費は大丈夫なんだろうかと思われる私立高校の持ち主、いわば学園長と呼ばれる人物がそこにいる。

 その人物を目の前にして誰もが唖然としている。もちろん私もその一人だ。

 

 だっているはずがない。


 そう思わせるような外見をしているのだ。建前的にスーツを着ているが、燃えるような赤く短い髪をオールバックのように後ろ向きに跳ね上げ、髪よりも少し深みのある同色の瞳は獲物を狩るように鋭く、ギラつかせている。しかしその表情はどこか優しく、頼れる兄貴分のような雰囲気を醸し出していた。


 それでもおかしい。


 教育機関のトップに立つような人物としては、この外見はおかし過ぎる。教育上よろしくないのでは? とは思ってしまう。そして周りを見渡してみる。

 皆も同じみたい、口がぱっくり空いてるよ。そりゃそうだよね。こんななんか、どこかの反抗的ロック歌手みたいな人見たらそうなるよね。


 そんな私たちの当たり前の反応をつゆ知らずに、その学園長は学園長挨拶を始めた。


「先ずはだ。入学おめでとう。君たちを歓迎するとともに、これからの学園生活が良いものになることを願っている」


 あれ? 案外普通のことを言っている。

 誰もがそう思っているが、ひとつの組織のトップに立つ人物だ。そこら辺しっかりできなければやってはいけない。

 その後も学園長はよくある言葉を残して、さほど長くもない挨拶を終わらせ、ステージの上から退いた。


 結果、学園長の見た目が物凄いインパクトを残しただけで、入学式はつつがなく終了した。






 しかしさて、どうしよう。

 問題は別のところで起こった。起こってしまった。確かにこの星小鹿には同じ中学校の人がそれなりに進学している。ただ、電車とバスを乗り継いでいける距離に公立高校もあるため、多くの同級生はそちらへと進んだ。そして少数がこの星小鹿高校に進んでいる。

 私も誰がどこへ進学するとか気にならなかったわけじゃないけど、詳しくは聞いていなかった。それでも友人数人がこちらに来たことは知っている。


 だけどなんで?


 決して多くはない私の友人が近くにいて、さらには一人がこのクラスの全員の注目を集めている。


「いや、わざわざ教卓まで登ってこなくていいからね?」


 注目を集めているもう一人の隣で、つい先ほど挨拶をした担任の先生が呆れ声を出した。

 その数分前。




「皆さん、ご入学おめでとうございます。このクラスの担任になった安心院(あじむ)貴貴(たかき)といいます。一年間よろしくお願いします」


 黒板に自分の名前を書きながら自己紹介をする担任の先生。その後、いくつかこれからの予定を軽く話して、一番窓側の席に顔を向けた。


「では、窓側、出席番号一番の人から簡単な自己紹介をしてもらいましょう。えっと、一番は……」

「はいはーいっ! おれっス! おれでーす!」


 窓際一番前のツンツン頭が手と同時に体を上げた。そしてそのまま教卓のほうへと向かっていった。先生は端へと追いやられてる。


「どうも、一番手の自己紹介を預かりますっ、天ヶ谷(あまがや)達則(たつのり)ですっ! 皆さんどうぞよろしくっ!!」


 うるさかった。


 その一言で言い表せる彼―天ヶ谷達則は私の中学時代からのクラスメイトで、残念な事に仲の良い(?)友人の一人だ。

 あれはあれで良いところがあるんだよ? ……たしかあったはず。あれ? どうだっけ?

 まぁ、いいか。


 このやり取りで数分経ち、今現在。

 これだけなら別段困ることじゃない。私が思わず頭を抱えたくなったのは、その後に彼が言った自己紹介によくある一言コメントや自己アピールなどでの言葉だった。


「そこの皐月と白川と友里と悠平と仲良くやっていまっす!南方中学から来た仲間なんでいっしょによろしくやってくださいっ!」


 一人一人指を差し紹介すると、こちらの事情なんぞ知らぬ顔で自分の席へと戻っていった。

 なんてこった。これじゃあまるで私があんなバカと知り合いみたいじゃないかっ。……………まあ、知り合いなんだけどさ、あるじゃん? こう、なんというか、関わりたくない人っていうか、知り合いと思われたくない時ってさ。だからさ、私は今どうしたらいいのだろう。

 これが私を悩ませる原因だった。


 …………………………………………………。


 「皐月光璃」


 さんざん悩んだ末に私が出した答えは諦めて気にしないことだった。

 さっさと自己紹介をして、後ろに控えている光瑠にバトンを渡そう。そうしよう。

 その考えで私は無難でつまらないようなありきたりな自己紹介をして、椅子へと腰を下ろした。その後の光瑠の自己紹介で周りが何か言おうが関係ない。私の番は終わったのだ。その後のクラスメイトの自己紹介を私は聞き流し、頬杖をついてぼーっとしていた。




 ♢♦♢♦




 あれはないだろう。


 目の前で行われた光璃の自己紹介を見てそう思った。いくら最初に爆弾が投下されたからといっても投げやりすぎる。あれではほかのクラスメイトに、私は誰とも関わるつもりはありません。と言っているようなもんだ。ただでさえ女子にしては背が高いのだ。威圧感がデカいだろ。

 だがその心配をよそにもう一つの問題がやってくる。光璃の出した冷たい空気の中で立ち上がり、俺の自己紹介をする。


「えっと、どうも。皐月光瑠です。よろしく」


 俺と光璃は似ている、というかそっくりだ。双子という状態だが、もとは同一人物だから仕方ないのだが、周りはそれを知らない。だからこそ男女の違いがあるものの、見た目がそっくりで同じ苗字、名前まで似ているともなれば高校生なら誰もがそれを、俺たちを双子だと見抜くだろう。だからこそ、教室はざわめいた。

 まあ、そうだろうな。あれだけぶっきらぼうにあいさつした光璃の肉親だもんな。しっかりとあいさつしたところであまり好印象ではなさそうだよな。

 諦め半分に腰を下ろして次のクラスメイトの自己紹介へと耳を傾ける。するとしばらくして先ほど一番最初の自己紹介の彼、天ヶ谷達則の話に上がった、白川という女子生徒の番になった。


「どもー、白川(しろかわ)千尋(ちひろ)でーす。さっきバカが何か言ってたけど気にしないで、みんな仲良くしてねー」


 それは男女関係なく、誰に対しても平等に接する言い方だった。天ヶ谷達則同様、明るく社交性の高い性格なのだろう。一挙一挙の仕草からその感じが見て取れる。

 その明るさから光璃とも仲良くなれたのだろう、光璃が彼女のほうを見ていることから見ても、そこそこに親しいらしい。どういった経緯で親しくなったのかは知らないが、俺としてはありがたいことだ。俺の、皐月光瑠としての友人作りに一役は買ってくれそうだし、光璃のこともまあ、何とかなるだろう。

 

「以上がこのクラスの仲間ですね。皆さんそれなりには仲良くしてくださいね」


 どうやらこれからの事を考えていたらクラス全員の自己紹介が終わったらしい。先生の挨拶もそこそこに、今日はこれで終わりとなった。皆他の友人の元へ行ったり、下校を始めたりと動き出した。

 俺はというと、さっさと帰り支度を終わらせていた光璃を追うようにして、教室を出た。

 そして、ずいぶんと不機嫌な光璃の後を追いながら、先ほどの光璃を友人といった二人と少し話をすればよかったと後悔していた。




 あ、ユリとユウヘイと呼ばれていた二人の自己紹介を聞き逃していた。

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