第二話 一緒にお風呂入ろう!
3年前のことになる。
小学六年生まで僕は皐月光という男の子として過ごしていた。
そんな小学生最後の年の冬に僕の体に変化が起こった。男性としての象徴が日ごとに小さくなり、代わりに体つきが丸みを帯びながら同時に胸が気持ち膨らんできた。
それと同時に発熱や腹痛なども起き病院で診察してもらうと、一部男性の部分が残ってはいるがほとんどの体内構造が女性のそれと同じになっている、とのことだった。
体の不調もあり入院という形で経過を見ていたが、数日もしないうちに完璧……ちゃんとした女の子の体になっていた。
え? 幼児体系? あー、あー、聞こえなーい。
それと僕の場合は第二次成長期あたりが来るのが遅く、男の子としての成長や性の目覚めなんかがほとんどなかった。だからか、客観視するようなもともとの性格も相まって、男の子から女の子に変わっても「僕」から「私」へと一人称が変わったくらいだった。
いやまぁ、それでも女の子らしくするのには多少苦労したんだけどね。
そうそう。お医者さんの話によるとここ数年でこういった事例がみられるようになったらしい。それでも珍しいことには変わりないらしい。
そんなかんじで僕は小学校の冬……といっても卒業直前は女の子になったことを隠して過ごし、春休みを境に引越しをして女の子として中学校に入学した。
引越し先はお父さんの実家(近く)になった。理由として、妹の明が小学校最後の年を新しい学校で過ごすのは大変だろう、とのことで、僕だけ先におばあちゃんちに行くことになった。
まあ、お母さんもお父さんも代わる代わる来るけどね。 近いから。
そのあとは、若返ったように生き生きしだしたおばあちゃんやお母さんたちに、女の子らしさを叩き込まれた。
性別が変わったらいろいろ大変だ。と言うのはわかる。性知識のほとんどない小学生だった僕ですらわかるぐらいだから。
でも一番大変だったのはおばあちゃんとお母さん、従姉の柊お姉ちゃん、伯母の一美さんの4人にいろいろされたことだと思う。お父さんたち男性陣に訊くと、
「あれはまるで、育成ゲームだったな。短期集中夏期講習もびっくりなペースの」
とのことらしい。
その間明は助けてくれなかった。従兄の樹兄ちゃんと遊んでた。
近衛柊、近衛樹。僕らの従姉弟で、僕のひとつ上の双子であったりする。
お父さんのお姉さんの近衛一美さんが実家近くに暮らしているから、よく遊びに来ている。もちろん、僕も男の子だった時から一緒に遊んだいたけど、性別が変わっても変わらず接してくれた。
流石に、一緒にお風呂入ろう! と言われたときは断ったけど。
柊お姉ちゃんと一緒に入るのは中身がまだ男だっただけに恥ずかしく、樹兄ちゃんと入るのもこの体を見られるとなるとなんか恥ずかしい。もちろん、樹兄ちゃんはお母さんたち女性陣にお叱りを受けました。
中学校に上がってからは、柊お姉ちゃん……お姉ちゃんの指導(?)もあってちゃんと女の子らしくできるようになり、同級生には女の子として接してもらえた。
でも中学校上がってすぐはまだ「僕」のままだったので、しばらくは「僕っ子」で過ごすこのになったけど。中学校卒業前には違和感なく「私」と呼べるようになったので僕っ子も卒業です。
明が同じ中学校に上がると同時にこっちに引っ越してきたときに、そこそこ驚かれたっけ。
◇◇◇◇
そんな私に起きたこと。
え? なにこれ? わけ分かんないんだけど。
小学生の頃に性別が変わらなかった私が現れたって……理解できるほうが無理だって。
机に突っ伏したまま、私の頭はフル回転を終えて停止した。
「あー、うん。だよな」
光瑠が苦笑い交じりに同意してくる。
心は読まれてないよね!?
元は同一人物ひとりだったから考えが分かっただけかもしれない。
「自分自身に言うみたいでアレだけどさ、光璃って昔よりもわかりやす……表情豊かになったよな」
「なっ、今わかりやすいって――」
「ごめんごめん、悪い意味じゃなくて年相応になったていうか」
顔をあげて前のめりになった私に対して、光瑠は私の頭の近くに手を挙げて笑いながら誤魔化す。
ここもだ。誰かをなだめるときに頭に手を当てる仕草。未だに私もする行動。
否が応でも、そこにはもう一人の私がいることを認識させられてしまう。
「はいはーい、しつもーん」
ふと明が手を挙げる。
「本人たちがどう思うかは置いとくとして、戸籍とか学校とかどうするの?」
至極真っ当な質問。
女の子になったときは引っ越しと同時に、戸籍登録の性別をさらっと変えていたらしいけれど、今回は……
「遠くの親戚の家から越してきたってことにしてるわ」
お母さんはそう言うと書類の束を出してきた。
よく見ると、戸籍登録用紙だったり、転居届、入学書類まで。
いつの間に。
「今日あたりこうなるんじゃないかなぁって。お母さんの予感はよく当たるんだから」
自慢げに胸を逸らすが、ここまでくるともはや未来予知のような気がするのだけど。気にしたら負けだ。何に負けるのかわからないけれど。
「あ、ここって光璃と同じ高校?」
光瑠が書類のひとつを取って訊く。
「ええ、そうよ。双子(の設定)なんだし同じところのほうがめんど………なにかといいでしょ」
面倒くさいと言いかけやがりましたよ、この人は。
いやまあ、確かに面倒だと思う。親からしてみれば。
チラッと前方に座って高校のパンフレットを見てる光瑠に目をやる。
どことなく嬉しそうな顔をしている。こんな表情かおされちゃ反対もできない。それに反対する理由もないしね。
だから私は部屋に戻るために席を立った。高校という未知の場所へと思いをはせながら。
ところで、私が「姉」でいいんだよね?
一部修正しました。




