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夢想屋  作者: HERON
4/10

Dream4 我慢の源さん

「そんな細かい説明はいらねえよ。ちゃっちゃとやっちゃってくんな」


 今回、来店した客は、町でも有名な我慢強い男で、町で度々行われる我慢大会のレジェンドの称号を持つ男。我慢のげんさんと言われている。


 そのせいなのか、とても頑固で面倒くさい事が大嫌い。

 なので、雨鏡がいつものように説明を始めたのだが、源は面倒くさいことが嫌いなので、すぐに始めてくれと言っているわけだ。


「分かりました……とりあえず、体験したい世界を頭で浮かべてください」


 雨鏡は、困り気味でそう言う。


「あいよ。これでいいのかい?」


「はいOKです。では」


 雨鏡がいつものように呪文のような言葉を唱え、源を夢の世界へと連れてゆく。


「起きて……あれ?」


 雨鏡は不思議に思った。客を夢の世界に連れて行った後、客は必ずといっていいほど眠っているもの。しかし、源は眠っておらずピンピンと自分が体験したい世界を見回していた。


「おぅ。凄えなあんた。完璧だぜ」


 源が上機嫌で雨鏡に話しかける。


「どうもありがとうございます。それにしても、作った私が言うのも何ですが、奇妙な世界ですよねここ。この世界で何をするおつもりで?」


 雨鏡が疑問に思うのも無理はない。その世界は大地が赤く、周りには溶岩があり、辺りを見回しても見えるのは大きな城のような建物が一つだけ。イメージするならば、地獄といったところだろうか。


「決まってるじゃねえか。この世界で来月の我慢大会に向けて修行するのよ。地獄ならちったぁ骨のある我慢が出来るかと思ってよ」


「ほぉ。それはそれは。納得いたしました」


 雨鏡は、奇妙な世界の理由を納得したと同時に、夢の世界に連れて行った後のピンピンした姿も、あまりにも我慢する意識が強く、夢の世界へ連れて行くときの衝撃すらも我慢してしまったのだろうと、頭の中で勝手に納得した。


「じゃあ、俺は早速あそこに行って地獄の罰を受けにいってくらぁ」


「ええ。行ってらっしゃい。私は、ここであなたが罪を償い終わるまで待ってますよ」


 源は、城のような建物へ走りながら向かっていった。


「まさか、何もしてないのに自分から罰を受けに行くなんて……設定上、罰も我慢に関する事になってるから死にはしないと思うけど大丈夫でしょうかねぇ……色々な意味で心配だなぁ……」


 雨鏡は、いつものように独り言を呟きながら源の帰りを待つ。


 一方、源は建物の中に足を踏み入れていた。

 そこでは、閻魔様のような風貌をした鬼が一体と、それを取り囲む鬼達が数十体おり、罪を犯し、地獄へ落とされた設定になっている源に罰を下す。


「そなたは現世で逃れようのない罪を犯した。よって、そなたに三つの罰を与える」


 閻魔様は、源を睨みつけながらそう言うと、三つの罪を宣告する。


「一つ! 色彩の刑! 期間1000年!」


 色彩の刑。周り全てが同じ色をした部屋に入れさせられる。色は100年ごとに変わる。


「一つ! 感覚の刑! 期間1000年!」


 感覚の刑。体の動きを封じられ、1000年もの間、頭の上に水滴を一滴ずつ垂らされる。


「一つ! 孤独の刑! 期間500年!」


 孤独の刑。その名の通り、500年の間、何もない部屋に入れさせられる。当然。誰も声もかけないし、窓もないし、ドアもない。本当に何もない空間である。


 閻魔様がそう罰を下すと、閻魔様を取り囲む鬼達が、一つ目の罰である、色彩部屋に源を連れて行った。

 源は、この部屋で1000年過ごすこととなる。当然。死んだ設定なので年はとらないし腹も減らない。


 源は、色彩の部屋に入り込むと、床にドサッと座って辺りをジッと見渡した。


 しかし、どこが左なのだか右なのだかも分からない。全てが同じに見えるので、普通の人なら途中で狂い発狂するであろう。しかし、源は違った。

 この状況を楽しんでいたのだ。勝手にどこが左なのかを当てて楽しんだり、100年ごとに変わる色彩がどの色になるだろうと予想していたらあっという間に1000年のときが流れた。


 次の感覚の刑も、普通の人なら、一定の間隔で頭に一滴ずつ水滴が落ちてくる終わりのない恐怖に発狂してしまうはずなのだが、源は、水滴の数を1000年の間、ずっと数え続け、感覚の刑も楽にクリアした。


 そして、最後の孤独の刑。これは前の二つと違い刑期が半分だ。なので、余裕だろうと思っていた。


 だが、それは違った。源は、いつものように頭で色々考えながら200年過ごした。

 しかし、それ以上はネタがでてこなかった。孤独の部屋にはネタにするものなど何もない。これから300年は、彼にとって地獄だった。


 源は、必死で孤独を我慢した。我慢が出来そうにないときは、手淫などで気を紛らわした。しかし、100年もすると、もう手淫じゃ気を紛らわせない程の精神状態になっていた。


 更に100年。源はついに発狂する。「もういいだろうが! ここから出してくれ!」「何かくれよ! 飯でも景色でもなんでもいい。なんかねえのかい!」そんな事を発狂し始めた源にとって、残りの100年は、今まで罰を受けた2400年よりも長く感じた。


 そして、長い長い100年が過ぎ、源は刑期を終えた。

 源はまだ狂っていた。どこを向いているか分からない目。何かブツブツ言っている口。意味もなくヒクヒクさせている頬。フラフラな足取り。


 そんな状態で雨鏡の下へ帰ってきたものだから、雨鏡は急いで元の世界へと戻った。


 源は元の世界へ戻った後も狂っていたが、しばらくして正気に戻った。


「大丈夫ですか!? ちゃんと理性は保てていますか!?」


 源の目が正常に戻ったのを確認した雨鏡が、大慌てで源に話しかける。


「温けえなぁ。温けえ。俺を見てくれる人がいるだけで温けえ。あんたのお陰で我慢の修行以外にも色々なこと学ばせてぇもらったよ。ありがとな。あんたも、人との関わりは大事にするんだぜ」


 源は、雨鏡の手をギュッと握った後、お代を置いて店を去った。


「あっ、ちょっと……行っちゃいましたか……精神のほうは大丈夫なんでしょうか。あれだけ我慢強いであろう源さんの精神が折れてしまうくらいなんですから、もう、こういう危なそうな体験は危険だからやめといたほうがいいなぁ。でも、最後には学ばせてもらったとか言ってたし大丈夫でしょうか……そういえば、人との関わりは大事にしろって言ってましたねぇ……人との関わりかぁ……そういえば私、ここに来るお客様以外に関わりがある人がほとんどいないなぁ……でも!」


 雨鏡は、ハムの方をクルッと振り向いた。


「私にはハムがいます。それだけで十分です。ねぇ。ハム」


 雨鏡はニコッと微笑み、ハムにそう言った。

 ハムは、こんな雨鏡を見て「気持ちわる……」と思いながらヒマワリの種をかじっていた。

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