Dream1 夢想屋
町の目立たない場所にひっそりと建っている店。店の前には『自分が思い描いた世界を体験したいと思いませんか? 価格はたったの諭吉一枚』という文字と、夢想屋と書かれた店の名前しか書かれていない看板。
その看板を見た町歩く人々は、看板に書いてある現実離れした言葉を不気味に感じたり、どこぞやの宗教団体だと思って店の中に入ろうとはしない。
しかし、藁にもすがる思いで店の中に入る人もいれば、現実離れした不気味な言葉。つまり、未知の世界に興味を抱く人だって多くはないが存在する。
今日も、そんな人たちの中にいる一人の女性が看板を見て興味を抱き、店の中に足を踏み入れる。
店の中に入った女性なのであるが、どうも人がいる気配がしない。
女性は、おかしいな? と思いながらも、このまま帰るのもなんだかしゃくなので、「すいませ〜ん! 誰かいませんか!」と大声で店の中に向かって声をかけた。
すると店の中から、細身で長身の体型をした若い男が女性の前に現れ、「すいません。店が店なもんで、滅多にお客様なんて来ないものですから」と言い、軽くお辞儀をした。
「そうなんですか。私は看板を見て、夢があっていいなとか思いましたけど」
女性は、男の言葉を軽く受け流し、自分の話にもっていこうとした。
「早速質問なんですが、自分が思い描く世界を体験したいと書いてありましたけど、具体的にどんな体験をさせていただけるのですか?」
「それは奥の部屋でゆっくりと説明いたします。立ち話も疲れるでしょう?」
それもそうだと思った女性は首を縦に振って頷き、男に着いていった。
男が案内した部屋にはテーブルと椅子しかない、ある意味不気味な部屋であった。
部屋に入った二人は、まず椅子に座る。そして、男が具体的な説明を始めた。
「それでは説明をさせていただきます。この店で体験していただくことは、文字の通り、自分が思い描く世界を体験していただきます。例えば、自分がお姫様になったという話を頭に思い浮かべたとします。そこで私が、あなたが頭で思い浮かべた話を、夢の世界という形で実現させましょうということです。ここまでは理解できましたでしょうか?」
「えっと……どういうことを体験するのかは分かったのですが、どうやるのですか? それといった機械とかも見当たらないのですが……」
「機械なんて使用いたしません。全て私の力で行います」
そういった男に対し、女性は思わずアハハと笑ってしまった。
「そんなことできるわけないじゃないですかぁ。冗談は駄目ですよ」
アハハと笑いながらそう言う女性に対し、今度は、男がハハッと笑う。
「ここに来た人は皆そう言います。まぁそれは体験していただくときに分かりますよ。とりあえず、説明を進ませていただきます」
「これは注意事項なんですが、申し訳ない話、あなたが思い描く世界通りに話が進むわけではありません。私は、あなたが思い描く世界の世界観や設定は作ることが出来ますが、内容までは作れないのです。ですので、必ずしもあなたが思っている結末は迎えられないかもしれません。いい結末になるのも、悪い結末になるのも、あなたの行動と、夢の中の人物の行動次第です」
少しずつ複雑になってきた説明ではあるが、女性はなんとか理解した。そして、女性から男に質問を問いかける。
「ということは、私の意識は夢の世界に運ばれるということですよね? その夢の世界での体験は、どれくらいの時間体験できて、夢の世界に行っている間。現実世界での時間の動きはどうなるのですか?」
「いいところを質問してきますね。体験時間は基本的に一生です。夢の世界なので年をとることもありません。夢の世界だってこの世界と同じように時代は変わっていくので、余程の時代を過ごさない限り終わりが来ることはありません。もう十分体験したなぁと思われたときに私に言ってくださればすぐにこの世界にお戻しいたします。もう一つの質問のほうは、夢の世界の十年間が、この世界の一秒と考えていただければOKです」
それからも男の細かい説明は続いた。女性もなんとか理解はしたようで、今からどんな風に夢の世界の体験が出来るのかワクワクしているようである。
「それでは、頭の中に自分が体験したい世界を思い浮かべてください」
女性は、言われたとおりに頭の中に体験したい世界を思い浮かべた。
男は女性の額に手を触れ、何か呪文のような言葉を唱えている。
その瞬間。女性の意識がフッと遠のき、何か別世界へと連れて行かれるような感覚に襲われながら意識を失った。