対峙 / 一路
人、人、人でもううんざりだ。
お母さんはよく平気でいる。こんなにぎゅうぎゅうに詰まって、僕は本当に不愉快だ。
「一路、こっちだよ」
呼ばなくてもわかるから平気なのに。それに、試しに着てみたり、胸にあててみなくてもいい。服なんか着られたらそれでいいじゃないか。狼の姿じゃうろつけないから着ているだけで、こだわりなんてない。襟がなければそれでいい。
「不思議だな、玲二と同じ顔なのに、明るい色が似合うね」
お父さんが嬉しそうにこういうと、お母さんも楽しそうに笑った。
そうか。色が合うとか合わないがあるんだ。
確かに玲二はいつも暗い色の服を着ているかもしれない。夜空か、森の奥の樹みたいな色のものを好んで身に着けている。
だけどやっぱり服選びは面白くなくて、僕はもうへとへとになっていた。
レジは少し混んでいるから、二人が並んで、僕は少し離れた涼しいところに座って待つ。
建物の中なのに噴水が置いてある。
僕がいるのは二階で、ガラスの向こうに流れ落ちる水を見ていた。
『立花一路、何度も呼び掛けたんだが』
唐突に響いてきた声は苛立ちをたっぷり含んでいて、じっとりと重い。
『聞こえなかったよ』
『よく言う。あえて無視しているんだろう。君も、あの大きな鳥も』
『僕は家のことで忙しいから、意地悪な龍に構っている時間はないんだ』
背後にそっと立っている。あの店から出て、こんなに込み合ったところにも来るんだな、マスターとやらは。
『君のした行為は重大なルール違反だ。私は君を罰しなければならない』
『なんの話かわからない』
『君の弟を助けた時だ。もっと良い方法があったと思うが』
そんなことを僕に言いにきたのか。
僕が怒るのをわかっていて、あえてこんな言い方をして。
『ああする以外になかった。お前が動いていたらもっとマシだったと思うけど、助けてくれなかったから。仕方ない』
『君ひとりの為に大勢が危険に晒されることになった』
『みんな頑張ってこそこそ隠れているんでしょう? それなら心配いらないじゃないか』
龍の気配は不穏で、僕やお母さんに対して不満があるのがよく伝わってくる。
だけど。誰がなんと言おうと、僕のあの時の行動は間違ってなんかいない。
玲二は危うくかけらも残さずに消されてしまうところだったんだ。
『あの時間に合わなかったら、もっとひどい争いになっていたはず。僕に感謝するんだな』
本当は玲二は、おじいさんたちから大事にされていないけど。
だけど僕は絶対に許さない。世界のすべての者が見ないふりをしても、僕だけは違う。
『生意気な若い狼だ』
『なんとでも言え。用がないならさっさと行けよ』
僕たちを許さないと言いつつ、龍の態度は少しばかり弱いと思った。
あの人でなしたちに甘かった理由も、特別にあるのかな。
みんなそれぞれに思惑があるんだろうけど、僕にはよくわからない。
狼の群れは単純でいい。団結したらとても強いし、もちろん仲良くできない相手もいるけど、普段はすれ違うことすらないんだから平和なものだ。
「一路、お待たせ」
お父さんとお母さんが揃ってやってきて、龍の気配は完全に消えた。
「いっぱい買ったね」
「玲二の分もあるから」
僕のはゆったり、玲二のはぴったり。
同じ顔だけど、体型も好みも違うから、別々に用意しなきゃいけない。
「背がどんどん伸びるからなあ」
「本当ね」
あの龍はお母さんにもなにか言ったのかな。確認したいけど、お父さんが楽しそうにしているから言い出せない。
「一路、上の階でおいしいパフェが食べられるから行こう」
「パフェってなに?」
「甘いものがこれでもかってくらい詰まっているんだ。クリームとアイスとフルーツと、あとはチョコレートかな」
なんだそれは。そんな夢みたいなものが食べられるなら絶対行かなくちゃ。
『一路、家にいつきが来た』
もう、ハール、今は邪魔しないでほしい。
『玲二は?』
『帰ってきたよ。二人でどこかに行って、リアが見守ってる』
『玲二の機嫌はどうだった?』
『とても良かった』
僕が聞きたいのは「落ち着いていたかどうか」なんだけど。
その辺をちゃんと報告してくれるのはライの方なんだよな。
『あの怖い感じはしなかったぞ』
なら問題ない。玲二も遠慮しないで、いつきに全部話せばいいんだ。
いつきもきっと、良太郎みたいにわかってくれる。
人生のすべてを捧げてくれるに違いないんだから。
二人で幸せな時間を過ごしたら、最後は僕のところに戻ってくればいい。
その頃にはもう、あの森のリーダーに僕がなっているから。
おじいさんみたいな古い考えの狼には隠居してもらって、そうしたら玲二も安心して生きていける。
僕たちとは少し違う力を持っているけど、むしろ教えてもらえばいいんだ。
敵から身を隠し、悪意のある力を跳ね返せるようになれば、狼たちの暮らしはもっと守られる。
妙な人間の手にかかってつかまったり、命を落としたりなんて悲劇はなくなって、玲二はきっとみんなの守り神みたいに扱われるようになるだろう。
少し並ばなければいけなかったけど、僕はチョコレートパフェを食べてご機嫌になった。
ほかのお客さんはほとんどが女の子だったけど。女の子はいい。お菓子にまみれて暮らしていて、とても幸せだと思う。
ごみごみした月浜の駅。お店がいっぱい詰まったビルから出て、意識を集中した。
『カラス、どこにいる?』
もしかしたら彼なら知っているかもしれない。
『立花一路、この辺りでは困る。夜になったら行くので、その時に』
仕方ない、夜まで待とう。
龍の苛立ちがそこかしこにこぼれ落ちた町は居心地が悪いから、僕にとってもその方がいい。
お父さんの運転する車に乗って家に戻ると、玲二がお帰りと出迎えてくれた。
「いつきと一緒じゃなかったの?」
「昼を食べに行ったよ」
「もっといっぱい一緒にいればいいのに」
「俺の行動って結局全部筒抜けなんだな」
玲二の髪は短く切られて、僕とほとんど同じ形になった。
また形が近くなってとても嬉しい。
「玲二の服も買ってきた」
「ありがとう」
お父さんは、家族全員の思い出が欲しいねって言っていた。
玲二も一緒に行けばいい。あんなごみごみしたところじゃなくて、もっと広々としていて、気持ちのいいところに。
夜になってから玲二と集中する訓練をして、ずいぶん遅くなってから屋根の上にあがった。
約束通り来ていると思ったら、少し違っていた。
『なんでお前がいるの?』
『犬ころには関係ないって言ってるでしょ』
こいつもしかして、常にこの辺りに潜んでいるのかな。
『帰れ、ひとでなし』
『この間は頼ってきたくせに、生意気ね』
『あの時は助かった』
そういえばちゃんとお礼を言ってなかった。
『ありがとう』
『なによ、調子が狂うわ……』
だけど、僕が話したい相手はカラスで、こいつにはあまりいて欲しくない。
『用があるから、どこかに行ってくれない?』
『正直ね、やっぱりあんたは犬ころだわ』
『なんでいつもこの辺りにいるの?』
『関係ないでしょ』
『あるよ。ここにはいっぱい集っているんだから。玲二と僕だけじゃない。お母さんもとあと鳥が三羽もいる。誰が目的でここにいる?』
人でなしは姿を見せない。
そこらじゅうにある影のどこかに潜んでいるのはわかるんだけど、特定まではできそうにない。
『玲二様よ……』
しばらくして聞こえてきた囁きに、僕は思わず「はあ?」って声をあげてしまった。
『玲二様ってなんだ』
『あんたにはわからないわよ。わかってもらおうとも思わない』
人でなしの声はそれっきり。聞こえなくなったけど、いなくなったのかどうかは確証がない。
ざわざわと音がする。風が木を揺らす音だろうけど、闇に潜んでいる誰かのおしゃべりのようにも聞こえる。
『立花一路、私になんの用か』
呼ぶ前に、本来の客が来てしまった。カラスはにゅうっと屋根の上に現れて、相変わらず真っ黒い姿で僕の前に立っている。
『あの龍が狼を嫌ってる理由を教えて』
『答えにくい質問だ』
カラスの言葉は止まる。
口元はぎゅっと閉じていて、目も険しく細められている。
『教えてくれない?』
『いや、いいだろう。お前の弟同様、マスターも予言を受けている』
『良くない予言なんだね』
『双子の狼の王に滅ぼされる、というものだ』
双子の、狼の、王。
……なるほど、僕たちを嫌うわけだ。だけど、わからないところもある。
『王っていうのは、なにを指している?』
『わからんよ。これは予言の一部で、俺はすべてを知らない』
『それで狼は嫌いなの?』
『理由のひとつにはなっているだろう』
また気配がした。人でなしが影の中でうごめいて、僕たちの話を盗み聞きしている。
『おい、人でなし。帰れってば』
『立花一路、沙夜を許してほしい。あれは本気で立花玲二に心を捧げた』
『なんで。ついこの間、命を落とした原因になった奴だろ』
『そんな大それた考えはない。ただ真夜の言う通りに動いていただけだ』
『それでどうして玲二に執着することになる?』
『あれも女だから、美しい男が好きなのだろう』
僕も同じ顔なのに。
『お前と立花玲二は違う』
確かに、雰囲気は違うかな。僕は単純な世間知らずだし、玲二は控えめで思慮深い。その分僕の方が強いし、頑丈だけれど。
僕たちは一緒に生まれたけど、どちらも王じゃない。
あの龍が恐れるには条件が欠けているけど、でも、確かに双子の狼なんてそんじょそこらにはいないから、恐れて当然だと言えるだろう。でも。
『だからって見殺しにするなんて許せないよ』
僕の独り言じみたセリフに、カラスは何も答えずに姿を消してしまった。
家の中に戻ったけど、やっぱり一人で眠るのは嫌で、玲二の部屋に入り込んだ。
部屋にカギをかけていないのは、いつでも入っていいよって意思表示だ。
狼になってベッドに入り込むと、玲二がごろんと向こうをむいてしまった。
冬だったらもっと歓迎してもらえたのかな。
あったかいよって言ってくれたのかな。
背中にぴったりと寄り添って、僕も眠った。
こうしていれば同じ夢を見られるんじゃないかと思ったけど、そんな都合のいい話はないみたいだ。
「一路、水族館に行こう」
「なあに、それ」
だけど次の日の朝、玲二はご機嫌な顔でこう話した。
「魚を展示しているところがあるんだ。いつきがアルバイトしてるから、遊びに行こう」
「食べれるの?」
「見るだけ。おみやげは売ってるけどね」
一路は海を見たことがないんじゃないかって、玲二は言った。
見たことはあるけど、遠くからだ。空の上から真っ黒い海を見ただけ。
そばで見たら、違う感じだと思うのかな。
「海のそばにあるんだ。泳いだりは出来ないけど、面白いかもしれないよ」
こんな風に玲二に誘われたのは初めてだ。
買い物ですら一緒に行けない。ずっと具合も機嫌も悪かったから、仕方なかったと思うけど。
送ろうかって言ってくれたお父さんに、これは社会科見学だからと玲二は答えた。
僕は日常をちゃんと体験すべきだよって。鳥たちにも休日が必要だろうし、二人でいいよって。
僕は嬉しくなって、うきうきで昨日買ってきた新しい服に袖を通した。
空は真っ青で、空気はからっとしていて暖かい。
町中に色づいている緑も鮮やかで、ここにやって来た時よりもいい気分だと思った。
とうとう僕は自分の財布を持って、それを新しい鞄に入れて、初めての兄弟ふたりのおでかけを果たした。
玲二の鞄は四角いけど、僕のは三角。玲二の服は白で、僕のは黄色。
バスの座席は狭いし変なにおいだけど、玲二と一緒なら楽しい。
窓から見える風景もどんどん移り変わって行って、やがて建物がまばらになって、空と海が広がる道に出た。
日本の景色も捨てたもんじゃない。
嬉しくなって振り返ると、玲二もにこにこ笑っていた。
「楽しそうで良かった」
楽しいに決まってる。僕の夢見ていた体験が一つ、出来たんだから。
大きな水槽の中を泳ぐたくさんの魚を見て、イルカが言う通りに飛ぶのを眺めて、海から吹く風を浴びた。
「ここでいつきに好きだって言おうとした」
「どこまで俺のプライベートを知ってるの?」
玲二は呆れた顔をしている。
逆に、玲二が僕の生活を覗いていたらどんな風に思ったかな。
森の中ばっかりで、つまらなかったかな。
誰とも会話もないもんな。みんな心を繋げているから、あんまりしゃべるのが得意じゃないんだ。
「玲二の生活をたまに見ていたから、僕は寂しくなかった」
お父さんがいて、お母さんがいて。
色が溢れている世界と、日本の言葉。学校、授業、勉強、小さな家。
「一路」
「海って面白い。良かった、今日一緒に来て」
イルカが泳ぐ深いプールのそばで、二人で並んで海を見つめた。
嬉しいな、玲二と一緒で。ひょっとしたら永遠に来ないかもしれないって言われていた時間を過ごしているんだから。
なのに、最後の最後で水を差されてしまった。
水族館の出口にある、おみやげのコーナーにたどり着いた時。
いつきの姿は見えない。ここで働いているはずなんだけどって玲二は言って、あたりをキョロキョロしている。僕はたくさん並べられているお菓子の山に浮かれて、なにを買って帰ろうか夢中で考えていた。
いつきが来た時に持ってきてくれたものと、まだ食べていないもの。どっちがいいか考えていたら、頭にふっと嫌な空気がよぎった。
「玲二?」
あたりを見回しても姿がない。感じようとしてもわからなくて、僕は慌てて売り場の中を走った。玲二は背が高いからすぐに見つかったけど、ガラスの壁の向こうにいるし、誰かの服を掴んで乱暴に引っ張っている。
「玲二、なにしてるの」
声をかけても僕へは振り返らず、引っ張っていた誰かを思いっきり地面に突き飛ばして、更に蹴りまでいれている。
「もっと向こうだ。迷惑だからな」
冷たい声。怒っているし、たぶんあいつが出てきているんだろう。玲二がすっかり見えなくなっている。
真っ白い霧の向こうに隠れてしまった弟は、水族館の外、砂浜に並んだ空き家のようなものの裏まで進んでいった。
その途中で、蹴られているのが相原だってわかって、怒りの理由がよく理解できた。
「昨日の今日でよくもまあここまで来られたな、相原」
散々蹴られて砂まみれになった相原は、怒りの形相で玲二を睨んでいる。
だけど次の瞬間、体をびくびくと大きく震わせて、手にもっていたなにかを落とした。
「嫌だって言われたんだろ、昨日、散々」
僕はゆっくり前に進んでいった。玲二の顔が見たいから。
「君には……、関係ないだろ……」
大きく震えながらも、相原の返事はまだ強い。
「関係ない? 本当におめでたい奴だな、この変態が」
ゆっくりゆっくり、前へ。だけどあんまり近いと多分気が散ってしまうから、距離は空けて。だんだん玲二の表情が見えてくる。怒っている形じゃなくて、笑った顔になっている。
「別に、悪いことなんかなにもしていないじゃないか」
「ちょっと俺と会わないだけで、別れたって勘違いするのはまあいいさ。だけど別れてもお前にチャンスは来ないよ」
「なんでそう言い切れるんだよ!」
「いつきはお前に寄るな、来るな、関わりたくないってはっきり伝えてるんだろう。この言葉のどこに希望が隠れてるんだ。どんな解釈したらそこまで前向きに勘違いできるのか教えてくれよ」
「立花、お前……」
玲二の視線のあまりの強さに、相原の震えは止まらない。
「俺、すごく悲観的なんだ。お前のその図太さ、わけてくれよ」
「図太くなんかない」
「じゃあバカなんだな」
玲二は相原の顔をのぞき込むとニヤっと笑って、左の頬に思いっきり手を振り下ろした。パーンと音が響いて、相原は砂浜に埋もれて、泣き出している。
「写真を撮ってただろう。出せ」
全部が過剰になってしまうって言ってたのは、本当だった。
玲二は相原が許せない。いつきをあれだけ怖がらせたんだから、玲二が怒るのは無理もない。
「そんなことしてない」
「嘘をつくな。俺に、嘘を、つくな」
あ、やっと見られたぞ。
瞳に浮かぶ、金色の輝き。
あれは気のせいじゃなかった。あいつが出てきて、力を行使する時には、あの色に輝く。
「はい……」
「お前が持っているいつきに関係するものは全部俺に渡せ」
「家に……」
「じゃあ取りに行ってやるよ。全部渡して、データがあるなら残さず消せ」
相原はぼうっとして、こくこくと頷くだけだ。
口の端からはよだれが垂れているし、目の焦点もあっていない。
しばらくここで待っていろと冷たく言い放つと、玲二は僕に向かって微笑み、おみやげを買いに行こうと提案してきた。
砂浜を歩いて戻って、水族館の端にある売店に向かう。
するとさっきはいなかったいつきが、クッキーの山の隣で作業をしていた。
「あ、玲二くん、一路くん」
遊びに来てくれたんだ、っていつきは笑っている。
玲二はここじゃキスできないなって耳元でささやいて、いつきを真っ赤に染めて満足そうだ。
お菓子と、魚の形のボールペンを買って、僕たちはいつきに手を振った。
そのあとは相原を連れて家まで行って、大荷物で帰ってきた。
相原の家にあったいつきの写真は膨大な数で、僕も手伝ったけどすごく重かった。
捨てさせたらって言ったけど、普通にごみに出したんじゃ、確実に処分されるかわからないからって。その辺で燃やしたりできないし、仕方なく大量の荷物を運んで帰ってきた。
それから夕ご飯まではかなりご機嫌だったんだけど。
お風呂に入ったあとから、玲二の様子は明らかにおかしくなった。
「玲二、どうしたの」
「俺、またやっちゃったんだな……」
なるほど、あいつが引っ込んで、反動で落ち込んでいるんだな。
「玲二はよくやった。これで相原はもういつきに構わない。力も上手に扱えていた」
「上手に?」
「うん。相原は玲二を怖れたし、命令を聞き入れた。玲二の思った通りになったはず」
「だけど……」
「いつきを守るためには、一番良かった」
あいつが勝手に出てきたり、玲二の性格が激変してしまうのは少し困るけど。
だけど、力を操るという点では今日はかなり良かったはずだ。
蹴ったり叩いた時は少し驚いたけど、単純に暴力的になるだけじゃなくて、問題解決が出来たんだから、玲二の意志はかなり反映されていたんだろうと思う。
「そう考えていいのかな」
「全部はいっぺんにできない。相原は自業自得。今日の出来事は、いい経験になった」
僕が褒めると玲二はようやく微笑んで、部屋の隅に大量に積まれたアルバムに目を向けた。
「あれ、処分するの大変そうだ」
「玲二がもらったらいい。いつきの写真ばっかりなんだから」
「相原が撮ったものがこんなにあるなんて、いつきは嫌がるよ」
僕にはこの理屈がよくわからないけど、玲二が言うんだから正しいんだろう。
この正しさと、強い力が同居する日は近い。
更に狼に変われるようになればパーフェクトだ。そう考えるととても幸せで、僕は弟の背中をぽんぽんと優しく叩いた。




