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狼少年の憂鬱  作者: 澤群キョウ
さみしくとも明日を待つ
42/85

秘密の森 / 玲二

 真っ暗な画面にノイズが走って、ちらちらと緑色が映り始める。

 途切れ途切れだけど、音声も聞こえ始めた。

 古いフィルムのようなぼやけた映像。晴れているけど、鬱蒼と茂った森の木々のせいで空は見えない。


「玲二、はやく、こっちだよ」


 ひと際大きな木の陰から、男の子が顔を出す。


「はやくしないと、ごはんが冷めちゃう」


 拗ねたような表情に、思わず笑った。

 そうだよね、だって、一路は食いしん坊だから。


「近道していこうよ」


 一路に手を引かれて、俺も走り出した。

 日の届かない森の中で、地面はとても冷たくて、太い根がたくさん顔を出していて、足を取られて転んでしまう。


「あ、玲二。ごめんね、速すぎたかな?」

「うん、ちょっと」


 走るのは苦手じゃない。だけど、一路はちょっと、いや、すごく速くてついていけないんだ。


「ごめんね、僕が玲二の分まで力を取っちゃったから」

「ううん、大丈夫だよ。一路はかっこいいな、足が速くて」

「そうかな、へへへ」


 おんなじ顔が幸せそうに緩むと、同じように幸せだと感じた。

 狼の力は全部一路に行ってしまったけど、それは誰が悪いんでもないんだ。父さんはよくこう言ってた。時々、思いもしないようなことが起きるものなんだよって。


「僕こそごめんね、一路。僕のせいで一人ぼっちになっちゃって」

「そんなの平気だ。おじいさまもいるし、お父さんとお母さんには時々会えるんだから」 


 それよりごはんの時間だよと、一路は笑った。

 二人でまた一緒に駆けだすと、空から鳥の鳴き声が聞こえた。


「ほら、リアが呼びに来た」

「おーい、リアー! すぐに帰るからねー!」


 白い鳥は高度を下げて、俺たちと一緒に森の中を走った。

 黒い鳥もやってきて、森のすぐ上を飛んでついてくる。


「見て、玲二、ライも来たよ」


 一路が指をさすと、森の木々が一斉に枝葉をどけて、大きな青い円を描いてみせてくれた。そこに金色に輝く鳥が飛んできて、俺に向かって黄金の羽根をどんどん降らせてくる。


「わあ、すごいね、玲二」

「すごいね、一路」


 二人できゃっきゃとはしゃいでいると、リアが頭の上に留まって、優しい声でこう語り掛けた。


『玲二、行きましょう。いつきも待ってるから』


 そうだよ。いつきと約束したのに、すっぽかしちゃったんだ。

 

「一路、急がなきゃ」

「よおし。じゃあ、僕の背中に乗って」


 一路が銀色の狼に姿を変えて、俺はその背中に乗った。

 ふさふさの毛並みが暖かくて、こうして背中に乗るのはとても楽しくて、好きだ。


『飛ばすよ!』


 狼と一緒に金色に染まった道を走った。走って、走って、森を抜けて、青空が一面に広がる小さな丘の上。いつきが待ってる。小さな可愛い花束を持って、俺に向かって手を振っている。


「いつき、お待たせ」

「玲二くん、もう、遅いよ」


 そう言いつつも、いつきは笑顔だった。少しはにかんだように、俺を下から見上げるようにして、最後はぎゅっと抱きついてきて。

 

「大好きだよ、いつき」


 強く抱きしめて、可愛い耳にキスをした。

 やだ、って声が聞こえてきて、すごく幸せだと思った。


「玲二、良かった。じゃあ一緒に帰ろう」


 一路が微笑んで、俺に向かって手を伸ばしている。

 金色の世界はこれで終わり。絶望の海の底から繋がって、再びの現実へ。




 まぶたがゆっくりと上がると、草原でも森でもない、古めかしい天井が見えた。

 くすんだ色の部屋。なにも置かれていない寒々しいところに、見覚えがない。


 たたみの香りがする。狭い六畳間で、俺が寝ている布団以外にはなにも置かれていない。

 体を起こしてみると、少し痛みがあったけど、問題はなさそうだった。

 着ているのは真新しいパジャマで、これにも見覚えがない。

 不思議な気分で立ち上がってふすまを開けると、すぐに庭が広がっていた。

 いわゆる縁側らしき場所から見える光景はとにかく牧歌的というか、高い建物が見当たらなくて、普段暮らしている町ではないのは確かだろう。


 空には大きな月。星がたくさん瞬いていて、光が降り注いでいるように見える。

 

 それにしても、ここはどこなんだろう?

 見上げるのをやめて視線を庭に戻すと、葉のついていない枯れたような木の下に誰かが立っている。


『よく戻って来てくれました』


 長い髪に、着物。色と顔はわからない。


『とても嬉しく思いますよ……』


 その女性は俺の前にやってきて、冷たい指でそっと頬を撫でると、消えてしまった。









 はっとして、目覚めた。

 夢を見ていたんだと思う。頭の中がうまく繋がらなくて、少し混乱しているような、特有の感覚があったから。


 視界に映るものはどれもこれも見覚えがなくて、戸惑っている。


 体を動かそうとしたけど、うまく動かせなかった。

 首をかすかに左右に振っても、穴が開いたふすまが見えるだけ。


 誰かを呼ぼうと思っても、声も出ない。


 どうしてこんな場所にいるのか、全然わからない。

 記憶をたどっても曖昧で、最後に見た光景すら思い出せなかった。


 自宅ではない。一番雰囲気が近いのは良太郎の家だけど、こんなに古びた部屋があるとは思えない。だって何もないんだ。俺が寝かせられている布団以外には、畳しかない。


 体が重い。

 なにが起きたんだろう、俺に。

 学校に行った。試験の結果が出て、留年しなくて済んだから……。

 いつきにちゃんと話そうと思って、それで?


 わからない。

 途方に暮れながら身をよじると、なにかが自分の上に乗っているのがわかった。


 首を持ち上げて確認すると、布団の上には黒い塊が見える。

 なんだろう、これは。必死になって足を動かして、膝で刺激すると、塊はむくっと起き上がって大きく伸びた。


 鳥だ。

 しかも相当大きい。ライほどじゃないけど、鷹だか鷲だか、猛禽類くらいのサイズはあるんじゃないかな?


 鳥は大きく翼を広げて、まるで伸びをするような動きをしていたけど、次の瞬間俺と目が合った。すると一声大きく鳴いて、バサバサと翼を動かし、騒いだ末に姿を人に変えて、俺に向かって叫んだ。


「玲二、目が覚めたんだな!」


 誰なんだ。声が出ないし、俺の上からどいてほしい。


「リア、ライ! 速音と一路を呼んでこい!」


 三人目まではわかるけど、イチロって誰だ。

 戸惑うばかりの俺の上から、黒い鳥だった誰かはどかないまま、走る音が聞こえてきてふすまが勢いよく開いた。


「玲二!」


 ライは足を滑らせたのか、俺の上に転がり込んできて、さっきまで黒い鳥だったやつも一緒に倒してしまった。

 リアは白い鳥の姿のままで、頭上をくるくると回っている。


「なんだいこの状況は」


 あとからやってきたのは父さんで、玲二は無事なのかと二人を順番にどけてくれた。


「玲二、良かった。わかるか?」


 父さんはわかる。ライとリアもわかるけど。

 でも黒い鳥と、今ふすまの向こうからのぞいているもう一人がわからない。


「玲二、見えてるのか」


 返事をしたいけど、声が出ない。

 なんとか首を縦に振ったけど、そのあとが続かなかった。


「玲二、お水持ってきたよ」

「一路」


 父さんの背後からひょっこり顔をのぞかせているのは、ほかならぬ自分で。

 さっきふすまの向こうからちらりと見ていたのは、俺だった?


「喉が渇いたよね、玲二」


 一路という名前に、なぜか聞き覚えがある。

 どこで聞いたんだろう? もう一人の俺の名前?


「ありがとう」


 水がしみ込んで、ほんの少しだけ声が出せた。

 一路は満足そうにうなずいて、これ以上ないくらいの優しい表情を浮かべている。


「体が動かないよね。仕方ない。ずっと寝てたから」

「もう少し休んでいなさい」

「いやだ。起きたい」


 片言で希望を述べると、一路が嬉々とした様子で俺の体を起こしてくれた。

 なんなんだ、これは。人になる鳥が一羽と、俺が一人増えているって。


「玲二、驚いているんだな。事情を話したいところだけど、目が覚めたばかりだから。いっぺんに話されても困るかと思って」


 父さんの言葉は尤もで、混乱しているしぼんやりしている。

 今全部話されたところで、理解できるかどうかは怪しいと思う。


 ライと黒い鳥の男は俺を興味深げにのぞき込んでいる。

 一路はひたすら嬉しそう。子犬のように目を輝かせてそわそわしている。


 なにがあったんだっけ?

 俺、学校に行ったと思うんだけど。

 それからどうしたのか、すっぽり抜け落ちている。

 だけど、気がかりが一つあった。多分、約束を守れていない。


「いつきに会いたい」


 絞り出すようになんとか口に出すと、父さんはがっくりと頭をうなだれて、こらえきれないみたいな感じで笑い始めた。


「良かった、玲二。早く元気になろうな」




 なんにもない部屋には、真新しい布団と俺。

 そこに交代で、ライと、父さんと、一路が順番にやってくる。

 体がなかなか動かなくて、頭もぼーっとして働かなくて、起き上がれるようになるまで三日もかかってしまった。

 だけど世話をしてもらった甲斐があって、しゃべれるようになっている。


「少しずつ説明するぞ、玲二。まず今いるところは、父さんの実家だ。ずいぶん前から誰も住んでいなくてね。玲二も来たことはなかっただろう」

「どうしてここに来たの?」

「ライ君が、自宅じゃよくないって言うからさ」


 ライに視線を向けると、質問されたくないのか顔をそむけてしまった。

 これは例の、話せない、ってやつだよな。


「それからもう一つ、一番気になっているだろうけど、この子の名前は一路。お前とは双子の兄弟で、一路の方がお兄さんだ」

「玲二、会いたかったよ」


 いつも通りの口調の父さんに、俺はかなり呆れていた。

 そんなに重大な事実を、こんなにさらっと言うかなって。


「ずっと母さんの故郷で暮らしていたんだ」

「どうして?」

「一番大きな理由は、力が大きすぎたからだ。多分だけど、一路は玲二の分まで力を持っている。生まれた時からそうだったんだ。だから玲二には力がないし、一路はコントロールができなかった。姿も情緒も不安定だったから、お前とは一緒に居られなかったんだよ」

「今はできる。僕は頑張った!」


 一路の笑顔は底抜けに明るくて、俺の顔なのにすごく変な感じがした。


「どうして教えてくれなかったの?」

「あの予言のせいだよ。お前にあれについて教えたくなかった。人間として育てた方が安全だって母さんは思っていたから、無事に十七になるまでは伏せておこうって考えたんだよ」


 そのあとにも、人生は長く続いていくから。

 離れ離れになっていた兄弟の寂しさは、それからでもきっと埋められると思ったから。


 父さんの言葉に、一路はぽろぽろ涙を流している。


「ずっと玲二に会いたかった」

「一路は俺のこと知ってたの?」

「知ってた。僕が力をコントロールできるようにならないと会えないって言われたから。玲二の分の力を返してあげられたら、みんな元通りになるって言われたから、僕はずっと頑張ってた」


 手を伸ばすと、一路も自然と同じようにしてくれた。

 兄弟の手を強く握りながら考える。

 俺だけじゃなくて、一路も、それに父さんと母さんもそれぞれに寂しさを抱えていたんだろうなって。


「まだ十七になってないけど」


 俺がなにも考えずにこう漏らすと、父さんと一路は顔を見合わせて、しばらく黙り込んでしまった。


「なにか悪いことを言ったかな」

「玲二、僕とお父さんは考えた。玲二になにがあったか知らせるべきなのかって」

「いつか思い出すかもしれないし、その時に驚かなくて済むように、一応伝えておくからな」


 二人は再び顔を見合わせて、また少しの間黙った。

 俺の方を向いて、口を開いたのは一路の方だった。


「玲二は死んだんだ。アクシデントが起きて、命を落とした」

「死んだ?」

「そう。予言の通り。その少し前からのことを今は忘れている」

「今は?」

「僕の力を少しだけわけた。本当は返したかったけど、頑張ってたら全部僕のものになっちゃって。それで返せなくなったけど、だけど、無理やりちょっとだけちぎった」

「力を?」

「うん。ちぎって玲二に入れた。そうしたら、ぎりぎり助かった」


 死んだ。なにがあって? アクシデントってなんだ。事故?


「玲二、今は考えない方がいい。回復が先。それに、一度死んだんだからもう予言は怖れなくていい」

「そうなるの?」

「そうなる。だから玲二は、いつきが大好きなままでいい」



 俺には実は双子の兄がいて、ずっとそれを知らずに生きてきた。

 俺の力は双子の兄に全部吸い取られていて、もう返してもらえない。

 俺は予言通りに死んだけど、無理やりわけてもらった力のお陰で、生き返った。


「ごめん、ちょっと疲れた」

「玲二、休んで。大丈夫、ゆっくり、まだ春休み」

「今日は何日?」

「三月三十日だよ、玲二。早く元気になって、家に戻ろう」


 試験の結果を聞いて安心した日は、何日だったっけ?

 いつきと会う約束をしていたのに……。

 秘密を話してしまおうって、そういえば思っていたけど。


「いつきと会う約束をしてたんだ」

「そうみたいだね。何度も連絡をくれたし、それに一路も会ったんだよな」

「うん。大丈夫、僕がいつきにちゃんと説明した。ライも」

「なんて言ったの?」

「玲二は大丈夫だって言った。ケーキをもらって、おいしかった」


 そうだ。弁当作ってもらう約束だったんだ……。


「ケーキも作ってくれてた?」

「ケーキだけ。僕は夜中に会った。いつきは心配して、家に来たから」


 いつき、驚いたんじゃないかな。

 いきなり俺の双子の兄が登場するとか、ありえない展開すぎるだろう。


「いつきちゃんのケーキはおいしかったよ、とても。食事どころじゃなかったから、ありがたかったね」

「ね、お父さん」


 二人で食べたのか。


「ライは、なにか変なこと言ってないだろうな」

「玲二、ひどい言い方だ。だけど俺は確かに、ちょっとおかしかったかもしれない」

「なに?」

「沙夜が園田ちゃんにいやなことを言うから、止めたんだ」

「百井が……」


 あいつ、しょうこりもなく。

 いや、俺が死んだって聞きつけて、喜んでいたのかもしれない。


「それで玲二がどうなっているのか聞かれて、なんとか秘密にしようとしたら、羽根が抜けたんだ。園田ちゃんは選ばれた。幸運の羽根をあげて、玲二と幸せになるよう考えて欲しいって頼んだ」


 ライについてもちんぷんかんぷんだよな、いつきは。

 良太郎も、なんであの先輩が家にいるんだ? って訝しんでいた。


「すまない玲二。だけど、羽根が抜けた以上渡さなきゃならない」

「それはいいよ。幸運が来るんだろう?」


 だったらいつきについては安心ってことだ。

 それについては全然文句はない。


 そういえば、見た気がする。

 真っ暗なばかりの世界が終わった後、一路と一緒に走ったような。

 森の中に光が差して、ライが黄金の羽根をまいてくれていたような気がする。


「ありがとう、ライ」

「え、玲二。そんな、俺はうっかりばかりだけど。ありがとうって、うう」


 ライは顔をくしゃくしゃに歪めて、大きな目に涙をためている。


「少し休みたいんだけど、もうひとつだけ教えて」

「なに、玲二?」

「黒い鳥がいたよな。人になれる。あれは誰?」

「ああ、ごめん。紹介してなかった。あれは僕の親友でハールっていうんだ」

『私のおじいさんなのよ』


 リア、どこにいるんだ?

 白い鳥はふすまの向こう側にいるらしく、チチチ、とかすかに鳴き声が聞こえた。




 新事実の洪水の中で、ぼんやりと浮かんでいるような気分だった。

 死んじゃったなんて……。信じられないな。


 しかも、俺の力は弱いまんまで、狼にはなれそうにない。

 爺さんが言ってたのは、このことだったんだ。

 もう力がないことは確定したって。


 それでも構わない。いつきに話そうって決めていたけど。

 俺が死んだ理由は、一体なんなんだろう。

 単なる事故なら仕方がないけど、もしも事件に巻き込まれたんだとしたら?

 特に、人じゃない存在が絡んだ場合、どうしたらいいんだろう。


 いつきを巻き込みたくない。

 はっきりしたい。

 力がないなら、全然なくて、いっそのこと人間になれたらいい。


 目を閉じてもなかなか眠れず、まだふらつく足で立ち上がって縁側に出た。

 庭は手入れがされていなくて雑草も生え放題だし、木も全部ぼろぼろだ。

 隣の家はどこにあるのか、近くには建物が一軒も見えない。


 大きく輝く月と、無数に輝く星と、暗い線で描かれた山々と。

 ここにあるのはそれだけで、とても静かだった。


 いつきに会いたいな。

 早く戻れるようになりたい。

 一度死んだ俺を、Watersの連中はどう扱うんだろう?

 母さんはもう、帰ってこられないのかな。

 一路とハールは、いつまで一緒にいられるんだろう。


 なんにもわからない。

 全部、わかりたい。自分でなんとかできるようになりたい。


 無力な俺の手。

 よく見ると、手首にはあざがついていた。


『……、あなたの体には……』


 声が聞こえて、はっとした。

 大きな枯れ木の下に着物を着た髪の長い誰かが立っている。


「夢に出てきた」


 そうだ。見た。目覚める直前。

 同じ場所に立っていた、顔の見えない女。


『これは行き場のないものだから。求める者に与えましょう』


 女が掲げた手から光があふれ、俺に向かって飛んでくる。

 突き刺さるようにして、胸の中へ入ってしまった。

 痛くはない。怖くもないし、むしろ、気分がいいかもしれない。


『今度こそ……ではなく……』


 女は姿を闇に溶かして消えていく。

 待って欲しかったけど、間に合わなかった。



 春の夜の空気は冷たくて、体が震えた。

 胸の中に入り込んだ光が、すこしずつ大きくなっているような、そんな圧迫感がある。


「一路……」


 せっかくちぎってわけてもらった力が、光に押されてこぼれ落ちてしまった。

 兄弟二人の絆なのに。大事なかけらが落ちたら、俺の命はどうなる?


 ふらふらとよろめきながら部屋に戻って、倒れこんで、兄の名前を呼んだ。


 だけど、来ない。


 一人でなんとかしなきゃいけない。


 あの女は敵じゃないから。だから、大丈夫、なんだ。


 光は俺の中で収縮を繰り返しては、じんわりと体中にしみ込んでいった。


 夜が明ける頃には、命のすべてが塗り替えられていて。


 目が覚めると、ひどく気分が良かった。

 

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