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狼少年の憂鬱  作者: 澤群キョウ
さみしくとも明日を待つ
41/85

福来の羽根 / いつき

 待ち合わせ時間を過ぎても、玲二くんは姿を見せない。

 駅前のロータリーで十時のはずが、もう一時間以上経っている。

 時間を間違えたのかなって思ってたんだけど、電話も繋がらない。

 試しにお父さんにもかけてみたけど、こちらもずっと留守番電話のまんまで。


 仕方なく、すぐそばにあるいつもの店に入って、コーヒーを頼んだ。

 お弁当持って公園に行くっていうプランだったのに。お弁当いっぱい作ってきちゃったのに、どうしたんだろう?


 十二時まで待っても、玲二くんは現れなかった。

 忘れてるってことはないと思うんだよね。だって、一生一緒にいてくれる? って聞いてくるほどなんだから。あの時の顔、忘れられない。切なそうに細めた目の奥に涙が光っていて、喜んでくれているってはっきりわかった。

 それでとうとう、これまで話してくれなかった秘密を打ち明けてくれる日になったのに、それを忘れるとか間違えるとか、そういうタイプじゃないもん。


 おかずをいっぱい詰め込んだ重たいバスケットを抱えて、玲二くんの家に向かった。

 車はないし、なんだかシーンとしているような。

 インターホンを押しても反応はなし。勝手に門を開けてこそこそのぞいて見たけど、人の気配はなさそうだった。


 来平先輩……は、さすがに、いないよね?

 

 庭先に植えられた花は、みんな悲しそうにうなだれていた。

 前に来た時はもうちょっと元気だったと思ったけど……。


 仕方なく家に戻って、ため息をついた。


「あれ、出かけたんじゃなかったの?」


 草兄ちゃんは受験を終えてすっかりご機嫌で、私の持ち帰ったバスケットをのぞくとニヤリと笑っている。


「デートすっぽかされたのか?」

「わかんない」

「なに言ってんの、お前」


 勝手に唐揚げをつまんで、なかなかウマいな、だって。

 イヤになっちゃうけど、でも、ひとりじゃ食べきれないのは間違いないし、全部捨てちゃうっていうのも気が進まないし。


「いいよ、食べて」

「おう」


 弟の葉介もやってきて一緒に食べ始めて、バスケットはあっという間に空っぽになってしまった。もう、玲二くん、どうしたっていうのかな! なくなっちゃったけど!


 夜の十時と間違えてるとか、さすがにありえないよね。

 これからは夜の付き合いだとか、そんな下品なこと言い出す人じゃないよね。

 うーん、でも、なんだかちょっと、確かに。キスの時ちょっと……。


「ごちそーさん」

「あ、うん」

「なにニヤニヤしてんの?」

「してないよ」


 してたのかな。じゃあ私は、怒ってはいないんだ。

 

 ひょっとしたら勘違いしている可能性もあるかなと思って、私はとりあえずカップケーキ作りを始めた。

 十時じゃなくて、二十時と間違えているのかもしれない。

 二十時なら、ギリギリあり得るかなって……。

 でも公園の約束で、夜八時はちょっとないよね。お弁当、食べないよね。

 わからなくて、ボールの中身をぐるぐる回した。

 おいしくなーれ、おいしくなーれと心で念じて、沸き上がりそうになる不安を抑え込んでいく。


 だって玲二くん、わけがわかんないんだもん。

 好きだけどね。だけど、これまでの全部をまとめると、わけがわかんない。

 それでも好きでたまらないから、私もちょっとおかしいんだろうけど。


 だったらもっとピッタリだから、それでいいのかも。

 秘密だらけでわけのわからない玲二くんと、ちょっとおかしな私。

 これ以上ない組み合わせで、安泰だよね。


 焼きあがったカップケーキからはいい匂いがして、すごく幸せだった。

 ケーキクーラーの上に並んだケーキは何回か誘拐されそうになったけど、そのたびにパチンと手を叩いて追い払った。


「これは葉介の好きな甘いやつじゃないの」

「え、じゃあ何味なの?」


 イケてない高校生専用の味。

 まだ十六歳になったばっかりなのに、いきなりプロポーズみたいな言葉をぶつけてくる、不器用な玲二くん専用のだから。


 だけど、全然着信はなかった。

 電話もメールも。お父さんからも。

 試しにお家にもかけてみたけど、留守番電話の機械音しか返事をしてくれない。

 連絡してね、と入れておいたけど、夜になってもなんのリアクションもなかった。


 昼間作ったカップケーキを箱に詰めて、夜の散歩へ。

 お父さんからは止められたけど、もう高校生だからって、勝手に出ていった。


 一応、駅前も覗いてみて、いないって確認してから玲二くんの家へ。

 途切れ途切れの街灯をたどりながら、住宅街を小走りで抜けていく。

 

 たどり着いたけど、車はないし、家に明かりもついていない。

 なにがあったの? それとも私が約束を聞き間違えていたのかな。

 玲二くんは来週って言ったっけ。それとも、来月の同じ日?


 そんな、まさか、だよね。

 だったとしても、連絡もつかないなんて変だもん。


 門の前でしばらく呆然として、それでも諦められずにインターホンへ手を伸ばした。

 

 ふっと、玄関前に覚えた違和感。

 真っ暗なドアの前のスペースに、誰か座っている。


「玲二くん?」


 呼びかけに応じて、細長い影が立ち上がる。

 薄茶色の髪が、かすかな明かりを受けて白く輝いていて、なんだかとても不思議に思えた。


「どうしたの、今日は。心配したんだよ」


 昼間と同じように勝手に門を開けて、玲二くんに駆け寄った。


「誰もいないの? 電話も全然通じないし……」


 いつも通りの背の高さ、いつも通りの顔。だけど、違う。今目の前に浮かんでいる微笑みは、玲二くんのものではなかった。


「だあれ?」

「すごい。玲二のふりをしようと思ったのに、駄目だった」


 玲二くんと完全に同じ形のその人は、私の目をじっと見つめながらにっこり笑う。


「誰なの?」

「僕はいちろ。玲二のお兄さん」

「お兄さん?」

「そう。一緒に生まれたお兄さん」

「双子ってこと?」

「そう、双子。僕がお兄さん、玲二が弟」


 声もそっくりだけど、しゃべり方は随分違っていると思う。

 少しぎこちなくて、なんというか。


「外国にいたの?」

「外国、そう。僕、日本語使ったのは今日が初めて」

「そうなんだ。すごく上手だよ」

「ありがとう、いつき」


 わあ。いつきって呼ばれちゃった。


「なんだかいい匂いがする」


 いちろ君は鼻をすんすんと鳴らして、またにっこり笑っている。


「これかな。ケーキ作ってきたの」

「ケーキ。食べたいな」


 姿はこれでもかっていうくらい玲二くんそのまんまなのに、中身は全然違うみたい。まるで子犬みたいにキラキラした目で私を見てくるので、差し出さないわけにもいかなかった。


「ありがとう。今すぐ食べたいけど、我慢。玲二はいつきに会いたいんだけど、今は会えない。僕、いつきが来るから話さないといけないと思って、ここにいた」

「会えないって、どうして?」

「うーん。それは言えない。しばらくかかる」

「またケガでもしたの?」

「うう。いつきはなんでもわかる?」

「え、ひどいの? もしかして。病院にいるの?」

「ごめん、僕ビョーインわからない」

「えっと、ホスピタル? 英語じゃダメかな。ケガとか病気になった時、具合がわるくなると行くところ」


 いちろ君、どこで暮らしてたのかな。

 お母さんがドイツの人なら、ドイツが正解に近そうだけど、言葉が全然わからない。


「ああ、ああ。わかった。僕ビョーイン、知ってる」


 ふいに生暖かい風が吹いてきて、首筋をくすぐって去っていった。

 するといちろ君は急に大真面目な顔をして、私の手をとって強く握った。


「ごめん、いつき。もう行かなきゃ」

「どこに?」

「玲二のところ。よくなったら必ず連絡する。僕じゃなくて、お父さんに頼む。少し待ってて、必ずいつきのところに返すから」

「返すって……」


 お兄さんがいるなんて一言も言ってなかった。聞いたことがなかった。

 私が勝手に一人っ子だと思い込んでいただけなのかな。

 だけど、いくら聞かれなかったからって、こんなに特殊な事情をずっと黙っているものかな?


 そんなお兄さんと玲二くんは、どのくらい深く繋がっていたんだろう。

 双子だから、やっぱりすごく密に連絡を取り合っていたのかな。

 言わなくてもわかるくらいなのかもしれないよね。

 それで、私についても話してくれていたのかな……。


「玲二くんに会いたいんだけど」

「玲二は遠くにいる。お父さんの家」

「お父さんの家って、実家なの? どこ?」

「ごめん、僕は場所を説明できない。それに、いつきは見ない方がいい」

「そんなにひどいの?」

「うーん」


 そんなにわかりやすく困らないでほしい。よっぽどひどいんだって思ってしまうから。


「ごめんね、いつき。泣かないで」


 大きな手が私の頭を撫でる。

 玲二くんとおんなじだ。

 すごく不思議。どうして今目の前にいる人が玲二くんじゃないのか、全然わからない。


「すぐに良くするから。必ずしらせるから。僕を信じて待ってて」


 初対面なんだけどな。

 どうしていちろ君は私をそんなに知ってるんだろう?

 初めて会った感じが全然ない。


 一人でとぼとぼ家に戻って、スマホとにらみ合いながら考えた。

 今日誰とも連絡がつかなかったのは、玲二くんになにかあったからだよね。

 どうしてお父さんの実家に行っちゃうのかがわからない。

 病院じゃダメってなんなんだろう。会えないくらいの重症なんだよね? 違うのかな。


 またわかんなくなっちゃった。

 何度も離れて行って、かと思えば寄り添ってくれて。

 気を引くテクニックなのかな。

 そんなの必要ないから、そばに居させてほしいよ。



 

 玲二くんは終業式の日も現れなくて、私はぽつんと一人。

 葉山君や中村さんにどうしたのか聞かれたけど、曖昧に濁すしかできなくて、たまらなく寂しさが募った。


 少しずつ桜のつぼみが色づいてきて、暖かくなってきた町はどこか浮足だった感じ。

 新しい季節への期待ばっかりが満ちている中で一人沈んで、楽しそうな誘いも全部断って、とぼとぼと駅へ向かった。


 すると、改札に入る手前で誰かが私の前に立ちはだかった。


「園田さん、お元気?」


 下げていた視線をまっすぐに戻して、びっくり。

 

「百井さん」


 今日、教室にいたっけ。そういえばずっと見かけてなくて、あれ? だけど、先月くらいから、休みは玲二くんだけって日が続いていたような……?


「元気だよ」

「嘘ばっかり。かわいそうね、ひとりになっちゃって」


 そういえば玲二くん関係ですごく突っかかってくる人なんだよね。

 無視して通り過ぎようとしたら、百井さんは私の腕をぐっと掴んだ。


「離してよ」

「そうね。でもあんまりかわいそうだから、放っておけなくて」

「かわいそうなんかじゃないから」

「へえ。薄情な人なのね。あんなに好き好き言ってた割に、もういいんだ」

「なんのこと?」


 百井さんは顔をぐにゃあっと歪めて、まるで別人のような恐ろしい顔を作ると、私に向かってこう言い放った。


「立花玲二はもう帰ってこないわよ」


 悪意に満ちた低い声が私の中でこだましている。

 心の中を跳ね返って、ボロボロに傷つけていくみたいで、足が震えた。


「そんなことない」

「そんなことあるのよ。あなたは最後にいつ彼に会ったの? あなたが無邪気に」

「やめろ、沙夜」


 私の腕をつかんでいた百井さんの手を引き離してくれたのは、来平先輩だった。

 私はただ、震えるばっかりで動けない。


「またこんなことをして、許されない」

「私にこんな真似して、あなた平気なの?」

「俺は、俺の使命に忠実でいなければならない。だから俺は今、園田ちゃんを守る」


 来平先輩もまた、どこか不安そうだったけど、それでも私の前に立ちはだかってくれた。


 しばらく無言のまま、時間が過ぎていった。

 私からは表情が見えなかったけど、百井さんは「ふん」と一言漏らすと去って行っていった。



「ごめん、園田ちゃん。沙夜が嫌なことを言って」

「来平先輩、百井さんと知り合いなんですか?」

「あ。あっ……いや、知り合いというか、それは少し、俺としては」


 しどろもどろなこの様子。百井さんとの関係も、内緒にしておかなきゃいけなかったのかな?

 このわけのわからない状況にも少し慣れてきたかもしれない。


「あの、来平先輩、玲二くんが今どうしているかわかりますか?」

「ああ、うん。それについては、俺からというのは少しアレなんだが」


 来平先輩は肩をあげたりさげたりしていてせわしない。

 でも話している最中に急に、ぴょんと。小さくジャンプして目を丸くした。


「どうしたんですか?」

「大変だ園田ちゃん。いやここじゃマズいな。どこかお店に入ろう」


 慌てた様子の先輩に手を引かれて、そのまますぐそばにあったカラオケ屋に入ってしまった。なんなのこの流れ。まさか新しいタイプのナンパとかじゃないよね?


 隣の部屋からは、朝からフィーバー中の高校生の歌声がうっすらと聞こえてくる。

 そんな中、来平先輩は制服の中をごそごそまさぐっていて、私はとにかく落ち着かない。


「すまない。ちょっと待ってくれ。俺はあんまり器用じゃなくて、時間がかかる」

「なにをしてるんですか?」

「いや、中に引っかかったんだ。こんなことは初めてだ」


 ごそごそごそごそ。服の中をまさぐり続ける、あんまりよく知らない間柄の男の先輩とカラオケボックスで二人きりって、どうなの? 逃げるべき?

 今ならすぐに飛び出せるけど。

 うーん、でも、この来平先輩の真面目な顔。百井さんを追い払ってくれたし、玲二くんとも仲がいいんだよね。いつでも逃げられるなら、今じゃなくてもいいのかな。


「手伝いましょうか?」

「いや、駄目だ。俺からじゃないと意味がない」


 だから、なにがなの?

 わからないまましばらく待つと、先輩はシャツの上の方のボタンを開けて、そこから巨大な羽根をずるずるっと引っ張りだして、にこっと笑った。


「ええ……?」


 どこから出したの、そのふさふさの大きな羽根は。孔雀の上尾筒くらいあるんじゃないの?

 それに、金色でピカピカ光っているし。


「園田ちゃん、これは君の」

「私の?」


 金色の羽根が私の手に渡される。

 きれいだけど、なんだろうこの釈然としない感じ。どこから出てきたのかわからないし、大体来平先輩の服の中からって……。


「これは、渡された人に幸運をもたらす羽根なんだ」

「幸運をもたらす羽根?」

「そう。君の幸せが玲二に繋がっていれば、大丈夫」

「玲二くん、そんなに悪いんですか?」


 来平先輩の表情が、ものすごくわかりやすく曇った。

 

「そんなに?」

「いや、うん。確かに。悪い。でも……頑張ってるから」

「どこにいるのか、先輩は知ってます?」

「園田ちゃん、頼む。聞かないでくれ。俺はうっかりしているから、全部言ってしまう。そうなれば俺がまずい」


 先輩ちょっと正直すぎるよ。


「玲二くんのお兄さんのいちろ君、わかりますか? いちろ君も大丈夫だって言ってたんですけど、でもすごく心配で」

「一路に会ったのか。そうか。園田ちゃん、沙夜の言葉に引きずられないでほしい。俺と一路を信じてくれ。そうすれば間違いなく、大丈夫なんだ」


 これ以上は留まっていられなかったのか、来平先輩はお店から出て行ってしまった。

 大きな大きな金色の羽根を抱えてお店を出ようとしたら、ドリンクを頼んでくれないと困る、だって。歌う気なんか全然ないのに! もう。


 仕方なく頼んだコーラを飲みながら、ひとりぼんやり考える。

 葉山君のあの時の言葉。人間じゃないんだ、っていう、アレ。


 もしも本当に玲二くんが人間じゃないなら?

 いちろ君の存在が伏せられていたのも、私についてよく知っていたのも、来平先輩がどこからともなくこんなに巨大な羽根を取り出して見せたのも、全部あり得るんじゃないかと思える。

 玲二くんがめちゃめちゃにケガをしたり、落ち込んだり気を取り直したり、なかなか落ち着かなかったのも。


 だけど、そんなおとぎ話みたいな妄想、信じられない。

 

 百井さんも仲間なのかな。

 もしかしたら、私以外全員人間じゃないとか? まさかね。


 結局ごちゃごちゃしたまんま、三十分過ぎてからお店を出た。

 大きな羽根が目立って仕方ないんだけど。これが入る袋なんて、そこらへんで売ってるかな?


「園田ちゃん、なにしてんの?」


 商店街をきょろきょろしていた私にかかった声。

 聞き覚えがある声に安心して振り返ると、葉山君はぎょっとした表情を浮かべた。


「なんの羽根?」

「え……っと、うん。わかんないけど、幸運を運ぶ羽根なんだって」

「いくらした?」

「やだ、そんなんじゃないよ。売りつけられたとかじゃないの」


 やっぱり目立つんだよね、これって。恥ずかしい。

 

「葉山君、これが入る袋ってどこかに売ってないかな?」

「じゃ、うちにおいでよ。母ちゃんが買い物袋ためこんでるから、一個くらいはあるんじゃないかな?」


 お言葉に甘えて葉山君の家に行ったけど、完全に中に入る袋は見つからなかった。

 ちょっとはみ出しちゃうんだよね。折ってもいい? って聞かれたけど、でも、幸運を運ぶとか、玲二くんに繋がってるって言葉が引っかかって、さすがに出来なかった。

 

「不思議なことがあるもんだね、園田ちゃん」


 この羽根を入手した経緯についてかいつまんで話すと、葉山君は深くため息をついて首をかしげた。


「玲二に兄貴がいたとはね」

「うん」

「当然のように一人っ子オーラ出してたけどなあ」


 多分だけど、葉山君も今、私と似たようなことを考えているんじゃないのかなと思った。

 人間じゃないって、本当なんじゃないかなって。

 だけど口に出すには少し、荒唐無稽すぎるって。


「でもさ、玲二の兄貴なら嘘つかないでしょ」

「そうだね。私もそう思う」


 カップケーキあげた時、すごく嬉しそうに笑ってた。

 同じ顔なのに、可愛かったな。いちろ君。


「玲二の二って、そういう意味だったんだね」


 ほんとだ。いちろ君がお兄さんで、一なのか。


「お父さんとは連絡取れるんでしょ? なんだかよくわかんないけどさ、少し待とう。これまでもずいぶん待ったし、今度も大丈夫だよ」

「そうかな」

「そうだよ。試験前に復帰した時、ふっきれた顔してたでしょ、玲二は。園田ちゃんとのラブラブライフがこれから始まるって時にうかうか寝てなんかいられないって。慌てて元気になって戻ってくるよ」


 ラブラブライフか……。

 そうだよね。ちゃんと、わかりやすい愛情表現をしてくれるようになった。

 まだ、正式に付き合おうって言葉は聞いてないけど。



 家に帰ってから、羽根を取り出してじっと観察した。

 まずはとにかく大きくて、これからどこに置いたらいいか困っちゃうんだけど。

 でも、じっと見つめているうちに、羽根から放たれている優しい金色の輝きにすごく満たされたような気持になった。

 私の幸せが玲二くんに繋がっているなら大丈夫。

 来平先輩はそう言ったけど、間違いない。私の幸せは、玲二くんなしじゃありえないんだから。


 どこでどうしているのかわからないけど。

 玲二くんのことを、誰よりも思っている。

 玲二くんがいなければ、幸せになんか絶対になれないからね。


 眩しくて邪魔になっちゃうかなと思ったけど、その日は大きな羽根と一緒に寝ることにした。

 

 見た夢は、玲二くんのフルコース。

 迎えに来てくれて、一緒に学校に行って、隣で授業を受けて、放課後は抱きしめられて、いっぱいキスして、最後は海辺のチャペルで結婚式。

 私ってすごく単純だなって、反省しちゃうくらい。


 だけど、同じ夢を玲二くんが見てくれたらいいなって。

 そう思いながら、金色に光る羽根をぎゅっと抱きしめた。

 

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