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狼少年の憂鬱  作者: 澤群キョウ
ハリケーン
23/85

超近距離戦 / いつき

 葉山君と二人でしょんぼりしながら部室へ向かって、中に入ると更なる衝撃が待ち受けていた。


「あ、いつきちゃん! 待ってたよ。あれ、なにかあったの? 立花と喧嘩したとか」


 あははと朗らかに笑っているのは、本城君だった。


「なんでここにいるの?」

「見学に来たんだよね。でもみんな素敵な人ばっかりだし、入部は決定!」

「テニス部とか言ってなかった?」

「ちょっと居づらくてさ。今日から俺、クッキングクラブに移籍しまーす!」


 明るい宣言に、みんな盛り上がっている。

 私はすっかりうんざり、げんなり。百井さんにあんな風に言われたのに、玲二くん、大丈夫かな。あんなにはっきり他人をけなす人って初めて見たかも。


「いつきちゃん、笑顔を見せてよ。俺、いつきちゃんの笑顔見に来たんだから」

「今日は無理なの」

「なにかあったの? 俺で良ければ相談に乗るよ」


 相原君が片付いたかと思ったら、百井さんに本城君。

 用がない、うざったい、話しかけないでくれ。

 そうはっきり言う勇気は、私にはない。


「なんでもないよ」

「そう?」


 本城君はあっさり去っていって、先輩たちになにか手伝うことはありませんか、と愛想を振りまき始めた。もちろんみんな大喜び。今まで男の子はいなかったから、盛り上がるのは仕方ない。見た目は悪くないし、元気だし、やけに爽やかだし、気取ってないし。あっさり溶け込んじゃって、大勢の女の子に囲まれててまるでハーレムみたい。


「いいね、男の子は力があって」

「ホイップクリーム作るのが楽になるねー」


 本城君の返事ははきはき、はい、任せてください、そうなんですか! とテンポがいい。打てばすぐに響いて、みんなの心に心地よく染み込んでいく。

 ケチをつけられるところなんて、いきなり下の名前で呼んできたことくらいかな。それも、みんなの前で言うようなことじゃないし。


 そろそろ文化祭の準備を始めなきゃいけなくて、メニューの候補を順番に作っていくことになっている。

 今日作っているのはパウンドケーキで、初心者にはぴったりの内容だった。


「俺、いいタイミングで来たみたいだね」


 本城君は上機嫌。

 髪の毛はさっぱり短くて、顔も涼しげ。

 五組の益子(ましこ)さんは私に何度も、かっこいいよね、と囁いてくる。

 玲二くんの方がいいけど、でもまあ、本城君も悪くはない。しゅっとしてるし、動きもキビキビ、声ははっきり。誰か本城君に粉をかけて、がっちり捕まえてくれたらいい。


「彼女とかいるのかな? 園田さん、本城君とは仲がいいの?」

「ううん、全然」

「いつきちゃんって呼ばれてるのに」

「うん……」


 フレンドリーな人なんじゃない、と答えを濁したら、家庭科室の扉が開いて葉山君が姿を現した。


「クッキングクラブの皆さん、俺に力をわけてくださーい」


 顔色が冴えない。私と一緒。百井さんのダイレクトアタックに、すっかり気力を削がれちゃっている。


「葉山君、いらっしゃい」

「もうすぐ出来るところだよ」


 前に顔を出した時のサービストークの効果で、葉山君も先輩たちの覚えがめでたい。

 今日は元気がないね、らしくないよ、なんて言われながらど真ん中に通されて、葉山君の前にはお皿やフォークがどんどん並べられていく。

 そして最後に紙コップを持ってきたのは、本城君だった。


「ん、誰?」


 唐突な男子部員の登場に、葉山君は細い目を丸くしている。


「俺、四組の本城。今日から入部したの」

「そうなんだ」


 本城君は男子にも平等に笑顔を向ける人だったみたい。葉山君にもにこにこ笑いかけて、書道部の人だよね、よく入り浸ってるの? なんて質問をぶつけている。


「よく知ってんね、書道部だって」

「大会で賞とったって、掲示されてたでしょ。写真も載ってたし」


 え、そうなの、葉山君。すごいな。


「こちらに寄ったのは二回目よ。あそこにすごい美少女がいるでしょう。園田ちゃんと俺はマブダチなんだよね。もちろん他の皆さんも清らかで尊い女子高校生なんだけど」

「いつきちゃんの? へえ、そうなんだ」

「いつきちゃんって呼ぶような仲なの?」

「いや、俺が一方的にそう呼んでるだけ。仲良くしたいからさ」


 二人の視線が同時にこちらへ向けられる。

 もう、やだな。ああいうことを大きな声で言うのは勘弁してほしい。

 他のみんなにももちろん聞こえちゃっているから、黒一点にときめいてるお姉さま方も反応が激しい。


「そうなんだ、園田さん目当てだったんだ」

「もう素敵な彼がいるんでしょ? 本城君は放流してほしいな」


 そんなんじゃないですって一応訴えてみたけど、信じてもらえてるかな。


 それよりも玲二くんだよ。もう解放してもらったかな。

 百井さんになにかされてないか、心配でたまらない。


 パウンドケーキが焼けて家庭科室には幸せな香りがいっぱいなんだけど、私の心は暗いまんま。

 気の利くタイプの男子はそれにちゃんと気が付いて、声をかけてきてくれる。


「園田ちゃん、大丈夫だよ、玲二なら」

「いつきちゃん、どうしたのそんなに暗い顔して」


 今日の葉山君には元気がないから、本城君の前に出るパワーに勝てないみたい。

 新入部員はぐいぐい前に出て、私の肩をぽんぽん叩いてくる。


「近いってば」

「いいじゃない」


 良くないから言ってるのに!

 みんなの視線も痛いし、葉山君もビックリしてるし、玲二くんが心配だし。

 ついつい強く本城君の手を払ってしまった。

 部屋の空気はひゅんと冷たくなって、心の中に後悔の風が吹き込んでくる。


「や、ごめんね。俺、すごく慣れ慣れしいの!」


 本城君は明るく大きな声でこう言って、すぐそばにいた部長と副部長の肩に手をまわした。大胆にも二人の先輩を抱き寄せるという大スターみたいな行動に笑いが起きて、ひんやりとした空気は一掃されていく。


 空気が読めるし、気遣いもできる。本城君は私よりもずっと大人だ。

 きっともう、べたべた触ってきたりはしないんだろう。


 強くならなきゃって思ったはずなのになあ。

 なかなかうまくはいかないみたい。


 本城君みたいな人はさらっとかわして、百井さんの言葉は気にしない。

 悪いことなんてなにもしてないんだから、堂々としていればいいんだ。


 何種類か作った味の感想を言い合って、後片付けを済ませて、きっちり気持ちを切り替えて。よし、大丈夫。玲二くんに会ったらまず、お疲れ様って笑顔で言おう。待っててくれてありがとうも。


「いつきちゃん、一緒に帰ろうよ」

「待ち合わせしてるから」


 葉山君がニヤっと笑ってきたので、それに手をあげて家庭科室を出た。


 夕暮れ時の廊下は濃いオレンジ色に染まっていて、なんだかとても非日常的な感じがする。一階にある家庭科室から、三階にある図書室へ。場所は校舎の端と端で遠いけど、もうすぐ玲二くんの顔が見られると思えば全然苦にならない。

 

 心の調子をあげて、図書室へ。放課後の図書室で待ち合わせって、なんだかロマンを感じちゃうな。いかにも高校生同士のカップルって感じがして。


 扉を開けてみると、中にはちっとも人の気配がなかった。

 カウンターも空だし、本棚の前にもテーブル席にも誰もいないし。


 奥に進んでみても、玲二くんの姿はなかった。

 でも、鞄がある。鞄の置かれた席の前には、本も一冊置かれている。


「玲二くん?」


 小さな声を出したつもりが、静かな場所では大きく聞こえた。


「園田?」

「うん」

「ちょっと待ってて」


 声は遠く、一枚隔てた向こうから聞こえてきたような響きで、しばらくすると二人の人影がカウンターのもっと奥からふっと現れた。


「本の片付けを手伝ってたんだ」


 玲二くんのすぐ後ろには、アルバイトに誘っていたフェミニンな先輩がついている。

 なんだかちょっと不機嫌そうな顔なんだけど。玲二くん、なにかやらかしたのかな?


「もう作業はありませんか?」

「うん、ないよ。ありがとうね、立花君」


 先輩は急ににこにこして、玲二くんの手をさらっと撫でている。

 なんだろう、今の動き。

 玲二くんは全然気にしていないみたいで、鞄を取りにいってしまった。


 入口のそばで待ちながら、もう一度図書室の様子を見回すと、また図書委員の先輩の姿が目に入った。けど……。あれ、また不機嫌そうな顔をしている。なにを見つめているんだろう。方向的には玲二くんしかいないんだけど、やっぱりなにかやっちゃったのかな? 大事な本を落としちゃったとか。

 玲二くんにかぎって、なさそうだけど。

 でも夏休み中に痩せちゃったから、力が入らないとか、そんな事情があったりして。


 帰りの挨拶の時にはまた先輩は笑顔を見せていたので、私としてはなんだかちょっと変な気分。でも、なにか失敗でもしたの? なんて質問はあんまり、二人きりの帰り道には向いていない気がして。だから話題は、今日のクラブの内容なんかが妥当かなって思ったんだけど。


「あ、いつきちゃん! 待ってたよー」


 下駄箱には本城君が待ち受けていて、また例の爽やかな笑顔をにこにこ振りまいている。


「なんでいるの?」

「一緒に帰りたいからに決まってるでしょ」


 なにから言い訳したらいいのかわからなくなって玲二くんに目を向けると、こちらも困惑した表情だった。


「わざわざ待ってたのか?」

「今日からクラブの仲間になったからね。たいして待ってないよ」

「へえ……。二人で帰りたいから、遠慮してほしいんだけど」

「お、結構言うタイプなんだ。予想外だな」


 感心してみせた割に、本城君は去って行かなかった。

 二人で並んだ私たちのすぐ前を、左右に行ったり来たりして。


「いいでしょ、駅までなんだから」


 本城君の言い分はこうで、確かに駅までは一本道だし、離れろって言うのもおかしいし。

 玲二くんは「遠慮してくれ」って言ってくれたんだから、それでよしとすべきなのかな。二人で帰りたいから、だって。この台詞は本当に嬉しかった。あとでじっくり思い出して楽しまなきゃいけない。


 本城君は私だけじゃなくて、玲二くんにもあれこれ話しかけた。

 背は何センチなの、とか。部活は何をしているの、とか。

 玲二くんもなんだかんだ本城君のペースに巻き込まれたのか、ちゃんと返事をしていた。どうやら身長は一七五センチもあるらしい。まだこれからも伸びるよね。じゃあ、最終的に何センチに落ち着くのかな。ますますすらっとしてカッコよくなっちゃうのかな。


 むむ、いけない。私もすっかり本城君のペースだ。

 ほんの数分しか話してないのに、妙に親近感を覚えちゃっている。


「じゃね、いつきちゃん、立花、また明日!」


 本城君の飛ばしてきた投げキッスを、心の中で打ち返す。

 もう、やだな。どうしたらいいんだろう。悪い人じゃないから逆に性質が悪いというか。


「調子のいい奴みたいだな、本城って」

「うん。いきなりクラブにいたからビックリしちゃった」

「帰宅部だったのかな?」

「ううん、テニス部だけど、居づらくなったとか言ってたかな」


 二駅分の間、わたしたちの話題は本城君の人となりについてになってしまった。

 違う違う、大事なことを忘れているじゃないの。


「玲二くん、大丈夫だったの? 百井さんに変なこと言われたりしなかった?」

「いや、良太郎や園田の方が嫌な思いをしたんじゃないか」


 面と向かって「引っ込んでろ」なんて言われる日が来るとはなあ、って感じ。

 

「葉山君がクラブに遊びに来てくれたんだけど、いつもよりちょっと元気がなかったよ」

「そりゃ、あんな風に言われたら不愉快になるよ」


 玲二くんは「鏡を見てから」なんて言われないだろうな。綺麗な顔だもん。

 とはいえ、綺麗じゃない顔にはなにを言ってもいいかというと、もちろん違う。


「案内はちゃんとしたの?」

「したよ」


 満足したかはわからないけど、だって。

 また頼んで来たりするのかな。

 その前に、百井さんってやっぱり、玲二くんを狙っていたり、するのかな。


 あんなに自信満々でナイスバディの美女が迫ってきたら、どうなるんだろう。

 玲二くん、どうなっちゃうんだろう。


 不安に負けたくないのに、ずーんと重たい。百井さんの目を思い出すと、勇気が引っ込んでいってしまう。そんな洞窟に用はないよ。玲二くんがいるのは、月が綺麗な丘の上なんだから。柔らかい緑のはっぱをたくさんつけた木々がざわめいている、静かなところなんだから。


「他人を傷つけて平気なやつなんて俺は嫌いだ」


 あれ、私声に出して言っちゃったかな?


「玲二くん」

「あんなやつのこと考えないでほしい。俺、園田の笑った顔が好きなんだ」


 うわ。好きって言った。笑顔がって枕詞がついているけど、玲二くんが、好きだって。


「そうそう、その感じ」


 私も、玲二くんの笑った顔が好き。

 シリアスな表情もいいけど、優しげに微笑んでいる顔が大好き。


 玲二くんの声は魔法みたい。洞窟に逃げ込んでいた勇気は外に飛び出して、王子様の待つ丘の上に向かって走り出している。

 そうだよね、嫌なことを考えて落ち込んでるヒマなんてない。百井さんも本城君も、放っておけばいいんだ。



 だけど決意はまた挫けてしまった。

 次の日、玲二くんと並んで登校して、並んで授業を受けたあと。

 本城君の調子のいい声を聞きながらクラブ活動に勤しんでいる間に、玲二くんからメールが届いていた。図書室じゃなくて、教室で待っているよって。

 どうしてなのか不思議だった。あのフェミニンな感じの先輩とやっぱりなにかあったのかなくらいしか思いつかなかったから、教室についてびっくりしてしまった。


「玲二さん家はやっぱ、お墓は横文字だったりするんですか?」


 玲二くんの隣、つまり私の席に女の子が座っている。

 今はまだショートカットの後ろ姿しか見えないけど、でもすごく慣れ慣れしく玲二くんにべたべた触っていて、迷惑そうな顔にも全然動じていないみたいで。


「そうだ、玲二さん、バイト先に今度遊びに来て。月浜の隣、西月浜駅前のナイスバーガーで月、水、土って入ってるから。クーポン適用してあげるし、いいでしょ、ねえー、いいでしょおー?」


 甘えた声の攻撃を避けようとしたのか、玲二くんが立ち上がる。


「あ、園田」

「んー? 誰?」


 振り返った女の子は、とりあえず可愛かった。子猫みたいな印象の大きな目に、ぱっと明るく輝いているような生き生きとしたオーラが眩しい。スカートは私よりもだいぶ短いみたいで、健康的に焼けた色のふともももセットで眩しかった。


「待ち合わせしてたんだ」

「玲二さんと? えー、ずるい。どこに行くの二人で。カラオケ?」

「帰るだけだよ」

「帰るだけって! うっそ、ウケる!」


 女の子はケラケラと楽しそうに笑いながら、私におどけた感じの敬礼のポーズをしてみせた。

 

「あたし、中村(ゆい)です!」

「園田いつきです……」

「知ってるよ。園ちゃんめっちゃ可愛いって有名だし」


 ううん、悪い人じゃなさそうなんだけど。

 なんで玲二くん相手にこんなに盛り上がってたのかな。


「じゃ、三人でカラオケ行こうよ」

「いや、俺たちはもう帰るから」

「えー、なんでー? いいじゃん玲二さん。ね、園ちゃんも一緒に行こうよ」

「ううん、帰るから」

「あれ、もしかしていきなり過ぎた? そっか、なんか初対面な気がしなくて。ごめんね!」


 中村さんも結局駅まで一緒で、電車の方向は逆だったから良かったけれど、昨日と同じような展開になんだかビックリしてしまう。


「どうして中村さんといたの?」


 夕方の電車は混んでいて、私たちは二人で並んでドアの横に立っている。

 見上げながら問いかけてみると、玲二くんは今までで一番困った顔を作ってこう答えた。


「図書室にいたらいきなり来たんだ。中村は本城と付き合ってたらしいんだけど」

「本城君と?」

「うん。園田が好きになったからって本城にふられたから、俺に文句を言いに来たんだって」


 本城君がそんなにストレートに言ったのか、それとも中村さんの解釈の仕方がそうだったのかわからないけど。でもなんにせよ、玲二くんに文句を言うって、なぜ?


「私じゃなくて?」

「俺も全然わからなかったんだけど、中村の考えでは、本城が好きになっちゃったものは仕方ないから園田は応じるべきで、余った俺は中村に新しい彼氏を紹介しなきゃ駄目なんだとか」


 どうして図書室から教室に移動したのか、理由がよくわかった。

 あんなに勢いよく話されて、迷惑だったろうな、玲二くん。


「なんかごめんね」

「園田のせいじゃないだろ」

「そうだけど……、でも待ってもらってるからだし」

「文句は本城に言うから、大丈夫」


 このケースだと確かに、苦情の受付窓口になるのは本城君かな。

 にしても、無茶苦茶だな、中村さん。

 私も一緒にカラオケって、どういう発想をしたらそうなるんだろう。


 百井さんも本城君も今日は大人しかったけど、こんな隠し玉が待っているなんてびっくりしちゃう。

 さぞかし疲れただろうなと思ったけど、玲二くんはなぜか軽く微笑んでいた。


「どうしたの?」


 もしかして、中村さんとの時間がちょっと楽しかったりしたのかな?

 無茶苦茶だけど、パワフルだし本人の明るさがすごい。あの調子でずっと話されていたら、つられて笑ってしまうだろうなって思うし。

 

 私が問いかけると玲二くんはすぐに真顔に戻って、しばらく私をじっと見つめた。

 綺麗な色の目だなあって、うっとりしてしまう。


「園田と一緒だと、落ち着くよ」


 うっとりしているところに、更に追撃をされてしまうなんて。

 ぽーっとしちゃって、もうのぼせあがる寸前になっちゃってる。いや、いつだって私はのぼせちゃってるのかもしれないけど。


 はちみつみたいに甘い、玲二くんの瞳の色。

 見るたびに、好きの気持ちが膨れ上がっていく。


 

 すっかり浮かれていたせいで、忘れちゃってた。

 またしてほしいなって思ってた、おでこへのアレ。

 でも大丈夫。明日があるし、明後日もあるし。


 邪魔が入ってむしろ絆が強まったような気がする。

 マグカップに溢れる紅茶の色で玲二くんを思い出して、えへえへ笑ってしまう。


「いつき、今の顔ヤバすぎ。男の前では絶対すんなよ」

「草兄ちゃん、嫌味ばっかり言ってるとモテないよ」


 俺は受験生だからいいんだよ、だって。

 

 私も明日本城君に会ったら、文句を言わせてもらおう。

 それでスッキリしたらいい。結局花火大会には行けなかったけど、秋にも色々イベントはあるし。

 文化祭、一緒に回れたらいいな。


 幸せな気分に浸ったら、もう草兄ちゃんの嫌味は全然耳に入って来なくなった。

 

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