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狼少年の憂鬱  作者: 澤群キョウ
ハリケーン
19/85

不安のミルフィーユ / いつき

 山盛りの煩悩がなんとか成仏して、課題のほとんどが終わった八月下旬の夜。

 学校の再開まであと五日になった夜に、やっと、待ちに待っていたものが届いた。


 机の端っこで電話が揺れて、ディスプレイに表示されたのは麗しの玲二くんの横顔。

 獲物に飛び掛かる猫みたいな素早さでスマホを掴んで、慌ててメールを開いた。


 玲二です。

 怪我はだいぶ良くなりました。

 課題はもう全部終わった?

 相原のこと、相談にものってあげられなくてごめん。

 夏休み開けたらまた、一緒に学校に行こう。

 朝、家まで迎えに行くから、待ってて。



 すごくシンプルな内容なんだけど、腰のあたりから溶けちゃったみたいにぐにゃぐにゃって、後ろに倒れ込んでしまった。

 具合が良くなって安心したのと、電話の修理が終わったんだなっていうのと、それと、玲二くんからこんな内容の連絡をくれたっていう喜びと!

 幸せだなーって。床でごろごろしてしまう。出来れば残り少ない夏休み中にもう一回くらいデートできないかななんて欲張っていたけど、我慢だ。だいぶ良くなっただけで、まだどこか痛いんだろうし。あととか残ってないかな。心配だな。ちょっとくらいあとが残ったとしても、私の愛情には代わりはないけどね!

 なんて考えたら恥ずかしくて、またごろごろ転がってしまう。

 前半と後半でクオリティが全然違った夏休みになってしまったけど、でもいいの。だってね、えへへ。玲二くんとはしっかり絆が出来ちゃったもんね!

 そしてまた、ごろごろごろごろ。


 こんな風に妄想して転がってるって知ったら、玲二くんはどう思うんだろう。

 そんな子だったの? って眉をひそめてしまうかな。

 多分だけど、そんな表情の玲二くんもかっこよくて、私はますます好きになってしまうんだろうな。



 妄想は止まるところを知らず、興奮しすぎたのかなかなか寝付けなかった。

 相原君のこと、本当はもっと心配するべきなんだろうけど。

 あれから姿は見ていないんだよね。私に気付かれたから、もう家のそばに来るのは止めたのかもしれない。と、思いたい。

 家族にはちゃんと話したし、どこに行くにも誰かしらに付き添ってもらっている。

 迷惑なんだけど、決定打がないんだよね。家を覗いていたわけでもないし、近所に用があっただけなのかもしれないし。私は相原君を怖いと思っているけど、異常なほど付きまとわれているわけでも、ないから。


 チケットを勝手に用意して一緒に行こうって誘う行為は、私もしている。

 相手に受け入れてもらえたか、そうじゃないか。違いはそれだけ。


 玲二くんに「嫌だ」って言われなくて良かった。

 園田と二人でっていうのはちょっと、なんて言われたら、どれだけ落ち込んだかわからない。

 そう考えるとちょっとだけ、相原君には申し訳ない気分だけど。

 うーん、でも、その前に私はちゃんと話しかけたり、ともだちになってねって申し出ているから、受け入れてもらう努力をしている分、マシなのかな?

 そもそも話したこともない相手に、いきなり二人きりで出掛けようなんて言えないと思うけど。でもそれも、人それぞれ、かな。私には出来ない思い切った行動を、彼はできるってだけの話、とか。

 

 正式に付き合ってくれたらいいのに。

 そうしたら私は堂々と、彼氏がいるからほかの男の子とは二人で出掛けたりなんてできません、って言えるのに。


 目を閉じれば、すぐに大好きな顔が浮かんでくる。

 笑っていても、困っていても、少し悩んでいるような顔も、全部大好き。

 この思い、いつか冷める時が来るのかな。

 そんなの全然、想像できない。




 夏休みが終わって、新学期が始まる。

 まだまだ日差しは夏真っ盛りの眩しさで、葉っぱの緑色を鮮やかに照らし出している。

 玄関から出れば一気に額を汗が濡らして、私は思わずため息をついた。

 

 でもそれもすぐに、熱気の中に溶けて消えた。

 家の前からまっすぐに伸びている道の向こうに、ずっとずっと求めていた姿が既に見えていたから。


「玲二くん!」


 思いのほか大きな声が出ちゃって、自分のことながらビックリしてしまった。

 恥ずかしいけどそれはもう、仕方がない。それより大事なことがある。

 新調したスニーカーでアスファルトを蹴って、玲二くんのもとへ走った。

 なんだかドラマみたい。大好きな人にやっと会えた、恋人同士、みたいな。


「おはよう」

「あ、傷、もう全然残ってないね」


 きれいな顔は元通り。ガーゼも絆創膏も貼られていないし、傷跡もない。


「よく効く薬をもらったんだ」

「そうだったんだ。良かった、本当に良かった」


 良かった良かったと、さりげなく玲二くんの手をぎゅっと握った。

 ぶんぶん振ってからの、どさくさに紛れての手つなぎ。どうだ! だめかな! 図々しすぎるかな! 怖い! 怖くて玲二くんの顔が見られない。


 視線を感じる。並んで歩く玲二くんが、ちょっと上から私を見ている気がする。

 私の右手と、玲二くんの左手。逃げて行くかな。それともこのまま、行けるかな。


 結果としては、駅までは行けた。

 玲二くんは私の手を離さずにいてくれて、でも改札をくぐる時にはだめで。その後はもう、さりげなく手を取れる場面はなくて、つまりまだ、玲二くんから手を取ってはくれないみたいな感じか。

 確かに。地元の駅までなら良いとしても、学校まで歩く途中で手をつないでいくっていうのはちょっと、恥ずかしいよね。誰がいるかわからないし。葉山君なんかすぐに目撃しそう。それで嬉しい感じで「この幸せ者たちめ」みたいなことを言ってくれそうな気がする。


 ん、また忘れてた。相原君だよなあ。相原君はどう出てくるか、よくわからないんだよね。そもそも、玲二くんと仲良くしているのはわかっていても誘ってくるし。断ってもまったく聞き入れてくれないし。


 玲二くんと一緒に歩けるのはすごく嬉しいし、これからちょっとずつでも進展していければいいと思うんだけど。そういえば学校には毎日、相原君もいるんだった。


「園田、どうかした?」


 上履きをのろのろと履き替えていたら、心配されてしまった。


「ううん、なんでもないよ」

「急に顔が険しくなったから」


 今度は一気に顔の筋肉が緩くなってしまって、玲二くんは少しぎょっとしたようだった。だって見ててくれたなんて、嬉しすぎる。


 授業が始まるまではまだ結構時間があるから、玄関に他の生徒の姿はない。

 二人だけの世界、と考えた瞬間、背後から声をかけられた。


「立花、園田、おはよう。元気だったか?」


 担任の白石先生は多分三十代後半くらいで、化学を教えている。

 挨拶をかわすと、先生は嬉しそうに抱えていた大きな紙の束を玲二くんに渡した。


「教室に運ぶの手伝ってくれ」

「わかりました」

「まだあるから、置いたらまた来てくれな」


 持っていきましょうかと私が申し出ると、園田は可愛いからいいよ、と言われてしまった。玲二くんも、重たいから俺が持つよ、なんて言ってくれて。釈然としないけど嬉しくて、結局ついていくだけになってしまった。


「もし痛かったら言って。手伝うから」

「大丈夫だよ。それにすぐ良太郎が来るだろうから、頼めるし」


 確かに。いつも通りのタイムスケジュールなら、すぐに葉山君が来るだろう。

 怪我の後遺症なんかはないのかな。玲二くん、ちょっと痩せたように見えるけど。


 でもあんまり心配されすぎてもイヤかな、と考えてそれ以上は言わなかった。

 玲二くんは紙束を教卓に置くと、すぐに職員室に向かうと言い出して、私はついついあとをついていったりして。


「お、ありがとうな、立花。夏休みはどうだった?」

「特にかわったことはありませんでした」


 怪我のこと、言わないのかな。言いたくないのかもしれない。でもそういう事件みたいなものは、報告しなきゃいけないんじゃないかな。そもそも、警察から連絡がいったりしそうなものだけど。


「園田は? どうだった」

「あ、はい。えっと……」


 ああ、そうか。私も言いにくい。相原君に付きまとわれていたかもしれないっていうのは。


「楽しかったです」

「それは良かったな」


 白石先生は笑顔を浮かべると、また大きな紙の束を取り出してきて玲二くんに渡した。


「白石先生!」


 職員室の奥から声をかけられて、先生は立ち上がる。

 と思ったら、ぐるんと振り返って私たちにまたニカっと笑いかけた。


「今日から転校生が来るんだ。美人だぞ~!」


 じゃあな、と白衣の裾を翻し、先生はうきうきと去って行った。

 

 職員室の一番奥には校長先生の席がある。

 そこに、セーラー服に身を包んだ女の子がひとり、立っていた。

 うちの高校はブレザーだから、彼女が転校生なんだと思う。

 こちらに背を向けたセーラー服の女の子の髪は肩にぎりぎりつかないくらいの長さで、まっすぐ一直線に切りそろえているみたいだった。

 白石先生が駆け寄っていって、振り返る。

 

 まるで心臓を掴まれたみたいな衝撃だった。


 前髪も、眉毛にちょうど乗る長さで一直線のぱっつんカット。

 その下の顔の小ささと、肌の白さと、真っ赤な唇。転校生の姿は雑然とした風景の中で、際立ってはっきりと見えていた。

 遠いのにはっきりとわかる。

 長いまつげに縁どられた、色気たっぷりの大きな目。

 少し物憂げな表情で、澄ました様子で辺りを眺めて、薄く微笑んでいる。

 顔の美しさにまず気を取られたけど、少しフォーカスをずらしてみれば、胸も大きいし、セーラー服の裾が揺れてちらりとのぞいた腰はきゅっと細くて、小さく振られたお尻もなんだかすごく、やたらとセクシーな感じがして……。


「園田、行こう」


 玲二くんに声をかけられて、はっとした。

 なんだか夢から覚めたみたいな、すごくぼうっとした感覚。


「どうしたの?」

「あの転校生の子がすごくきれいだったから、見とれちゃったのかな」


 廊下を歩きながら、玲二くんはなぜか眉毛を八の字にしている。


 階段を登って、教室へ。

 まだ妙な感覚の中にいる私に、こんな声が聞こえた。


「園田の方が可愛いよ」


 ……空耳じゃないよね。

 私の少し前を歩く玲二くんは顔を伏せて、表情を見えなくしている。


「いま、なにか言った?」


 もう一度聞きたくてとぼけてみると、玲二くんは少し間をあけてからこう答えてくれた。


「聞こえてただろ」


 あ、この返事もいい。

 心のモヤが全部吹き飛んでいって、単純な私はこれだけですっきり爽快。


「お、園田ちゃん、ひさしぶり」

「葉山君、おはよう」

「玲二、元気だったのか?」

「ああ。長い間連絡取れなくてごめん」


 あれ、葉山君には怪我のこと話してないのかな。

 電話が壊れてしまって、としか話さない玲二くんに、葉山君も特に疑問は感じていないみたい。寂しかったぜっていつもの調子で言うくらいで。

 心配かけたくないのかな。確かに玲二くんは、不良に絡まれたなんて話を自らすすんでするタイプではないと思うけど。武勇伝、自慢話にはしなさそうだと思うけど。


 じゃああの怪我について知っているのは、もしかしたら私だけなのかもしれない。

 家族と、私だけ。それはそれで、いいような気もする。


「園田ちゃん、いい夏休みを過ごしたみたいね」


 ニヤニヤしているとやっぱり、葉山君に突っ込まれてしまう。


「やだな、そんな、まあまあだよ」

「まあまあね。はは、そんな顔して説得力ないよ」


 キャッキャと騒いでいるところに、ガン、と差し込まれた大きな音。

 開け放たれていた教室の扉を、わざわざ一度閉めた、のかな。

 ドアはからからと音を立てながらまだ動いていて、相原君は仁王立ちしている。


 ひそひそ、ざわざわしているけれど、話しかける人はいない。

 浮かれていた教室はすっかり落ちついてしまって、私も内心びくびくと怯えていた。

 私のところにきて、机をばんと叩いてきたりしたらどうしよう。

 二度目のお誘いについては、行くとも行かないとも言ってない。答えずに逃げ去ったのが意思の表明なんだけど、いままでの反応を考えれば、相原君が私の思う通りに受け取ってくれるかどうか。


 後ろから椅子を引く音がして、私の横に誰かが立った。

「大丈夫よ、園田ちゃん。いざとなったら玲二が出てくるからね」

「葉山君」

 

 優しい言葉にほっとするけど、相原君とうまく渡り合えるのは葉山君じゃないかな、なんて思ったりして。

 でも結局、恐れていたような展開はなかった。

 チャイムが鳴って、それと同時に白石先生がやって来たから。


「相原、席に着いてー」


 みんながみんな、ほっと息を吐いた音がしたような気がした。

 それは気のせいで、本当に一斉にはあーっと息をつく音がしたのはその後。

 先生が入ってきて、その後にもう一人、転校生の女の子が姿を現した瞬間。


 やっぱり、ものすごい美人。

 眉と肩のあたりでまっすぐに切りそろえた髪型が、よく似合っている。

 物憂げに伏せた目が、やたらとセクシーで。

 左目のすぐそばに、ほくろがあって。

 セーラー服のリボンを、これでもかってくらい胸が持ち上げていて。

 

「みんな、転校生を紹介するぞ。美人だからって、ニヤニヤするなよ!」


 先生が一番ニヤニヤしている。喜びを堪え切れないみたいで、動きがいちいち弾んでいる。

 男の子たちからは、ハート柄のため息が。

 女の子たちからは、羨望のまなざしが。

 教室中を飛び交って、一年三組の空気の異様さはここに極まっていた。


 私も、転校生の色っぽさにくらくらしている。女の子に興味はないはずなのに、すごく惹き付けられる。


 百井(ももい) 沙夜(さや)


 黒板に書かれた名前も、都会の夜の妖しさを思わせる彼女によく似合うと思った。


「百井沙夜です」


 う、声も色っぽい。


「百井の席はとりあえず一番後ろで。あとで席替えをしような。じゃ、まずは出席の確認から」


 夏休みはどうだった? という先生の問いかけに集中していられる人は誰もいなかったんじゃないかな。

 みんなうしろを振り返っては、ちらちらと百井さんの姿に気を取られ続けている。

 テンポの悪い出欠確認が終わると、課題の提出だとか、夏休みにあった事件についての話なんかがあったけれど。私もあまり頭に入って来ない。

 さすがに振り返ってはいないんだけど、後ろから妙に、圧を感じるというか。

 みんなが見ている気配が充満して、教室が荒い息遣いで満たされているような、不気味な感覚があって落ち着かなかった。



 休み時間に入ると、半数以上の生徒が百井さんの席の周りに集まってしまった。

 どこから来たのか、部活はなにに入りたいか、みんながみんな好き勝手にぶつけて収集が付かなくなっているみたい。


 玲二くんは自分の席に座ったままで、葉山君も後ろを振り返りつつ留まっていて、私はそれにひどく安心しながら二人の席の隙間に移動していた。


「玲二くん、席替えだって」

「ああ」

 

 隣同士になれたらいいな。そうしたらさっきみたいに、玲二くんがどう反応しているのか不安に思わなくていいから。


「園田ちゃん、あれ」


 葉山君の囁きで目を向けると、相原君も百井さんの席を囲む一員になっている。


「あいつ、さっきのなんだったんだよ」


 なあ、と葉山君は笑っているけど、玲二くんはやけに厳しい表情を浮かべている。


「どした、玲二」

「いや、なんでもないけど……」


 あんまり顔色が良くない気がするけど、大丈夫かな。


「いつもよりちょっと青いよ」

「確かに。っていうかお前、痩せたんじゃない?」

「大丈夫だって」


 クラスのざわめきは全部後ろに集まっていて、私たちは三人で離れた小島にいるみたいだった。

 それは全然、構わないんだけど。玲二くんと一緒ならなんでもいい。

 でも、今の冴えない表情は気になる。朝は元気そうだって思ったのに。



 休み時間が終わって、二時間目。

 私にはくじ運がないらしくて、玲二くんとは席が随分離れてしまった。

 しかも、怖ろしいことに相原君が隣にいる。頼みの葉山君も遠くて、慌てたんだけど、いざ座ってみると相原君の視線はずっと百井さんに釘付けで離れない。


 みんなの憧れの的の転校生は、窓際、玲二くんの隣。

 玲二くんは険しい顔のまんま、ずっと外を見つめ続けている。


 席替えと、軽く掃除をしたらもうお終い。

 来なくてもいいじゃないって思えるくらいの軽いスケジュールはあっという間に終わって、放課後になった。


 恐れていたことは現実になったけど、でも拍子抜けしそうなくらい、転校生のパワーが強力で。安心していいのか悪いのか。


 しかも、今日玲二くんとどこかでまったりお茶でも飲めたらいいと夢見てたのに、思ってもみないところからお邪魔が入った。


「ねえ、立花君。学校の中を案内して欲しいんだけど」


 玲二くんの前には、百井さんが立ちふさがっている。


「学級委員の仕事じゃないかな、そういうのって」

「あら、そんな決まりがあるの?」


 百井さんの声はハスキーで、しゃべりはゆったり、高校生とは思えない色気に満ちている。


「そうじゃないけど、今日は俺、気分が良くないんだ。もう帰るから他のやつに頼んでほしい」


 みんながみんな、二人をぐるっと囲んで成り行きを見守っている。

 さっきとはうって変わって、敵意が溢れているような気がした。

 転校生の頼みを断るなんて。誰かがそう囁き、すかさず別の誰かが同意して、それが波のように広がっていく。


「あなたがいいの」


 立花、案内してやれよ。

 誰かがはっきり声に出して、男の子も女の子も、そうだそうだと二人に迫っていく。


「ごめん、通してくれないか」


 玲二くんの頼みは却下されたみたいで、囲いは狭くなっていく一方だった。

 どうしてこんな展開になっているのか、ちっとも理解できない。


「ねえ、待って。具合が悪いなら、案内なんて出来ないでしょ。帰らせてあげようよ」


 慌てて声をあげると、みんなの鋭い視線が矢になって飛んできて、私に刺さった。

 うう、怖い。でも玲二くんの顔色が、さっきよりも悪い。


「そんな無茶言うなんておかしいよ。通してあげて」


 クラスメイトで出来た壁をむりやり破って進んで、玲二くんの手を取った。


「帰ろ」


 そして振り返って、驚愕。


 百井さんは微笑んでいるけど、目が。

 余りの冷たさに背筋が凍るみたいだった。


「はいはい、みんな通して通して! 素敵な転校生の百井さんを、誰か案内してあげて!」


 葉山君が入ってきてくれてようやく、私たちは教室から脱出できた。

 二人でいそいそと学校から飛び出したけれど、冷や汗はいつまでも止まることはなかった。

 

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