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9お守り

ユーゴーは、意思の疎通が少しずつできるようになると、頻りに、何か欲しいものはあるか聞いてきていた。




ユーゴーがいつもの椅子に座り、お茶を一口飲んで落ち着いたところを見計らって、切り出した。


「ユーゴー、お願い、欲しいもの、布、小さい、たくさん。布、中、柔らかい、ほしい、お願い。」



・・・おねだりを言うのも、なかなか難しい。




でもやり切った。



ユーゴーは怪訝そうな顔をしながらも、私の言ったことを繰り返す。


「布で、小さいものをたくさん欲しいのか?布団の中身とは、綿のことか?」


話は、通じたらしい。


「当たり。たくさん布、綿。お願い。」


実際のところは、掛け布団は羽毛と綿があったらしく十和が使っているのは羽毛であった。ユーゴーが羽毛の方を選択していたら、危なかった。


「他に、『縫う』もの」


と言いながら、布を縫うふりをする。


「裁縫道具か?」


ユーゴーが、また聞いてきた。


たぶんそれだと、思ったので、


「それ、サイホウドウゴ」

「裁縫道具だ」

「サイホウドウゴダ」

「違う裁縫道具」

「チガウサイホウドウゴ」



ふぅ異世界語は、難しい。


正確にはヴァルベラ帝国のベル語だそうだが。



何度かコントをして、次の日、思った以上の大量の布と豪華な裁縫道具箱を手に入れた。




布は、繻子からベルベットまで、何でも来いであった。



・・・・なにこれ、怖いわ。



手作りキットのお守り1個作るなんて言えないなぁと思いながら、ハサミで切り刻むのも躊躇うような高価そうな布を、断ち切っていった。


貧乏性ゆえ、ほんの端を少しずつだが。


5日後くらいに、自分でも会心の作の、男の子の小さな人形が出来上がった。



お人形は、そこの家の子どもの厄災を、身代わりに引き受けてくれるという話を、どこかで聞いたことがある。

素人の自分が作ったものに、そんな力があるとは決して思わなかったが、できるだけの祈りをこめて、作り上げた。

効果はまったく期待できなくても、ゆるキャラではないが、外出もままならないような子どもの慰めには、少しはなるだろうとも思った。



男の子の名は、エドゥ・・ン何とかと、言っていたので、”エド”とカタカナで、シャツに刺繍をし、上着を着せた。


・・・凝ってるよ。ほんとうに。布を無駄にしないように頑張ったよ。






・・・ほんとうに。


5日ぐらいと言ったが、実際5日間でできたかどうか不明だ。

不明だというのは、針仕事という重労働のため、体調が再び悪くなり、起きる時間が、更にまちまちになってしまい、日にちがわからなくなってしまったためだ。



部屋のカーテンは、厚く、十和が起きなければ、常に閉めた状態であったし、時計なども、置いてなかった。当然カレンダーなどない。

時間の感覚がわからないどころか、日にちの感覚さえ、ここへ来てから曖昧だ。


凛に聞くも“日にち”や“時間”などの観念的な単語は、上級クラスなのである。


そもそも、この世界の一日はおそらく地球より長く、季節はあるらしいが、その季節も日本とは、少しばかり違うようだった。


・・・実際のところは、よくわからないが。



とりあえず、わかっていることは、針仕事というのは、今の十和にとって重労働だということだ。


ひと針ごとの運針にエネルギーを吸い取られるようだった。


たまたま、家庭教師のヤン先生も来ず、ユーゴーも理由はわからなかったが来なかったので、やり遂げられたが、休み休みやっている最中でさえ、凛が心配をして大変だった。





・・・しっかし、ほんとうにうまくできた!!




意気揚々とヤン先生が、次に来るのを、待ちわびてしまった。


人形ができてから、ほどなくしてヤン先生が来てくれた。最初の頃のような病的な顔色の悪さは、なくなったが、子どものことが心配なのだろう、心労で具合が悪そうだった。



そうそうに切り上げ、ヤン先生が帰る間際に、日本の身代わり人形の話をしながら渡した。


「『“気は心”』という言葉、ニホン、あり。エド、だいじょうぶ。『願います』」


と間違って覚えていることわざを、言いながら、手を合わせ、目を瞑り、軽く頭をたれた。


ヤン先生は、人形を恐る恐る手に取ると、驚いた顔をして、人形を凝視した。



・・・しまった。マスコットとか、ストラップとか慣れないと人形なんか、気持ちが悪いと、思ってしまうか。


と、ほかの贈り物に変えようとすると、ヤン先生は急にその人形を押戴き、


「感謝申し上げます。御心遣い誠にありがとうございます。」

興奮を無理やり押し殺したような感じで、丁寧な物腰で、受け取った。



十和としては、ヤン先生の使った言葉は、正直に言うとわからない言葉であったが雰囲気で、そう言ったと解釈した。


そんな大したもじゃないのに、推測ではあるが、大層な感じで感謝され戸惑ってしまった。


が、自分の手を離れてしまえば、仕方ない。



・・・まぁ、とりあえずは良かったことにしよう。




これからは、うかつに日本の習慣を、持ち込まないようにしようと少し反省はした。


“処変われば品変わる”である。


キャラクターお守りがやたら氾濫している日本では、わりと気安く旅の土産に買って帰る。


たぶん、この国では、違うのだろうなと、察せられた。





後で、ユーゴーにそこらへんの事を聞いてみようと、心のメモに記した。


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