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7ユーゴーと呼ばれる男

ヤンさん達が帰った後、残ったリンゴ梨擬きを凛と一緒に食べた。


そのまま、昼寝の体制に入ったのだが、凜に包丁で、怪我をしたのがばれてしまった。


凛は、アタフタしていたと思ったら、どこからか、医者を呼んだようで、昼寝でうつらうつらしている間にそれらしき人が来て、怪我をした左手を治療していった。


内心オーバーな!と驚いたが、疲れていたのとせっかく凜が手配してくれたことを無駄にしては悪いと思い、おとなしく怪我をした手を任せた。


と言っても、十和はベッドの横になっていただけで、寸分たりとも動かなかったが。


御大層な手当てに、却ってここでは、少しの怪我でも菌でも入って、手が腐るとかなんとか大変な事にでもなるのかとおびえた十和だった。


昼寝で体力が少し戻ったのか起きて、普通に遅い夕食を摂っていると、男がやって来た。


なぜ来た!!


と思ったが、そういえば、十和の願いを受けて、家庭教師をつけてくれた事に礼を言おうと思っていたことを思い出し、愛想笑いを張り付けて、お礼を日本語で、神妙そうに言った。


返事は、ただ頷くだけだった。


尊大を絵に描いたような態度で受け流された。


何様だ!と思ったが、こういうヤツであったと、食事に専念することにした。


後から聞いた話だと、家庭教師の件でいちいちお礼を言われるとは思わなかったということである。


日本語なので、当然何を言っているのかわからない上に、自分としては、他のことに気を取られていたので、受け流したとのことだった。






男は、十和の座っているテーブルの向かい側に座り、どこにあったのか、凜に用意させたお酒を飲み始めた。


つまみも食べずに、お酒だけ飲んでいたので、自分の食べているおかずを男の方に寄せ、凜にフォークを持ってくるように頼んだ。


男は、少し驚いた後、凜に渡されたフォークで黙って皿のものをつつきながら、酒を飲んでいった。


同じ皿のものをつつくなんて、抵抗があるかと思ったら、そうでもないみたいだった。


十和は、男が何に驚いていたのだろうと思ったが、さらっと忘れた。凜が用意してくれた夕食を何とか食べ終わり、一服していると、男が急に立ち上がった。


(帰るのか。)

こんなこともあるんだなぁと呑気に十和が考えていると、彼女の方に男がテーブルを回ってきた。







完全に油断していた。


ひょいっと座っている椅子からお姫様抱っこだ。そのままベッドに横たえられてしまった。


「えっ!ちょっ・・・待って!今、ご飯食べたばっかりだから・・・」


言いながら男を押し返そうとしたが、唇を寄せてきて、言いかけた言葉をふさがれてしまう。


その後は、なし崩し的な展開になってしまった。






十和が目覚めると、昼過ぎだった。


変わり映えなく、凜に世話をしてもらったが・・・・・・







十和の今朝の目覚めの一言は、思わず言ってしまった、


「今日も疲れた・・・」


である。何も今日はしてないどころか、起き抜けの一言にである。


どう考えても、おかしいだろうと思う十和だった。


決して、寝過ごしているわけではないのだ!


怠け者なのではないのである!


ここに、来た時に比べ体力はついてきた。


午前中は朝の散歩を兼ね、庭を散策し、小鳥さんと戯れたりもしている。


それに、ここに来た当初は、天候もすぐれず、・・・・というか、どんよりとした曇り空で、大気も重く、臭いというほどではないが、息をするのに少しためらいたくなるような空気だったのが、最近、良くなってきたような気がするのである。


天気は、快晴の時は青空がくっきり、さわやかな風が吹き、雨が降っている時さえ、過ごしやすい気持ちの良い天候続きだ。


というのに、なぜに昼過ぎまで家の中で、寝ていなければならないのか。


元々、山に、川に、海に、っていうタイプではなかったが、それでも、“毎日家の中にいるのは不健康になりそうな気がする”という性格なのだ。


大学での専攻も、地学・生物系の野外活動中心なのだ。誰かに物申したい!


誰かとはヤツだがっ!!!!言葉は通じないがっ!!!!



今日の疲れの原因はヤツなのだ。


夜が明けるか開けないかの暗いうちに、男が起き出したところまでは、たぶんいつもと同じだろうと思う。


が、その後、なんと!!


ぐっすり気持ちよく寝入っている十和まで揺さ振りお越したのだ。



そして、男は自分を指示しながら、

「ユーゴゥランドボー@4#k;:・・・ディ:lpk」

と、何度もしつこく言ってきた。


十和が何とか聞き取れた、“ユーゴー”を


「ユーゴー」「ユーゴー」


と眠気に負けながら何度も繰り返すと、不本意そうであったが、一応納得がいったのか、おとなしく部屋から出て行った。


その後十和が、2度寝してしまい、午後の目覚めに至るのである。


その日の夕食を食べながら、ユーゴーなんちゃらが男の名だったのに遅ればせながら気が付き、何となく笑ってしまったのは秘密だ。


あの気難しい男に気づかれたら、さらに眉間にしわが寄ると思うと、なんだか不思議と笑えた。










この3日後、衝撃の事実が発覚した。









十和に“ユーゴー”と呼ばれるようになった、あの男。




この国の王様だったのである。






・・・まぁ。それがわかっても、何かが変わることはないのだが。


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