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5あなたの名まえは


少女の寝顔を覗き込むと涙まみれになっていたが、存外安心しきったような優しい寝顔であった。


人生といえるほどではないまだほんのわずかな生きた中で、辛さにゆがんでも仕方がない経験を送り、それが顔の相に出ても不思議でないのにその心の強さに感心した。

汚れた顔を、十和の着ている寝巻きの袖で拭いてやり、少女を四苦八苦してなんとかベッドの上に引きずり載せる。・・・十和の体力は0になった。


息切れをしながら、少女の頭を抱きしめたまま記憶が無くなった。


気を失う前に見た少女の顔は、思っていたよりも幼く、13,4歳ではないかと驚いたが、後でわかったことだが、実際には、さらに幼く11歳であったのには、驚きよりも、そんな小さい子に世話をされている私ってと申し訳なかったり、気恥ずかしかったりいろいろ脳内会議が大変だったのはさらに、後からのことだ。



そして、目が覚めたときも、いつものように部屋に少女が侍っていた。


ただ今までとは違い、やる気に満ち溢れている様子が前面に出ていた。


十和の希望を瞬時に読み取り、かなえようと待ち構えていた。

目力も強く生気に満ちていた。・・・どうしたんだ、どこでやる気のスイッチが入ったんだろう。と考えながら、いつものように

「おはよう」

と声を掛けると、いつもだったら目を伏せ、無表情にお辞儀をするだけだったのに、今日は回らない舌でたどたどしく返してきた。

全くわからない言葉だったが、一生懸命さが伝わってきてかわいらしい。


朝からすごくさわやかだ。


・・・・って回らない舌?ふぁい?わぁっと?・・・意味がわからない。


驚いて、少女を2度見で凝視してしまった。


前で組まれている両手の指がすべてそろっている。・・・・・・不思議がいっぱいだ。



ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・とりあえず早急に言葉を覚える必要があるな。


男が来たときにどうにか言葉を教えてほしいと頼むことを一番の必須条項に入れておいた。


それでも少女の手の空いている時に、何とかボディランゲージを使って意思疎通をしたら、またまた驚くべき事実が発覚した。


なんと少女には名前が無いのだ。


通じ合わなかったのかもしれないが“指の無い子”とか“舌の無い子”とか呼ばれていたらしい。

名がないなど信じられなかったが、異世界だし何らかの事情があるのかと無理に納得した。


それじゃ呼びにくいから名前をつけて良いかと、得意になってきたボディランゲージを駆使して尋ねると、よさそうな雰囲気で相槌を打っていることから


「あなたの名前は、りん


と勝手に名前をつけてしまった。


その瞬間、周囲が少し光ったような気がして、瞬きをすると、目の前の少女は胸を押さえ、目をぱちくりさせた後顔を上気させた。

その上、もともと痩せてはいたが、愛らしい顔つきの少女がさらに美少女度があがったように見えた。


気のせいかどうかはわからない。


と急に少女改め凛が、ベッドの足元に跪き、興奮した真っ赤な顔で十和に祈りをささげるようなしぐさをした。


呆気にとられ、どうしたのかと凛に聞いても言っていることがさっぱりわからない。

呂律うんぬんより、ここの言葉がわからない。


お手上げである。


十和はとりあえずそのまま横になって寝ることにした。本当にちょっと話をしただけで気を失いそうになるほど疲れるってどういうこと思いながら。



その晩、来なくて良いのに男がやって来た。



夕方遅く起きて食事を取った後、ゆったりしている時であった。

そんなときに来るのは珍しかった。しかし、頼み事をするにはちょうど良いと男に言葉を教えて欲しいとジェスチャーという得意中の得意に成りえてきたボディランゲージを使って、お願いをした。


しかし、少女と違い、無表情の鉄火面はわずかの緩みもなく理解してくれたかどうか怪しかった。


ちょっとばかりボディランゲージに自信がなくなったが、次の日の昼過ぎ一人の老人が現れた。


ちょうど遅めの食事が終わったのを見計らったようにノックの音が響いた。

日本の夏のように蒸し暑いわけではなかったが、十和の身体にはいささか堪えるほど蒸し暑く風を入れるため、家の扉という扉は大概開け放されていた。

そのため十和の居室でも十分ノックの音が聞こえてきた。ここに来てから、初めてのノックの音だ。

お茶を入れていた凛は不審そうに、玄関のほうに顔を向けると、十和に何事か言いおき扉を閉めて廊下に出て行った。


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