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4少女


そんな中、侍女が全く口を利かないのには、半端でないストレスを感じている今日この頃である。


やってもらいたいことや十和がやろうとしていることに、気を利かせて目敏く気が付き、すばやくやってくれるのはいいが、終始無言でやられるとこれ如何に、である。


かといって厭々やっているわけではないのは目の表情を見ていればわかる。

最初は、十和もほとんど表情など読めなかったが、だんだんわかってきた。

当然だ、ほとんどベッドの中にいるため、見ているものはベッド周辺と少女だけだった。特に、少女には面倒を見てもらっているため常に気を使っているのだ。十和が。



日が経つにつれ、硬かった表情や立ち居振る舞いもだんだん穏やかにスムーズになってきたように見えた。

十和に対して献身的ともいえる様子を見せてくれる。・・・なぜ?・・・その態度が何処から来るのか得体が知れず不気味だが、とりあえず親切で優しさあふれる丁寧さですべてをやってくれるので、まったくもって文句なんかつけようがない。


つけたら罰が当たる。


やってもらえるうちは、思い切り甘えてしまおうと開き直った十和であった。とは言っても、無言はつらい。


名さえ知らされていない。

いつまでたっても少女という呼び名のままだ。男もそうだが。


というか言葉を教えてほしい。男に言おうと思うが、ほぼこちらの意思やや様子を無視してことに及んで来るのでとっても無理である。

ジェスチャーにも限界がある。つうかボディランゲージを別の意味でフルに使われている。ここまで深くなくていい!というほど親密になっているが意思疎通はまったくない。・・・お願い事など全然できない・・・。


それでも本当に薄皮をはぐようにではあるが、日毎に具合の悪さが軽減してきた。


時々、男に大打撃をくらうことはあるが・・・それさえなければ、普通に毎日健やかに過ごせるようになるのではないかと思っている。


まぁこれも希望がだいぶ入っているが。


そんなこんなで現状を改善すべく仕事をしている少女に話しかける。


ここはもう思いっきり日本語で、

「いつもお世話してくれてありがとうございます。ところで自己紹介がまだだったと思いますが、私、堺十和と言います。よろしくお願いします。」


言い切ってやった。


自己紹介だか何だか相手の様子も構わずぶちかます。と途中からこちらを振り返った少女が私の言っていることを、真剣に来てくれている感じがした。


つかみはオーケーである。

十和、十和と自分の胸を手のひらで叩いて自分の名前をアピールしてみた。少女の目の表情から理解してくれたようだった。


ヨシッと次に、

「あなたは?」

と少女の方に手のひらを上に向け促した。


少女の表情が変わらない。


ここで退くわけにはいかない。再び自分の胸をたたき十和と言い、少女の方に手のひらを差し出した。


ここの習慣やルールを考えるのは後だ。少女は少し困った顔をして、俯いてしまった。


何?何?・・・何かまずい事言ったの?


自分と話す事はまずいのか。それとも名前自体を聞くのがまずいのか。だからあの男も名前を聞いてこないし、名のらないのか。


ベッドの上で考え込んでいると、少女はベッドの傍に寄ってきて突然口を大きく開けた。


こちらがぎょっとしているのは考えの上か、自分の口を指さしながら呻いた。

あぁ~~だか、うぅ~~だか聞き取れない声で、申し訳なさそうな瞳で呻いた。



・・・・・・少女の口の中にあるべき舌がなかった


なぜか瞬間的に分かった。


少女が先天性の障碍者でなく、人から害された存在だと。

理解したその時、少女の苦痛や恐怖が押し寄せた。なんだか判らない冷たい空気の塊に包まれ、それが体の中に侵食してくるようだった。

何が何だかほんとに判らなかったが、少女の指と舌が切断された時のことが目の前に映画を見ているように浮かんだ。


少女のその頃の生活、少女が唯一守ろうとした弟らしき子供のこと、一瞬にして駆け巡った。


胸が張り裂けそうだった。


この一か月世話になったとはいえ、話もしない・・・ていうかできなかったのだが・・・少女に、なぜこんなに感情移入できるのか、不思議だったが。

この少女は十和にとって知らぬうちに庇護すべき存在になっていたのであろう。


少女がその時感じていた怖さや痛みに加えて、今、十和が感じている悔しさや憎しみ、それらで胸をかきむしるような感情が渦巻いた。

想像力豊かとかそんなことではない。ドキュメンタリーを一瞬に凝縮したように少女の幼い頃の様子がわかった。

しかし、どうしてか、なんていう疑問が起こる前に行動に移していた。


少女の指を失くした手をそっと取り、後で考えれば、そうしたのか自分の行動にとまどってしまったが、その手にそっと口づけた・・・私は日本人なのに。



あの男の過剰なスキンシップに毒されたのかもしれない。


でも後悔はない。


少女は手を取られたとき、体をこわばらせた。たぶん本能のようなものだと思う。

傷つけられたところに触れられ、警戒したのだと思う。


さらに失くした指に近くに口づけ硬直された。

それをいいことにそのまま少女を少し引っ張り、屈んできたところを抱きしめた。


なぜそんなことしたのか、後になっても、さっぱり判らなかったが、そっと少女の背をさすり続けた。しばらくすると、少女の強張りはとけ、身じろぎをし始めた。

放してほしいのかと手の力を緩めると、十和の薄い胸にさらに顔を押し付けられ、少女の啜り泣きの声が聞こえ始めた。

十和も胸がいっぱいになり、思わずもらい泣きをしてしまい、さらに少女を深く抱きしめ直した。


少女が泣き疲れ、寝付くまで背中を柔らかく擦り続けた。


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