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ダブリュード  作者: マオ
3/22

1・最高だったり、最悪だったり・2

 長い金髪、碧眼、十代半ばの小柄、かなりの美形で少女のような顔、魔法の軽鎧姿……までは聞いていたオウマの特徴と一致するが、腰のところに下げている剣はおもちゃにしか見えない。

 いかにも女の子が好みそうな柔らかなクリーム色の剣。オウマが持っていたのは青っぽい色の柄と鞘だったと聞いている。オウマが持っているのは長剣らしいし、リィリーが持っているのは小剣だ。

 そもそも、オウマは男で、リィリーはどう見ても女の子。

「ごめん、人違いだった……」

 しょんぼりとして言うサレイ。やっと念願のライバル(片思い)に会えたと思ったら、女の子で別人だったのだ。意気揚々と勝負を申し込んだ自分がバカみたいである。

「いえ、かまいませんけど」

 リィリーはちょっと首をかしげてそう答えた。

「わたし、そんなに似ているんですか?」

「え、ああ……俺も会ったことはないんだけど、特徴は聞いてきたから……うん。よく似てるんじゃないかな」

 なにせ聞いてきた特徴で、この少女と一致していないものと言えば、剣の種類と性別くらいだ。

「君と似た人をここに来るまでに見かけたりしてないかな?」

 サレイに聞かれ、リィリーは首を振る。見ていません、と。

「そっかぁ……じゃあ違う道を行ったのかな……あそこで立て札壊れてたのがなぁ……」

 再びガックリと肩を落とすサレイだ。オウマの名前を聞いてから、ずっと手合わせしてみたいと思っているのに、どうにも機会に恵まれない。真剣に自分の運を嘆きたくなった。

 ガックリとしている彼の前で、リィリーが石から降りて立ち上がった。口の中のアメが溶けたのだ。休憩は終わり。

「残念でしたね。まぁ、気を落とさないで捜したらどうですか? いつか出会えるかもしれませんよ」

 一応慰めの言葉をかけて、リィリーはサレイから離れて歩き出そうとした。

「ん? ちょっと待って。君、一人かい?」

 サレイは少女の周りに大人の姿が見えないことに気がついた。保護者もなしで一人でいるのか。

 リィリーはちょっとサレイから距離をとって警戒しながら答える。

「何でそんなこと訊くんですか」

「え? あ、ああ!」

 不審人物だと思われていると気がついて、サレイはあわてた。

「いや! まだ子供なのに保護者もなしでどうしたのかと思って! この辺は危ないよ、ゴブリンが出るって言うし」

 ふんじばった盗賊を連行した町で怪物の話を聞いていたので、こんな華奢な女の子一人では危ない、と思っただけなのだ。

「そうですか」

 リィリーは疑いのまなざし。ゴブリンならさっき彼女が軽々と撃退した。あれが十匹でも二十匹でも、百を超えようが彼女にはたいしたことではない。

 が、サレイはそれを知らない。ただただ、親切心から危険だよと訴える。リィリーはじぃっとサレイを見つめた。綺麗な女の子の綺麗な碧い瞳に見つめられて、サレイはちょっとドキドキする。目の前の少女は掛け値なしの美少女だ。

「な、なにかな?」

「……ヘンシツシャですか? 変な人には気をつけろって、家族から言われているので」

 言われた言葉にのけぞるサレイだ。彼女の目は真剣である。

「いやいやいや! 違うって!! 俺はただ――」

「だってさっき、胸見てましたよね」

 性別を確認するために下げた視線のことを言っている。確かに胸元を見はしたが、下心から来るものではない、とサレイはあわてた。

「いや、だって、君のことオウマだと思っていたから!! 女の子だって確認しただけで!! ほんとにへんなこと考えてたわけじゃないんだ!!」

「……そうですか。疑って失礼しました」

 一応納得したらしい。スイマセンと頭を下げてリィリーは身を翻した。

「それじゃ」

「え、あ、ちょっと待って」

 歩き出す彼女を、サレイは追いかけた。やはりこんな少女を一人で、ゴブリンが出るような場所を歩かせるのは気が進まない。

「せめてどこか街につくまで一緒にいさせてくれないかな。女の子一人を怪物が出るようなとこ歩かせたくないんだよ。心配だし……」

 リィリーは彼の申し出に困惑しているようだ。たった今会ったばかりの青年に、同行を申し込まれて、戸惑わないほうがおかしい。彼女の反応は至極まっとうなものだ。

 サレイの心配もかなりのお人よしだ。素性が分からない少女を心配する心は立派だが、彼女が実は悪党だったらどうするつもりなのだろう。

「……えぇと、わたし、一人でも大丈夫ですけど」

「俺が心配なんだよ。まだ子供じゃないか」

「……」

 子供と言われて気分を損ねたのか、リィリーは少しだけ不満そうに唇を尖らせた。

 またそれが可愛らしい。サレイは眉を寄せて困った表情になった。こんなに可愛い女の子を、やはり一人で歩かせるのは心配だ。

「どこか街まででいいからさ」

 人気の多い街ならとりあえず怪物の心配はしなくて済む。

「……そこまで言うなら……」

 しぶしぶ彼女は頷いた。サレイが本心から心配しているのが伝わったのだろう。

 ホッと胸をなでおろし、サレイは改めて自己紹介した。

「さっきも言ったけど、改めて、俺はサレイ、サレイ・タッグス。君は?」

「わたしは、リィリーです」

 リィリーは家名を名乗らなかった。名乗れない事情があるのか、それともまだそこまでは信用されていないのか。とりあえず名前は教えてくれたので、どちらでもかまわない。

「よろしく、リィリーちゃん」

「はい。サレイさん。でもできれば『ちゃん』は止めてください」

 子ども扱いがイヤらしい。この年頃にはありがちだ。

「じゃあ、リィリーさん」

「はい」

 リィリーはやっと笑ってくれた。輝くようなその笑顔に、サレイも自然と笑みになる。

 可愛い子だ。立ち居振る舞いも優雅で、育ちがよさそうである。きっと何不自由ない家庭に育ったのだろう。そんな子が、どうして一人旅などしているのか。

 なにやらいろいろ事情があるのかもしれない。

 勝手にそう考えて、サレイは心に誓う。街に着くまで彼女は自分が護る、護ってみせる、と。

 彼女の前に立って元気良く歩き始める。

 リィリーは力んでいる青年の背を眺めて、口元だけを笑わせた。

 なにやら意味深な笑みに、サレイが気付くことはなかったけれど。


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