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ダブリュード  作者: マオ
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4・納得いかずに大暴れ・2

 サレイの目の前、ここにいたのは確かにオウマ、少年だったはず。

 腹痛を起こしたらしい少年が、確かにうつむいていて、それがどうして振り向いたら。

「り、リィリー、さん?」

 口から出た名前に、サレイは自分で信じられない思いを感じている。

 まさか、そんなわけが。

 小憎たらしい少年が消えて、どうして可愛らしい少女が目の前にいるのだろう?

「お、オウマは?」

 いまさっきまでここにいたサレイのライバル(一方的)は、どこへ消えたのだろう?

「ここにいるだろ」

 ぶっきらぼうに言い放ったのは、間違いなく目の前の少女で。

 目を点にしたサレイに、彼女は不機嫌に言い放つ。

「おれはオウマで、リィリーだ」

 口調はオウマのまま、声は少女のもの。

 サレイは固まった。

 そのままサラサラと崩れていく。それを認めてオウマ――リィリーはちょっとすっきりした。

 いいだけサレイがリィリー、リィリーと騒ぐたびに鳥肌が立ってぞわぞわしたのは、オウマとリィリーが二人の人間ではなく、一人だったからである。

 彼と彼女は同一人物なのだ。

「あ、う」

 サレイが呻いた。往生際悪く、リィリーに問いかける。

「なんかの呪い?」

「いいや」

「……に、二重人格?」

「なわけあるか」

「…………双子」

「ち・が・う」

 一旦ばれたのならもう隠す気もないリィリー/オウマだ。あっけなくサレイの望みを打ち砕く。

「これは生まれつきの特殊体質で、アレは猫かぶってただけだ」

 きっぱり。天使のような笑顔でにっこりしながら、悪魔のように言い切る。

「ああすると馬鹿な男がメシおごってくれたりするからな」

 びしびしびし。サレイにヒビが入った。まさに言葉の通り、鼻の下を伸ばして彼女にご飯をおごった男である。反論も出来ない。

 壊れかけたサレイを放って、リィリーは腰の剣に手をやった。物々しい剣は、可憐な少女が持つには少々迫力がありすぎる。いつもは性別変化を終えたらもうひとつの剣と交換するのだが。


 ズン。


 足音が近い。アレを相手にするのはもう一本の剣ではちょっと面倒だ。彼女には魔法もあるが、あの石像を壊すくらいの魔法となると、詠唱にそれなりに時間が要る。

 ちらりとサレイを見る。盾になりそうな男は、精神ダメージで壊れかけていた。使えねえ男と思いながらも、リィリーは満足している。

 これで付きまとわれることはなくなりそうだ。女性の身体に変化したことで神様とやらが納得して追撃を止めてくれるかもしれないが、サレイと結婚など冗談でもイヤである。

 やはり、対決するしかないだろう。

 力ずくででもカップルではないと納得させてやる。

 決断してリィリーは路地裏を走り出た。ここで戦うには狭すぎる。サレイを巻き込んで吹き飛ばすのはなんらためらいはないが、無関係な街の建物を破壊して弁償問題になるのはカンベンだった。

 この街で一番広い場所。行けば自然と人は逃げるだろうから、他人の心配は必要ないだろう。

 走る彼女の後ろを、復活したサレイが泣きながらついてきた。

「なんでだよぉぉおおおおっ!?」

 うっとおしい。

 男としての気持ちはやるせなくてたまらないだろうが、リィリーには知ったことではない。勝手に浮かれていたサレイが悪い。別に恋人として付き合い始めていたわけでもないし、仲間だったわけでもない。

 偶然会って、オウマと勝負すると鼻息が荒い男の相手をするのが面倒だったので、リィリーのまま通し、ネコをかぶっていたらサレイのほうからおごってあげると言い出したので、ありがたく好意を受け取った『だけ』である。

 知り合いのいないこの街の祭りを楽しむために誘ったのは嘘ではなく、何か買ってあげるよと言い出したのはこれまたサレイで、リィリーは買って、などとはひとことも言っていない。

 寸前に、ちゃんと、いいんですか? と確認もしている。その上でサレイは鼻の下を伸ばしていいよと浮かれていたのだから。

 お菓子を買いにいったサレイと別れている間にかなりの男にナンパされ、うっとしくなってわざとナンパされたことを匂わせて、サレイをナンパよけに使ったのは計画的だったが。

 美少女なんだから、男を利用して自分の身を守りなさいというのが、母の教えだ。

 もし危なくなったら、容赦なく相手を(ほふ)りなさいというのが、姉の教えだ。

 美少年だから変態には気をつけるんだぞ、世の中にはいろんな人がいる、危険だと思ったら股間を蹴り上げろというのが、父の教えで、一人二人ヤったときには魔法で痕跡を跡形も無く消すんだぞというのが、兄の教えだったりする。

 彼/彼女の性格形成は、ご家族のいろんな努力の賜物たまものか。

 そんなイイ性格のオウマ/リィリーはサレイを思い切り無視して軽やかに走っている。

 青年と少女が走るそのあとに、石像がズッシズッシ歩いていくのは、なんだかとても珍しい光景だ。

 見送る街の住人は、首をかしげている。

 リィリーはどう見ても少女で、サレイはどう見ても男である。それがどうして『あぶのーまる』になるのか、事情を知らない住民にはサッパリ分からない。

 見た感じ男だけどサレイが女なのか、見た感じ女だけどリィリーが男なのか。それとも二人揃ってどこかが変なのか。

 追いかけられる二人を見送る人はそろって首をかしげた。

 今年の祭りはいろいろと騒がしいようだねぇと、住民たちは言っただけ。

 ……見なかったことにするつもりらしい。神様の怒りに触れてなかったことにされるであろうカップルより、誕生した新婚さんたちを祝福しようと、街の人々はリィリーたちとは逆方向に去り――逃げたとも言う――新たなお仲間たちの誕生を祝った。


 それすなわち、現実逃避と、古人は言う。


日和見な街の住民です(笑)

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