木刀女と冴えない男
「おら、もう終わりか?物足りねーな」
「勘弁して下さい」
僕の目の前で繰り広げられているのは、夢だと思いたくなるほど恐ろしいものだ。僕の名前は佐藤一、勉強だけが取り柄で高校一年のなり立てだ。だが、僕の通う学校には、とても恐ろしい番長が存在するらしい。今日は体育館で、意味のないくだらない理事長の長い話を聞く為、皆移動していた矢先だ。直ぐ近くで、とても汚い言葉使いを発してる子がいた。声がすれば条件反射で、そっちを向いてしまうのが人間。
「はあ?そっちから喧嘩売ってきたんだろ!」
「すみませんでした。今後は姐さんが、番長っす」
「番長とか興味ねーよ。年上に姐さんなんて気持ちわりー」
「あっ、待って下さい姐さん」
うん。番長では無く、ヤクザの方が存在していたらしいです。これが、僕と彼女の出会いで二年後、僕が彼女の事を気になる日が来るとは夢にも思わない。
***
「佐藤君、悪いけどこれお願い!」
「わかった。いいよ、部活があるなら優先して」
「本当?ありがとう佐藤君、いつかお礼するね」
日誌を渡して来るクラスメートに、僕は笑顔で受け取る。本当は部活なんて嘘で、男漁りだって知っている。でも、僕は彼女達と関わりたくないので、嘘ついているのに騙された振りをしている。だって、僕の人生に彼女達は邪魔だから。
高校に入学して二年、僕は順調に三年生を迎え成績も学年で、十位以内をキープしていた。ちょっと、微妙な数字だが、争うほどの成績を残しては面倒。
「うわ、なんだこれ?途中まで書いてあるけど汚な過ぎ。読めない」
僕は消しゴムで、彼女が書いた汚く読めない字を綺麗に消していく。外見をいくら磨いても、こういう所が駄目だと女として無理だ。男の何処が駄目だの文句言う前に、自分の内面磨けと説教したくなるが実際したら、化粧の濃い顔が怖いだろう。女はいつも男を見下し値踏みしているのが、俺は気に入らない。俺も、こうして彼女達の悪口を思っているのだからお互い様か。
「お人好し過ぎだな」
「神楽さん、そんな所に乗っちゃ駄目だよ」
「別に誰もいねーだろ。細かすぎなんだよテメーは」
「はあ・・・女の子なんだから少しは言葉使い直しなよ」
面倒な子に掴まってしまった。僕と話しているのは、同じくクラスメートで更に僕の隣の席で、この高校の番長を務めてる神楽茜。物凄く乱暴で、言葉使いも女なのに汚い言葉を使って正直、僕はこの子が苦手どころか、大っ嫌いだ。机の上に乗って、僕の事を見下ろしてる姿が馬鹿にされているみたいで不愉快に感じる。
「今の世の中、男も女も関係ねーだろ」
「ごめん、訂正するよ。人として言葉使い直そうね」
「人に指図されたくねーよ。特にお前みたいな、冴えない男」
「冴えない男でごめんね。日誌を書くのに忙しいから、神楽さんは帰りなよ」
誰が冴えない男だ!当たってるけど、こんな子に言われたくない。制服も着ないで髪の毛がボサボサロング、顔もあまり見えないジャージ姿の何故かいつも木刀持って、乱暴な子に言われたくない。先生達も、なんで何も言わないのか不思議なぐらい、神楽さんを放置。今は良くても、将来困るのは君の方なんだ。
あんな乱暴で、言葉使いがちゃんと出来ない子など誰も雇ってくれないさ。僕は神楽さんの存在など無視して、日誌を書き進めた。
「おい」
神楽さんは、いつまでも僕のとこに居るつもりなのか執拗に話し掛けて来る。煩いなぁ、何で話し掛けて来るのかわからないけど、マジであっち行って欲しい。大好きな喧嘩でもしてればいいのに。
「おい、無視するな」
「神楽さん煩いよ。脅してるつもりかもしれないけど・・・」
一瞬、神楽さんの瞳が悲しそうに見えた。僕は言葉が途切れて、何となく神楽さんと居るのが気まずくなってしまう。
「煩くて悪かったな。此処、字が間違ってる以上」
「え?あっ、まっ・・・」
僕は何を言えばいいのかわからず、神楽さんの去っていく姿をみた。謝れば良かったのだろうかと思いながらも、いつも乱暴でいい加減なんだから勘違いされて当然なんだ。そう、僕は自分の心に言い訳した。
「本当に字が間違ってるし」
どうして、僕は神楽さんの事を心配してるのかわからなかった。こんなモヤモヤ感、理由がわからないけど、多分僕が普段話さない相手と話したから気になるだけだ。
「早く書いて本屋によって帰ろ」
独り教室の中、僕は独り事をいってさっさと書いて職員室に持って行く。途中、神楽さんが数人と喧嘩してるのを見てしまい、やっぱり心配は気の迷いなんだと再確認できた。
――――――――
僕は今現在、学校に忘れ物をした事に気付く。時刻は夜の七時を過ぎたところで、こんな時間に学校に忍び込むような真似は、僕としても悩む。だが、どうしても今日の学校で習ったところを復習するのに、必要な物で仕方ない。
「僕とした事が最悪だ」
両親は共働きで、父親は帰りがいつも遅く母親は看護師で今日は夜勤の為、遠慮なく外出出来た。両親とも、僕を信用しているのか大抵の事は、何をしてるかなんて気付いていない。だからと言って、悪さをしているわけでも無く、僕は塾に通ってる事になっているが、実際には通わず月謝代を自分の貯金へとしている。十分、悪い事なのかもしれないが高校卒業と同時に、独り暮らしをしたかった。
本当は塾など通わなくてもいいぐらい、頭は良い方だ。しかし、塾に通ってるふりをしている為、成績が落ちてはいけない。毎日の予習復習は、欠かせない状況だった。
「なんか、夜の学校って不気味だな」
季節も冬になって日が沈むのは早い。寒い上、明かり一つ無い学校が余計に不気味で男として情けなく感じる僕だった。普通に考えれば、忍び込んでも建物の中に入れないはずだが僕は先生の信頼の元、合鍵をこっそり作っていた。一回も使った事はなかったが、念の為に作っておいて良かったと思う。
僕は鞄から合鍵を出して、自分の教室に繋がる扉の場所まで行くと鍵を差し込む。
「あれ?可笑しいな、鍵間違えたか」
違う鍵を差し込んでしまったのか、開かない。ジャラジャラと何個か差し込んでみたが、開かないので不思議に思った。
「おい」
「うわっ!誰?」
急に後ろから声が聞こえ、僕は大きな声を出してその場で固まってしまう。ククッと声がして、ビクビクしながら振り向いてみると神楽さんが居た。
「神楽さん!何で君が此処にいるの」
「こっちのセリフだ。優等生のふりしてお前だったんか犯人は」
「犯人って・・・これには訳があって」
「問答無用だ。お前には、然るべき処分を下されるだろうな」
「神楽さん黙ってて、僕はただ忘れ物をした時の為に合鍵作っただけで」
何故か神楽さんに土下座をしている僕。そもそも、忍び込んだのは僕が悪いが神楽さんだって同類だ。何で僕だけ責められなきゃいけないんだ。
「君は言い訳が酷い。こっちは、君みたいのがいるから祖父に頼まれ学校に住んでいるんだぞ」
「学校に住んでるって・・・」
「学校に忍び込んで、テスト問題をコピーしてる奴等がいる」
「つまり僕は・・・」
「ああ、その犯人の一味だ」
何て事だ。僕は知らずに学校に忍び込んだ上に、合鍵を作っていたせいで勘違いされてしまった。冗談じゃない、僕はそんな馬鹿げた事をするわけがない。
「神楽さん、勘違いしてる。僕は本当に、忘れ物を」
「忘れ物を取りに、わざわざ合鍵まで用意とは用意周到だな」
「だから、合鍵作った事は悪いけど僕はテスト問題とかコピーしていない」
「誰もが言い訳をする。魔が差したんだろ?」
何で僕は神楽さんに謝り、疑われこんな目に合ってるんだ。このままでは僕の人生が台無し、折角の推薦枠が取り消されるうえ、自分は犯罪者扱いなど冗談じゃない。神楽さんが、何で学校に住んで犯人捜しをしてるかはわからないが、とにかく僕が犯人じゃない事を証明しなければいけない。
「お前の人生を滅茶苦茶にする気はないが、これは悪い事だ」
「神楽さん聞いて、僕は本当に合鍵は作ってもテスト問題なんて盗んでコピーしてない」
「皆、苦しい言い訳をするものだ」
「本当にやっていない!なんなら、僕もその犯人捜し手伝う」
マジで最悪だ、合鍵を持って学校に忍び込んだせいで疑われるなんて。こうなれば、一緒に犯人捜しを手伝って疑いを晴らすしかない。そう思って神楽さんに手伝うと提案してみたが、大して気にする事もなく神楽さんは僕を見ていた。
「な、何?」
「自ら、仲間を裏切り差し出すとは恐ろしい奴だな。少しは仲間庇ってやれよ」
あくまで、僕は犯人扱い。自業自得でしょうがないが、神楽さんに言われるとムカつく。何で、こんなに疑われなきゃいけないんだ。あと数ヵ月で、高校生活も終わりだっていうのにこんな事で台無しにしてたまるか。
「今は疑ってればいいよ。でも、僕は犯人じゃないし疑いが晴れたら謝ってもらうからね」
「そうなる事を祈るが、合鍵を作った罰はあるからな」
「うぅっ」
確かに、これに関しては何もいえない。だが、神楽さんに何か関係あるのかな?神楽さんだって、学校に住んでるって・・・ちょっと待って、何で学校に住んでいるの祖父って何?
僕みたいのが居るからっていってたけど、不愉快な話濡れ衣だがそういう人間が居るのは本当だとして、神楽さんんが何で、祖父に頼まれて学校に住むわけ可笑しいじゃん。学校も許すわけないのに、何かが可笑しい。
「一つ聞いて良いかな」
「言い訳以外な」
「・・・少しだけ僕の事犯人扱いしないでくれる?逃げも隠れもしないから」
深い溜息を吐いて、神楽さんは『何?』と僕の話を聞いてくれた。僕は学校に住んでいる理由や、神楽さんの祖父が何なのか、色々まとめは出来なかったが聞いた。
「そんなの曽祖父が、この学校の設立者で祖父が理事長だから」
はぁっ?今、なんていった。曽祖父が設立者で、祖父がこの学校の理事長?あの無駄に話が長くて意味があるのか無いのか、わからない話をしているのが神楽さんのお祖父さん。
絶対ありえない、似ても似つかないほど理事長は笑顔で優しそうな顔をして神楽さんは、正直いつも仏頂面してる。そんなのが祖父と孫の関係って・・・話が本当だったら、今までの神楽さんの行動が全部納得いく。
だって、理事長の孫なんだから黙ってるのが当たり前。何しようと、この学校の一番の権力者である理事長に孫の悪口や、文句は言わないだろう。だから神楽さんは、普通に授業出なくても進級出来ていたんだ。校内で暴力行為しても、何も処罰はされず普通に過ごせた。そして今、僕に対してこれほどの発言をするのが納得する。
「世の中不公平だ」
「何が不公平だ。自分のした事に逆ギレするな」
「ふぅ、マジで最悪。最悪ったら、さいあくっー」
僕は我慢が出来なくて、叫んだ。最悪と何度も叫んで、神楽さんが冷たい目をしているのがわかっていたが、叫ばずにはいられない。神楽さんへの理由も分からない敗北感いや、理由はわかっている。彼女は、何をしても将来安定した職業になれるし多分、何もしなくても自由気ままに人生を過ごせるのだろう。
僕が親に嘘を言ってまで貯めてるお金など微塵も感じない、そんな暮らしをしてると思ったら悔しくて仕方ない。
「頭大丈夫か」
「至って正常だよ」
「そうか・・・なら話は戻すが、犯人ではないと言うのなら具体的にどうやって証明する」
「さっきも言ったけど、一緒に犯人捜しするよ。それが一番手っ取り早い」
「犯人捜しする口実に、仲間に情報流そうなんてしてみろ人生終わりにしてやる」
疑い深いにも程がある。僕ならこんなに疑わないはず・・・いや疑うか、合鍵作って侵入しようとして、更にテスト書類をコピーしてる奴がいれば疑われるのは当たり前。しかし、本人じゃなければそう言えたが実際に疑われれば、たまったもんじゃないな。
「とにかく、濡れ衣着せられるのはごめんだから。犯人捜しは絶対手伝う」
「なら、お前も学校に住め」
「はあ?言ってる意味分かってる神楽さん」
「無論」
何を言いだすんだこの子。一緒に学校に住めなんて、流石に出来ないし無理な話だ。いくらなんでも犯人探しの為とは言っても、そんな事出来るはずがない。
「なんだ?犯人じゃないなら、そのくらいの覚悟で挑め」
「挑めって・・・神楽さん、僕は君と違って立場上学校には住めないよ」
「私が許可する。祖父にも伝えてやる」
「そうじゃなくって!親に犯人扱いされて、犯人探しします学校に住みます言えるわけないだろ」
常識を考えろ僕の親にそんな事言えるわけがない。神楽さんは、普通に考える事が出来ないのだろうか・・・神楽さんに世間一般を一緒にしては駄目な気がする。とにかく自分の無実証明をするのに、学校など住めるわけがない。
「なら学校の強化合宿で皆、泊まり込みとでも言えばいい」
「馬鹿な事いうなよ。そんな事誰が信じるの?」
「受験組だけの強化合宿とでもいっとけ」
挑めとか決闘じゃないんだから。こんな時期に受験組の強化合宿って馬鹿じゃないの、ばっかじゃないの。頭の脳ミソ筋肉で出来てるわけ?そんな単純な事じゃないだろ、親がいきなり言われて納得するわけがない。流石に僕の親だって、そんな事信じないさ。
「ごちゃごちゃうるせーな。だったら、理事長直々にお前の親に言ってやるよ」
「自分が言うみたいな事言わないで」
「だったら、お前が犯人だ。それで解決はい、お終い」
「ちょ、待てよ」
神楽さんは僕の手から使えなくなった合鍵を持って、何処かに行ってしまった。僕は暫くぼーっとしてしまったが、やっと今の状況がやばいと理解した。これでは僕だけが犯人にされて、お先真っ暗な人生を送るではないか。冗談では無い、こんなんで僕が濡れ衣着せられ輝かしい人生を台無しなど他の誰かが許しても、僕が許さない。
***
「神楽さーん」
僕は神楽さんを探した。入れる場所だけしか確認していないが、確かに神楽さんは学校に住んでると言った。きっと今も、校内の何処かにいるはずだ。だが、鍵が必要な場所に入られては探すに、探せない。
ふらふら探していれば、灯りが見えるので近付いた。もしかして神楽さんだろうか?誰かわからない事から、僕は酷く緊張してそっと足音を立てない様に唾を飲み込む。まるで泥棒の気分だ、そっと窓から中を覗くと神楽さんがいた。そう、居た・・・居たのだが僕は思わず言葉に出来ない声を出して、音を出してしまった。
「誰だ!」
「ごっ、ごめん。僕だよ佐藤、これはわざとじゃなくて」
「お前まだ居たのか?」
「だって、犯人扱いなんて嫌だから・・・」
僕は本当の事を言いながらも、神楽さんの着替えを見た事が頭から離れず、今は神楽さんが気になってしまう。僕は決して変態では無い、あんなに綺麗な肌してるのに喧嘩してる事によって、少しだけ痣が出来ていた。なんとなく勿体無い気がしてしまうのは、何故だろう。
「お前はいつまで居るつもりだ」
「えっと・・・犯人が見つかるまで?」
「さっき、学校に住めないと言っただろう」
そうなんだけど、なんだけど・・・犯人扱いも嫌だ。それに、心臓が速く動いてるのは何だ?まさか神楽さんの着替え見て、本当に興奮してる変態なのか!?
どうして僕はジャージではなく、白い綺麗な肌と神楽さんのイメージから晴れて澄み切った空色。そんなワンピースが似合うと思ってしまう。
「とりあえず、中に入れ」
「えっと何処から入ればいいのかな」
「窓から入ればいいだろ」
「・・・おじゃま、します」
そうだよな神楽さんの性格って僕、血迷った事考えてなかったか?ちょっとだけ、神楽さんが可愛い女の子に見えたなんて、目の錯覚だ。普通には入らせてくれそうにないから、ちょっと高めの窓をよじ登って中に入る。
「神楽さん、此処ってなんかの部室?」
「自分の部屋」
「へー、神楽さんの部屋なんだ。意外に綺麗にし、て」
神楽さんの部屋って事は、僕は初めて女の子の部屋に入ったのか。いや此処は学校だし、実際の神楽さんの部屋ではないはず。いやいや、そんな事では無くて、何で僕動揺してるんだ。
「か、神楽さんはお祖父さんに言われて住んでるらしいけど両親は?」
「何だ急に、親は健康で好き放題やってるよ」
「そ、そう。やっぱり両親も教師とか学校関係なの?」
「両親は、ふらふら旅をしてあちこち何処かでその場限りの仕事をして生きている」
「それはつまり、無職って事?」
お祖父さんが理事長で、学校の経営者なら子供や孫は裕福だろうが働かなきゃ駄目だろ。神楽さんがこんな性格って、ご両親譲りなのかな。
「いや、職業は一応ある。女優と俳優」
「じょゆう、はいゆう・・・何かの冗談かな」
「一々お前は何なんだ、両親は女優と俳優。轟雅と神楽宗近」
いやいやいや、確かにその名前の女優と俳優はいる。だけど二人とも年齢は非公開だが、若いし結婚してるなんて情報ないぞ。俳優の方は神楽さんと同じ名字だけど、それってただの偶然だろ。
「信じる信じないは自由だが、真実だ」
「仮に真実として、どうしてそんな有名な人達が旅とかしてるのさ」
「自由人だから」
「でも、この間も映画とか出演してたし。普通に有名人ならばれるじゃん」
「仕事の合間で、ふらふらしてる演技は得意な人達だろ。いつも名演技だと自慢しているぞ」
彼女の親は一体何考えてるのさ、当たり前に演技は得意だろうね。神楽さんは事務所が、いつも探すのに苦労してると笑ってる。ボサボサロングだから笑ってる顔は見えないけど、声が笑っていた。でも、僕等は十八才やっぱり年齢的に神楽さんの両親が、あの二人は変だ。
「ほら」
疑う僕に何かの写真を見せてくれた。そこに写っていたのは、神楽さんと思われる小さな女の子に、轟雅と神楽宗近の三人。十年は経ってるはずなのに、二人は全く変わらない姿で写っているので、最近のものでは無いかと裏を見た。そこには茜三才おめでとうと書かれ、日付があった。昔と思われる少し古びた写真、本当に神楽さんの両親なんだろうか。
「疑い深い奴」
「君に言われたくない」
ふっんと、顔をお互い横に向けて暫く黙っていると凄い音が鳴り始める。
「何この音」
「警報だ。どうやら犯人が侵入したぞ」
「犯人って嘘だろ」
「テスト問題盗みに来たか、何をしに来たかはわからないが誰かが侵入したのは確かだ」
マジで学校忍び込んだ奴らいるの?いるから警報が鳴ってるのか、でも今まで忍び込んで鳴らなかったのは不思議だな。独り事を無意識に言ってたらしく、神楽さんがセキュリティーを強化して校舎内に入った瞬間、警報が鳴るようにしたようだ。特殊な鍵にして、許可された人間にしか持たされない鍵にしたらしく警報が鳴るのは犯人しかいない。
僕は知らずに無理やり校舎内に忍び込んでいたら、最悪な事態になっていたのを想像して身震いがした。良かった、疑いはまだ晴れてなくても校舎内に忍び込まないで。
***
「神楽さん、この人達って」
「どうやら大人が犯人らしいな」
神楽さんが一足先に犯人を、木刀で退治していつの間にか縄で縛っていた。神業だなと、感心してしまうが僕達の前には、明らかに生徒では無い大人が数人いた。
「えーっと、誰ですか」
「・・・」
「えっとですね、無言だとこっちが困るんです」
「何言ったって無駄だ。こいつら、自分の子供の為に忍び込んだんだから」
まるで全てわかってるみたいな口調に僕は、神楽さんの方をみる。何でわかるの?と、顔に出ていたらしく説明をしてくれた。
「一年高橋誠、杉田浩太、二年前田咲、山崎静香、竹下祐の親だ」
「何でわかるのさ?」
「一度見た事がある。それに、こいつらの子供はテスト問題が盗まれるようになってから成績向上」
「それって・・・親がテスト問題盗んで子供に教えていたの!?」
大人達は自分の子供は、何も知らないと言っていたが犯人ですと名乗ってるようなものだ。だが、驚くべき事は神楽さんが最初から知っていた。
話によると、校内で子供達が親が盗んだテスト問題を話し合っていた事。それをいけない事と思わず、自分らの成績が上がってると喜んでる事を聞いていたみたいだ。だったら、何で僕が犯人じゃない事ぐらい分かっていたのに、あんな言い方するんだよ。
「私達は何も盗んでいないわ!学校に入ったからって、テスト問題盗んだなんて証拠でもあるの?」
一人の母親が自信満々に言う。確かに犯人であろうと、盗んでいる所を押さえなければ言い逃れされてしまう。他の親達も、そう思ったのか次から次へと証拠出せと逆ギレしてくる。ちょっと、神楽さん証拠無かったら逆に教育委員会に訴えられるよ。
「ほう、お前らそこまで馬鹿だったんだな。その子供も馬鹿というわけか」
「何ですって!咲ちゃんが馬鹿だといいたいの?」
「ああ親子揃って、馬鹿は馬鹿でも大バカだ」
神楽さんは大人達に、大バカと宣言している。何でそんなに自信満々なんだ、何か策でもあるのか神楽さんは、くすくす笑う。
「何が可笑しいの?あんた、人を馬鹿にするのもいい加減に」
「失敬では、そんなに望むなら証拠でも見せてやるよ」
神楽さんは何処かに行くと直ぐに戻って来た。バラバラと写真が大量に、大人達の前にばら撒かれる。その一枚を神楽さんは手に取って、一番煩く怒っていた前田咲という親に見せる。
「これは、あんたが一番初めに盗んだ時。それと、あんたの娘が問題用紙と答えを学校で見ていた時」
「なっ、なんで?防犯カメラは布で隠してセキュリティーも解除・・・」
「甘いな。理事長が誰だか知ってた?特殊犯罪者対策担当の元刑事だ」
おいおい、神楽さん一家は本当に何者だよ。特殊犯罪者対策担当って、そんなのあるのか?正直、今の状況について行けない。大人達もついて行けないのか、放心状態だった。
「遠距離からカメラで撮られていたの気付かなかった?」
「あ、あの・・・これには事情が」
「防犯カメラ何とかしたからって、顔隠さないのは駄目だろ」
「その、ごめんなさい。二度としませんから、魔が差したんです」
うわ、神楽さんが僕に言った言葉がそのまま言ってる。そして神楽さん怖いよ、僕犯人じゃないけど怖い。
「言い訳など聞きたくない」
「どうか、子供達には何も」
「親が盗んだ用紙と知って、成績が上がったと喜んでる馬鹿にか」
「何も知らなかったんです。子供達は本当に何も」
学校で問題用紙と答え見て、テストに全く同じの出ても変に思わないのが可笑しいだろ。言い訳にも程がある、親が親なら子供も似た様な感じなのか。
「わかった。この事に関して子供達は関与してない」
「神楽さん!」
「ただし、別件でお前らの子供には処罰が下されるだろうな」
「別件?うちの子供が何をしたっていうんだ」
反省してるのだろうか、今度は別の親が騒ぎ出した。
「テスト問題盗んだ件」
「はあ?だから、それは私達がやった事で」
「それはテスト週間の問題。お前らの子供がやったのは、小テストの問題」
どうやら子供の方は、親の盗んだ件に味を占め先生達が問題を作って保管してるのを知って、事前に調べ小テストも点数上げしていたようだ。流石に抜き打ちテストの場合は、点数が激減したようで先生達も不思議がっていたみたい。
「少し泳がせてやったら、親子揃って同じ事をする」
「そんなぁ」
「退学決定は間違いない」
「それだけは、それだけはお願い止めて」
「少しは反省していれば停学だけで済んだものの、盗む事を止めなかった」
その後は、知らない男達が大人達を連れて行き僕達は二人っきりになった。それにしても何で、初めからわかっていたのに止めさせなかった。そしたら、こんな大事にはならずにすんだのにさ、神楽さんとか理事長は意地悪な人だ。
「お前もう、犯人は捕まったんだから帰れ」
「そうだけど」
「なんだ、犯人じゃない事がわかったから謝れと言いたいのか」
初めはそうだったけど、今は何だか呆気に終わった事に落胆と淋しさが残る。あれだけ意気込んだのが、馬鹿馬鹿しいのもあるし、これで神楽さんと繋がりが無くなってしまった。ん?ちょっと待て、何で神楽さんとの繋がりが無くなったと、僕は落ち込むんだ。
「佐藤、ごめんなさい」
「え、何でそんなに素直に謝るの」
「間違っていたのに、素直に謝れないのは人間として良くないと教えられた」
「でも、全部知っていたのに何でわざとあんな言い方」
「面白そうだったから」
神楽さんはそのまま、何処かに行ってしまう。次の日、問題の親の子供達は自主退学になっていた。それから相変わらず、神楽さんは授業に出て来ないし、噂で喧嘩して退学になっただの色々聞いた。事情を知ってるからか、神楽さんが退学にならない事を安心している僕。そして、合鍵の件は何も言われる事もなく過ごした。あの日、素直に謝った神楽さんが頭から離れず、卒業式がやって来る。
「卒業生の皆さん、三年間高校生活を満喫出来ただろうか?無事に卒業が迎えられ、おめでとう」
理事長の話になり、ぐだぐだ長い話が四十分ぐらい続いた。入学式の時も長かったし、元刑事には見えない穏やかな人なんだけどな。そういえば、神楽さんは卒業式にも出て来ないのかな?いくら理事長の孫でも、本当大丈夫なのか。まさか、留年とかじゃないよな・・・。
「では、卒業生代表。神楽茜」
「はい」
あれ、神楽さんと同姓同名が同学年で居たっけ?
可哀そうだな三年間、同じ名前で苦労したに違いない。しかし、代表って事は学年で一位の成績とかだろうか、聞いた事ないんだけど。その子は、簡単に三年間の話をして直ぐに終わり、正直理事長の長い話でお尻が痛くて助かった。でも何となく、神楽さんに似ている気がするのは気のせいだろうか。こうして無事に、式は終わり先生との感動のお別れもなく、僕は真っ直ぐ家に帰ろうとした。
「あ」
「ん?佐藤か、お前少しは先生とか友達と最後の別れ惜しめよ」
「代表の子。何で君、僕の事知ってるのさ」
「お前、寝ぼけてるのか。私だ、神楽茜」
いや、さっき代表に選ばれていたから知ってる。それに神楽さんと同じ名前だから、忘れようがない。
「佐藤、まさか私がわからないのか?」
代表の子は、何だか神楽さんみたいな言葉使いだ。
「まったく、いくら何でも人の事を覚えてないとは酷い奴だな」
「君、神楽さんみたいな口調だよね。いや、君も神楽さんなんだけど神楽さんってのは・・・」
「寝言は寝てから言え、神楽は一人しかいない。合鍵黙っていてやった恩を忘れたか」
「合鍵って・・・まさか、本当にあの神楽さんなの!?」
よーく観察してみれば、態度の悪さ口の悪さ声からして神楽さんだ。いつものボサボサロングに、ジャージ姿でも木刀持っているわけでも無い。普通の、本当に普通の可愛い女の子だ。
「神楽さん、その恰好は」
「制服着て何が悪い。祖父が、自由に学校生活する代わりに卒業だけは着ろと約束してた」
「だって髪の毛だって前髪ないよ」
「無かったら怖いだろ。勝手に人をハゲにするな」
僕が言いたかったのは、前髪がボサボサの髪で顔を隠していたので、その前髪が綺麗に揃えられてる。だから前髪が無いと言ってしまった。
「神楽さん」
「なんだ」
「神楽さんって、本当は美人さんだったんだね」
「なっ!」
僕が言ったとは思えないセリフ。真っ赤になる神楽さんは、何だか可愛い。いつもの神楽さんじゃない事に、僕はなんとなく気分が良くて神楽さんの手を握って鼻歌まで歌ってしまう。黙って僕の手を握り返してくれて、一緒に歩いてくれる神楽さん。まだ、この気持ちは何なのかわからないけど、近い将来わかるといいな。今は、この時間を楽しもう。
今回、初の高校生を書き短編では長い作品です。またまた、分けようかと思いましたが止めました。そして恋愛要素ほぼ0%です。今回一人称なんですが、何故か私の書く一人称は男の人ばっかり。一人称は、男の方が楽な気がしてしまう。