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満月の夜に  作者: ルイン
第一章
3/6

現実と夢

注意:ある地名が出てきますが、存在しません。それを踏まえた上でご覧ください。



「・・・あれ?」


 チュンチュンとスズメの鳴く声で目が覚めた。ガバッと起き上がると、そこはいつも通りの部屋が広がっている。あの神秘的な青白い光も、あの大きな満月もよく怒る男の子もいなかった。



 ・・・夢?それにしてもリアルだったなあ。


 リカはぼんやりと思う。今でもあの場所のことがハッキリと思い出せた。こんなことは初めてだった。いつもなら、全く覚えていないことが多いのに。



「リカー! もう起きなさーい」


 あっ! 学校!!



 リカは不思議な夢のことを心にとめつつ、学校へいく仕度をし始めた。



 リカは小学校4年生。




 元気よく家を飛び出すと、まぶしい朝日がリカを包んだ。友達と待ち合わせをして学校へ行く。



「今日って体育あったよね?」友達が体操服の入った袋を持ち上げる。


「あ、うん。あるある」


 リカも家から出る前に母親に体操袋を持たされていた。



「やだなー、今日も天気いいし。体育なんてこの世から死滅すればいいのに」


「死滅って・・・。まあまあ、今日はバスケじゃん。外じゃなくて体育館の中だし。まだマシマシ」


「そうだけどさあ~。リカはいいよねー、運動得意で」


「唯一の取り柄だし」


 苦笑いしながらリカはビシッと親指を立てた。





 キーンコーンカーンコーン



 リカは授業を受けながらぼんやりと窓の外を見つめていた。全然、授業に集中できていない。


 あの夢のことばかりが気になる。あまりにもリアルだったため、リカは非常にとまどっていた。


「・・・本当に、夢だったのかな」


 思わずつぶやく。すると、



「山口リカさん。ちゃんと聞いてますか?」


 担任の先生の怒った声が飛んできた。クラス中の視線がリカに集まる。


 あちゃー。


 リカは頭をかいてごまかしながら、「すいません、ぼーっとしてました」といった。


「・・・ちゃんと集中してください」


「はい。分かりました」


 リカの様子に、友人たちが心配そうな顔をする。


 こりゃ、後でいろいろ聞かれるだろうなあ・・・。


 リカは困ったようにそう思った。






 *・*・*・*・*



 ここは竜族が住む森のはずれ。そこには、リカが夢でみた景色が広がっていた。違うのは、今が夜ではなく昼間であるということ。


「・・・・・」


 いくつもの視線を感じて、李恩りおんは後ろを振り返った。背後には、昼間なのに薄暗く続く大きな森。そこから、視線を感じたのだ。



「・・・・・はあ」


 李恩りおんはため息をつくと、座っていた朽木くちきからおもむろに立ち上がった。



 静かに背後の森へ歩いていくと、「ひっ!」という小さな悲鳴が聞こえた。



「あっ! ひなのバカっ! チッ」


 怒った声がすると、あちこちの木から着物をきた少年と少女が出てきた。



「おい! いつまでこんなところにいるんだ。早く遠いところにいけよ」


 李恩りおんより年上で、上等な着物をきた少年。それが他の竜族の子供たちを従えていた。他の子たちは李恩りおんを恐れているのか少年より前に出ようとしない。全部で4人いた。




「・・・・」


 李恩りおんは少年を睨み付けた。


 それに少しひるんだ少年は、だがしかし、鋭い歯を見せながら唸り声を上げる。


「村のみんながお前を怖がっている。呪われたお前に救いはない。早くここから出ていけ!」



「村長の許可はあるのか?」


 村長の言うことは、竜族の中では絶対だ。すると、少年は見る間に顔がこわばった。それは後ろにいる子たちも同じ。ここに来ることも、きっと許可をもらっていないのだろう。



「僕はここにいることを許可されてる。お前たちの言うことを聞く必要なんかない」


 スッパリというと、少年はひどく悔しそうな顔で睨み付けてきた。歯を見せ恨めしそうに李恩りおんを見ながら、森へ帰っていく。他の子どもたちも李恩りおんを睨み付け、少年について行った。



「・・・・ひな


 一人だけ残った、淡い桃色の着物を着た女の子。李恩りおんより年下のその子は、自分を守るように胸を抱いている。手は小さく震えていた。



「もう二度と来るな」


 切り捨てるようにそういうと、李恩りおんひなから背をそむける。




「・・・李恩りおん!」


 離れていく李恩りおんに、ひなはあわてて手をのばした。短い足が、一歩李恩りおんに近づく。



「来るな!」


 怒鳴ると、ひなの足が後ろに後ずさった。



「・・・・李恩りおん


「もう二度と来るな。・・・お前の顔を見ると気分が悪くなる」



「・・・・」


 ひなは悲しそうな顔をして森へ戻って行った。





「・・・くそが。悪霊め――」


 李恩りおんは悪態をつくと、空を見上げる。


 もうすぐ夜がくる――。


 そう思うと、李恩りおんは泣きそうになった。





 *・*・*・*・*



「あれ?ここって――」



 空を見上げると、ちょっと欠けた月が浮かんでいる。その下は、すすきが広がり青白い光が飛び交う。とても神秘的な光景があった――。



 そう、それは昨日見た夢とおなじ場所。リカは周りを見渡した。



「お?」


 リカは目を瞬かせた。薄と青白い光の向こうに、あの男の子がいる。李恩りおんだ。


 彼は前と同じように、横になった朽木くちきに座っていた。




李恩りおんー!」


 と叫ぶと、ぎょっとしたようすで李恩りおんはバッと顔を上げた。すすきをかき分けて来くるリカを見ると、李恩りおんはとたんに怒った。




「お前っ――! なんで来たんだ!」


 急に立ち上がると、鬼のような顔で怒鳴る。



「もう二度と来るなって言っただろ!!」


「えー、だって。来ちゃったんだもん。仕方ないよ」


 困った顔のリカ。李恩りおんはとまどった顔をすると、「帰れ」とささやいた。



「ええー。どうやって?」


 きょとんとするリカに、李恩りおんもきょとんとした。そんな顔をすると、年相応に見える。



「お前、一体どこから来たんだ?」


「え? 則山のりやま町」



「のりやまちょう??」


 聞いたこともない地名に、とまどう李恩りおん



「うん。海があるキレイな町なんだよ」


「海?? 海って、あのしょっぱい水がたくさんあるっていう聖地か?」


「え? せいち? さあ・・・。わかんないけど、お水はしょっぱいね」



「この近くにそんな聖地はない。僕も、村長から聴いたくらいで一度も見たことない」


「ええ? 海を見たことがないの? 家においでよ。すぐに見れるよ」


 

 それを聞いて李恩りおんは目を丸くした。


「そんなに近くに聖地があるのか?」


「うん、家から歩いてすぐだよ」



「・・・・・」


 じっと見つめてくる李恩りおんに、リカは首をかしげる。


「どうしたの?」


「・・・お前、巫女なのか?」



「巫女? ええ? なんで」


「そんなにも聖地の近くに住めるのは巫女に限られている」



 何故かほっとしたように言うと、李恩りおんは空を見上げた。


「・・・?」


 リカも見上げると、夜空には満月未満の月がぽっかりと浮かんでいる。




「・・・・・」


 視線を戻すと、李恩りおんはいつの間にかもう月を見ていなかった。



「??」


 何も言わずに朽木へと戻る李恩りおん。リカは、てっきりまた何か言われると思って拍子抜けする。




「帰れって言わないの?」


 たずねると、李恩りおんは振り返っていった。



「巫女に悪霊はつかない。だから、好きにすればいい」



「巫女じゃないのに・・・。まあいっか」


 帰れと言われるよりマシなので、リカはしかたないと諦めると李恩りおんを追った。

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