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12 Gates City  作者: 澤群キョウ
01_Golden Shadow 〈無慈悲な黄金〉

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06 ニーロとベリオ

「ああ、ニーロ。ちょうど良かった。お客が来ているよ」

 樹木の神に仕える神官のキーレイに声をかけられ、魔術師の青年は振り返って答えた。

「少女と男の二人組でしたか?」

 神官が頷き、ニーロは続ける。

「昨日『橙』と間違えて『黄』に入った新参です。最初の天井の罠を動かしてかからなかった『強運』ですよ」

「へえ。それはすごい」

「探索の心得を教えてあげてください。僕はこれからまた出かけなくてはなりません」

「なんだって? 私にも仕事が」

「お礼はします。迷宮牡鹿(オーディルー)の角か、それとも沈殿赤苔(ファムレム)あたりがいいですか」


 神官から希望を聞き出し、ニーロは「カッカーの屋敷」を出ると、自分の住処へと急いだ。



 樹木の神の神殿にかつて仕えていた神官戦士。

 カッカー・パンラはラディケンヴィルスで最も有名な「元探索者」だ。

 二十年もの長い間迷宮へ潜り続けられた者はそれまでいなかったし、戦士としても神官としても素晴らしい力を持っていて、武勇伝には事欠かない。「赤」の迷宮の最初の踏破者でもあり、困っている者を助けずにはいられない世話焼きでもあった。


 樹木の神殿の隣にある彼の屋敷は常に解放されていて、大勢の探索者が出入りしている。

 カッカーの屋敷は迷宮へ潜る仲間を見つけたり、探索に必要な技術を教え合ったりできる、個人の家でありながら探索者の為の「社交場」になっていた。


 カッカーが引退してから三年以上が経っているが、屋敷の機能はまったく失われていない。

 主の部屋は常に解放され、悩みを相談したり、稽古をつけてもらったりする光景が常に繰り広げられている。



 ニーロも三年前まで、彼の屋敷で暮らしていた。

 ニーロはラーデンという名の魔術師に育てられた。どのような事情かは不明だが、赤ん坊の頃に拾われたという話だった。ニーロは自分の出自について、これだけしか知らない。


 ラディケンヴィルスの西、遠く離れた深い森の中で育てられ、物心ついた頃には既に風を操る魔術を使っていたという。ラーデンは魔術に必要な知識と、自分の持つすべての技術をニーロへ教え込んで育てた。

 師匠と弟子、二人は誰もいない森の中で、十年。

 その生活は突然終わる。ある寒い冬の日に、ラーデンはニーロを連れて森を出るとラディケンヴィルスへ向かい、かつての仲間であったカッカーに「この子を頼む」と告げて去って行った。


 ニーロが初めて迷宮へ足を踏み入れたのは、ラディケンヴィルスへやってきた三日目の朝だった。「可哀想な子供」ではなく、「魔術師」として扱ってくれ。それがラーデンの最後の言葉で、カッカーは迷いつつもその通りにした。

 「たった十歳の子を」という意識はその日のうちに消し飛んだと、後にカッカーはニーロに語って聞かせている。「脱出の魔術」を操り、炎を踊らせ、氷の礫で敵を撃つ。体力に不安は残るものの、ニーロは確かに「魔術師」だった、と。



 それから、六年。

 魔術師は、人影のない道を東へ進んでいた。


 ラディケンヴィルスの南側は、家屋が建ち並ぶ「住宅街」だ。その中央、港町カルレナンへ続く南の門の付近には、高級宿が並んでいる。それを境に、西側には商人たちなど、ラディケンヴィルスで暮らす者の家がある。


 東側にも家は並んでいるが、こちらに住んでいるのは「探索者」たちだ。

 経験を積み、迷宮で富を得た者達は家を持つ。


 各迷宮にあわせた装備だとか、貴重な道具だとか、長く探索者を続けていけば荷物は増えていく。

 そんな探索者たちのぼやきを聞いて、家を構えてはどうかと考えた商人がいた。バルシュートという名の商人が当時荒れ野だった街の南側に家を建て、名のある探索者達へ売ったのが「トゥメレン通り」の始まりだという。


 ラディケンヴィルスの宿は、他の街とは違う。特に、深い層へ挑もうとする探索者達にとって「何日で戻るか」を考えるのは頭の痛い問題だ。予定が狂って帰り着く日が遅れれば、宿に置いていった荷物はすべて片づけられてしまっている。


 家を構えるというアイディアに成功者たちは喜んで飛びついた。

 そこに住んでいるのは「探索で成功を収めた者」たちだけ。

 トゥメレン通りで暮らすという事は既に、探索者たちの憧れ(ステータス)になっている。


 バルシュートは更にその少し北側にも家を作って、中堅の探索者達向けに「貸家」のサービスを始めた。そちらの名は「シルサージ通り」で、固定の「仲間」が決まっている者たちに好評だった。宿屋よりも借りる期間に猶予を設けている業者がほとんどで、やや費用がかかるものの、荷物の移動などの手間がない。




 ニーロの家は、トゥメレン通りの一番端にある。成功した探索者たちの屋敷の中では小さく古いが、そのたたずまいが気に入って購入したものだ。

 赤茶けた石で造られた家が多いラディケンヴィルスでは珍しい、黒い石を切り出して積み重ねた壁。自分の瞳と似た色合いのその家で、ニーロは暮らしていた。


 

 一階はいつも足の踏み場もない程散らかっていて、そこら中に迷宮で手に入れた道具が転がっている。

 がらくたの間を通り抜け、ニーロがメインの居住スペースになっている二階へあがると、ベッドの上にはベリオが大の字になって眠っていた。

 ニーロはベリオに対して特に嫌悪感などは持っていない。だが人のベッドを占領して、一糸まとわぬ姿で眠るのはいかがなものだろうかとこの光景を見るたびに思う。


「ベリオ、起きて下さい」

 肩に手を置いて揺らし、迷惑な同居人を起こしていく。

「うん、何だよ……」

「『黄』の迷宮へ行くと言ったでしょう。準備をしてください」


 床に落ちている服をベリオに向けて投げ、ニーロも身支度を始めた。

 といっても、腰に小さな荷物入れをつける程度だ。中には昏い青で染められた「帰還の術符」が十一枚も入っている。


「昨日の今日だぜ? また『黄』に潜るなんて、頭がおかしいんじゃないのか」

「では、他の人をあたります」

「待てよ。わかったよ、行けばいいんだろう?」


 ベリオの年齢は二十歳で、ニーロよりも四歳年長だが、探索者となってからまだ二年しか経っていない。


 二人が出会ったのは一年半程前、ベリオが他の仲間たちとおそるおそる足を踏み入れた「藍」色の迷宮の中だった。



 「藍」は比較的造りが単純な、三番目に踏破された迷宮。

 そう聞いて大勢の初心者たちがやって来るが、「藍」の迷宮には独特の仕掛けがあった。最初の三層までは通路を照らしていた照明が、四層目からはない。ところどころにスイッチがあって、それを押さなければ灯りは得られないようになっている。それも一定の時間が過ぎると効果が終わって、再び暗闇に包まれてしまうのだ。


 仲間の一人が持ってきたランプをつけたはいいが、それだけでは薄暗くて辺りがよく見えない。

 探索者がおそるおそる通路を進んで、ちょうど照明の効果が切れる頃に罠が仕掛けてある。それは致命傷を負うような大袈裟なものではなかったが、確実に傷を負わせてくるもので、ベリオたちは皆それぞれ手足を負傷して苦しんでいた。


 進むも戻るも、暗がりの中。

 そして「藍」の迷宮に出てくる魔法生物は「小さいが数が多い」。


 迷宮鼠がきいきいと鳴き声をあげながら駆けてきては足に噛みついてくる。剣を叩きこめばすぐに倒せる弱い敵だが、とにかく大量に現れるので戦いには時間がかかった。


 「帰還の術符」も「脱出の魔術」も持ち合わせていない、駆け出しの五人組は疲れ果てていた。


 「橙」と「緑」、初心者専用の迷宮からは卒業して、「藍」のなるべく深い層へ。そんな野望を持ってやって来て、自分たちの実力に見合わない場所まで進んでしまった。五層目でそれを悟ったものの、暗がりの中を戻る作業は想像以上に過酷だった。

 通ってきたはずの道なのに、さかさまになった途端地形がまったく把握できない。

 もたもたしているうちに鼠が寄ってきて、座り込んでいる初心者の指や腕にかみついてくる。


 心に様々な後悔が浮かんでは消えていく。

 だが感傷に浸るヒマなどはない。ひたすらに鼠を屠り、薄暗い道を歩いていくしかない。

 しかし階段を見失い、ランプの油は切れ、スイッチの場所はわからない。


 重い体を惰性で動かし続ける五人の心にぽっと火が灯る。


 それは冷たい、「死」という名の青い炎だ。

 大きな失敗をして来なかった。それはたまたま、運が良かっただけの話だったのだと、ベリオははっきりと悟った。実力を見誤り、自分たちはやれると勘違いしていた。


 貴重な道具の使い方を間違えたとか、道具屋に安く買いたたかれたとか、魔法生物と戦うのにひどく手こずったとか。夜の酒場で飛び交い、ベテラン探索者にからかわれる初心者らしい失敗談。そんな経験をもっと積んでおくべきだった。自分たちはそんなつまらないミスはしないと鼻で笑っていたあらゆる失敗をしておくべきだった。そうすればもっと、迷宮を進む為に必要な「慎重さ」が身についただろう。


 そう思うが、すべてが遅い。

 鼠に噛まれたせいでズボンは破れ、そこから細く血が垂れている。熱い血を吸いこんで、ブーツはゆっくりとその重さを増している。そのせいでこんなにも足が重いのか。ぼんやりと考えながら、ベリオは歩いていた。



 そんな中、突然吹いてきた風。


 ぱちんと音がして、迷宮の中は突然明るさを取り戻した。

 驚いて顔をあげた五人の目に、一人の少年の姿が映る。

 長い髪をふわりと揺らしながら、涼しい顔で、たった一人で歩いていく。

 くたびれ果てた五人の初心者に視線すらやらず、まっすぐに歩いていく姿はまるで「迷宮の神」のようだった。ベリオは、そう思った。


 なので、仲間を置いて、少年の後を追った。


 魔術師らしい少年は迷いのない足取りで迷宮の中を進んでいく。


 右手を振っただけで真っ赤な炎が吹きだして、大量に湧き出した鼠はあっという間に丸焼きになった。左手を高く掲げれば水が吹きだして、通路の隅から這い出してきた蛇は流されていく。


 時にはふところから取り出した小石を投げて、通路の先にある罠を作動させている。天井が開いてそこからねばねばとした何かが落ちてくるが、襲う相手はそこにいない。少年はねばねばの塊を焼き払い、安全になった通路を悠々と歩いていく。


 いつの間にか、八層目に辿り着いていた。

 巨大な鹿のような魔法生物が飛び出してきて、少年はあっという間にそれを倒し、短剣で角を切り落としている。


 それで用が済んだのか、突然振り返るとベリオにこう問いかけた。


「僕に何か、用ですか?」


 これが、ベリオとニーロの出会いだった。




「俺をあんたと共に行かせてくれ」


 こう答えてから、ベリオは大いに自分に呆れた。

 ボロボロの姿のどう見ても探索に失敗した哀れな初心者。連れて行く義理がある訳がない。


 しかし、立場が逆だったら間違いなく断るであろうと感じる願いを、何故か、ニーロは叶えた。

 

 「脱出の魔術」で共に迷宮を出て、ベリオはそのままニーロの家に転がり込んだ。少年魔術師は何故かそれを許し、ベリオも疑問に思いつつ、後をついて回った。


 ニーロの名を知ったのは、出会ってから四日後。カッカーの屋敷でニーロがヴァージという元探索者と会話をしていた時にその名を聞いた。


「ニーロっていうのか」


 魔術師の後ろに控え目についてきた新米がこう呟くのを聞いて、ヴァージは声をあげて笑った。

「なんなの、あんた。名前も知らずによくついてまわっているわね!」

 本当だ、とベリオはしみじみと思った。



 ニーロはとにかく無口で、家にいる間はほとんど何も話さない。ベリオなどいないかのように、自分の仕事をこなしているようだった。持ち帰った道具を調べたり、魔術をかけてみたり、誰かに頼まれた物を用意したりしている。


 相当な力を持った魔術師。ベリオがわかっているのはそれだけで、とにかく「邪魔をしてはならない」という緊張感があった。


 「藍」の迷宮で救ってくれたが、勝手に転がり込んでも何も言わない。


 先行きの見えない不安な日々の中、やがて少しずつ、わかっていった。


 カッカーの屋敷で出会ったヴァージという女性は、どうやら「スカウト技術の師匠」らしく、彼女の前ではニーロは途端に饒舌になった。あの迷宮にこんな罠があるようだ、どのように解除するのが最もいいやり方なのか、どのような仕組みで動くのかなどを熱心に質問している。

 そしてついてまわるうちに、ニーロの置かれている状況が少しずつわかってきた。

 

 ラディケンヴィルスの生ける伝説、カッカー・パンラ。

 「赤」の迷宮の最初の踏破者の一人であり、二十年もの間迷宮へ潜り続けたという神官戦士。

 彼と共に「赤」の迷宮を踏破した仲間の一人がニーロであり、ヴァージだという。他にも二人いて、そのうちの一人はマリートという剣士。彼らとはカッカーの屋敷で、何回か顔を合わせていた。

 彼らは最高の仲間(パーティ)だったが、カッカーとヴァージが引退して既に「解散」している。

 それから、ニーロは誰とも組まずに、一人で動いているらしかった。大勢が優秀な魔術師である彼を仲間に引き入れたがっていたが、ニーロは何を思っているのか、頼まれて探索を手伝うことはあっても「その都度」だけで、終わればきっかり五等分の報酬を受け取って「トゥメレン通り」の自宅へ一人、戻っていった。


「あんたはニーロの何なの? 弟子か何か?」

 ヴァージにこう尋ねられ、ベリオは首を傾げた。そんなの自分が知りたいくらいだと。


 だが、ぼんやりしていては始まらない。

 

 ニーロが留守の間はカッカーの屋敷へ通い、ベリオは自らを鍛えていった。

 共にいける時にはニーロについて迷宮へ入り、魔法生物と戦う。魔法生物を倒した後には、肉をはぎとって食料にし、皮をはいで持ち帰る。

 「はぎ取り」の技術は迷宮探索に必須のもので、肉は食料になるし、皮や鱗は持ち帰れば高く売れる。カッカーの屋敷で知り合った探索者達にやり方を教わり、迷宮の中で実践していった。

 

 そんな暮らしを半年続けた、ある日の朝。

 ニーロの家の二階でぐうぐうと眠っていたベリオを、揺すって起こす者がいた。

「ベリオ」

 初めての「自分を呼ぶ声」に驚いて、ベリオは飛び起きた。

「依頼です。今日は『赤』の迷宮へ行きますから、準備をしてください」




 あれからようやく「相棒」になった。

 一年ほど前の朝を思い出しながら、ベリオは服を身に着け、支度を進めていく。


「なんで『黄』に入るんだ? いいことってなんなんだよ」

「罠にかかった者がいると言っていたでしょう」

 

 昨日の昼間に潜っていた「黄」の迷宮。ベリオとニーロが行った理由は「仕事」で、オッチェという探索者から受けた依頼の為だった。

 「黄」の迷宮は恐ろしいところだが、ここでしか入手できない物も多い。迷宮にはそれぞれ、そこでしか手に入らない物が必ずあるが、「黄」と「青」にしかない物は特に貴重で高く売れる。


 一攫千金を目指して入り込んだオッチェたちだったが、四層目で罠にかかってしまった。求めていた物は見つけられたのに、仲間四人の遺体と共に置いて来てしまった――。

 一人「脱出の魔術」で戻って来たオッチェの依頼を受けて、ニーロたちは「黄」の迷宮を訪れていた。


 六層までの地図を頼りに、罠を避けながら三層まで降り、突然響いてきた轟音。

 哀れな初心者たちが最初に仕掛けられた罠にかかった音だった。



「それがどうかしたのか? 何にも知らないで『黄』に入ったら、大抵のヤツはあの罠にかかるだろうさ」

「問題は罠にかかったタイミングです。今ならばきっとちょうどいい」

「何がだよ」


 ニーロは答えない。

 まただんまりかよと文句をつけられても、その口は薄く微笑んだ形のまま動きを止めている。



 本職は「魔術師」であるニーロだったが、かつての仲間であるヴァージが引退をしてから、スカウトの技術も身に着けていた。それはただ単に探索が有利になるからというだけではなく、「罠そのもの」に興味が湧いたからだった。


 ラディケンヴィルスの迷宮は、謎に満ちている。

 迷宮を作ったのは古い時代の魔術師たちで、もう千年も昔のものだと言われている。

 

 迷宮の中の罠が、どうしていつまでも動き続けているのか。

 魔法生物は何処から現れるのか。何故、迷宮の外へ出てこないのか。

 疑問は尽きない。


 大抵の探索者たちは、そんな「難しいこと」には興味がなく、潜った先でどれ程の宝を手に入れられるかくらいしか考えていない。だが、ニーロは違う。迷宮の成り立ち、動力源、その奥に秘められた「古の業」がいかなるものか、それを解き明かしたいと考えていた。


 連れてこられたばかりの頃にはまだなかった、そんな欲求の為に動いている。だから、方々からの「仲間になってくれ」という願いを断り続けてきた。恩がある相手の頼みならほんの少しくらいは聞く。だが、一人が動きやすい。


 ベリオを助けたのは、気まぐれからだ。散々してやられてボロボロになっているのに、深い層へ向かう自分についてきたベリオをほんの少し、「面白い」と思ったからだった。

 まさか家に居つくとは思わなかったが、余計な質問や口出しはしないし、迷宮の中でも危険な時には引っ込んでいる。仕事の邪魔もしない。ついて来ない時にはカッカーの屋敷に行って、スキルを磨いている。


 ベリオは「ちょうどいい」探索者だった。


 ニーロが何処へ向かおうと、どのような依頼を受けようと、ベリオはぶつぶつ言いながらも「反抗」はしない。そんな依頼は危ない、意味がわからない、と言いつつも、ちゃんとついて来る。その行動の原理は今一つ理解できないが、やはり迷宮へ向かう時に「誰か」がいるのは重要な要素だ。


 もしも命を落としてしまったら。

 もう一人、生きている者がいれば、チャンスになる。

 ラディケンヴィルスの迷宮で命を落としても、体の状態が良ければ復活できる可能性がある。

 

 迷宮に「絶対」はない。生きて帰れる保証など何処にもないし、誰も約束してくれはしない。

 たとえ浅い層に赴くだけであっても、そこに罠がないと知っていても、「念には念を入れるべき」だった。



「さて、行きましょう」

 何の説明もしないニーロに、呆れた表情を浮かべながらもベリオは続いた。


 再び、「黄」の迷宮へ。

 

 二人が目指すのはその「二層目」。

 間抜けな探索者を叩き潰す、容赦の無い「天井の罠」のある場所だった。

 

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