51 トライアル
迷宮の中をうろつく探索者の数は、六層ごとに減っていく。
回復の泉までたどり着いたら帰路に着くと決めて潜るパーティが多いからだ。
「橙」の上層は六階まではずいぶん混んでいて、鼠や兎が出てくれば大騒ぎになる。
初めて入ったド素人は慌てふためくし、何回目かの探索をしている者たちはなんとしても倒そうとする。
獲物を巡った小競り合いも珍しくないし、そこで物別れをする者もいれば、バラけたメンバー同士で新しいチームが作られることもある。
こんな事情があるので、とにかくまずは七層へ。ベリオたちはそう決めて歩いていた。他のパーティがいれば敵は譲る。誰も倒さないのならさっさと仕留める。
お互いの実力はさっぱりわからないが、混み合った上層部では確認する暇がないのだから仕方がない。
最下層までの道のりが書かれた地図は、ドーンが持っていた。すべての道が網羅されている「橙」の地図は大抵、六層ごとのセットで売られている。三十六枚セットはあまり売れ行きが良くないらしく、バラ売りよりも安く買えるらしい。
「そこを左に曲がる」
色気のかけらもない声で、ドーンが指示を出す。
まだ見習いレベルでしかない彼女は、スカウトとしての経験を積みたいと言う。なので、カヌートがすぐ隣について、間違いがないか確認をすると話が付いていた。
前列はダンティンとドーン、カヌートが行き、ベリオは戦士のくせに後列を歩いていた。苦戦するようであれば誰かと交代して前に出る予定だ。明るく賑やかな迷宮の道を歩きながら、一行はどんな風に進んでいくか、話し合いながら決めている。
前を行く者、途中で怪我をして揉めている者、背後からなぜか走ってくる者、神官はいないかと叫んでいる者。
みんなみんな初心者で、勝手がわからなくて、どうにかしようと一生懸命だ。悪気などかけらもなく、自分のできる限りをやっている。
ラディケンヴィルスはエネルギーに満ちた街だが、その大半が「橙」に集中しているのではないかと思える道のりだった。
ダンティンも駆け出そうとしてはカヌートに止められている。
確かに「橙」の道は易しい。だからこそ、油断してはいけない。
たいしたことはなくとも、敵がいて、罠がある。
「ふんぎゃあああ」
叫び声が上がって、全員が通路の先へ目をやると、まだ若い男が一人、床を転げまわっているのが見えた。
「噛まれたかな」
「矢が出てきたのかも」
ドーンはすかさず地図を取り出し、罠が配置されていないか確認していく。
「踏むと壁から槍が飛び出してくるスイッチがある」
では、通路をよく見て歩かなければならない。
「おいダンティン、カヌートたちの言うことをよく聞けよ」
ベリオの言葉に、一行のリーダーは頬を膨らませている。
「そのくらいわかっているよ!」
「だといいがな」
前を行くパーティは、痛がる男を引きずって通路の端に寄せ、手当を始めている。
デルフィはなんとも申し訳なさそうな顔で目を伏せ、その隣を行き過ぎる。
三層、四層、五層。降りていく度にフロアに溜まる探索者の数は減っていく。
六層に近づくたびに、戻ってきたパーティとすれ違う回数は増えていく。
地図のおかげであっという間に六層へ。スカウトがいない、地図を持っていないせいで罠にかかってくれる初心者たちのおかげでたいした苦労もなく、最初の回復の泉へ辿りついていた。
「ここからが本番だな」
泉の前には短いが行列ができていた。そう疲れてもいないが、回復はできる時には必ずしておくべきだった。行儀よく列の最後尾について、四人はぼそぼそと話している。
「この程度の道があと五回あるだけだろう? 楽勝じゃないか」
「バカを言うな」
ダンティンの声は大きく、カヌートが慌てて叱りつけている。
「敵は強くなり、罠は巧妙になっていく。戦闘の回数だって増えるんだ」
「倒してくれる誰かはいなくなるからな。お前の仕事だぞ、ダンティン」
ベリオにまで詰められたが、ダンティンはどこ吹く風でこう返した。
「世界一の探索者になるんだぞ、俺たちは。『橙』ごときで躓いていられるかってんだ」
泉を待つ行列に、小さな笑いの波が起きた。ベリオもデルフィも、呆れてつい笑ってしまう。
「二十四層あたりの泉でも同じことが言えたらたいしたもんだな」
そもそも、デルフィの「脱出」があるからこんなにも大きく出られるのだとわかっているのだろうか。
「それになんだ、『俺たち』って。図々しい奴だな」
ベリオは笑い、ドーンもカヌートもこらえきれずに肩を震わせている。
ここまで言われてもダンティンは意に介さないようで、前に並ぶパーティを急かし始めていた。
「早く飲んでくれよ、後がつかえてんだぞ」
「おい、やめろ。すまないな、こいつバカなんだ」
余計な争いの種を慌てて潰して、ベリオはため息をついている。
規格外の人間とともに行けば新たな発見があるなんて考えてしまったが、間違いだったのかもしれない。
デルフィへ目をやると、やけに愉快そうな顔で笑っていて、そんな表情を初めて見たとベリオは思った。
ダンティンが急かしたお陰か泉の行列は早く進んで、五人も手早く柄杓を手に取り、順番に水を飲み干した。
すぐそばにあった広めの通路の端で手早く食事をとって、再び橙の道を進んでいく。
通路を塞いでいた人影はとりあえず周囲には見えなくなって、戦闘の機会がやってきた。
ダンティンは腰に提げていた短剣を抜き出し、現れた兎を追いかけ、振り回し、カヌートから怒られている。
「周りをよく見ろ!」
危険なリーダーを避けつつ、四人も戦う。ぴょんぴょんと跳ね回る兎は四体いて、ベリオは足元にやって来た一体を素早く仕留めた。
カヌートも首の後ろをさっと切り裂いて仕留め、ダンティンは大声を上げながら派手に格闘をし、デルフィはベリオの後ろに隠れるように引っ込んで。
残りの一体は、ドーンが切り払っていた。
迷宮兎は肉も皮も売れる。なので、剥ぎ取りのための良い倒し方が存在する。
カヌートの仕留め方は最も剥ぎ取りに適したもので、ベリオも多少荒いがそれに準じた斬り方をしている。
ダンティンはまだ戦っている最中だが期待はできそうにない。そして、ドーンの倒し方は論外だった。
「まっぷたつじゃないか」
兎は胴を切り裂かれて通路に落ちている。中身が零れ落ちるような荒々しい倒し方は、迷宮の中ではあまり見かけるものではなく、物騒な場所にいるくせにベリオはすっかり気分を悪くしていた。
「倒しただけだ」
「地図の見方だけじゃなくて、倒し方も教わりな。そいつはよく心得ているから」
教えを乞うよう言われて、ドーンも気を悪くしたようだ。汚れた顔を醜く歪めて、ベリオを睨みつけている。
「たいした剣の腕みたいだが、これじゃ儲けがなくなっちまう」
もっと難しい迷宮の中では自給自足が必要だ、とカヌートは穏やかに語り、ドーンはしぶしぶしゃがみこんで先輩スカウトの仕留めた兎を確認している。
「カヌート、剥ぎ取りはできるのか?」
「少しはな」
「じゃあ、それも教わるといいぜ」
ベリオがにやりと笑い、ドーンに睨まれたところでようやく、ダンティンの戦いにも決着がついた。
ドーンが仕留めたものとはくらべものにならない、小さな傷だらけの、「元兎」とでも名乗った方がよさそうな塊が落ちている。
血が飛び散って通路は赤みがかった黒で汚され、耳のさきっちょやどこのだかわからないが足も一本落ちており、散々な戦い方をしたようだった。
なにから教えたらいいのかわからず、ダンティンにかける言葉はない。当の本人は荒く息をしながら、勝利の喜びに満たされ笑っていて、ベリオ以外の仲間も困惑しているようだ。
こんな調子でパーティは進んでいった。
時折起きる戦いで、カヌートは自分の腕をしっかりと示している。ベリオも負けじと剣を振り、ドーンは最初こそ気を付けていたようだが、だんだんと仕留め方はもとに戻っていった。
ダンティンは余計な動きが多すぎて、どうやら疲れてしまったらしい。たかだか兎相手にふらついて、足をかまれて悲鳴を上げている。
いつまでも終わらない戦いにしびれを切らしたようで、ドーンが進み出て、ダンティンを襲う兎をまっぷたつにした。
「休憩だな」
いや、休憩どころではない。もう帰った方がいいとベリオは考えた。
どうしてあんなに自信があるのだろう。素人丸出し、迷宮初心者。罵りの言葉はいくらでも浮かんできた。
ダンティンは戦いに不慣れすぎる。
「まだやれる」
「『橙』ごときでやられるなんて、俺はごめんだぞ」
地図を確認して「でっぱり」を探し、一行はそこへ向かった。
一休みするのにちょうどいい、広く開いている行き止まり。
カヌートが休憩用の装備を取り出して、手際よく設置していく。ベリオはダンティンを無理やり座らせ、水を飲むように言う。デルフィは薬草を取り出して、怪我の手当の準備を始めていた。
ドーンは一人、隅にどっかりと座りこんで水袋を取り出している。
五人組のリーダーは不服そうに、ぶつぶつと文句を言いながらも水を飲み、手当を受けた。
その後は、無言。橙の隅で休みながら、ベリオはみな同じ思いなのだろうと考えている。
勢いに押されたからといってなぜこんなド素人とともに来てしまったのか?
「一度帰ろう」
ベリオの言葉に、ダンティンはすかさず立ち上がって怒鳴った。
「まだ九層じゃないか。もっと行ける」
「お前には無理だ」
「無理じゃない。やれるよ」
「まともに戦いもできない奴が言っていい台詞じゃないぞ」
迷宮に入るだけなら、誰にでもできる。
誰かがもう無理だ、戻ろう、帰ろうと言いだして、しぶしぶながらも無事に帰り着けば、「迷宮に入った」と言い張れる。
そんなぼやけた体験を何十回も重ねてきただけ。これが、このパーティをひっぱる男の正体なのだろう。
ベリオは帰るよう言い、ダンティンは拒む。
呆れるほど無意味なやりとりを重ねた挙句、やっと帰る決断ができたのは、他の三人がベリオに同意したからだ。
「バルジの言う通りです。ダンティン、あなたにはこれ以上進む力はありません」
意外にも一番厳しい言葉を投げかけたのは、デルフィだった。
「え?」
「我々はきっと、それなりの層までたどり着けます。けれど、その道中にあなたの手柄はありませんよ、ダンティン」
剣の振り方すら知らないあなたは、後ろでずっとひっこんでいなければいけません。
デルフィの言う通り。仲間の邪魔にならないよう、戦いから身を隠し、罠にかからないよう必ず指示に従っていれば、「これ以上」は可能ではある。
「それで、あなたは満足ですか」
最も穏やかで控えめ、傷の手当てをしてくれる親切な存在であるデントーからとどめをさされ、ダンティンはがっくりと肩を落とした。
「わかった」
「良かった」
デルフィは残りの三人に目を向け、今すぐに戻っていいか問いかける。
全員に異論はないようで、みな小さく頷いて一か所に集まっていった。
集中が始まり、地上へ戻るための言葉が紡がれていく。
青い光の粒が宙に浮かんで、五人組をゆっくりと包んでいく。
「おおーっ!」
ベリオたちが帰還者の門へ移動すると、歓声があがった。
「橙」程度で術符だの脱出の魔術などを使う者はあまりいない。
なので、まだ入り口に並んでいる初心者たちは、奇跡の業を目の当たりにして興奮してしまう。
しかし。
愛用のボロ宿に戻ってきてからも、ベリオの心は落ち着かないままだった。
こんなにもどうしようもない探索をしたのだから、ダンティンは恥ずかしくなって逃げ出すべきだし、カヌートもドーンも呆れた顔をして去っていけばいいのに、なぜか全員揃ったまま、宿屋の入り口の前に並んでいる。
「お前ら、宿は?」
「ここにする」
ダンティンはいい。「脱出」持ちが目的なのだから。
「あんたらもここにするのか?」
カヌートとドーンは首を傾げたが、やがて、値段が安いだとか、脱出持ちともう少し組んでいたいとか、ぶつぶつと理由を話して、ベリオたちの隣の部屋に逗留すると決めてしまった。
三人はそれぞれ荷物を置いている宿を引き払ってくると出て行って、ベリオとデルフィだけが残っている。
「今のうちに他のところに移るか?」
ベリオの呟きに、デルフィは苦笑している。
「不思議な人たちですね」
「なにを考えているんだかな」
即席の仲間たちは本当に戻ってきて、食事の提供をしないボロ宿に、固定客が三人増えた。
「こいつはまず、剣の振り方から覚えた方がいいと思う」
宿屋の近くの食堂で、奇妙な即席仲間の五人は丸いテーブルを囲んで食事をとっていた。
傷だらけのダンティンは、ドーンにこう言われ、神妙な顔で頷いている。
「腕の力が弱いんだよ、お前は。鍛えるべきだ。素振りから始めた方がいい」
「鍛えるだけなら、建設現場で働くのもいいと思うぞ」
カヌートがこう言い出し、ダンティンは不満そうに顔を歪めた。
「探索と関係ないじゃないか」
「関係なくはない。長い間歩き続けるには体力がいるし、深い層へ潜れば荷物も増える。体を鍛えるのは基本だ」
ドーンとカヌートの二人は、自分たちもまだ探索の初心者に過ぎず、なるべく体を鍛えるよう過ごしているのだと話した。
「迷宮に入るには準備が必要だ。探索に耐えられる体力や進むための技術がなければ続けていけない」
大真面目な初心者対策会議が始まってしまって、ベリオとデルフィはじっと黙ったまま成り行きを見守っている。
「じゃあ、俺はどうしたらいい?」
「建設の仕事、したことあるのか?」
「ないけど」
「じゃあ、朝早い時間に現場に行くんだ。南西側にも家を建てているところがいくつもあるから、明日から行けばいい。確実に金が稼げるし、資材を運べば体も鍛えられる」
カヌートのおすすめは、とにかく肉体労働をこなすことらしい。
「ああいう現場にマメにやって来る奴は、いい情報を持っていることが多いんだ。真面目にやって、知り合いを増やしていけば、旨味のある話を教えてもらえるようにもなる」
「そんなの知って、なんになるんだ?」
「実入りのいい話にうまく乗れたら儲かるんだ。いい装備品があった方が探索は進むし、余裕もできる。そういうやつの方が仲間だってできやすい」
お前はなんの根拠もなく余裕みたいだがな、とカヌートは言う。あまり感情を出さない男のようで、ずっと真顔のまましゃべり続けている。
長々と続いた説得に、ダンティンはとうとう深く頷いて、明日現場へ行ってみるなどと言い出していた。
「現場の仕事がなければ、訓練をすればいい。西側には広い空き地があるから、誰の邪魔にもならないだろう」
その訓練とやらを、ドーンは引き受けてくれるのだろうか。
初心者たちの美しい助け合いに、自分も引きずり出されないかベリオは心配になっている。
「そういうお前らはどうするつもりなんだ?」
優しい助言を繰り返すドーンとカヌートに向けて問いかけると、二人は神妙な顔をしてこう答えた。
「俺たちもまだ初心者だから、できることからやっていく。朝は建設の仕事がないか探して、行けなければ他にいい話がないか探す」
「体力作りは基礎中の基礎だから。建設の仕事が駄目なら、商人の荷下ろしを手伝うんだ。余った時間は訓練にあてればいい」
スカウト技術の向上に役立ちそうな話はなく、ベリオの脳裏にはカッカーの屋敷で見た光景の数々が浮かび上がっていた。
あそこに行けば、宿代はタダだし、食事にだって困らない。
まずはどう行動していけばいいのか、いくらでも教えてもらえる。
手持ちがまったくない者には、武器や防具の貸し出しもしてもらえる。
迷宮に立ち入る勇気の出ない者のために、魔術以外の技術の指導もあった。
凄腕な上、とてつもない美女の元スカウトが屋敷を仕切っていて、秩序も守られていた。
伝説と謳われるカッカーが一番奥の部屋にいて、身の振り方も一緒に考えてくれる。
もうこの街ではやっていけないと言えば、故郷への馬車代を餞別にもらえるらしい。
似たような年ごろの連中がたくさんいて、同じような失敗をしたと笑い合えるところだ。
あんなにも便利な場所は、他にはまだない。
本当に困った時には神殿に寄れば、一食か二食くらいは世話をしてもらえるし、病人なら看病もしてもらえるだろうが、それ以上のサービスはしていない。
初心者のための親切な屋敷について知らなければ、カヌートたちのように、自分たちで工夫してなんとかしていく以外にない。
隣には、デルフィが座っている。
彼は神官の出だから、ダンティンたちのような地道で堅実すぎる暮らしは強いられてこなかったのだろう。
「迷宮にはいつ入れる?」
探索者未満の扱いをされたリーダーは、しょぼくれた顔で仲間たちに問う。
なぜか他の三人が一斉に視線を向けてきて、ベリオは驚きつつもこう答えた。
「お前次第だ。まともに剣が振れるようになればまた行ける」
「みんなどうやって振れるようになったんだ?」
「練習したんだよ、みんな」
故郷の村にいた頃。
どうしようもない貧しい暮らしの中で聞いた、迷宮都市の話。
その中でも、「赤壺のゲダル」の話がベリオに希望を植え付けた。
ゲダルはスアリア王国の端っこの名もない村の出身で、流れ流れてラディケンヴィルスにたどり着いたという。
田舎暮らしで鍛えられた足腰の強さで迷宮を散々歩いて、質素な暮らしを続けているうちにとんでもない富を築いた探索者だと謳われている。
剣の腕はそこそこながら、重たい荷物を運んでいくらでも歩いた。戦利品をたくさん運び、傷ついた仲間を背負って街へ戻り、信頼されていった。
腕のいい探索者たちに認められ、一緒に迷宮に潜り続けていくうち、彼の貸家に並んだ赤い壺には、いつの間にかたくさんの金貨が詰まっていたらしい。
探索者の話は山のようにあるが、ゲダルの話は割と広く知られていて、特に初心者が来る安い道具屋には「ゲダルの壺」なる赤い入れ物がよく売られている。本物の壺もあるし、壺のようなもの、ただ赤いだけの収納箱など、便乗商品も多い。だが、ゲダルにあやかろうと買う者は多いらしく、迷宮都市の隠れたヒット商品になっている。
ゲダルが実在の人物なのか、壺の話が真実なのかは、わからない。
けれど幼いベリオの心には、とてつもなく希望に満ちた話として残った。
迷宮都市に行けば、こんなみすぼらしい暮らしをしなくて済む。
歩くしか能のない愚かなゲダルですら富を得たのだから、剣を使える強い探索者になれれば――。
森の中で重たい長い枝を見つけて、振り回していた。
いつか剣に持ち替えて、迷宮の中で敵を倒し、宝を手に入れるのだと。
少しばかり年は上だが、ダンティンはあの頃の自分なのだ、とベリオは思う。
「本当に、ここまでよく無事に生き残れたもんだな、お前」
どんな暮らしをしてきたのか知らないが、初心者どころではない状態のダンティンに、笑うしかない。
「船の神がついているのか?」
迷宮探索に必要なものは、実力だけではない。
地下を進んでいくために大切な技術を持った仲間だけではないのなら。
「良かったな、いい連中と出会えて。しっかり鍛えて、『橙』の魔竜を倒してやろうじゃないか」
俺もつきあってやるよ。
ベリオがニヤリと笑うと、デルフィも優しい表情を作って微笑んでいた。




