登山部
セツと久代は、響に“都市伝説”の襲撃懸念と霧雪を助けたいと言う旨を伝えた。響は黙り、無表情な顔から感情が見えない。
「まず計画を教えて。」
「久代、頼む。」
「計画の最大の目的は、“都市伝説”の撃退でなく、あくまでも霧雪ちゃんの安全だ。霧雪ちゃんの今後については、安全な環境を整えてから考える。いい?」
「霧雪のために、本当にいい…ですか?」ずっと黙っていた霧雪が口を開く。
「いいかわるいかじゃない。霧雪ちゃんは他でもなく、セツに出会って、助けを求めてしまった。一度選んだら、まっすぐに突き進むイノシシのような男だ。もう霧雪ちゃんが嫌だと言っても、セツはもうやめないよ。」
霧雪が納得していないようが、久代は計画の説明を続けた。
「やることは簡単だ。学院に“都市伝説”の侵入に気づかせ、危険性をわからせる。ずっと無害だと判断しているから、学院は“都市伝説”の存在を容認してきた。しかし、“都市伝説”は学院にとって不利なことをし、またそれが学院の敷地で起こったとしたら、学院は考えを改め、“都市伝説”に警戒し、明確な敵対姿勢を取るはず。すると、“都市伝説”はうかつに攻めてこれないし、学院にいる限り、霧雪ちゃんの安全は保障される。脅威が去るわけではないが、身の振り方を考えるくらいの余裕はたっぷり稼げる。
だが、今まで隠密行動に徹してきた“都市伝説”は、容易に学院に存在を気づかせないだろう。問題はどうすれば、学院にその侵入を気づかせることだ。」
「学院に知らせるのはだめか?」響が率直な質問をした。
「それが一番簡単かもしれないが、霧雪ちゃんが狙われている証拠がない。たとえ、それが事実だと認識しても、学院が取る行動は、警備を増やし、霧雪ちゃんを守ることではなく、多分すぐ彼女を追い出すと思う。学院は軍事組織ではない。無闇に敵を作りたくないはずだ。生徒のためならまだしも、よそから来た霧雪ちゃんのために動くなんて想像できない。
だから、無理でも学院に危機感を覚えさせないといけない。」
「危機感…」響は嫌な予感をする。
「計画の全貌はこうだ。霧雪ちゃんの襲撃を企てる“都市伝説”を一箇所に集め、建物の破壊でもなんでおいいから、とにかく学院の目を引く“何か”をさせる。“都市伝説”侵入の証拠を手に入れた後、やつらの危険性を学院に説明し、敵対体制を取らせる。」
「…私たちが説得する前に、学院はまず侵入の原因を調査すると思う。霧雪が原因だとわかったら、敵対するどころか、久代が想像したとおり、まず霧雪を追い出すじゃない?」
「調査はさせない。いや、正しく言えば、調査したところ、正しい情報を得られない状況を作る。」
「どうやって?」響は無表情で切り返す。
「学院を説得するのは、僕達ではなく、学院の信頼を得ている先生方だ。」
「まさか」
「漫画だと、暴走する主人公が何かをやらかしたら、大体誰にも頼らずに。自分で後始末するのが普通。幸い我が“登山部”は素敵な顧問を持っている。先生事情を話し、霧雪ちゃんが標的であることを隠蔽させ、学院の目を“都市伝説”の無断侵入および破壊のみに向けさせる。これらの条件をクリアすれば、僕たちの勝ちだ。」久代は掛けてもいないエアメガネを人差し指で少し上に上げ、賢いアピールをする。
響はしばらく考え込んだ。
「…私は何をすればいい?」
「何もしなくていい。手伝ってほしいから、計画を打ち明けたんじゃない。響に内緒話は嫌いだから、話したんだ。」セツは首を振りながら、断った。
「セツにだけ危険を冒させたくない。」響はセツの目を見つめ、まるで心の底まで見抜いている眼差しで。
「響には叶わないね。」
三人が共通認識を得たところ、計画が着実に進め始められる。
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開拓と言ってもいろいろな役割があり、たとえば、環境調査の担当、獣にあったときの戦闘担当、情報担当などがある。王立学院は、そういう担当を細分化し、数多な部活に分けている。セツ、久代と響がその中の“登山部”に所属している。名前が登山部になっているものの、本当に山に登るわけではない。実際の仕事は、少人数で薄明領域に入り、簡単な環境調査を行うことだ。
セツたちが会おうとしている顧問とは、登山部の顧問先生の草薙無顔、セツと久代より体格が一回り大きく、無精髭を生やしている大男だが、長すぎる前髪に目が隠され、誰もその素顔を見たことがない。よく言えば、掴みどころがない雰囲気だが、悪く言えば、恋愛シミュレーションゲームの無個性な主人公みたい。
「先生、相談したいことがある。」久代は単刀直入に計画を打ち明けた。
草薙無顔はセツの後ろに立つ霧雪を一瞥し、渋い声で返事した。
「それは…愛のためか?」
「愛です。」久代は躊躇なく答える。
「えぇぇぇぇ」霧雪がうろたえるが、セツがすぐフォローを入れた。
「安心して、久代はロリコンではないから。愛のためとかは草薙先生の口癖で、特に意味がないよ。どんな難しいリクエストでも、それに乗ると、大体オッケーしてくれる。」
「ロリではない…です。でも、本当に…あの…その…」霧雪がおどおどする。
「やるねぇ、久代君。先生も、先生も、若い彼女がほしぃ!」
(いやいや、若いという範疇を超えているだろう、完全にロリコンだ。)セツが小声で突っ込む。
「ほら、先生も霧雪君のそばに並ぶと、結構絵になるだろう。」
(ええ、犯罪的な絵ですね。)
「くぅ、青春してるね。チミたち!」
(チミっていつの時代?)
霧雪は自分にしか聞こえないセツの突っ込みにつぼり、必死に笑いを堪え、涙がこぼれそうだった。
「そうかそうか。泣くほど怖いだね。よし、先生が人肌脱ぎましょう。」草薙無顔は真剣な顔に戻した。「では、準備といたしましょうか。」




