都市伝説
セツが教えた座標に辿り、20分後救援が来た。セツと年が同じくらいのキツネ目の少年と茶髪の少女が霧雪の前に現れた。
茶髪ロングの少女は早見響、女性にしては身長がやや高いが、端正な顔つきに合わせ、穏やかな雰囲気を醸し出す。
キツネ目の少年は久代京という。細めな体と、大人しそうな外見に相反し、筋肉が引き締まっていて、どこか不思議な感じがする。
「オォ!!!」
「どうした?」セツは引き気味に言う。
「ついに!ついに!お前はロリコンに目覚めてしまったのか!?」久代の突拍子もない話に誰も突っ込みを入れられなかった。
「セツは、若い子がいいだね。」表情に乏しい響は淡々と言った。
「ロリじゃない…です!もう13歳です。」霧雪は不満を思わず漏らす。
「霧雪はやっぱりそこなんだね。」セツは苦笑いを浮かべる。
「話は後だ。まず学院に帰ろう。」
久代は倒れた仮面の男に目をやり、事態を大体理解した。響と二人でセツに肩を貸し、20分ほど歩き、車が待機しているところに着いた。
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計都王立学院の一室に、4人が集まった。簡単な怪我の手当てをし、セツは件の顛末について語った。
「状況はわかったけど」久代は心配そうに眉を顰めた。「これからどうする?」
どうするとは、霧雪のことだ。退けたとはいえ、追っ手が3人だけとは限らない。増援が来たら、どうするって話だ。
「まず霧雪の話が聞きたい。」
「話?」霧雪は首を傾げた。
「紅という人は、霧雪のお父さん?」
「ううん。気がついたら、そばに居ました。」
「気がついたって?」
「先月ある日に覚めたら、お父さんとお母さんが居なくて、紅のおじさんが霧雪を抱えて、先の怖い人達から逃げていました。」
セツは一瞬難しい顔をして、響だけはそれを見逃さなかった。
「じゃ、どうして追われているかもわからないよね?」
霧雪は首を横に振った。
「逃げ出してからずっとこの服なの?」と急にセツは話題を変えた。
「に…匂いますか?」言いながら照れくさそうに響の後ろに隠れる。
一ヶ月も逃げてきたせいか、霧雪の服には破れているところがいくつかあり、結構ぼろぼろになっている。逃げるために、必死になって、余裕がなかったというのもあるが、紅みたいなおじさんが気を配れなかったのもあるだろう。だがそれ以外はきれいだ。血の跡がない。
(いきなり親と離れ離れになって、霧雪はどんな気持ちだろう。もし俺の想像が的中すれば…いや、マイナスに考えるのやめよう。)
これ以上霧雪から聞きだせることがないとわかり、セツは質問をやめた。
「響、すまないけど、霧雪の着替えを用意してくれないか?」
二人が退室した後、セツは久代と本題を始めた。
「さっきの質問だが、俺は霧雪を助けたい。」
「あれ見ただろう。相手は“都市伝説”だよ。」
“都市伝説”とは、ネットや噂で流れる胡散臭い話ではなく、ある程度の武力を持ち、存在目的が不明で、行動記録もない組織の通称だ。王立学院を含めた各組織は、ある程度存在を把握しているようだが、特に害をなすわけではないため、対処していない。久代に、男が“都市伝説”だとわかったのは、仮面を見たからだ。一応外部で行動する際に仮面をつけるってのは、“都市伝説”のルールらしい。具体的にどういう意味が込められているかわからないが、一説によると、自我を消すためだそうだ。仲間と同じ仮面をつけることで、自我と他人の間の境界を薄く感じ、よりよく連携が取れると、どこかの専門家が分析した。
「相手は誰であろうと関係ない。」
「火に飛んで入りたいお前の性格を直したい。」
「別に身を危険に晒したいわけではない。ただ、選択したのだ。霧雪は俺に助けを求め、俺は彼女を助けると選択した。あの選択は、その場にいた仮面男を倒すだけではなく、彼女を狙うもののすべてから彼女を助けるという意味だ。」
久代は少し黙った。
「なら、僕にも手伝わせて。」
「いいのか。戦いが終わったら、お前は結婚…」
「フラグ立ってんじゃねえ!大体彼女もいないし、どうやって結婚すんだ!」彼女居ない暦17年の久代だった。
セツのボケに構うつもりなく、久代は話を進めた。
「でも、助けるつっても、学院にいる限りしばらくは安全じゃないか?」
「一ヶ月間ずっと追っていた連中だ。学院に入ったからといって、簡単に諦めると思えない。そして、名も知られていないような組織は、王立学院を恐れることはない。俺の勘だけど、今週中、いや、明日あたりには学院に侵入するだろう。」
「準備する時間もないのか。余裕な顔だね。何か策は…」
「ない。」セツはキッパリと返事した。「とにかく相手の出方次第だ。必要あれば、霧雪を連れて、学院から逃げる。」
「響が悲しむよ。」
「……」
「はぁ」久代はため息をついた。「しょうがないな。やはり頭脳担当の久代様の出番だね。」
「本当に手伝ってくれるのか?」
「冗談だと思ったかよ。乗りかかった船だ。セツの言葉を借りれば、僕は親友を危険に晒さない“選択”をした。」




