プロローグ
空が流れていく。
夏が近づいてきた。
毎年、夏に近づく程に胸がアツクなるのはどうしてだろう。
あの焦がすように澱んだ空気や、眩いばかりの光線。
そして、夜になっても昼のように、人間たちは遊び、朝を迎える。
夏がやって来る。
昨日の事だ。彼と会った。僕らはきっともう駄目なのだ。
「久しぶり」
と彼は言った。
「久しぶり」
と僕は返した。
彼は元々そんなにお喋りな方ではなく、空気を楽しむ人だ。
そんな彼が好きになった。
そんな彼だからこそ好きになったのだ。
いつからか僕らは恋をしていた。
「どう?その後」
と僕の隣を歩きながら彼は言う。
「その後って何?ふふふ、相変わらずだよ。」
「そう。それにしても暑いね。もう夏か・・・・」
「そうだね。」
ちょうど、気温も高くなって、気候的にも過ごしやすくなったからだろう。
街にはたくさんの人が出ていた。
ざわめきの中、僕らはゆっくりと歩を進めていく。
行き先も無いのに・・・・。
この街の中、そんな人々は少なくないだろう。
みんなきっと行き先なんか無いのだ。
しばらく街を歩いていくと1件の雑貨屋に目が行った。
「あ・・・・」
僕は思わず立ち止まってしまう。
「何?ここ見てみたい?」
「うん、ちょっといいかな?」
彼は、軽く頷く。
お香の甘い香りが漂う、エスニック雑貨屋だった。
お店の中に入ると、色々と怪しげなもの達が上手にディスプレイされていた。
小物たちは皆、カラフルで、目が痛くなるほどだ。
ゆっくりと店内を見回してみる。
彼も同様にゆっくりと店内を見回していた。
高校生の女の子が飛びつきそうないわゆる「おまじないグッズ」から、プロの人が使いそうな
「大きな太鼓」までさまざまなものがある。