5.マリアの考え
(まったく、うちの家族はみんな甘いんだから…。)
夕食を食べ終わり、家族でお茶をした席では、脱走騒ぎのことが主な話題で…社交デビューしたくないのか、脱走するくらいなら、街に一度行くかなど、いろいろな提案がされた。
でも…マリアは断った。
別にマリアは、街に行きたいから脱走するのではない。
今までは午前中の勉強の時間は決まっていたけれど、午後の自由時間は決めつけられることはなく、基本、自由にやることを決めて過ごせていた。
しかし、拝謁の許可が出た三か月前からマリアの一日は一気に窮屈になった。
やりたいことよりも、やらなくてはいけないことが決められる。
午後の自由時間で、大好きな乗馬はほとんどできなくなった。
不満を述べれば、「大人になるのですから。淑女は基本、馬車で移動するものです。」と言われる。
「別にわたしは、何もかわっていないんだけどなぁ…。」
脱走は決めつけられることへのマリアの抵抗なのだ。
マリアも女の子だ。
きれいなドレスにも、きらきら光る宝石にも興味はあるし、お茶会にでるクリームのたくさんかかったお菓子も食べたい。
舞踏会で素敵な紳士に見初められて…なんていうロマンチックな小説に憧れないわけでもない。
でも、周りの期待は正直、重い。
父は宰相。
母は絶世の美女。
4つ年上の双子の兄弟も、兄は次期近衛隊長と呼ばれるぐらい優秀だし、姉は社交界の華と呼ばれている。
マリアには特に、得意なこともないし、過去をさかのぼってみても、ほかの人よりもできると認められたものはないと思う。
周りが優秀な分、期待されすぎて、がっかりされることも多かったのだ。
容姿も一人だけ平凡。
両親も兄弟も金髪なのに、マリアだけ赤毛。
瞳の色は父と一緒の緑だけど、マリアの色のほうがくすんでいる。
この国では王家の家系に金髪・碧眼が多いため、それが好ましいとみられる風潮がある。
そんな中で自分だけが異端に思えてくる。
(金色に近い赤で、ストロベリーブロンドって呼ばれるんだったらよかったのに。)
ミーレッシュ家のマリアではなく、ただのマリアを見てほしい。
他の誰かと比較するのではなくて、ただのマリアを見てほしい。
近頃のマリアの願いはそれなのであった。