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花冠の花嫁  作者: 瑠璃
第3章 舞踏会までの道
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2.大御所出現

「おばあ様!!」


控室で待っていたのは、マリアの祖母である国太后であった。


「きれいなお姫様だこと。マリア。」


マリアはそれまでの沈んだ気持ちも忘れて、祖母に抱きついた。

そばに控えていた侍女たちは気を利かせて一旦退出する。


国太后は数年前から足が弱くなってきており、杖が必要になっている。

また、首都近郊の療養地ですごすことが多くなっており、王宮にいることは稀だ。


去年はデビュタントの時期にも療養先から戻ってきていなかった。

療養地からマリアあてにメッセージカードが届いていたため、今年もこれないとマリアは思っていた。

しかし、何と言っても一生に一度のこと。

せっかくの晴れ姿を祖母にも見てもらいたいとマリアは思っていたので、とても残念だったのだ。


「おひざの具合がお悪いと聞いていたから、いらっしゃれないと思っていたわ。」

「マリアの晴れの日だもの。鞭をうってでも来るわよ。」

「そんな。無理をなさったんじゃない?」

「大丈夫よ。今のは言葉のあやよ。本当にきれいなお姫様。…でも、口紅が取れているし、涙のあともあるわ。」


祖母にも気づかれてしまった。

そんなに目立つだろうか。

思わず頬に手を当てたあと、唇にも手をやる。

手にはうっすら口紅の色がつく。


マリアの行動を見て、祖母は怒ったように言った。

「フレッドにいじめられたのなら、この婆に言いなさいな。とっちめてやりますからね。」


幼いころによく言われたセリフに思わず笑みがこぼれる。

祖母をみると、口調だけで、目は悪戯っ子のように笑っていた。


「おばあ様、フレッドにはからかわれたけど、涙のわけはそれじゃないの。嫌なことがあったんじゃない。うれしくっても涙はでるものでしょう。うれしいことがあったの。」

「うれしいこと?」


どうしても卑屈にいろいろ考えてしまうマリアだったけど、幼いころからこの祖母はいつもマリアの味方だった。

取り留めのない話をたくさん聞いてくれてマリアの気持ちになってくれる祖母がマリアは大好きだった。


「ええ。うれしいこと。」


マリアは祖母のそばから離れて、窓際に立った。

外には広大な庭が広がっている。


「わたし、今まで、父様や母様、兄様、姉様、みんなと容姿が違うことがコンプレックスだった。ふつうなわたしががっかりされるんじゃないかって。でも、ある人から言われたの。人を見るときには容姿がすべてじゃないって。外見には内面も反映されるはずだって。しかも、わたしはその両面がいいし、きれいだって言ってくれて・・・出会ってからまだ2回しか会ったことがないのに。すごくうれしかったの。」


そのときの情景が目に浮かぶ。


「うれしいって思ったら・・・自然に涙が出てきて、止まらなくなっちゃったの。」


振り返ってそういうマリアの表情はとても大人びていて、きれいだった。

つぼみだった花が今、咲き始めたように…。


「…まだまだ子どもだと思っていたけど、少し会わない間にマリアも、大人になったのね。」


その様子をみて、ポツリと祖母は言った。


「えっ?何?おばあ様。聞こえなかったわ。」


きょとんとして聞くマリアを見て、王太后は穏やかな笑みを浮かべたのだった。

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