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花冠の花嫁  作者: 瑠璃
第2章 謁見までの道
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7.謁見室までの廊下

ドアを出て、静かに深呼吸をする。

背中に汗がつたうのがわかった。


周囲の人が、ミーレッシュ公爵令嬢という名と、マリアの存在を一致させるのが怖い。

名を呼ばれてから前室の出口のドアまでは、ほんの一瞬。

「わたしらしく」と言い聞かせても怖いものは怖い。

公爵令嬢らしく、にこやかに笑えていただろうか…それも不安だ。


でも、何とかその場を逃れたことにほっとした。

視線は感じたが、その意味までは判別できなかったことにも不安はあるものの、顔を上げてドアまで歩けた。

上々だろう。


「そんなに緊張するものか?前室が。ふつう、これからの方が緊張するんじゃないか?」


前を行く侍従が振り向き、声をかけてきた。


「でも、お前の場合、叔父と従兄弟に会うだけだもんな。緊張はしないか。でも馬車泊まりから結構緊張してただろ。そういえば、お前の名前を呼んだの、俺だったんだけど…。気づかなかったか?」


「っっっ!!なんで……」

「ちょっと。ここどこだと思ってるんだよ。大きな声は出すな。」


よく顔をみるとエリックだ。

自分のことで精一杯で前をいく侍従の顔まで見ていなかった。


驚いてしまい、目を見開いてしまう。


あわてたエリックに手で口を押えられ、脇の通路に連れ込まれる。

ひそひそ声で咎められた。


(謁見室までの通路だった!!ここで大声をだすと、衛兵が来ちゃう!!)


頷き、理解したことを示すとエリックはマリアの口から手を放した。


(でも…なんでここにいるの?馬車泊まりって…どこから見てたの!!しかもその恰好…)


驚くマリアをよそに、エリックは自分の手をみて「口紅がついた。」なんて顔をしかめている。

しかも、マリアの口紅がついた部分を、ペロッとなめるものだから、なんだか恥ずかしくなって赤面してしまう。


「…なんで顔が赤くなっているんだ。熱でもでてきたか?知恵熱??」


手を額に伸ばしてくる。

その手を払いつつ、マリアは答えた。


「失礼ね。どうってことないわよ。…それよりどうしてここにいるの?馬車泊まりって…なんで侍従に化けているの?」


ニヤっと笑ってエリックは答えた。


「ちょっと捜査。」

「なんなの?でも前室に潜んで行ってもあまり特になるものはない気がするけど…」

「今年のデビューで一番美人なのは誰か、仲間内でかけていてさ。その事前調査なんだよ。」

「なにそれ!!わたしたちにすごく失礼じゃない!!」

「心配するな。俺はマリアに入れた。」

「そういうことじゃなくて…っていうかわたし!!エリック負けちゃうわ。今からでも遅くないから前室でもっとよく見て、美人に投票しなさいよ。」


そういうと、エリックはおもわず噴き出した。


「お前、かけをされていることにもっと怒るかと思ったら、俺が負ける心配かよ。」

「申し訳ないじゃない。あきらかに負ける勝負をさせるのは。」


「…どうして、そうやって自分を卑下するのかな。」


エリックの言った言葉がそれまでの軽薄な感じではなく、重みをもっていた。

マリアは彼の顔を見た。


「人を見るときには、容姿がすべてではないだろ。容姿ももちろんあるだろうけど、内面がすくなからず外面にもでてくるものだよ。俺からみれば、マリアは両面が優れていると思うけど。」


(そんなこと言われたことなかった。)


いつも、できのいい兄弟と比べられ、コンプレックスの塊だった。


(こんな風にわたしのことを言ってくれる人もいるんだ。)


涙がにじんでくる。


「っっ!泣くな。俺、そんな悪いこといったか?ここで泣いたら、顔が崩れて謁見で恥をかくぞ。」


涙を止めなきゃとおもったけれど、止まらなかった。

一筋涙がこぼれる。


「悲しいんじゃなくて、うれしいの。ありがとう。エリック。」


泣きながらマリアは笑った。

公爵令嬢らしくと意識しすぎて、こわばった笑顔ではなく、キラキラと輝いた太陽のような笑顔だった。


「そうやって笑えるんじゃないか。さっきの作り笑いより、全然、お前らしい。」


エリックもマリアに笑いかけてくれた。



“ドキッ”


マリアの心が高鳴った。

涙も止まり、顔も赤くなってくる。


(??どうしてエリックの笑顔をみただけで、顔が赤くなってくるのよ!!)


思わず、エリックから顔をそむける。


「どうしてそっち向くんだよ。…また顔が赤いぞ。本当に大丈夫か??」

「本当に大丈夫だって。…泣いちゃったから恥ずかしくなっちゃったの!!気にしないで!!」


苦し紛れに答える。


(どうして!!今までエリックの方を向いて話ができていたのに、そっちをむけないよ。)


「ミーレッシュ公爵令嬢。どこにいらっしゃいますか?」


そこに謁見室の方から、自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。


「いけない!!謁見室にいかなきゃ。」

「すっかり忘れてたな。」

「忘れていたって。エリックが案内してくれなきゃ、謁見室にいけないじゃない!」

「それもそうだな。悪かった。」


マリアの名前を呼んでいた別の侍従に返事をし、エリックとともに再び謁見室に向かう。


謁見室の扉を開くとき、耳元でエリックにささやかれた。


「緊張がいい具合で解けただろ。」


(もしかして、わたしのこと心配してくれたの?)


心が温かくなった。

そしてマリアは笑顔で、謁見室に入室したのだった。


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