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花冠の花嫁  作者: 瑠璃
第2章 謁見までの道
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6.謁見前室

周囲を見渡してマリアは思った。


(結構たくさんの人がいるのね。)


謁見する前に、令嬢は一つの部屋に集められる。

今年デビューを迎える令嬢は20人程度のようだった。

ちなみに令息の謁見は別日に行われる。

しかし、大抵の場合、謁見前から王宮で何らかの仕事をしている場合が多いため、それほど世間の注目はあびない。

だから、毎年話題となるのは、令嬢の方だ。

令嬢の場合は、親戚等は別として、公の場に姿を現すことは、謁見前はほとんどないことが常である。

ゆえに、謁見とそれに伴う舞踏会でのしぐさが“うわさ”としてイメージを決めてしまうことが多いのだ。


(姉様のときは、そうとう噂されてたみたいだから…。兄様と双子ということもあって話題は欠かなかっただろうし。)


テルスのデビュー前に、アーサーは王立騎士学校を卒業し、騎士見習いとして、王宮で働き始めていた。

アーサーも整った容姿をしているため、双子のテルスにも相当、周囲の期待はあっただろう。


(その噂を超えるほどの美女だもんなぁ~。姉様は。)


その兄弟の妹として、自分にもその手の噂が立っていることは想像に難くない。


(その期待が重いんだよね…。この容姿じゃ…。)


侍従に謁見前の前室に案内されながら、こっそりため息をつくマリアであった。



前室につくと、すでに何人かの令嬢が室内にいた。

ソファーと机があり、腰かけている令嬢が多い。

部屋の隅には飲み物とお菓子が用意されており、室内にいた王宮の侍女に言えば用意してもらえるようだが、それを頼んでいる人はいなく、室内は張りつめた様子だった。

先客に声をかけて、マリアも空いていた窓際のソファーセットに腰かけることにした。


「ここ、座ってもよろしい?」

「……」


相手は無言だ。

下を向いており、マリアが声をかけたのにも気づかない。

具合でも悪いのかと思い、マリアはその人の腕にそっと触れて、もう一度いった。


「ごめんなさい。御気分でも悪いの?人を呼んできましょうか?」


その人は驚いたようにして顔を上げた。


「申し訳ありません。大丈夫ですわ。ちょっと緊張してしまっていて…お恥ずかしいところをお見せしました。」


答えた令嬢は栗色の髪に、新緑を思わせる緑の目をしたかわいらしい印象の方だった。


「いえいえ。お気になさらずに。お隣、座らせていただいてもよろしい?」

「どうぞ、お座りになって。」


了承を得て隣に座る。


(緊張している人が多いや。当然だよね…。国王陛下にお会いするのはほとんどの人が初めてだろうし。この状態じゃ、緊張して、お互いのことは印象に残りにくそう。)


自分も馬車の中ではこんな状態だったらだろう。

今、そう客観的に考えられるのはエリックのおかげだ。

心に少し余裕がでてきたマリアはそう思った。


室内に置かれた時計を見ると、10時40分をさしている。

謁見室には、一人ひとり呼ばれて挨拶に行く形式だ。

名前を呼ばれるまで、ここにいる令嬢の身分はわからない。

マリアの謁見予定時刻は11時と言われていた。


(緊張が和らいできたら、のどがかわいちゃった。まだ時間があるし、お茶をお願いしてもいいかな。)


隣に目をむけると、先ほどの令嬢の状態はかわっていいない。


(この方、少し飲み物でも飲んで、人心地ついたほうが、落ち着けるんじゃないかしら。)


もともと、人が困っているところを見ると、マリアは見過ごせない。

どうしても気になって、声をかけた。


「お話してもよろしい?」

「……。」


また無言だ。

腕に手をおいて再度言った。


「お話してもよろしい?」

「……ごめんなさい。わたくしったらまた物思いにふけってしまって…」

「わたし、緊張してしまっていて、少し、人心地つきたくて、お茶をいただこうと思うんだけど、一緒にいかが?」

「えっ。」

「お隣に座ったご縁だし…一緒に付き合ってくださらない?」


きつい言い方にならないように気を付けて誘う。

その方は少し困ったような顔をしながらも了承してくれた。

苦手なものがないかを聞いたあと、席をたって、侍女に少々リクエストをして、お茶を頼んだ。

席に戻ると、マリアは再度、その方に声をかけた。


「頼んできました。」

「ありがとうございます。」

「それにしても、いい天気ですね。」


空を見上げて、マリアは続けた。


「晴れてよかった。わたしの叔母のデビューのときは、今にも雨が降りそうで、ドレスが汚れてしまわないか心配だったんですって。」


本当の話だ。

デビューは令嬢たちの中で本当に強い意味がある。

叔母もよく、テルスやマリアにそのことを言って聞かせた。


「でも、その叔母は、謁見後の舞踏会で叔父と知り合ったというんだから、悪い日ではなかったと思うんですけどね。」

「…私もそういう方と巡り合えたらと思います。」


小さな声だったけれど、答えてくれた。


そんな話をしていると、侍女がお茶を持ってきてくれた。

ミルクが多めでお砂糖を少し入れたミルクティー。

マリアが落ち込んだとき、元気を出したいときによく飲むものだった。


一口、口に含むとその方は言った。


「…おいしい。」


マリアも一口の飲んで、答えた。


「おいしいですね。わたし、元気になりたいときには、よくミルクティーを飲むんです。そうすると、落ち込んでいた気分が上に向かって、何事もいい方に向かうきがするんです。」

言うと、その方も笑って同意してくれた。


(同性のわたしがいうのも、おかしいけれど…笑顔がかわいい方だな。笑えるということは緊張も取れてきたのかしら。)


そう思っていると時間になったらしい。


「ミーレッシュ公爵令嬢マリア様。謁見のお時間でございます。」


侍従の呼ぶ声が聞こえた。


「はい。」


マリアは答えた。


「楽しい時間をありがとうございました。では、あとで。」


なるべく優雅に席を立つ。

そばにいた、侍女にも声をかける。


「おいしいお茶をありがとう。」


侍女は驚いたようで、眼を見開いていたが、


「ありがとうございます。」


と言って、頭を下げた。


周りの視線が自分に向いている。


(わたしは、わたしらしく。)


背筋を伸ばして、その視線に負けないように、前室をあとにした。

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