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花冠の花嫁  作者: 瑠璃
第2章 謁見までの道
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5.馬車どまりの向かいの窓

-ガチャ


馬車のドアが開いた。

びっくりして、そちらをみれば、驚いた顔をした御者が立っていた。

物思いにふけっているうちに馬車どまりにきてしまったようだ。


(どうしよう!!いろいろ考えていたせいで…頭真っ白だわ。)


「どうかなさいましたか?マリア様」


御者が心配そうにみている。


深呼吸を一つして、自分の手を見た。


(震え、止まっている。あんなに止まらなかったのに…)


顔を上げた。


エリックのおかげで、あんなに否定したかった自分を肯定できた気がした。

令嬢らしくないといわれるわたしを認めてくれる人もいる。


(“面白いわたし”を認めてくれる人はかならずいるのよね。)


心が落ち着いた。

御者の手を借りて、ゆっくり馬車を降りた。




「御者が扉を開けてから時間がかかっていたようだが、何とか降りてきたじゃないか。」


馬車どまりの向かいにある建物の3階。

馬車どまりからは巨木の影で気づかれない窓からマリアの様子を観察している人々がいた。


「きっと寝ていたんだと思うよ。案外図太いからな、マリアは。」

「図太い??俺が会った時には結構、自虐的だったぞ。ティアラのみっていうのも新鮮できれいだな。フレッド。」

「マリアが!!どんなマリアに会ったんだよ。エリック。口にクッキーのかすつけてても、つまみ食いはしていないって言い張っていたんだぞ。」

「…そっちに反応するのかよ。しかも、いくつのときの話だ、それ。」


観察していたのは、マリア達と一緒に街に出かけたエリックと、王太子フレッドことフレデリックだった。


王太子フレデリック・イキシア・ランドウィルは20歳。

金髪・碧眼の王家の特徴を引き継いだ容姿をしている。

国王ががたいのいい、筋肉質の体をしているのに対して、王太子は細みであり、隣に並ぶと、ややひ弱な印象がある。

絶賛花嫁募集中であり、未婚の女性たち、またその親たちからは相当な狙いをつけられている。

そしてマリアたち兄弟の従兄弟にあたる。


「僕が、7歳で、マリアが3歳のときかな。でも三つ子の魂百までっていうでしょ。根本は変わってないと思うよ。」

「そんな幼いころのことをネタにされて、マリアも気の毒だな。」

「妹みたいなものだからね。一番下の兄弟はかわいがられるっていうのは万国共通じゃないの?マリアの次の馬車でおりてきたのが、今回の拝謁の令嬢の中ではピカ一の美人って有名なリベラ侯爵令嬢だよ。」

「ふーん。いまいちだね。美人なのは美人だけど、隙がない気がするな。」

「そのあとの黒髪の子が、刺繍とハープの演奏が上手なクリマト子爵令嬢だよ。その隣は歌声がきれいなリーズ伯爵令嬢かな。」

「そんな趣味の話をされてもなぁ。やっぱ、中身がどんなかわからないとお話にならんな。っていうか…お前、今回拝謁の令嬢の顔と名前、趣味まで網羅しているのか?」

「当たり前でしょ。いつ、結婚!!って仕掛けられるかわからないんだから。予防線を上手に引いておかないと、自分の首を絞めることになるし。僕の心の中で相手は決まっているんだから、余計な期待をさせちゃうとお互いに悲しいでしょ。」

「…上手に言えばそうだけどな。裏まで考えると、相当、黒いぞ、お前。」

「僕より、黒い君に言われたくないね。ちなみに…僕は僕のかわいい妹が心配で、こっそり見に来たわけだけど…。君はなんでついてきたの?」

「別にいいじゃないか。色とりどりの初々しい花を見学できる機会なんてそう簡単にはないだろ?」

「自前でなんとかすればいいじゃないか。シリスター皇太子エリック殿下。」

「……嫌味か?」

「嫌味っていうか牽制。初々しい花を見に来たなんていいながら、結局ほめたのマリアのことだけだし…なんでそんなにマリアが気になるの?アーサーの話だと、ちょっと一緒にでかけただけだろ?君も、お嫁さんを募集中だったっけ?」

「たくさんいるなかで、知り合いがいたら気になるものだろう。」

「そういうことにしておいてあげるよ。何人も色々なところの令嬢が通っても見向きもしなかったことはちゃんと記憶しておくね。」

「…いい性格しているな。お前も。」

「お互い様でしょ。兄の一人としては大切な妹のこととなると、いろいろと考えてしまうんだよ。」

「気の毒だな、マリアも。」

「頼もしいの間違いじゃないの。」


フレッドが言うと、エリックは肩をすくめて答えた。


「そろそろ、準備しないと謁見に間に合わないんじゃないか。俺は、そのあとの晩餐会だけだから問題ないが。」

「もう、そんな時間か。じゃあ、そろそろ出ようか。」


ゆっくり窓辺の椅子から立ち上がりながらフレッドは答え、二人はその部屋をあとにしたのだった。




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