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12月第3週(3)

 自転車を30分ほど漕いで、私は法度駅前の公園にたどり着いた。一応そこそこ大きな駅なのだけれど、所詮地方都市。あまり人は多くない。ちなみに自転車は宏美から借りているものだ。通学は浅井君が足になってくれているけれど、さすがに予定が会わない日もあるから、やはり持っていたほうがいいということになった。以前持っていた自転車は今頃鉄屑になっているだろう。

「あ、優希~!」

 噴水の向こう側で宏美が手を振っている。寒さのためか赤く染まっている頬が可愛い。相変わらず足長いなぁ。

「お、今日も素敵な寝癖。」

「あぁ憎らしいこのイソギンチャク頭め!!」

「いや嘘だよ?! 自分を信じて?!」

 危うく自分の髪を引き抜きそうになっている私を宏美が慌てて止める。宏美もまさか私がここまで自分の髪にコンプレックスがあるとは思ってなかったようだ。

でも分かってほしい。毎朝鏡の前で格闘する私の気持ちを分かってほしい。

「は、私としたことが取り乱してしまった。」

「優希はいつでも常識の斜め上だね~。それじゃあ行こう。」

 困ったような、見守るような優しい笑顔を見せる宏美。


 そういえば、宏美の話をしておこうと思う。

 中村宏美。慎重165cm。体重は秘密。私の一番の友達。

 宏美と出会ったのは、高校入学直後。

 友達のほとんどいなかった私に、真っ先に話しかけてくれた。


 クラス分けが発表された時、私は友達の名前を見つけることができなかった。いや、探す名前がなかった、というだけなのだけれど。

地元の高校に進学した高校生なら普通友達の一人や二人一緒の高校に進学しているものなのだろうけれど、私は普通ではなかった。私に友達と呼べる人間は一人もいなかったのだ。中学校に通っていた私は、私であって、私ではない。

私が作りだした、もう一人の「私」。

天然でもなければ、ドジっ子でもないし、非常識でもない、絵に描いたような優等生。

それがもう一人の私。先生にも誉められて、みんなからいい子と呼ばれて、いつも笑顔。そんな「私」。もう一人の「私」と友達になった人は何人かいたけれど、それは私にとっては友達じゃない。あくまで上辺の付き合い。それこそビジネスみたいなもの。本当に気を許せる相手は一人もいなかった。

 私は高校でも、もう一人の「私」に表に出てもらっていた。「〈変わった子〉神埼優希」は部屋に引きこもっていた。

 そんな私に、宏美は声をかけてきた。

「ねぇ優希ちゃん、あなたの笑顔、ムカつく。」

 それが宏美の第一声。

 放課後みんなが帰った教室で、素敵な笑顔を添えて、プレゼントされた。

 

 宏美はふらふらしてるようだけれど、実は意志の強い子だ。だから私が「私」を演じていることが本当に許せなかったんだと思う。もう一人の「私」とではなく、私と友達になりたかったんだ。

 私を見てくれた、初めての人間だった。私を評価の対象として見る人間はいくらでもいたけれど、友達として見てくれる間は初めてだった。

 私は宏美とどんなふうに接すればいいかわからず、しばらくは喧嘩ばかりしていた。けれどいつの間にか普通に話せるようになって、いつの間にか相談もするようになって、いつの間にか友達になっていたように思う。大きなきっかけなどなく、本当にいつの間にか友達になっていた。

 私が今まで「私」を演じていた理由も理解してくれて、みんなの前では私のことを優等生だと思っているようなふりもしてくれた(浅井君にも最初私が優等生だと紹介した)。浅井君と私が付き合っていることを伝えた時はさすがに驚いていたけれど、温かく見守ってくれている。


 宏美がいなかったら、私はいつまでも「私」だった。


 なんてしみじみしているうちに、宏美と私は近くのカフェへと入る。

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