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1月第1週~週末~

 週末なんて、大っ嫌いだ。

 

 浅井君が、来ないから。


 時刻は10時12分。

 約束の時刻を過ぎているということは、つまり、もう彼は来ないということだ。それでもまだこうやって待っている私はかなり諦めの悪いほうらしい。

 あれから一晩明けて。

 年も明けて、何か変わったかと言えば、何も変わっていない。

 ニュース速報でやっていたが、革命家の活動は頓挫したそうだ。最後の最後で、支持者が足りなかったらしい。浅井君が何かをしてもしなくても、結局彼らに世界を変える力はなかったということか。今は放火の責任を押し付け合って、醜く争っている。

 放火された法度市の復興は少しずつ進んでおり、その中でも私の家は特にすぐ再建された。両親の経済力が物を言ったらしい。さすがに大企業の幹部なだけはある。

 ただ、驚いたことがもう一つ。

 姉が、帰って来たこと。

 特に何を話したわけでもないけれど、私がいる家に帰ってきてくれた。それだけで驚きだった。この家に私がいてもいいのだと、姉が認めてくれたんだとそう思っている。


 とまぁ、色々あって。


 私は玄関先に座って浅井君を待っている。

 浅井君が家に帰ってきたのは未明のこと。愛美さんからすぐに連絡があり、浅井君の様子を知ることができた。疲労困憊の彼は一言、ありがとう、と言ったそうだ。そしてすぐに眠ってしまったんだとか。

 そこですぐにでも声が聞きたかったけれど、そこはぐっと堪えて、今に至る。

 あの時「そんな気がした」ことを、大切にしたかったから。


 浅井君との待ち合わせは基本的に午前10時だ。だから特に予定がなければ約束の段階での時間の指定は必要ない。

 それなのに、もうこの時間。

 浅井君は遅刻をしない。それだけ、責任に生きている男なのだ。

 要するに、もう彼は来ない。

 まぁそもそも約束をしていたわけでもない。約束をした気がしただけなのだ。

 それに彼は疲労困憊のはず。少し休んだくらいでは動けないかもしれない。

 だから、彼を責めるのはおかしいし、待っているのもおかしいのだけれど…。

「あと5分だけ…」

 なんてことを繰り返しているのである。


 そういえば、ここで残念なお知らせ。

 浅井君への誕生日プレゼントを失くしてしまった。これは全面的に私が悪い。あの騒動の中で、ずっとポケットに入れっぱなしにしていたのだ。あちらこちらに走りまわっているうちに、落としてしまったらしい。結構奮発して買ったのに…無念。

 ただクリスマスプレゼントだけは無事に守り切れた。けどまぁ、来年に持ち越しになりそうだ。今年は忘れてたってことで見逃してもらうしかない。いや、待てよ。そもそもあの騒動は浅井君のせいではないか? じゃあ私悪くないじゃん。


「あと5分…」

 携帯で時間を確認しながら呟く。

 もう来ないのはわかっていた。けれど、来ないということを認めたくないのだ。

 彼との約束を、もう、破られたくない。


「もう5分…」

 もう何回目かわからない。泣きたい気分だった。

 いやこれはもう泣いてるな。泣きすぎだろ私。


――


「――神埼。」


「…優希?」


 はっとして、私は顔を上げる。


 目の前が滲んで、前が良く見えない。

 泣きすぎだって思うかもしれないけれど、許してほしい。

 ずっと会いたかった人と、死にそうなくらい好きな人と、会えた時くらい泣いたっていいでしょ。

「…今何分だと思ってんのよ。」

「あ、いや、僕の時計ちょっと遅れてるみたいでさ…」

 そう言って私に腕時計をつけた手を伸ばしてくる。確かに10時を指している。

 あれっ、時計…?

このデザイン…この妙に渋いデザインは…。

「これなによ?」

「あぁー…もらったんだよ…」

「誰に。」

「姉さんに。」

 …あの変態め。私に弟を奪われるのが嫌で嫌がらせしたな?

 私は思いっきり眉間に皺をよせて見せる。

「というかさ、なんで優希、晴れ着なの?」

 私を上から下まで舐めるように見て、彼は言う。

 このポンコツ野郎、ちょっと考えればわかるでしょ。決まってるでしょ。

「あなたと初詣だからちょっと気合い入れたのよ! 悪い?!」

「いや、全然悪くない! すっごくいいです!!」

「もう、なんなのよ!」

「いやごめんって!」

「もう、もう! もう!!」

 私は彼の胸を思いっきり叩く。硬い。この筋肉質め。

 ひとしきり叩いた後、慌てて謝る彼の胸に私は顔を埋める。

「…優希…」

 彼は私の頭を撫でてくれる。

「色々待たせちゃって、ごめんな。」

「許さない。」

「…えぇ?」


「私を幸せにしたら、許してあげる。」


 嘘だった。

 もしこの言葉が本当だったら、私は浅井君のこともう許してることになるんだもの。

「あぁ、努力するよ。」

 なんて彼は言うから、私は彼の体を強く抱きしめる。

「あ、なんかこれ、ちょっと…」

 恥ずかしがっても離さない。離したくない。


「…優希?」

「…」

「あの…そろそろ行こう、な?」

「やだ。」

「…じゃあ、キスしてあげるから。」

「足りない。」

「…?! えっと、じゃあ舌までちゃんとやるから!」

「全然足りない。」

「これ以上言わせるのか?!」

「え、言ってくれるの?」

「…不覚!!」

 なんて。

 意地悪に返事してみたり。

 

 クリスマスも、誕生日も、大晦日も、全然一緒に居られなかった終末。

 全部取り戻すくらい、幸せにしてもらうことにしよう。


「あぁもう時間なくなるじゃん! 行くよ!」

「さっきまで行くの渋ってたのは優希じゃありませんでしたか?!」

 私は彼の手をしっかりと握り、歩き出す。

 

 週末に見る夢は。

 結構、幸せな夢みたいです。


これでこのお話はおしまいです。

前作で書いたキャラの話が妙に膨らんだので書きました。

キャラが独り歩きするとはこのことですかね。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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