12月第5週(5)
「それじゃあ、これからだけど。」
だいぶ落ち着いてきた私の様子を見て、愛美さんは言う。
「多分、啓司は結構事を進めてるんでしょうね。先週法度市が放火されたのも、多分啓司の意志が革命家に介入したんでしょう。」
多分そうだろう。私は頷いて同意する。浅井君は、私の家庭の不和を知っていた。だから、私の家が、まず許せなかったんだろう。だから、法度市が対象になった。
「そろそろ仕上げの段階なのかしら。あと啓司がしそうなことは…。」
愛美さんは頭を抱える。あと浅井君がすることってなんだろう。
世界を変える。そう言い切った男。
彼の望むこの世界の終末はどんなものなんだろう。
「なんなのよもう…こそこそしないで叫んでくれればいいのよ。」
はぁ、と愛美さんが大きなため息を吐く。
本当に、叫んでくれればいいのに。僕はこうしたいよって、叫んでくれればいいのに。もう、こそこそしちゃって、わかるわけないでしょ。
「…叫ぶ?」
愛美さんは突然自分で言った言葉を繰り返す。
「なんだろう? 叫ぶ? 優希ちゃん何か引っかからない?」
「叫ぶ…大声出すってことですか?」
「大声…声……啓司、なんか声って言葉使ってなかった?」
「あ、使ってました。手紙ですよね。」
「声よね…」
「声ですね…」
声…声…声…
ぶうぶつと、呟いてみる。
声…声…声…
まずい、声がゲシュタルト崩壊してきた。
「啓司にとって声ってなに?」
「世界を動かす力です。」
「世界を動かすには?」
「大きな声が必要です。」
「大きな声を出すのは?」
「大衆です。」
「人が集まるのは?」
「ショッピングモールです。」
「そ」
「こ」
「だ」
二人で同時に立ちあがって、田中君の部屋を後にする。
「あ、でも、啓司まだこの町にいるのかしら。」
愛美さんは疑問を投げかけて来た。それでも、準備をする手を止める様子はない。
「いますよ。きっと。」
私は反射的に答えた。本当に反射だ。全然考えてない。
けれど、私は口はその言葉にそれらしい理由を添えた。
「彼、寂しがり屋ですから。」
「ふふ、そうね。」
田中君、ちょっと待っててね。
あなたの友達を、この世界に連れ戻してくるから。




