12月第4週(7)
とまぁ色々あって、朝の習慣は全く実行できなかったけれど、私と神埼家との繋がりはまだあるのだと確認することができた。こんな事件がきっかけになるとは、あまりいい気分ではない。まぁ、しょうがないと諦めよう。
そして今、私がいるのは浅井家の台所。
家を焼け出された私を受け入れてくれた寛大な浅井家の人のために、今日実行できなかった皿洗いをここで実行しようという計画だ。うん、これぞ居候のあるべき姿。
と、そこまでは良かったのだが、いざ皿を洗おうとして考えてしまった。
「火傷って…やっぱ洗剤とかまずいかな…」
包帯を巻かれた左手を見ながらぼんやりと考える。多少の怪我なら全く気にせず洗い物だの掃除だのしてしまう私だけれど、火傷はどうなのだろう。私の人生で、火傷の経験は意外と少なかった。
「ゆーきー…ちゃん!!」
「ひぃ!!」
思いっきりびっくりしてしまったが、そこは許してほしい。いつの間にか私の背後に変態、否、女の人が立っていたのだから。
「ちょっと愛美さん!何で私のブラのホック外してるんですか!!」
「あぁいやぁ優希ちゃん、スタイルいいから思わずさぁ。ごめんごめん。」
「それ全く理由になってませんよね。」
私はホックを留めるべく背中に手を回す。この時期で厚着しているというのに一瞬でホックを外すとは…この人は重度の変態、否、手練れだな…。
「…隙あり!!」
「うわっ!!」
今度はガラ空きになった胸に直接攻撃を加えてきた。背中に手をまわしていた私は反応が間に合わない。
もう鷲掴み。AVじゃんこれ。
「さすが優希ちゃん、ブレザーの上からでも絶品だ!」
「褒められても全然嬉しくない!!」
急いで愛美さんの手を振り払うと、下がって距離を取る。急いでブラのホックを留める。
「はぁ…油断も隙もありませんね。」
「もちろん、私を舐めてもらっちゃ困るわ。」
そう言って胸を張る愛美さん。自分も立派に膨らんでるじゃないですか。
「もう…なんで彼氏でもない人に胸揉まれなくちゃいけないんですか。」
「あら、彼氏になら揉まれてもいいのね? 啓司も幸せものだ。」
「いや…別に…そんなんじゃないですから!」
「ははっ。優希ちゃん可愛いなぁもう。」
私の抗議もどこ吹く風、軽快に笑う愛美さん。この人と浅井君の血が繋がってるのか。嘘でしょ。
「…なんですか?」
愛美さんは急に黙って、私、私の左手、台所を見比べる。そしてもう一度私を見る。どうやら私がこれからしようとしていることに思い至ったらしい。
「優希ちゃん、左手見せて。」
急に真顔になって、愛美さんが私に言う。
「え、あ、はい…」
その気迫に押されて、私はあっさりと手を差し出す。愛美さんはその手を掴み、するすると包帯を解いて行く。自分で言うのも何だけれど、火傷の傷跡は痛々しい。
「ダメよ。」
「…はい?」
間抜けな声を出す私。何がダメなのかはもちろんわかっているけれど。
「これ結構痛いでしょ。よく洗い物なんてしようと思ったわね。」
呆れた声で私は窘められる。
「え…まぁ…あははははは…」
「笑って誤魔化すなんてベタ過ぎてダメよ。」
割と傷つくダメだしをされた。ベタかぁ…変人神埼なのに…。
「包帯また巻いてあげる。私の部屋においで。」
愛美さんは私の手を引いて自分への部屋へと導く。特に逆らう理由もないので、私は素直に着いて行った。




