12月第2週(1)
前作「とある高校生のお話」の続編です。
多分読んでないと話がわからないと思うのでご注意を。
この作品はフィクションです。作中の事件や名前は実在のものとは関係ありません。
週末は特別だ。何気なく生きていると見過ごしてしまいがちだが、私たちは週末があるからこそ平日頑張れるというもの。一生懸命なんて言葉があるが、本当に一生、懸命になるなんて無理。どこかで頑張り、どこかで休む。人生の、本当に小さな節目。それが週末。
これはそんな週末に起こる、ちょっとした事件のお話。
12月 第2週(1)
週末がやってきた。
朝晩の冷え込みも厳しくなり、気づけば吐く息が白くなっていた。暖房を入れていない部屋は驚くほど寒く、私は布団から這いだせない。
もうこんな時期なんだなぁ…。あと1カ月で今年も終わりか。
布団からできるだけ体を出さないようにして枕元の時計へと手を伸ばす。午前10時。学校には完璧に遅刻だけれど、今日は土曜日だ。誰が最初に暦を作ったのかは知らないが、週末を作ってくれたことには感謝せねばなるまい。いや、週末を休みにした学校に感謝すべきなのか。まぁどうでもいいや。
「うわ、6℃しかないじゃん…私の部屋だけ欠陥住宅なのかな。」
部屋なのに欠陥住宅という表現はおかしいけれど、そんなことはどうでもいい。
時計に内蔵されている温度計の表示に愕然としながら、私は伸ばしていた手を布団の中に戻した。あぁ寒いなぁ…寝てたいなぁ…。
ごろり、と私は寝がえりを打つ。
「…うわぅ?!」
思わず奇声を上げてしまったけれど、まず私の話を聞いてほしい。
冬、気温が6℃、布団でぬくぬくとしていたところで布団をいきなり引きはがされたら、そうもなるでしょう? 悲鳴ぐらい上げるでしょう? 上げないとおかしい。異論は認めない。
まぁ別に誰かが私の布団を引きはがしに来たわけではないのだけれど、結果それと同じ状況になった。布団がずれていたようで、布団は私の寝がえりで私の上から完璧に外れてしまったのである。全く誰が私にこんなふうに布団をかけたんだか…。
べ、別に私の寝姿を見せてるわけじゃないんだからね!
さ、朝のツンデレサービスも完了である。私、絶好調。
あ、申し遅れました、神埼優希です。
釣り目、スタイル良し、顔良し、成績良し、素行良し、天然。
完璧じゃん。需要ありまくりじゃん。さすが私。
まぁ天然に関しては彼氏の前でしか披露してないけれど。
まぁ私の痛い自己紹介はこれくらいにして…あ、自分で痛いって言っちゃった。まぁいいや。
布団を失った私は敷布団の上で猫のように丸くなっていたわけだが、寒さに慣れてくると別に大したこともなくなった。時計を見ると10時30分。あ、私二度寝してるじゃん。風邪ひくわ。
私はほとんど寝ぼけたまま、充電スタンドに立てている携帯電話へと手を伸ばした。ぼんやりと目を開けた時、真っ先に携帯のイルミネーションが目を突き刺してきたからだ。もともと北向きの窓である上に遮光カーテンで窓を塞がれているこの部屋では、着信を表すその光は意外なほど眩しい。
「はぁ…あぁ…参ったな。」
10時からきっかり5分置き。
不在着信6件。受信メール6件。
差出人、浅井啓司。
私の彼氏からである。
きっかり一定の間をとって連絡してくるあたり、浅井君らしくて素敵…じゃなくて。
私は慌てて電話をかけ直そうとする。しかし私が発信ボタンを押すより早く、携帯の画面には電話着信の画面が表示された。10時35分。相手は言うまでもない。
「もひもし…」
噛んだ。
「あぁ神埼? 噛み具合が凄く可愛くて素敵なんだけど、約束の時間過ぎてるってのはそれじゃ誤魔化せないぜ。」
恐い。凄く恐い。
私の彼氏、つまるところの浅井君は非常に時間に厳しい。いつもなら頼もしいスケジュール帳になってくれる彼(彼氏をなんという扱い)なのだが、何か約束している時の彼は時限爆弾だ。早く行って解除しなければ、彼は爆発してしまう。しかも、地味に爆発する。いっそ大爆発してくれた方が助かる。もちろん彼も堅物ではないので「遅刻してもいいから連絡して」と言ってくれているのだけれど、残念なことに私が遅刻する時は大抵寝坊なのである。連絡できるわけがない…。
「3分間待って下さい…」
「3分?本当に3分でいいのか?」
「すいません15分待って下さいお願いします。」
迫力に押されて、下手に出てしまう私。何やってんだか。
このやりとりだけ見ると私がまるでDVでも受けているかのようだけれど、実際は全然そんなことはなくて、日頃の浅井君はドMもドM、私からあれやこれやと虐げられる毎日を心から楽しんでいる。私にとっても、彼が一生懸命私を弄ろうとしてくるのを叩きのめして自分のいいように持っていくのが堪らなく愉快なのである。
そんな彼が時間にだけは厳しいのだから不思議だ。私の送り迎え(私の通学は彼のバイクに頼っている)も時間通りきっちり行われていたし、もともと時間にシビアなタイプだったから、当然と言えば当然なのかもしれない。実は彼の心臓は時計なのかも。もしそうだとすれば彼の心音は秒針の動く音か…うーん、それはちょっと嫌だな。
そんなことを考えながら私は服を着替え、顔を洗い、歯を磨いて、靴を履き、家の戸締りをして、玄関の鍵を閉め、家の門をくぐり、浅井君の前に立った。さぁ何分何秒?!
「14分42秒。なかなか頑張ったな。」
そう言ってにやりと笑う浅井君。ヤバい、かっこいい。
「けど、遅刻はダメだから。ちゃんと謝るんだ。」
表情をキリッと変えて、はっきり言う浅井君。
彼、自分では気づいていないようなだけれど、かなりイケメンの部類に入る。髪はボサボサだし、目つきが鋭くてぱっと見ちょっと怖い印象はあるけれど、どこか頼れる雰囲気がある。例えるならデスノートのLみたいな。顔がそのまま似ているわけじゃなくて、何となく雰囲気が。
「…ごめんなさい。」
まぁそんな顔で言われたら、謝りますよ。私は決して面食いではないけれど、もう歯向かう術なし。まな板の上の鯉みたいな。恋みたいな。
「あまり上手いことは言えてないけれど、それでよし。じゃあ行こう。」
浅井君は再び笑顔に戻って私を促す。
モノローグにもツッコミを入れてくるあたり、さすが浅井君である。
実は今日、10時に浅井君が迎えに来て、一緒に買い物に行く予定になっていた。そろそろクリスマスだから、プレゼントを見ようと私が誘ったのだ。お互いに欲しいものを何個か選んでおいて、後日その中から何かをプレゼントするという流れだ。サプライズ的な楽しみは減ってしまうけれど、外れはなくなるので、二人ともそれで納得した。保守的な2人なんです。
と、見せかけておいて、私は彼の誕生日プレゼントを選ぶのが真の目的なのです。策士ですなぁ私。12月26日が誕生日である彼は、いつも誕生日とクリスマスを一緒にされていたらしいけれど、私がいる限りそれはない。だって私も誕生日とひな祭りを一緒にされて不満だったんだもの。気持ちわかっちゃうんだもん。
にもかかわらず私は寝坊してしまうわけです。今までの話だと彼が時間にとにかく細かくてうるさい人のように見えるかもしれないけれど、今回は私が悪い。というか、そもそも10時に起きた時点で二度寝してなくても10時の待ち合わせには間に合わないわけで。
…目覚ましの時間、間違えちゃってた?
なんだか重大な事実に気づいてしまった気がするが、これは浅井君には黙っておこう。




