朝、スキあらばキスせよ
窓から日が差し込む。
俺はいったい何時間眠る事ができたんだ…?
張り付いて離れない瞼を強引にこじ開けた。
ええ、朝ですね。
眠気さえなければ気分の良い朝だこと。
ふぁぁ~…。
「眠い…」
起き上がった拍子に首がこてん、前に倒れる。
………。
……。
これは、ダメかもしれないな…。
どうせ土曜日なのだ、寝てしまったところで困るのは俺だけだ。
あぁ、こういう時重力はなんと良い奴なんだろう。
力を抜けば自然と体がベッドに吸い込まれていくではないか。
睡魔に敗北し、俺は覚悟を決めた。
……。
れっつ二度寝。
おやすみなさい。
そんなことを、壊れかけた歯車ほどしか回転していない脳で考えていたとき。
ゆっくりと、だが確実に。
重力に逆らい、何者かが俺の肩に手を回した。
「……」
寝ぼけている僕は驚く事を忘れている。
それは相手の顔を見たところで変化は無かった。
そう。
少し遊んでいるようにも見える茶髪に、非常に整った顔立ち。
恐らく、外見だけで判断するならば…。
家族をとても大切にしていそうな心の優しいお姉さん
それが俺の最初のイメージだった彼女は、嫌らしい笑みと共に俺の目の前に現われてくださりやがりました。
目の前ってかほんとに目と鼻の先。
二度寝失敗です。
というか…、近いです。
俺は睡魔と闘いながら舌足らずな口で言う。
「 」
ほとんど夢の中にいるような気分だったから何と言ったかは覚えていない。
ただ彼女がこう言ったのは覚えている。
「ふふ……おはよ」
「ふぁい、おふぁおうござぃ――」
…ます。
………。
こ、これは!
睡魔が、彼女に吸い取られていく!?
眠気が吹き飛び、重たかった瞼もこの瞬間だけは軽く感じた。
硬直する体、緊張で動けません。
停止する思考、考えてる余裕なぞありません。
二度寝を妨害され、睡魔さえ倒される。
あぁ、なんて最低で傑作な朝なんだ。
………。
「ふ~」
彼女が離れたところで、脳にいるハムスターが本気を出した。
思考復帰、と同時に今の行動が何を意味するか理解。
「あ、あああああのあのえ?あのその…」
動揺する俺に彼女はまるで呆れたような顔をする。
というか、呆れているんだろう。
「いつまでそんな初々しい反応するつもりよー…キス程度なのにさぁ~」
「ま…まだ今日入れて三回しかされてないですよっ!?」
「仏の顔も三度までって言うでしょ~?それと同じで初々しさも三度までって――」
「言いませんよっ!あったとしても俺は絶対認めませんからっ!!!」
彼女、嫌らしい笑み、再び。
「あぁもう…。うるさいなぁ~…」
バッと。
接触。
四回目。
思考シャットダウゥゥン!!
「はへへあくひへはんお」
彼女が俺と口をつけたまま何か言った。
唇がもぞもぞ動いた事に若干抵抗。
そしてすぐにそれ以上の驚きがやってきた。
「ん~っ!!!」
彼女の舌が俺の口で動き回る。
必死で追い返そうと、舌で押すが互いの唾液が混ざり合い結局絡める破目に…。
嫌ではないけど、気持ちが悪い。
よく分からない不自然。
感情が行き来する余裕などない。
思考など不可能だし、思考したところで何も変わりはしない。
ただ、いいように弄ばれるだけ………。
……。
…。
「はぁ……はぁ……」
少し息の乱れた彼女。
後悔の嵐に苛まれた俺は毛布を頭から被って狸寝入り。
そうさ、これは夢だったのさ!きっと今は夢の中にいて、そろそろ目が覚めるころ。
無駄な現実逃避。
「今のは~…四回目?それともー…一回目?ふふっ」
彼女、真に楽しそうである。
俺、真に苦しそうである。
まず痛感したのは、人は外見じゃ何一つ分からないということ。
世の中には色々な人がいるものだ。
特に彼女は異端だ。
もぞもぞ。
「ねぇ~…」
最初のイメージは本当にやさしい姉、だった。
顔を合わせて1分が経つまではそんなイメージだったのだ。
もぞもぞ。
ある意味、これは性癖と称することができるレベルにまで達していると言っても過言ではない。
「ねぇ~…」
もぞもぞ。
がしっ――
背後から腕を回され、さらに両足で俺をがっちりとホールド。
振り返ってはいけません。
何故なら…。
彼女は。
彼女は……。
「唇が そこにあるなら チューします」
嫌らしい笑みも、今では恐怖の対象だ。
彼女は、俺の姉は、キス魔なのだ。