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第七章 メッセージ





俺は翌日、教室に入ると、クラスメイトがざわついている事に気付く。


「恩田君……。ちょっと」


と隣の席から水瀬が小声で言い、俺を教室の外に連れ出した。


「どうしたの……」


俺は昨日、秋吉先輩と話した渡り廊下まで来て水瀬に訊いた。


「何か噂になってるよ……。昨日の先輩と恩田君が、殴り合いの喧嘩したって」


俺は首を傾げた。

勿論喧嘩なんてしていないし、秋吉先輩とは良好な関係のままの筈だった。


「何でまた……」


水瀬も首を傾げる。


「わからないけど、昨日の様子で、そんな噂になったんじゃないかな……」


俺は小さく頷くと、


「ありがとう……」


と水瀬に礼を言って教室に戻った。


秋吉先輩と殴り合ったって事になると、俺と先輩は草森を取り合っている事になる。

そんな話が好きなのはわかるが、それは根も葉もない噂で事実が何処にも無い。


言いたい奴には言わせとけば良い。


俺はそう思って鞄を机に掛けた。


「おいおい、聞いたぞ。あの先輩とやり合ったんだって」


坂下が嬉しそうに俺の前で言う。


「そんな訳無いだろう……。秋吉先輩とは至って良好な仲だよ」


俺はわざと皆に聞こえる様に言う。

坂下は俺の顔を覗き込んで、


「一発も食らった感じ無いモンな……」


と言った。


「当たり前だ、馬鹿……」


俺はそう返して机の中に手を入れる。

するとノートの切れ端に殴り書きの様な文字で書かれた手紙が入っている事に気付く。


何だ……。


《恩田、お前、俺に嘘付いたな。今日の昼休みに体育館裏に来い 秋吉》


おいおい。

俺は嘘付いたのか……。

噂の原因はこの手紙か……。


俺は呆れてその手紙を机の中に戻した。






昼休みに俺はいつもの様に購買でパンを買い、自販機で缶コーヒーを買って、それを持って体育館裏に行く事にした。


秋吉先輩も誤解だとわかってくれるだろう。


俺はそう考えて、体育館裏に行き、日陰になっている所に座ってパンを食べた。


《今日はタマゴサンドだ》


と写真を撮ってカークに送った。

しかし既読は付かず返信も無かった。


「昼飯でも食ってるのかな……」


俺はタマゴサンドを食べてコーヒーを飲んだ。

タマゴサンドは人気でいつも直ぐに売り切れる。

今日は少し早い事もあって、運よく買えたのかもしれない。


「恩田」


と声が聞こえた。

向こうから秋吉先輩が歩いて来るのが見えた。

俺は一応立ち上がって、先輩に頭を下げた。


先輩は俺の傍に来るなりいきなり俺の襟元を掴んだ。


「お前、俺に嘘を付いただろう……」


秋吉先輩は怒っていた。


「嘘……、ですか……」


先輩は俺に顔を近付けて、


「草森の入院している病院。知らないって言ったな……」


俺はゆっくりと頷く。


「本当は知ってるんじゃないのか……。お前が授業抜け出して見舞いに行くの見たって奴が居たんだよ」


俺は息をするのも止め、首を傾げた。

その間もずっと襟元を掴まれたままだった。


「本当に知りませんよ……」


俺は声を絞り出した。

すると先輩は俺から手を離した。


「本当か……」


先輩の言っている通りなのだが、俺は頷く。


「そうか……」


と秋吉先輩は言って、コンクリートの上に座った。


「何か、すまんな……。俺も草森の事になるとついムキになってしまう」


俺も先輩の横に座った。


「俺、ずっと草森の事が好きでさ、何度も告ったんだけど、その度に振られちまって……」


先輩は遠い目をして金網の向こう側を見ていた。


俺は黙って先輩の話を聞いた。


「草森、心臓が悪いんだろう。それもこんなに長期入院するくらいだからさ、相当悪いのかと思ってさ……。出来れば勇気付けてやりたいって思ってたんだ」


秋吉先輩は俺の横顔を見て微笑む。


「まあ、俺の方を振り向いてくれる事は一生無いかもしれないけどさ。それでも良いんだ。早く元気になって欲しい。それだけなんだよ……」


俺はポケットの中で握り潰したメモをまた握りしめた。

渡してしまおうとさえ思ったが、そこはグッと堪えた。


考えていた疚しい気持ちではなく、秋吉先輩は純粋に草森を勇気付けたいと言った。

俺は草森の事を好きな先輩の存在に嫉妬した。

俺以外に草森の事を考えている人が居る事が正直嫌だった。


「なあ、恩田……」


秋吉先輩は小さな声でそう言って、俺の方を振り返った。

俺は返事もせずにじっと先輩を見る。


「お前も草森が好きなのか……」


好きなのか……。


俺は草森に恋愛感情を本当に抱いているのだろうか。

先輩のそれとは少し違う様な気もするのだが、それを完全に否定するのも違う気がする。


「好きって言うか……」


「って言うか……」


先輩はじっと俺を見ている。

このまま誤魔化せそうもない気がした。


「どうなんですかね……」


俺は微笑んでそう答えた。

先輩は俺の言葉にクスクスと笑い始めた。


「お前、人を好きになった事無いだろう」


先輩は笑いながら言う。


「人を好きになるってさ、曖昧な気持ちなんだよ。いや、違うな……。曖昧な気持ちから始まるんだよ。それがいつかどんどん大きくなって行って、その内、自分の気持ちの中で一番大きな気持ちになる……。その気持ちに突き動かされる様になり、自分ではどうしようも無くなってしまう」


秋吉先輩の言う事が痛い程わかった。

そうなんだ。

俺はやっぱり草森を好きなんだ。

いや、かなり前にそれには気付いていた気がするが、それを認める事を拒んでいたのだろうか。

抗う事に意味なんて無い。

だけど、どうしてもそれを認める事が二人の特別な関係を壊してしまう気がして……。


「まあ、お前にとっても草森は特別な存在って事だな……」


秋吉先輩は口元を緩めて、俺の肩を叩いた。


「よろしくな……、草森の事……」


秋吉先輩はゆっくりと立ち上がり歩いて行った。


「あ、そうだ……」


秋吉先輩は立ち止まり振り返った。


「俺の事は草森に言わなくて良いからな。どうせ俺はあいつの中でいい思い出にはなれないだろうからさ」


先輩は最後にそう言って消えて行った。


俺は何故かその場からしばらく動けずに、じっと拳を握っていた。






しかし、その日から何日もカークからの連絡はなく、俺は何度か一方的にメッセージを送ったが、その返事も無かった。






そして、九月が終わる……。






目が覚めると、俺は部屋を出て、リビングへ下りた。

土曜日で学校は休みだったが、両親は知り合いの結婚式へ出かけたらしい。

ダイニングのテーブルの上に、近くのパン屋で買って来たサンドイッチが置いてあった。

俺は、そのサンドイッチを開けると、冷蔵庫からアイスコーヒーを出してグラスに注いだ。


「そろそろアイスコーヒーでなくても良い季節かな……」


俺はテレビをつけて、お笑い芸人がただ街を歩いて紹介するというどうでもいい番組を見る。


パン屋のサンドイッチはコンビニのそれよりは特別感がある。

瑞々しい野菜や、卵のボリュームが多かったり、ハムが分厚かったり……。

それでも食べ終えるまでの時間はそんなに変わらない。


顔を洗って、部屋に戻ると、ベッドの上に放り出していたスマホを手に取る。

画面を開くとメッセージが来ていた。


どうせ、坂下だろう……。

カラオケに誘われていたしな……。


俺はそのメッセージを開く。


「カーク」


そんな名前が表示されていた。


カーク……。


俺はスマホを持つ手を構える。


《世の中に置いて行かれた気がする》


そんなメッセージが夜中に来ていた様だった。


《誰も置いて行きゃしねぇよ》


俺はクスリと笑ってそう返した。

すると待っていたかの様に、直ぐに返信が来た。


《置いて行かれる事には慣れているけど……》


《それなりに心配してたんだぜ》


《それなりね……》


俺はベッドに横になり、スマホを見る。


《復活したのか……》


俺のそのメッセージに返信があったのは随分と経ってからだった。

その返信は、


《うん……》


と一言だけだった。


俺の心は躍っていた。

こうやって彼女とメッセージのやり取りが出来る事が本当に嬉しかった。


《良かったな。これでとんかつもカレーパンも食えるな》


彼女からの返信は少し時間が掛かった。


《うん。一緒に夕焼けも見たいな》


俺はその一言に頬を緩めた。


もう、学校に来る事は無いのかもしれないが、彼女と会って話が出来るかもしれない。

そう考えるだけで嬉しかった。


《何よりもあの不味い病院のご飯を食べなくていいだけで幸せだよ》


俺はその一言に微笑む。

入院している彼女からすると切実な問題だったのだろう。


俺はその日、一日中彼女とメッセージのやり取りをした。

途中何度か返信が途切れたが、そのまま黙ってしまう事も無かった。


俺はその日、草森がすぐ傍に居る様な錯覚さえ覚える程だった。






夜、父さんと母さんが帰って来た。

どうやら結婚式の二次会まで参加して帰って来たらしく、テーブルの上に引き出物が並んでいた。


「ごめん……。遅くなっちゃって……」


と母さんが俺に言う。


「夕飯、直ぐに作るから」


俺は夕方、カップ麺を食べたから夕飯は良いと母さんに言ってシャワーを浴びる。

飯を食う時間よりも彼女とメッセージのやり取りをしたいと思ったのだった。


引き出物の中にあったバウムクーヘンを見て、


「そのバウムクーヘン切ってよ」


と俺は濡れた髪を拭きながら母さんに言う。

俺は夕飯代わりにバウムクーヘンとアイスコーヒーで済ませる事にした。


部屋に戻ると、スマホに数件のメッセージが来ていた。


《今日はお寿司》


彼女からのメッセージに桶に入った寿司の写真があった。


良いな……。

やっぱり金持ちだな……。


俺はその写真を見てそう思った。

うちでもそんな寿司の出前なんて何年も食べていない。

最近は、寿司は回転寿司で食べるモノになっていた。


《寿司か……。良いな》


と俺は返信する。

こんな何でもないやり取りが彼女との距離を近付けている気がした。


《私は光物が好き》


《俺はやっぱりまぐろかな》


《何かおこちゃま(笑)》


《うるさい。どうせおこちゃまだよ》


彼女も楽しそうに思えた。


これから彼女はどうするのだろうか……。


そんな事を考えたが、それを訊くのはやめておいた。

しばらくはゆっくりと過ごして欲しい。

そう思った。


その日も、遅くまでやり取りをした。

しかし、その内、彼女は眠ってしまったらしく、


《おやすみ》


とメッセージを入れて俺も眠った。






次の日、俺は日曜だったが、朝早くに目が覚める。

そしてベッドの上に転がったスマホを探し画面を開く。


《おはよう》


カーク、彼女からのメッセージが来ていた。

俺はそれを見て微笑む。


《おはよ》


そう返すと、服を着替えて俺はリビングへと下りた。

父さんと母さんはコーヒーを飲みながらテレビを観ていた。

いつもより早くに起きて来た俺を見て驚いている様で、目を丸くしてした。


「何、どうしたの……。今日は日曜よ」


と母さんは立ち上がって言う。


「あ、デート……」


父さんは振り返って驚いた様に言う。


「何だ、お前、彼女出来たのか」


俺は思わず、「彼女が出来た」と答えようと思ったが、それを飲み込んだ。


「たまには良いだろう……。そんな日もあるよ」


と俺はダイニングテーブルに座った。


「ご飯食べる……」


と母さんが冷蔵庫を開けた。

俺は「うん」とだけ返事をして、顔を洗いに立ち上がった。


洗面台の横に置いたスマホが振動する。


《今日は久しぶりに服を買いに行って来る。ずっとパジャマ生活だったし……》


《そうか。もう秋だしな》


本当に何気ないやり取り。

付き合うとこんなやり取りも楽しいのだという事がわかった。


俺は母さんの用意した朝食を食べると部屋に戻った。

服を買いに彼女は両親と出掛けるのだろうから、邪魔しちゃいけないと思い、メッセージを送るのを控えた。

それでも彼女からのメッセージはやって来る。


《服がすっかり秋になってる……。夏の間ずっと病院だったし。違和感ある》


と服の写真が送られて来た。


確かに、夏休みの終わりに彼女を見た日もまだまだ夏の体温が屋上に残っていた。

それと比べるとすっかり秋になっていた。


俺はそんなメッセージを見て微笑む。

気が付くと病床に伏せていた時の重々しい彼女の文学的なメッセージは消えて、普通の高校生のメッセージになっていた。

それも俺は特別な気がして嬉しかった。


夕方、彼女が帰宅したとメッセージをくれて、俺は目を覚ました。

朝早くに起きてしまった事もあり、俺は眠ってしまっていた様だった。


《今日は、服を買って、パフェを食べて、靴も買ってもらった》


そんなメッセージが来た。

そして真っ白なスニーカーの写真が添付されていた。


「パフェと、靴か……」


俺はそのメッセージにふと、水瀬を思い出した。


《靴、良いね。俺も買おうかな……》


そんなどうでも良い返信をした。


あの日、水瀬が背伸びして履いて来た靴。

靴擦れで踵を真っ赤にしていた事。

何故かそれが鮮明な映像で思い出された。


俺はその夜も、日が変わる頃まで彼女とメッセージを送り合った。






翌日、学校に行くと、坂下が振り返って声を掛けて来る。


「おはよ。何か今日はいつもと違うな」


俺はそんな坂下に、


「そうか……。いつもと変わらんけど」


と返事をして鞄を机に掛けた。


「何か、良い事あったな」


とニヤニヤしながら坂下は言う。

俺はそんな坂下に微笑んだ。


「何だよ……。お前、エロいな……」


「何、どうしたの」


と登校してきた水瀬が割り込む。


「何、何か良い事あったの」


坂下は、そんな水瀬に、


「何か、恩田がエロいんだよ」


と言う。

俺は坂下の頭を叩いて、


「何でエロいんだよ」


と言って笑った。

そんな俺を水瀬はじっと見ていた。






学校にいる間も彼女からのメッセージは何度か来た。

彼女は退学した事もあって家に居るのだろうから、それなりに暇なのかもしれない。


《今日もお昼はパンなの》


《今日はお馴染みのカレーパンだな》


俺は屋上でカレーパンを食べながらそう返した。

そして屋上から街の写真を撮り、彼女に送った。


そんな何気ないやり取り。

俺はそれに舞い上がっていたのかもしれない。

彼女との距離がどんどん縮まる感覚に、俺は彼女しか見えなくなって行った。


これは間違いなく恋をしている。

自分でもそれがはっきりとわかる様になった。


《学校終わり、今から帰る》


俺はそんなメッセージを入れて机に掛けた鞄を手に取った。


「恩田……。帰ろうぜ」


と坂下も立ち上がる。


「ちょっとゲーム買いたいから付き合ってくれ」


俺はスマホを片手に、


「悪い、今日急いでるんで」


と誘いを断り、俺は一人教室を出た。


彼女とメッセージをやり取りしながら俺は駅へと歩く。

駅に着いて改札を抜け、振り返ると、坂下と水瀬が一緒に歩いているのが見えた。

坂下は俺が断った事で、水瀬と一緒にゲームを買いに行くのだろう。

階段を上り、電車に飛び乗った。 


家に帰り、上着を脱ぐ。

ハンガーに掛けながらもメッセージのやり取りは続く。


彼女も俺が学校にいる間は遠慮しているのだろうか。

この時間になってメッセージの数は増えて行った。






そんな彼女との会話……。

会話と言えるのかはよくわからないが、メッセージのやり取りは増えて行き、俺の中で彼女の存在はどんどん大きくなって行った。


それと同時に俺は彼女にいつ告白しようかとさえも考える様になった。


俺の中でそれは重要な思いになって行く。

いつか秋吉先輩が言っていた通りになって行く。

曖昧な始まり、純粋な気持ちがどんどん増殖していく。

そう、性的に彼女とどうにかなりたいなどという気持ちはまったくない。

それ以上に彼女に会いたい、彼女の事を知りたい、彼女の傍に居たい。

そんな気持ちだけが俺の中に深く、重く沈殿して行く。


間違いない。

俺は彼女、草森香奈江に恋をしている。


彼女はどうなのだろうか。

俺、以上にメッセージをやり取りできる相手なんて不可能だ。

彼女は俺の事をどう思っているのだろうか。


水瀬は女の子らしく、占いのサイトを開いて、「あの子とあの子の相性は良い」とか「あの子とあの子はもうすぐ付き合う」などと、この間までなら一切興味の無かった話で盛り上がっている。

しかし、今は、俺もそんな話に少し興味があったりする。


「ねぇねぇ、草森さんの誕生日っていつ」


水瀬のそんな言葉に俺は固まった。

そんな事さえ知らないのだ。


「知らない……。勿論、血液型も」


水瀬と坂下は二人して固まっていたが、そんな事が話題になる関係では無かった。


「ま、そうね……。そんな事知らなくてもね……」


そんな会話をした事があった。


俺は今まで興味も無かった、そんな事も今は知りたい。







《私たちの関係って何て言うんだろうね……》


その夜の彼女のメッセージはそんな言葉で始まった。


それは俺が聞きたい。


《確かに。お互い名前しか知らないのかもしれないな》


《それさえも知らずに、こんなやり取りしてる人も沢山いるんだろうけどね》


《確かにね。名前も知らずにセックスしてるって人も居るからね》


俺はそう返信して、失敗したかと思った。

二人の会話の中に今までセックスの話なんて出て来た事は無かったからだ。


《セックス……。興味あるの》


《そりゃ、俺も男だからな……。別に焦ってるとかじゃないけど》


少し彼女からの返信に時間が掛かった。


《私も同じかな……。食べるとか寝るとかと同じで、本能が求めるモノだからね》


如何にも彼女らしい答えだと俺は思った。

続けて、


《私としてみる……》


俺はそのメッセージを見てドキッとした。

しかし続けて、


《嘘、嘘……。好きなだけじゃ出来ない事なのかもしれないし、好きじゃなくても出来る事なのかしれないし……》


俺はそのメッセージをじっと見つめる。


《俺は好きだよ……。草森の事……》


俺は躊躇いながらそう入力した。

が、そのメッセージを消した。


《焦る事は無いよ……。まだまだ人生は長い……》


今度はそう入れる。

しかし、それも少し考えた。

そう、彼女は心臓が悪いんだ。

また入院する事にでもなれば、彼女は残りの人生と言うモノについても考える事もあるのかもしれない。


俺は彼女との会話が意外と難しい事に気付いた。


俺はそのメッセージも消して、


《俺とカークは、まずお互いの誕生日や誕生日を知る事くらいから始めるか……》


と入れて送信した。


《あー。そうだね》


と直ぐに返信が来た。


《私は九月二十一日》


九月二十一日……。

この間終わったところじゃないか……。


《終わったところじゃないか……。教えておいてくれよ》


俺はそう返信した。


《ごめんごめん。入院中だったし、そんな話する余裕も無かったよ》


確かにそうかもしれない。

俺はそのメッセージに微笑む。


《だから服とか靴とか買ってもらったのよ。少し遅れた誕生日のプレゼントだったのよ》


そうだったのか……。


《あ、血液型はB型》


B型か……。


《俺は四月十八日のO型》


《四月生まれか、O型ね》


お互いの名前以外の情報を知った気がした。

そんな話もせずにもう何か月もメッセージのやり取りをしていたのだ。

話題が途切れずに話を始めたのは最近だから、これが普通なのかもしれない。

そんな会話さえも出来ない程に彼女は体調を崩し入院してたんだ。


そして、それは俺も同じだったんだろう。

部活を辞めて、どん底まで落ちていた。

友達らしい友達も殆ど居ない。

そんな中でこの数か月、坂下や水瀬と話す様になった。

俺もいつの間にか変わって来たのだろう。


それもカークのおかげなのだろうか……。


俺は少し考えてしまった。


ふと、顔を上げて水瀬が見ていた占いサイトを開く。

そして俺と草森の生年月日、そして血液型を入力した。

そんな事が自己満足になるのかどうかさえもわからなかった。

それでも俺はそのサイトの「結果」と書かれたボタンを押した。

その二人の相性の結果は九十二パーセントと出た。


確か、俺と水瀬の相性は六十四パーセントだった。

それと比べると凄く相性は良いのだろう。


《恩田君と私の相性凄く良いみたい……。九十八パーセントだって》


そんなメッセージが彼女から来た。

結果が俺のと少し違うって事は見ているサイトが違うらしいが、それでも名前と誕生日と血液型で占われる結果は基本的には良いらしい。


俺はそのメッセージでまた胸が躍った。

しかしそれを悟られない様に、


《そうか……。どうせネットのサイトの結果だろう……。あまり信用ならんかな(笑)》


と返した。


《結果は後から付いて来るモノだよ。これは単なるきっかけだよ。きっかけ》


いつかも聞いた言葉の様に思えた。

俺はそのメッセージを見て微笑んでいた。








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