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愛を囁くゲーム  作者:
3/4

Ep3 沈黙の支配

 睡眠薬の効果で眠る涼と優人の姿を前に、玲子はソファに腰掛け、軽く指を組む。

 「ふふ…やっぱり、こうなるのね。……こんなに簡単に罠に落ちるなんて、少し物足りないかな……」

 上気した顔で、軽く息を吐く。

 「目覚めた時、どんな顔をするのかしら……」

 玲子は小さく笑い、頭の中で二人の思考を想像する。


 涼人と優人は、自分たちが優位に駒を進めていると思っていたが、今や完全に玲子の掌中にあった。

 涼と優人の二人はゆっくりと意識を取り戻した。視界に映るのは、静かに微笑む玲子の顔と、明るく差し込む窓の光。


 「……目覚めの気分はいかが?」

 その声は柔らかく、世話を焼くかのように聞こえる。しかし、その響きには冷たさが潜んでいた。


 涼は体の自由が効かないことに気づき、混乱と焦りが全身を駆け抜ける。

 「……体が……!?」


優人も瞬時に状況を理解し、視線は玲子に釘付けになる。

 「……ぐるぐる巻きに縛られていますね……」


 玲子はソファに座り、手を組んで二人を見下ろしている。その瞳には遊び心と冷酷さが入り混じっていた。

 「これからゲームをしましょう。私、こういうの……けっこう好きなの」

 余興でも始めるような軽やかさで続ける。


 「ルールは簡単。あなたたちが私に“命乞い”をして、私が気に入った方が勝ち。

  負けた方は……そうね」

 玲子は一瞬だけ俯き、ゆっくり顔を上げる。

 口元の、上がった口角が全てを語っていた。

 「残念だけど……消えてもらうことになる」

 その言葉が空気を凍らせた。


 二人は互いの顔を確かめようと視線を交わすが、玲子の視線がすべてを上書きしてしまう。


 ――抗えない支配。背中を伝う冷汗だけが、自分がまだ生きている証だった。


 玲子はわざと重々しく息を吸い、指先でロープを撫でながら命じた。

 「……どちらを選ぶかは、あなたたち次第よ。さあ、命乞いなさい」


 優人が乾いた笑みを浮かべる。

 「冗談ですよね? 早くこの縄を解いてください」

 涼も声を震わせて同調する。

 「そ、そうだ……冗談がきついぞ、君……?」


 玲子は淡く笑い、ロープを両手でピンと張った。

 その音が、二人の最後の逃げ道を断つ。

 「もし始めないのなら……二人とも消すだけよ」


 絶望の影が、静かに二人の表情を塗りつぶしていく。

 「……お、俺はCEOだ……金ならいくらでも払う……。だから……どうか……」

 涼の声は荒いが、プライドと焦りが交錯している。


 「やめて……消すなら先に涼さんを消してください…………!」

 優人の恐怖が色濃く滲み、動揺は増すばかり。


 玲子は微笑むだけで手を下さず、二人のやり取りを楽しむ。

 声も表情も柔らかく、しかし一瞬たりとも揺らがない。


 「俺は君のやり方を理解できる。互いに楽しむためにも、俺を残すのが合理的だろう。俺の知識や経験を活かせば、もっとスリリングな余興だって提供できる」


 「僕は冷静に計算ができます。今後の玲子さんの役に必ず役に立ちます。涼さんは負けず嫌いで予測不能です。解放したら何が起こるか分かりません」


 玲子は唇の端をそっと吊り上げ、二人をさらに煽る。

 「全然足りない。続けて」


 「優人は口先だけで、実力が伴っていない。君の判断も狂わせる可能性が高い。自分を優先するだけで、君を楽しませるつもりはない」

 「涼さんを残せば、その傲慢さから、勝手に暴走します。僕は冷静で、玲子さんのゲームに忠実に従えます」


 玲子は首を傾げ、柔らかく言った。

 「うん……優人さんの方が、私には心地よく聞こえたわ」


 「……なっ……何だと……!?」

 涼の声がひずむ。心の奥で、プライドと焦りが渦巻いていた。


 「……そうですよね、僕の方が心地いいに決まっている」

 優人は優越感を胸に、低く笑った。


 玲子は目を細めて涼を見つめる。

 「ほら、涼さん。頑張って私にもっと気に入られなさい」


 「……くっ……俺を……選べよ……! 優人なんかより俺の方が……」

 涼の声は荒く、呼吸が速まる。


 「ふふ……涼さん。あなたが必死になるほど、僕は優位に立てます。焦ってばかりじゃなく、理性を見せてみてくださいよ」

 「理性……俺は……冷静だ!!」

 涼は縛られた拳を握りしめるが、指先は震えを隠せなかった。

 視線だけは、必死に玲子に縋りつくように固定されている。


 優人は芋虫のように転がった状態のまま、口端だけを吊り上げた。

 「ほらほら、焦りすぎですよ。涼さんが必死になればなるほど、僕の方が、より魅力的に見えてしまいます」


「……くそ……俺は……俺は……!」

 声にならない苛立ちと嫉妬が、縛られた身体の内側で暴れまわる。

 だが、それを外へ出す術は一つもなかった。


 優人は小さく笑う。

 ロープでぐるぐる巻きにされながら、それでも勝ち誇った声音で。

 「涼さん、あなたの必死さ……嫌いじゃありませんよ。

  でも――どう見ても余裕があるのは、僕の方ですよね?」


 玲子は立ち上がり、涼の目をじっと見つめる。

 その瞳には光はなく、冷たく、まっすぐな殺意だけが映っている。

 「つまらないわ。……さようなら、涼さん」


 玲子はそっと涼の首にロープをかけた。

 「くそ……こんな……こん……!」

 涼の体の力が抜け、床に沈んだ。

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