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王太子殿下の婚約者が男爵令嬢なのが納得いかない? それは貴女たちの勉強不足です!

 ブルンゲン王国の王城では、広間が華やかに飾り付けられ、舞踏会が盛大に開かれていた。本日は王太子のユースタフの十八歳の誕生日であった。その祝いと共に重大な発表があると招待状には書かれていた。


 様々な国から王侯貴族が出席をしていた。にこやかに挨拶を交わしているが、視線はある人々へと向いていた。

 それはシュタイアー国とニーダスタ国の王族たちへ、だった。

 両国の王族たちは周りの関心など歯牙にもかけずに、和やかに話に興じていた。


 そこにファンファーレが鳴り響き、ブルンゲンの王族が姿を現した。談笑をしていた人々は話を止め、王座のほうへと向いた。


 国王、王妃、王太子、第一王女、第二王子、第三王子、第二王女の順に並んだ。


「本日は我が国の王太子ユースタフの誕生パーティにお越しいただき、誠にありがとうございます。王太子も十八歳になり、あと半年ほどで王立学園を卒業します。これからはわたしに代わって重要な場面に出向くことも増えることでしょう。ですので、この機会に国の外のことを知るためにも、近隣の国へと留学させることにしました。短い期間となりますが、どの国もよしなに願いいる」


 国王の言葉にざわりと会場内が騒めいたけど、シュタイアー国とニーダスタ国の王族が動いたことにより、すぐに静まり返った。


 シュタイアー国とニーダスタ国の王族が檀にあがり、入れ替わるようにブルンゲンの第二王子、第三王子、第二王女がおりていった。


「さて、もう一つ目出度い知らせがある。この度、我がブルンゲンとシュタイアーとニーダスタの三国にて婚姻が結ばれることになった。シュタイアーの王太子バルゲン王子と我が国の第一王女サニーディア、ニーダスタの王太子ヘルベルト王子とシュタイアーの第二王女クシュリナ姫、それから我が国の王太子ユースタフとリエンツ男爵令嬢アマリアである」


 ブルンゲン国王の紹介に、バルゲン王子はサニーディア王女へと手を差し出し、王女はそっとその手に手を重ね、ヘルベルト王子もクシュリナ王女に手を差し出して二人で並んだ。ユースタフは壇の下に来ていたアマリアの元へ行き、手を差し出してエスコートをして壇の上へと戻った。


 三組の初々しいカップルが並んだところで、再度ブルンゲン国王が口を開こうとした。


「お待ちください。おかしいですわ」


 そこに声をあげたのはユースタフと同い年のシュタルベルグ公爵令嬢ベルベラッサ。彼女を囲むように同じ年くらいの令嬢、令息が集まっていた。令嬢、令息たちはベルベラッサと同じ様に不満そうな顔をしていた。


 ブルンゲン国王はジロリとベルベラッサと令嬢、令息たちを睨みつけた。


「どうやらシュタルベルグ公爵令嬢はこの婚姻に異議があるようだな」

「違いますわ。異議を申したいわけではありません」


 ベルベラッサはブルンゲン国王の冷たい物言いに、冷や汗を浮かべながら真面目な顔をして答えた。


「では、何がおかしいと言うのか」

「わたくしたちは学園入学前からわが国の王太子殿下だけでなく、シュタイアー国、ニーダスタ国の王太子殿下方とも交流させていただきました。ですので、王女様方と婚姻を結ばれることは、大変喜ばしいと思っております。ですが」

「つまりユースタフの婚約者が男爵令嬢なのがおかしいと言いたいのか」


 ベルベラッサの言葉を途中で遮り、ブルンゲン国王は言った。国王自らの言葉に解ってくれたのだと思い、ベルベラッサは笑みを浮かべて頷いた。


「はい、その通りでございます。それと、あまりこのようなことは申したくはないのですが、リエンツ男爵令嬢は相応しくないと思います」

「相応しくないとは?」

「リエンツ男爵令嬢はユースタフ王太子殿下だけでなく、シュタイアー国、ニーダスタ国の王太子殿下方に色目を使っておりました。それだけでなく、侯爵家以上の高位の貴族の令息方にも近寄っておりましたわ。それに学園内だけでなく、いろいろな所で複数の異性の方々と近い距離で過ごされていましたの。皆様が迷惑していると気がついていらっしゃらないのですわ」


 ブルンゲン国王はベルベラッサとその周りに集まった令嬢と令息たちを見回して、嘆息すると彼らの親がいるほうへと目を向けた。


「其方ら、こ奴らの認識不足はどういうことだ?」

「申し訳ございません」


 シュタルベルグ公爵夫妻を先頭に、それぞれの親たちが前に出てきて謝罪した。ブルンゲン国王は学園の教師たちがいるほうへと目を向けた。


「学園長、こ奴らの歴史の成績は悪いのか?」

「い、いえ、そのような報告は上がってきておりません」


 学園長を先頭に教師たちも冷や汗をかきながら、ピシッと並んで首を振っていた。

 そのやり取りにベルベラッサを含めた令嬢令息たちは、困惑して顔を見合わせた。


「どうやらちゃんと理解していないようだ。歴史の教師に命ずる。今ここで、此度のことに関わる近代史を講義せよ」

「ハッ! 承りましてございます」


 抗議の声をあげようとしたベルベラッサたちは、ブルンゲン国王だけでなくシュタイアーとニーダスタの国王たちからも、殺気を込めた冷たい視線を向けられて、顔を蒼褪めさせて身を寄せあった。


 ◇


 今からおおよそ百年ほど前。

 ある国(・・・)の王家に五人の子供がいた。

 第一子である長男が王太子になり、第二子から第五子までの王子王女は爵位を得て臣籍降下、もしくは婿入り、または嫁入りしていった。


 その第五子である第二王女が嫁入りしたのは公爵家であった。

 王女は五人の子を儲けたが、全員男だった。

 長男が公爵位を継ぐこととなり、次男は公爵家の騎士団長の家に婿に入り、三男は公爵家の持つ伯爵位と領地を譲り受け、四男は侯爵家に婿入りした。

 五男は公爵家が持つ男爵位を譲り受けたが領地は与えられず、公爵家の領地を治める代官たちを管理する仕事に就いた。

 五男の男爵は新たな商会を立ち上げ、公爵家の領地で採れるものを他国に販売していった。

 この時五男の男爵はある国(・・・)においての王位継承順位は二十六位だった。

 王家には王太子の子供が五人いて、王位継承順位が六番目までが王家で、王太子の弟は公爵となり子が四人で継承順位が七番目から十一番目まで、第三子は王女で侯爵家に嫁入りし子が三人だったので継承順位が十二番目から十五番目、第四子は男で公爵家に婿入りして子が四人で継承順位が十六位から二十位、第五子の王女、公爵夫人となり五人の子だったので、継承順位は二十一位から二十六位なのである。


 商会は順調に大きくなり男爵の息子も一緒に働くようになった。

 その息子は隣国の子爵家と取引をするようになり、その縁で子爵家の四女と結婚することが決まった。

 この時男爵の子息のある国(・・・)での王位継承順位は九十五位だった。

 代替わりして王となった元王太子、五人いる子の長男が王太子となっていて、三人の子がいた。そのまた長女は結婚して子が二人。長男も結婚していて子が一人。三番目の次男はまだ結婚していなかった。ここまでで王家は継承権七位まで。

 二子には子が四人と孫が一人、継承順位が八位から十三位まで。

 三子には子が二人。継承順位が十四位から十六位。

 四子には子が四人、継承順位は十七位から二十一位。

 五子には子が三人で二十二位から二十五位。

 現王の弟、公爵家には継承順位二十六位から四十二位まで。

 妹の侯爵家には四十三位から五十六位。

 弟の公爵のところには五十七位から七十三位。

 妹の公爵家には七十四位から九十五位までということであった。


 結婚式には男爵の両親である公爵夫妻も参列し、この時に新婦側の親族に見知った顔を見つけ、披露宴の時に言葉を交わすことになった。

 その相手とはその国(・・・)の元王女。ある国(・・・)と同じにその国(・・・)の公爵家に嫁いでいた。

 お互いの孫が婚姻を結ぶことになり、不思議な縁だと話している元王女の公爵夫人たち。

 隣で話を聞いていた夫である公爵たちは同時にあることに気がついてハッとした。

 恐る恐る話し合った結果、王家に判断を仰ぐことになった。


 その国(・・・)の公爵夫人は元第三王女だった。なので四番目の子供の四番目の娘である孫も王位継承権を持っていた。それは六十二位だった。


 さて、それぞれの王家は公爵から報告を受けて、大いに戸惑った。

 現王にとって大叔母の孫で、本来ならば次代で王位継承権が無くなる者たちだったのだ。

 無くなるというと語弊があるが、王位継承権が百位以上になると、血筋として名は記載されるがよっぽどのことがなければ王位に辿り着くはずもないのである。

 それが意図せずに二人の子供は、二国の王位継承権を低位とはいえ持つことになるのだ。

 王位継承権を持つ者同士の婚姻の場合、嫁ぐもしくは婿入りした時点で生国の王位継承権は放棄するのである。


 慣例に基づくのであればであるが、ここで問題になったのはそれぞれの国の王族に属する者同士の婚姻であることだ。他国の王族同士の婚姻はその子に良質な魔力が備わると言われているのだ。

 低位とはいえは王位継承権持ち同士の婚姻である。その可能性は無いとはいえないことで……。

 結局様子見に徹することにしたのだが、生れた男児にその兆候が見られたことにより、その男児は特例で王位継承権持ちとなった。順位は現王の弟妹たちの家の次の三十四位。祖母よりも上の順位となった。それと同時にその国(・・・)の王位継承権も持つことになったのである。ちなみに二十八位であった。


 さて、その男児は王位継承権を持っていることを聞かされていたが、自分は男爵家の嫡男だと思っていた。家業の商会を継ぐ者として、精力的に活動した。そして、この国(・・・)にて取引を始め子爵家の令嬢と婚姻を結ぶことになったのだ。

 二人の結婚式には男爵の親族としてある国(・・・)の公爵とその国(・・・)の公爵も列席した。

 そこで二人はこの国(・・・)の子爵家の親族として列席した、ある人物を見て頭を抱えることになったのである。


 そう、その人物はこの国(・・・)の王弟である公爵。子爵令嬢はその二番目の子の第二子だった。もちろんこの国(・・・)の王位継承権を持っている。


 結婚式後、三か国は集まり話し合いの場を設けた。その結果、子が生まれたらその子の王位継承権は現王の子の次にすることで合意したのである。

 そして、生れた子供は女児だった。丁度三か国とも同じ年に王子が誕生したのである。


 ここでまた三か国で話し合いが行われた。それはどの国がその女児と婚姻するかだった。どの国も譲らず、結論が出るまでに数年を要した。

 話し合いのためにそれぞれの国の王子、王女も連れてくるようになり、三か国の王子と王女、男爵家の女児は交流を深めていった。

 その様子を見ていた各王家は男爵家の女児に選ばせることにしたのだった。


 ◇


 歴史の教師は話し終わると、王族に向かって深々と頭を下げた。王族の目がベルベラッサ達へと向く。令息、令嬢たちはごくりと唾を飲み込んだ。

 この話は知っていた。歴史の授業でちゃんと習ったことである。だけど、それが何だというのだろう。歴史の話(・・・・)を聞かされても……。


 あれ、でも、近代史?


 誰が最初に気がついたのか。気がついた者から顔を蒼褪めさせていった。


 が、ベルベラッサ他数人は気づく様子もなく、不愉快そうに眉を寄せていた。


「不満そうじゃな、ベルベラッサ」


 ブルンゲン国王がベルベラッサに話しかけた。


「お言葉ですが国王陛下、そんな昔の話をされましても困りますわ」

「昔の話、と」

「ええ。歴史の授業で習ったのですから、昔の話でございましょう」


 ベルベラッサの返答にひゅと誰かが息を飲む音が聞こえた。ベルベラッサはちらりと横に並ぶ令嬢、令息たちへと目を向けて……蒼褪めた顔の彼らを見て動きを止めた。

 そして、これまでの陛下の言葉が思い出された。


『其方ら、こ奴らの認識不足はどういうことだ?』

『学園長、こ奴らの歴史の成績は悪いのか?』

『どうやらちゃんと理解していないようだ。歴史の教師に命ずる。今ここで、此度のことに関わる近代史を講義せよ』


(近代史! そう言ったわ。えっ? 待って。おおよそ百年前? もしかして曾祖母と……曾々祖母だったかしら? その方が嫁いでこられたのってその頃よね。第五王女だった方で、その方の子供の一人が男爵位を貰ったって……。えっ? うちの系譜の話なの?)


 やっと理解したベルベラッサの顔から血の気が引いた。


 リエンツ男爵令嬢アマリアは王位継承権を持っている。それも三か国も。

 その王太子たちの誰かに嫁ぐために、交流を持っていた。

 高位貴族の令息たちは王太子の側近候補たちで、未来の王太子妃であるアマリアと交流を持った。もしくは王太子がそばに居られない時の付き添いだった。

 他の男性たち……アマリアを守るための護衛だったのだろう。


 理解したベルベラッサは足の力が抜けて座り込んでしまったのだった。



 ◇


 さて、その後のことである。

 舞踏会後、ブルンゲン王国の貴族家では嫡子の変更届を出す家が何家かあった。

 それに伴い、婚約の解消や新たな婚約の届け出も出された。


 ブルンゲンの王太子ユースタフと、婚約者のブルンゲン王国のリエンツ男爵令嬢改めニーダスタ王国の公爵令嬢となったアマリアは舞踏会での宣言通り留学することになった。行先は近隣五カ国。それぞれの国に約ひと月の滞在で交流をしていった。

 そして最後のひと月は自国の学園で過ごし卒業したのだった。


 卒業式から半年、ユースタフとアマリアの結婚式が行われた。これによりアマリアのシュタイアー国とニーダスタ国の王位継承権は放棄されたのだった。


補足、というか?


アマリアは幼い時から自分の立場を聞かされて育った。本来なら滅多に足を踏み入れることのない王城に月に二度行き、そこで三カ国の王子たちと交流を持った。

一応カモフラージュとして、三か国の高位貴族の令嬢、令息たちも招いていた。

アマリアの後見としてニーダスタ国王弟(曾祖父)が名乗りをあげたが、ブルンゲン王国、シュタイアー国から異議の申し立てがあり実現しなかった。

三か国の協議の結果、三か国が決めるのでなくアマリアに選ばさせることになった。そのついでに選ばれなかった二カ国の王子も王女ないし自国以外の公侯爵令嬢と婚姻することが決められた。

アマリアが決めたのは十六歳の時。二人の王子も悪くなかったけど、出来れば両親の近くに居たいと思ったから。決めてからはユースタフ王子との仲を深めていった。

ブルンゲン王国の令嬢、令息の態度が悪く、ユースタフ王子の側近候補から外されることになった。なので王子の側近候補は同学年以外から選ばれることになった。

三か国の王位継承権を持っていることは他国に秘密にしていたが、三か国の王子たちと近しいアマリアのことは怪しまれ、探ろうとする者が後を絶たなかった。

なので、三か国から護衛がつけられた。表向きは三か国の王太子の護衛として。ということでアマリアは王太子たちのそばに居たのである。

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