13-1. 俺たちは空中ウォーキングの練習をする
俺たちは1つ先の広場に移動した。小屋はないが、つなぎあわせられた獣皮が木々の間に張られており、夜露や雨を防げるようにしてある。過去の旅人が、後から来る人のために残してくれたのだろう。
俺たちはそこで野宿をした。
イヌの名前はミイになった。メイが自分の名前と似せたのだろうが、犬タイプの獣人に猫っぽい名前だな……。
翌朝、朝食をとったあと出発。
定番のスライムや、陸上大牙ガラスといったザコモンスターと遭遇した。俺は過去に何度も倒しているし、メイも羊飼いの修行として戦わせたことがある。
そこで、狩人のソフィアに剣に慣れてもらいつつ、サリナに近距離からの魔法の練習をしてもらうことにした。
みんなには特技を伸ばしてもらう方針だが、目に見えた弱点は解消していきたい。
昼頃に森を抜けた。
地平線まで続く草原を、穏やかな風が吹き抜けており、非常に心地よい。
往路では司教や騎士たちがいたが、今は他に誰もいない。
雄大な土地で、俺たちは開放的な気分になった。明るく遠くまで見渡せるため馬の落とし物を踏む危険が減り、足下を見ながら歩かなくてもよい。気楽だ。
メイはテンションが高くなり、空中ウォーキングを披露した。
「ミイちゃん、サリナちゃん、ソフィアさん、見て! わたし、飛んでる~っ!」
「まあっ!」とソフィア、「……本当だ!」とサリナが目を見開く。
そして、「凄い」とミイが尻尾を振った。
初めてミイの声を聞いた。
というか、メイがちゃんづけで呼ぶってことは、女の子なのか?
「うぇ~~いっ!」
メイは草原に小さな影を落とし、軽やかに弾んでいく。
もちろん、飛んでない。
昔、TokTikで流行った技を、俺が教えこんだだけだ。ある意味、現代知識無双。
繰り出した足が地面につく前に、透明な箱を踏んでいるかのように一瞬だけ停止させて、素早く後ろ足を前にだす。これを、素早く繰り返すことにより空中浮遊して歩いているかのように見える。
3人は本当にメイが浮いていると思いこんだようだ。
ならば……。
「3人とも。見ろ……!」
俺も開放的な気分で調子にのっていたから空中ウォーキングをし、3人の意識をひいたあと、空中階段の技を披露した。この技もメイに教えてあるが、奴はまだ習得できていない。
俺は何もない位置に階段があるかのように、二段ほど空を駆ける。もちろん、そう足を動かしているだけだ。すぐに地面に落ちる。
みんなが口をそろえて「凄い」と驚いた。
「ふっふっふっ。驚くのはまだ早い。行くぞ……。ふっ!」
ますます調子に乗った俺は、フラッシュステップも披露した。実在する高速歩法のひとつだ。サッカーでも同名の技があるが、俺が使うのは格闘技のフラッシュステップだ。
通常、人は歩くときに右、左、右、左……と足を繰りだすが、フラッシュステップは右足を前に出して左足が地面を押した直後に、左足で地面を蹴る。
つまり、右右、左左、右右、左左という高速の足さばきだ。
右足を前に出しながら左足で地面を蹴るときに、膝をあまり曲げずに、体を縦に揺らすタイミングを一定にすると、横からは瞬間移動のように見える。
「アレル様! 凄いですわ!」
「……! ……アレルさんが消えた。魔法?」
「凄い」
「お兄ちゃん凄い! 私の練習成果も見て!」
「分かった分かった。放せ」
メイがしがみついてきたから、俺は引っぺがす。
妹には一応、やり方は教えてある。幼い頃は脚力が足りなかっただけで、山で育った野生児と化した今なら、少し練習すれば習得するだろう。
俺はみんなにフラッシュステップを教えた。
ミイはさすが獣人というか、身体能力が優れているらしく真っ先に覚えた。空中ウォーキングや空中階段も覚えていく。
まずいな。SNSでバズったムーブ、もとい、歩法は、そんなに知らないぞ……。
そして――。
「見てください。アレルさん! できましたわ!」
「そうか。ソフィアも物覚えがいいな……? は?」
ススススッ……。
ソフィアは空中ウォーキングした。足が30cmほど中に浮いたままだ。
明らかに空中を歩いている。浮いて見えるだけのメイや俺の空中ウォーキングと異なり、足と地面が完全に放れている。
「階段もできます!」
ソフィアは空中の見えない階段を1つ、2つと上っていく。
「風のスキルか……」
ソフィアのスカートがふわりとめくれあがって、太ももやパンツが丸出しになった。
ソフィアは俺の視界より高いところにいるから、もろに見えた。
なんで、どこの異世界も、中世って感じのもこもこ短パンみたいなパンツではなく、近代的なセクシーパンツを穿いているのだろう。
パンツだけ技術力が数世紀進んでいるのは何故だ。
童話シンデレラに時計が出てくるように、時計は中世ヨーロッパにはあったのに、逆にファンタジー世界だと時計は進化から取り残されているらしく、存在していないんだよな。
「きゃっ!」
「危ない!」
考え事をしている場合ではない。ソフィアが空中でバランスを崩したから俺は受け止めるために、落下地点に飛びこむ。
だが、それは軽率だった。
俺の目には見えないだけで彼女の足下には、スキルで作った空気の塊が存在していた。俺はそれに体当たりすることになり、転倒し、そこへソフィアが上から落ちてきた。
ドサッ!
ぷにょんっ!
「あんっ!」
「むぐぐ……」
顔の上に何か柔らかく温かいものがのっている。
ラブコメのラッキースケベみたいになっているのだろう。意識するな無心になれ。
俺はソフィアが退くまで目を閉じ、呼吸を止めた。
「ご、ごめんなさい。アレルさん……」
「大丈夫。はあはあ……」
「はうう……。わ、私のあそこでそんなに息が荒くなるほど興奮してくださったのですね……。ふ、複雑な気分です……。う、嬉しいかも……」
「はあはあ……。何を言っているのが聞き取れなかったが、誤解だ。短距離とはいえ全力疾走して、息を止めていたからな。それで、息が切れている」
しかし、言葉の使い方があっているか分からないが、怪我の功名だな。ソフィアがスキルのコツを掴んだようだ。敵の頭上を飛び越えて背後をとるような戦い方ができるだろう。
となると、ソフィアは弓の名手だが、教会で聖剣をもらったし剣術を磨いて、近接戦闘を担当した方がいいか?
近接戦闘もできる射手ではなく、狙撃もできる前線担当になってもらう方がパーティーのバランスが良くなる?




