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12-4. 盗賊たちをぶちのめす

 俺は白頭巾の男に声をかける。


「支払いはあんたでいいか?」


「ああ」


 俺は自分の体で、小屋の前にいる男達の視線を遮り、短槍で白頭巾の男のみぞおちを突く。短距離で勢いをつけずに加減したから、服に穴は開いたかも知れないが、肉体には突き刺さっていないだろう。


「がっ……?!」


 白頭巾の男は強い衝撃を喰らって硬直したはずだ。


 俺は慌てた演技で叫ぶ。


「大丈夫ですか! 急にどうしたんですか?!」


「おい。どうした」


 小屋の前にいた男達が近寄ってくる。警戒心は弱めだ。


「メイ、左をやれ」


「うん!」


 俺は棍棒で右の男をぶん殴った。同時に、メイが銀貨の詰まった革袋で左の男を殴った。


「なっ、貴様ら!」


「お前らが野盗だってことはバレバレなんだよ! 俺たちは王国軍だ!」


 俺は男たちを黒確定するために、はったりをかました。


「ちいっ! どこでバレた!」


 よし。確定だ。殺しても罪にはならない。


 スコンッ!


 奥にいた男の首に矢が突き刺さった。ソフィアさんだ。いい腕しているな。


 あっという間に、ひげ面の大男のみとなった。


「メイ。お前ひとりでやれ」


「えっ?!」


「今後、旅を続ければ魔族やモンスターと戦うことになる。大男ひとり殴り殺せないようなら、この先、生き延びることは難しい」


「わ、分かった」


 俺はメイから1歩だけ離れる。


「くっくっくっ。どういうつもりか知らんが、目の前でこいつが死ぬところを見たいようだな。俺が素手だから油断したな? 俺のスキルを――」


 ひげ男が指をペキペキと鳴らす。


 俺は指のジェスチャーで、ソフィアに男を射るように指示した。


 トスンッ!


 男の脇腹に矢が突き刺さった。


「……は? え? お前、手を出さないって……」


「敵の言うことを信じるなよ。ぶちのめすぞ!」


 俺は小さく跳躍し、髭男の頭部に棍棒を振り下ろす。


 ゴシャッ!


「あぎゃっ!」


 ドスンッ……。


 男は倒れ、巨体に見あった音を立てた。



────────────────────

■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ

やったああ!

ぶちのめした!

倒れる瞬間、白目むいて、顔が縦方向に潰れてた!

死んだの?!

────────────────────

■自分

死んでない。

人間だぞ。加減したに決まってるだろ

────────────────────

■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ

えええ……

────────────────────

■自分

ほら。ぶちのめしはこれで終わりだ。

当分は平穏な旅だ。また寝てろ

────────────────────

■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ

ぶちのめすときは起こしてくれる?

────────────────────

■自分

ああ。だから安心して寝ろ。

────────────────────

■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ

うん!

絶対に起こしぐーぐー……

────────────────────

■自分

完全に、直前まで元気だったのに一瞬で体力が尽きて寝落ちする子犬だな……

────────────────────



「お前みたいな、見るからに体力と腕力がありそうなやつと妹を1対1で戦わせるわけないだろ」


「うわ、お兄ちゃん卑怯……」


「スキルを使われたら負ける可能性が高いんだ。頭を使うんだよ」


 俺は武器を腰のベルトに引っかけた。

 そして、その位置から近づかないように、荷車に声をかける。


「そこの獣人の子。君は、こいつらに捕まっていたという解釈でいいか?」


 返事はない。


「……メイ。バトンタッチだ」


「バトンタッチ?」


 メイは首をかしげて、両手を挙げて俺に向けてくる。

 俺は妹とハイタッチした。


「すまん。知らない言葉を使ったな。俺の代わりにあの子の様子を見てくれ」


「うん」とうなずくと、メイは少女特有の無邪気さと屈託なさを発揮し「ねー、君-」と大声で駆けて急接近した。大人相手には人見知りするが、子供相手には問題ないだろう。


 獣人の子はメイに任せておけば良い。

 ソフィアとサリナが近づいてきたから、手で制す。


「そこで待っててくれ。おそらく大丈夫だが、こいつらがダウンしたふりをしていて、急に立ち上がる可能性は捨てきれない。仲間が森の中に潜んでいる可能性もある。こいつらと無関係なモンスターが出てくる可能性もある。ソフィアは俺の様子を見ていてくれ。サリナは反対側の森を警戒していてくれ」


 ふたりに指示し終えると、俺は倒れている男たちの傷口に回復ポーションを、1滴ずつ垂らした。正当防衛だし、いくら相手が盗賊とはいえ、俺たちの攻撃が原因で死なれたら寝覚めが悪い。


「ぐ、うう……」


「うっ……」


 よし。5人全員うめいている。生きている。


「命はとらないが、俺たちの身の安全のためにこれ以上の治療はしない。しばらく苦しんでいろ。もし立ち上がったら敵意があると判断する。分かったな? 俺たちの射手の技は身をもって体験しただろう。次は確実に頭を貫く」


「うう……分かった」


「一番小柄なお前、服を寄越せ」


「え。あ……。はい……」


 俺は獣人の子に与えるため、盗賊のひとりから服を奪った。


「お兄ちゃーん。もういい? 来てー」


「ああ」


 俺はメイの元に向かった。

 メイと獣人の子は、荷台に座って仲良く手をつないでいた。


「これ、どうしよう……」


「ん? 奴隷用の首輪か……。さっきは気づかなかったな」


 俺は盗賊に言う。


「おい。この子の首輪を外してくれ」


「知らねえ。最初から(かせ)がはめられていた。隷属魔法だ」


「そうなのか?」


 俺が視線で問うと、獣人の子は小さくうなずいた。


「じっとしててくれ。ダメ元で……」


「んっ……」


 俺は首と首輪の隙間に指を突っ込み、破壊しようと左右に引っ張る。


「ぐっ……。くっ……! 無理か……。鍵穴もないし……。おーい、サリナ。来てくれ。ソフィアは代わりに、森を警戒」


 サリナが走っているのか歩いているのか分からない速度で駆けてきた。軽く息を切らしているから、駆けた……はず。


「サリナ。この子の首輪を調べてくれ。メイは荷台に何か鍵っぽいものや魔道具っぽいものがあるか探してくれ」


 俺は盗賊や周囲を警戒する。

 勝利直後の気の緩みがあり、全員がほぼ別の行動をしているため、隙を狙われやすい。荷台探しを手伝いたいが、警戒の手は緩められない。


 しばらくすると、サリナが悔しそうな声を漏らす。


「……駄目。私の魔法じゃ、解錠できない……」


「そうか……」


「でも……。そのうち隷属魔法も使えるようになる。今は無理でも……」


「ふむ……。なあ、君。えっと。俺はアレル。君の名は?」


「イヌちゃんだよ」


 メイが代わりに答えた。

 犬の獣人っぽいから、イヌか……。


「なあ、その名前は気に入っているのか? 種族名で雑に呼ばれていただけではないのか?」


 イヌはメイに何か耳打ちした。


「……うん。分かんないって!」


「そうか。なら、君って呼ばせてもらうが、いいか?」


 イヌはメイに何か耳打ちした。


「……いいって!」


「俺たちはこれから北に向かう。君も一緒に来るか? ここに残れば、そのうちこの盗賊が動けるようになり、また捕まってどこかに売られる。俺たちと一緒に来れば、いつか首輪を外せるかもしれない」


 やはりイヌはメイに何か耳打ちした。


「……一緒に来るって!」


「そうか。ならひとつ条件がある」


 イヌはビクッとした。

 俺に酷い条件を出されると思ったのだろうか。心外だな。


「メイと相談して、自分の名前を決めること。いいな?」


 俺は気のきいた言葉をかけたつもりだが、イヌは途方にくれた顔になってしまった。


「大丈夫だよ。お兄ちゃんは意地悪を言ったんじゃなくて、格好いいことを言おうとして失敗しただけだよ。君のためを思って言ってくれたの。すっごく優しいんだから」


 ……は?

 格好いいことを言おうとして失敗しただけ?


 え?

 今の俺の発言、そういう評価なの?


 サリナは「……良かったと思う……よ?」とフォローしてくれた。


 さて、こうして俺たちは一時的にだが、新たな仲間を得た。

 本当は荷車も貰いたいんだが、盗品を所持していると面倒ごとになるかもしれない。

 本来の持ち主が生きていて、捜索している可能性がある。


 俺は小屋から、遠矢の距離ほどあけて、回復ポーションを道に置く。


「ここの回復ポーションをひとつ置いた! 誰かが元気なやつが這って取りに来い。分かっていると思うが、俺たちを追跡するなよ」


 もし盗賊たちが復讐を試みても問題ない。

 俺たちを襲おうとして接近したら、森からレストが襲いかかる。奴等はレストの存在を知らない。奇襲は確実に成功する。そして、その騒動で俺たちは戦闘態勢を整え、遠距離からソフィアの矢で仕留めることになるだろう。


 俺たちは背後にも気を配りつつ、北へ向かって歩きだす。

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