10-6. サリナとソフィアのスキルを試す
サリナの方を向く。
「無能の俺が仕切って恐縮なんだが……。サリナ。君は、複数の属性を、同時に詠唱できるんだよな?」
「うん」
「今後は、人目につかないところで様々な属性を練習しつつ、ひと目のあるところでは火魔法だけを2個使うようにしないか?」
「え?」
漫画知識で恐縮だが――。
「能力の詳細は知られない方がいい。敵を誤解させたい。たとえば、サリナが火魔法を2個同時に使えば、敵は『同時詠唱スキル』だと思いこむだろう。油断したときに、他の属性で攻撃すれば効果は大きい」
「アレル、凄い発想……。スキルを秘密にしておくと、自分より強い相手の不意をついて逆転できるかも……」
「そうだ」
俺はソフィアに向き直り同じような内容を繰り返す。
「ソフィアもスキルの練習をして、決まった使い方だけに留めよう。例えば、敵の矢をそらすだけとか、突風を吹かせるだけとか、ひとつのことしかできないフリをしよう」
「はい。……あの。見てください。先ほどサリナさんから魔力をいただいたので……」
俺は肌に風を感じた。メイとサリナの髪がなびく。
ふわああっとソフィアを中心に穏やかな風が広がっている。
ソフィアは不思議そうに俺たちの顔を見比べてから、手のひらで自身の隣を指し示す。
「あの。皆さんには見えていないのですか?」
妙な口ぶりだ。まるでそこに何かがあるかのようだ……。
俺はメイとサリナの様子を窺う。ふたりも、軽く困惑しているようだ。
俺はソフィアに「何も見えない」と言う。
「ここに、風でできたもうひとりの私がいます。水のように揺らいでいます」
「なるほど。それがソフィアのスキルか。触ってみてもいい?」
「ええ」
俺は何もないところに手を伸ばしてみた。
すると――。
ふにょん。
「あ。何か柔らかい物がある」
にぎっ。もみもみ。
「あんっ……。いきなり、そんなところ……。くすぐったいです」
ソフィアは胸を抱くようにして腰をくねらせた。
「あれ? もしかして、空気人形って感覚が連動している?」
「そうかも、しれません。もう少し優しく触ってください……」
まさか、この空気人形の弾力って……。
俺は慌てて手を引っこめる。
「これは検証が必要だな。もし、空気人形を剣で斬られたらどうなる? ソフィアも同じ痛みを感じるとしたらまずい。実験しよう。ソフィア。本番で事故るのは怖いから、先に試そう」
「は、はいっ」
「メイ。空気人形のお尻のあたりを叩いてみてくれ」
「うん。ソフィアさん。いい?」
「はい」
「この辺り?」
「は、はい。そこです」
「いっくよー! えいっ!」
メイが思いっきり手を振った。手は、空気人形に遮られることなく振り抜かれた。
ソフィアは平然としている。
「ソフィア。痛みはないのか?」
「ええ」
「メイ。もう一度、叩いてみてくれ」
「うん!」
実験を繰り返したが、同じ結果になった。
「別の部位を叩いてみては?」とサリナが言うから、胸に平手打ちをしてもらった。
それも貫通して、痛みはなかった。
「……メイ。空気人形のお尻を叩くんじゃなくて撫でてくれ」
「エッチな感じで?」
「普通に」
「エッチじゃなくて普通にお尻を触るの、よくわかんないけど……。こうかな。……何もないよ?」
「え? ソフィア、どうなんだ?」
「何も感じないです」
ソフィアは、空気人形の辺りに手を動かす。
「……なんだか変です」
「どう変なんだ?」
「アレルさんに触られたときは裸の敏感なところを触れられたように感じたのですが……。自分で試すとあまり感じないというか……。あ、触ってるな、くらいにしか」
ソフィアは手をスイングして胸の辺りを叩いた。
しかし、手は通り過ぎた。
「……当たりません」
「ふむ……。もしかしたら、どれだけ感覚がフィードバックするかは、ソフィアの意思でコントロールできるのかもしれないな。応用が利くスキルだし、しっかり練習してできることとできないことを見極めていこう。よし。みんなの課題も見えてきたし、練習はここまでにして、レストと合流しよう」
練習をいったん切り上げて、俺たちは往路と同じ道を通って森の入り口まで戻った。




