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10-4. 早速スキルを試そうとするが、誰もやり方が分からない

 俺たちは城壁を出た。

 中世ファンタジー世界だし、俺が両手に魚の尾の部分を握って持ち歩いたが、悪目立ちしない。まあ、城壁の都市には貧しい人が暮らしているから、ちらちら見てくるが……。


 手がヌルヌルだし生臭いが、うん、うん、これが中世ファンタジーだよねと自分に言い聞かせた。

 女子3人には野菜と果物を運んでもらった。


 城壁の周りに広がる集落を抜けて、少し離れたところで止まり、メイのスキルを試すことにした。


「先ずはこの魚を、どれだけ新鮮な状態に維持できるか試してみよう。メイ」


「うん」


 メイは何かするでもなく、指示待ちのように突っ立っている。


「ほら。メイ。メロンは服の外に出せ。『あ。また蹴った。お兄ちゃんの子、元気だよ……』とか、もういいから、さっき教会で授かったスキルを使ってくれよ」


「え……?」


「ほら。名前、なんていったっけ」


鮮度保つ保存の泡フレッシュ・スムージー……」


「それ。やってみてよ」


 メイはメロンを服から出すと、うーんとうなる。


「急に言われても無理だよ……」


「なんでだ? 使用条件があるのか?」


「違くて……。スキルってどうやって使うの?」


「え? お前のスキルなんだし、分かるだろ。一応、儀式で授かったという(てい)だけど、もともと備わっている力を引きだしてもらったんだし」


「分かんない……」


「え? そういうもん? ソフィアはどう?」


 俺が視線を送ると、ソフィアは首をすぼめてぷるぷると左右に振った。彼女もスキルの使い方に見当がつかないようだ。


 しかし、サリナは……。


「私、守護属性が火。だから、火魔法しか使えない。でも、スキルで多属性多重詠唱(マルチキャスト)を得た。だから……」


 サリナは右の手のひらを上に向けた。そこに手のひらサイズの火の玉が現れた。


「ひとつ」


 さらに左手も上に向けると、そちらにも火の玉が出現した。


「ふたつ。うん。初級魔法だけど、多重詠唱ができる。今はこれしかできない。でも、練習すれば中級以上の多重詠唱ができる……気がする。それに……」


 サリナの手から火が消えた。代わりに、ヒュウッと風の音が聞こえてくる。


「……。ん。風魔法、使えそう」


 サリナが俺に手を向けてきた。頬にそよ風が当たる。


「なるほど。もともと魔法が使えるサリナは、能力の延長上みたいなものだから、スキルも使いやすいのか」


「ん。……えっと」


 サリナはもじもじとして、メイとソフィアの顔を交互に見た。

 何か言いたそうな様子だが、言えないようだ。


「遠慮は要らない。気づいたことがあるなら、教えてくれ」


「ん……。えっと……」


 サリナはフードで目元を隠すと、俺の背後に隠れて話す。


「……スキルは、魔法の一種という説がある。魔法使いの中で、そう、言われてる……。メイは守護属性、水、だよね?」


「うん」


「だから、スキル鮮度保つ保存の泡フレッシュ・スムージーは、水魔法のひとつ……と考えられる。研究が進んでいて、魔法学校で教えられているのが、魔法……。使い手が少なくて、研究がまだ進んでいないのが、スキル……」


 なるほど。

 確かにスキルも魔法の一種と考える方がしっくりくるな。


「つまり、メイはレアな水魔法をひとつだけ使えるようになったということか」


「あくまでも、説……。ソフィアは、守護属性、聖、だよね?」


「ええ。でも授かったスキルは空気人形(エアーマン)。名前からして、風属性か空気属性ですわよ?」


「ん。その可能性はある。守護属性はひとり、ひとつ。でも、ごく(まれ)に2つ以上の守護属性を持つ者がいる。ソフィアが風属性を持っている可能性、ある」


「そう、なのかしら……」


「なくはないんじゃないのか? 今回の旅の間、ソフィアの弓の能力は騎士たちも舌を巻くほどだったが、あのとき、無自覚のうちに風を読んでいたり、風で矢を操作していたんじゃないのか? 俺の友人もそうなんだが、弓の名手は守護属性『風』に多いと言うし」


「分からないわ。魔法を使っている意識はないもの……」


「魔法なら、私が、教えられる……。かも」


 サリナの声はあまりにも小さかったから、俺は拡声器代わりに、同じことを繰り返す。


「魔法なら、サリナが教えられるかもしれない。魔法の練習でスキルが使えるかもしれないなら、試す価値はある。俺からも頼む。ソフィアとメイにスキルの使い方を教えてくれ」


「……ん。メイ。いい?」


「うん! お願いします!」


「わたくしもお願いいたします」


「それなら、さっそくメイに教えてやってくれ。できるなら、魚が腐る前にスキルを覚えてもらいたい」


「ん」


「メイ。頑張れよ。できなくても焼いて食えばいいけど、もしお前がスキルを使えるようになったら、母さんに新鮮な魚を食わせてやることができる」


「うん。頑張る!」


 メイは両手を握りこぶしにして前のめり。気合いはじゅうぶんだ。


「……練習は、簡単。水路の(せき)を外すような感じ。メイの体が魔法を使う準備ができているなら、きっかけを与えるだけでいい……。目を閉じて、口を半開きにして、じっとして」


「うん! 口を半開きにするのは得意! お兄ちゃんの妹だもん!」


「得意がるな。どういう意味だ。ちょいちょい突っ込みを入れさすな」


「お兄ちゃんにキスされた直後の、脱力顔~っ」


 メイがアホなことを言いながらサリナの指示に従って、まぶたを閉じ、口を半開きにした。


 俺はスキルなし判定をくらっているが、魔法が上達するかもしれないと期待して、メイと同じようにしてみた。


 すると、俺が目を閉じてすぐ、妹の「んーっ」というくぐもった声が聞こえてきた。


 いったいなんだろう。俺は目を開けてみた。


 サリナがメイの後頭部に手を回してキスしていた。

 唇の先端が軽く触れるソフトなキスではなく、唇が密着したディープなやつだ。

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