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10-2. 肉が高い。ぼったくりか? ぶちのめすか?

「考えはまとまったか? 先に俺の意見を言うけど、影響を受けて自分の考えを変えるなよ? 自分で判断しろよ。俺はレストが心配だから森に戻る。旅に慣れていないソフィアとサリナには城壁内の宿に泊まって疲れを少しでも癒やしてもらいたい。メイは……」


 金を節約するために「お前は俺と来い」と言いたいところだが、都に来る機会なんて、そうそうないだろうし……。


「お前もふたりと宿に泊まれ。3つの選択肢があるとか言ったが、これが最善に思う。ただし、みんな都市の南側には行かないでくれ。来たときの道よりも人が多く、店が多い。迷子になったら合流できなくなるおそれがある。それくらい人が多いはずだ」


「私はお兄ちゃんと一緒に行く」


「ん? せっかく都に来たんだから、見学だってしたいだろ? 宿に泊まりな。多分、レストよりも柔らかいベッドがあるぞ」


「ううん。お兄ちゃんと一緒がいい。ここ、人がいっぱいいるから怖い……」


「そうか。さっき怖い目に遭ったし、田舎もん特有の人見知りが出てしまうか……。いいだろう。メイは俺と行こう。ソフィアとサリナは遠慮せず宿に泊まってくれ。宿の値段交渉までは俺もつきあう。王都は初めてだが、大きい街の相場は知っているから、ぼったくられはしないと思う。移動しながら、明日の合流手順を話そう」


 俺は歩きだす。メイが俺の隣に駆け寄って手を握ってくる。後ろから2人がついてくる。


「あのっ……」


「アレルさん……」


 背後から遠慮しがちな声がした。


「ん?」


「私も一緒に野営いたしますわ」


「私も……」


「え? 心配しなくても、宿はそんなに高額ではないと思うぞ。さっきは、人の多さを伝えたくて大げさに言ったが、この聖堂を目印にすれば合流できる。迷っても人に聞けば、この聖堂には来れる」


 ……あ。

 俺は振り返り、思い違いを悟った。

 ふたりも不安そうにしている。

 うっかりしていた。ソフィアもサリナも、人口200人の村の外れでひっそり暮らしていた田舎民だ。人口2万どころか、20万人くらいいそうな大都市は怖いだろう。


「なるほど。ふたりも人が大勢いる場所より野宿の方が気楽でいいのか」


「はい」


「うん……」


「そういうことなら、王都では食べ物だけ買っていこう。メイが授かったスキル……。食品の保存ができるって言っていたよな? さっそく試してみよう」


「うん!」


「それじゃあ、こっちだ。行こう」


 俺は、来た道を逆走するように進む。そうするしかない。

 大都市なので、知らない通りに行けば確実に迷う。出口が複数あって外に似た景色が広がっていたら、来た街道を見つけることすら難しいかもしれない。

 道は真っ直ぐではないから、方向感覚を頼りにしていてたら迷子になるかもしれない。

 記憶を逆算してレストと合流するのが無難だ。


「大きい通りには出ないようにしよう。はぐれそうになったら声を出して。ソフィア。サリナとはぐれないように手をつないで」


「はい」


 俺たちは小道に入らないように気をつけながら移動した。


 メイのスキルを試すためにも調理済みの料理を買いたいが、見当たらない。俺が過去に言ったことのある他の街でも料理は売っていなかったため、なんとなくそんな気はしていた。


 この世界では、料理はあまり発展していない。

 もちろん、王宮では専属の料理人が腕を振るっているだろうし、地域ごとに郷土料理だってあるだろう。

 だが、市街に料理屋は存在しない。基本的に、呼び売り商人(クリユール)から惣菜(そうざい)を買うか、各家庭で材料を買って煮る。


 肉屋の軒先には、生きた豚が一頭つながれていて、木の台の上には、豚の頭部、足のみ、たぶん腹の肉が並べてある。台に直置きだ。

 こんな衛生状態で売れるのかなと心配する必要もなく、台の汚れを見る限り既にあらかた売れたあとだし、見ている間に客が来て値段交渉を始めた。


 他に、細い棒を組み合わせて作った簡素な吊り器具に、ウサギや、イタチっぽい何かや、鳩サイズの鳥などが何種類かづつ吊してある。

 俺が、商品が何か特定できなかったのは、異世界だから地球とは違う動物がいるとか、言葉や名付け方が微妙に違うからではない。

 毛がむしられた状態で吊されているから、本当に何か分からないのだ。


「この辺りでは狩りはできないし、何か買っていくか? 呼び売り商人(クリユール)から揚げ物や焼き物を買うより安い」


「そうですね……」


 おそらくこの中で最も目利きであろうソフィアが吊された動物に顔を近づけ品定めを始める。


 俺は取り残されたサリナがいなくならないように、手を握った。


 商品を一通り見終えたソフィアは戻ってくると、正面から胸が触れそうなほど接近して、俺の耳元にささやく。


「右から2番目の鳥はどうでしょう。来たときと同じ場所で狩りをするなら、私たちならその日までじゅうぶん足りると思います」


「そうか。分かった」


 ソフィアから『品定めはしたけど、店主に声をかけるのは恥ずかしい……』という気配を感じたので、俺は両手の女の子を離してソフィアに預け、店主の方に向かう。


「こんにちは。店主」


「こんにちは。いらっしゃい」


「右から2番目の鳥は、いくらだ?」


「ほう。お目が高い。それでしたら……。銀貨3枚ですね。肉に矢傷もない。こんないい鳥、次はいつ入荷するか分かりませんよ」


「なるほど」


 俺は平静を装ったが、あまりにも高くて驚いた。


(銀貨3枚? 銅貨じゃなくて?! 田舎者っぽくて足下を見られた?

 ぼったくり? ぶちのめし案件?/

 :俺はさりげなく棍棒をちらつかせつつ、他の客の様子を(うかが)う。

 /いや、違う……)


 都市民らしき女性が店主に声をかけ、やはり俺と同じく高額を提示されている。


(なるほど。そういうことか。地方のラーメン屋が一杯600円の時代に東京では1000円を超えていたし、ここは高いんだ。それにしても、銅貨3枚が銀貨3枚とは、どういうことだ?)


 俺はいったん店を離れ、目と手で3人に合図をして移動する。


 少し離れた魚屋を覗いてみる。平台に様々な魚が直置きで並べられている。俺は魚について詳しくないので、それが異世界固有種か地球にも似たものがいるのかは分からない。


「……そういうことか」


 自分たちの村の近くでは塩漬けの小さい魚が銅貨5枚なのに、王都ではかごの中で跳ねるほど新鮮で大きい魚が銅貨3枚だった。


 鳥とは逆に、魚は安い。しかも、山村にたまに流通するものとは比べものにならないほど新鮮だ。


 徒歩で3週間も旅するほど離れているから、この辺りは物価が違うんだ。


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