9-5. 俺もスキル授与儀式を受けるが、×(バツ)だった。いわゆるスキル無しの無能だ
他ふたりに比べると大司教様の反応は弱かったが、メイはスキルを授かったこと自体が嬉しいらしく、満面の笑顔で上機嫌そうに壇を下りた。
えへへーと笑いながら俺に抱きついてこようとするが、俺は手で額を掴み、拒絶した。ここは喜びを分かちあう場面ではない。
「では、最後に。従者の男よ。壇上に上がりなさい。慈悲深き女神ラルムは貴方にもスキルを授けてくれるかもしれません」
「……え?」
聞き間違いか?
大司教は俺に上がれって言ったのか?
俺が困惑の視線を送ると、大司教はゆっくりと頷いた。
「あの。俺、見たとおり、男です。村から聖女が出るという神託と無関係だと思います」
「貴女に使命があるのなら、旅で聖女を護るために役立つスキルを授かるかもしれません。さあ、来なさい。貴方の中に眠る力を引き出すのです。遠慮は要りませんよ」
「分かりました」
俺はやや緊張しながら壇上に上がった。
ファンタジー小説なら、スキルなし判定を喰らって親子の縁を切られる場面だが、どうなる。
さすがにメイが「お兄ちゃん無能~っ。大嫌~いっ!」とはならんと思うが……。
間近で見る大司教は、顔がしわで覆われており、薄暗いことも相まってどこに目があるのか分からなかった。
「さあ、水晶球に手をかざすのです。そして、心を水面のように落ち着かせて、『慈愛の女神ラルムよ、私の内に秘められしスキルを解放させたまえ』とゆっくり唱えなさい。恐れることはありません。スキルは貴方の心のありようが持つ力です。貴女自身の力。必ず応えてくれるでしょう」
俺は現代知識で世界に混乱をもたらすこともなく、人生をやり直すこともなく、完全に現地民のつもりで生きてきたし、母さんと幸せに暮らせればそれでいいからこれからも現地民のつもりだが……。一応、異世界人だし、チート級スキルを授かるのが定番だよな?
「慈愛の女神ラルムよ、私の内に秘められしスキルを解放させたまえ……」
ささやき終えたそのとき、頭上が光り輝いた。
南側の色硝子から取りこんだ光を天井や床の建材で反射して、天井を照らし出すように計算されて建築されていたのだろう。
ティローンと、スマホの通知音のようなものが頭上で聞こえた。
音は天井付近で何度も反響する。
俺は天井を仰ぎ見たまましばらく放心した。
……なんだったんだ、今の音。
タイミング良く聖堂の鐘が鳴っていたのか?
聖女候補3人がスキルを授かったときは何も鳴っていなかった。
俺の幻聴か?
いや、でも、俺は目に見えない聖なる気配を確かに上から感じた。
それは聖堂を超えて、さらに高い位置に存在するかのように……。
それがスキルを授かる感覚だったのか?
「おお……。なんと。これは残念です。×……。貴方はスキルなしのようです」
「え?」
「見なさい。ラルム様の瞳と呼ばれる神聖な水晶に、×と表示されているのが反対側からでも分かるでしょう」
「そんな……」
確かに水晶に、バツの記号が表示されている。
×の横に小さく文字があるが、スキルなしとでも書いてあるのだろうか。水晶が球体だし、裏側から見ているからはっきりしない。
「落胆することはありません。スキルを授かるのは、100人にひとり。神託を受けた聖女候補が特別なのです。恥じることではありません。貴方の守護属性は水。今は、手のひらを濡らす程度の水魔法しか使えないかもしれませんが、鍛錬を積めば、低級モンスターを押し流す程度の水力は得られるかもしれません」
「はい」
「良いですか? 大事なのはスキルではありません。聖女候補を守るという、慈愛と献身の心です」
「……分かりました。ありがとうございます」
俺は大司教に深く頭を下げると、肩を落として壇を下りた。
うん。追放されるパターンだ。
とりあえず荷物持ちをしつつ、肉壁になってみんなを護り、「もうお前は要らない」と言われるまで、健気に尽くそう。
みんなすぐに成長するだろうが、現時点では俺が一番強いんだし、無能だからといって腐らずに、できるだけのことをしよう。
「これにてスキル授与の儀を終わりとする」
大司教は壇を下りて、右奥へと消えていった。
それから、俺たちを王都まで導いてきた司教がやってきて、別室に案内された。
しばらくすると、剣を持った若い僧侶がやってきて、それをソフィアに渡した。鋼の聖剣だ。伝説に残るような剣ではなく、教会の聖水で清めた剣だ。魔族や悪霊系のモンスターに絶大な効果があるだけでなく、通常のモンスターにも有効だ。
さらに、金貨が入っているらしき革の袋を貰った。さすがに教会関係者がいる場所で中身を確認はしないので、何円かは分からない。
メイが俺の手から奪い取って、袋の紐を緩めて中身を覗こうとしたから、二の腕をつねってやった。




