表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/86

1-4. 魔族を棍棒で殴り殺す

 魔族たちが宿の前に着地するから、俺は目視をやめ、建物側面に隠れる。

 最後に見た限り、ジャルガンは羽根飾りのついた兜をかぶり、両腕を金色の甲冑で覆っていた。殺した人間から奪った武器防具で武装しているのだろう。


 魔族はモンスターと交わった人間の子孫と言われており、教会は彼らを邪悪な者とみなしており、発見次第即座に殺すことが信者の義務だ。


 俺に信仰心はまったくないが、教会で祝福を受けてスキルを授かった身だから、命と名誉をかけてあの魔族を殺す義務がある(と教会は説いている)。


 扉の軋む音がする。

 魔族とモンスター達はお行儀良く扉を開けて中に入っていくようだ。


(あいつら住民に目撃されることをまったく警戒していない。ということは町ぐるみで魔族とつながっている……?)


 俺は足音を殺して壁際を移動し、窓から漏れる会話に耳を傾け、中の様子をうかがう。


「どうした。娘の姿がないようだが。聖女が3人と聞いているが? さあ連れてこい」


「そ、それが、お預かりしている薬が効かず……」


「なんだと? 逃げられたのか? それとも、我ら魔王軍を裏切るというのか?」


「め、滅相もございません!/

 :きひひ骸骨じじじが急速に早口になっていく。

 /か、代わりというわけではありませんが、銀貨があります! これを差し上げますので、まだ付近にいる冒険者の男を殺していただきたいのです!」


「くくくっ。人間の金で魔族に命令するか?/

 :愉快そうにしていた口調が急転して冷たくなる。

 /ゴミが増長しおって。見せしめだ! 貴様は殺す!」


「そ、そんな!」


「やれ」


「げぎゃっ!」


 ガタガタッ! ドンッ!


「た、助け――」


 ザシュッ!

 ドシュッ!


「ぎゃああああっ! 痛いッ! 痛いッ!」


「殺さずになぶり、死ぬまで広場に晒しておけ!」


「げぎゃぎゃっ!」


「お、お許しを……。ジャルガン様……。/

 :げほっと血を吐いたらしき音が聞こえる。

 /か、回復魔法を……。し、死にたくない……」


「くくくっ。貴様はそうやって命乞いをする女を、いったいどれだけ我らに差し出してきたのだ? 報いを受けるときがきたようだな」


 正論だが、お前が言うことではないな……。


 室内の物音が移動し始め、出入り口から中の者たちが出ていく。

 俺は壁際をそっと移動して、血まみれの店主が悪魔タイプモンスターに引きずられていくのを見送る。


「た、たす……け……」


 きひひ骸骨じじいはもうきひひと笑うことはできないらしく、口からゴポゴポと血の泡を吐いた。


(おい。超越者たちよ。あそこに助けを求めている人間がいるぞ。力を貸してやったらどうだ?)


 ……。


 ……返事はない。


 悪行を重ねてきた店主を救うつもりはないし、去るか。


 だが、だいぶ遅れて、最後にジャルガンがひとりで出てきて、その背中があまりにも隙だらけだったから、俺は行動する。


 右腰にくくりつけてある棍棒を右手に持ち、腰の後ろに引っかけてある短槍を左手に持つ。


 ふたつとも自作の武器だ。

 木材の膨らんだ先端に甲冑の肩パーツをはめたものが、右手の特製棍棒。

 細くて真っ直ぐな棒の先端に槍の穂先を取りつけたものが、左手の特製短槍。


 一応、なんの変哲もない武器――のはず。


 少し前にフレの超越者たちが『え。お前の武器、弱すぎ?!』『強化してやる!』『祝福してあげましょうか?』『我が武器を授けよう』とか言いだして、俺は『棒でじゅうぶんだから!』と遠慮したんだが、世界の裏側を支配している極光の竜王が『おら。いい棒があったぞ』と棒を送りつけてきた。


 普通の木の棒のはずだが、一度も折れたり欠けたりしないから、何か特殊な物かもしれない……。


「ウォータークリエイト!」


 俺は自分が唯一使える水魔法を使う。俺の魔力では敵を攻撃するような水量は出せない。

 手のひらを湿らせる程度。


 だが、それでじゅうぶん――。


 右の手に握る棍棒が水を吸収してわずかに膨張する。これにより、先端部の金属と木の接合が強固になって耐久性が上がり、重量が増えた分、攻撃力も上がる。


 城壁工事の現場で、巨大な岩石に木製のくさびを打ちこみ水をかけて、木が膨張する力で硬い石を割っていた。それを見て思いついた工夫だ。

 わずかな水でも工夫次第で巨大な力を生みだす。


 逆に、左手の短槍からは水分を吸収。乾燥することにより硬くなり、さらに軽量化で刺突速度が上がり、攻撃力が上昇。


 左手に速度と鋭さの短槍、右手に重量の棍棒、これが俺の武器!


 あとは、父から教わった戦闘術を駆使する。


 俺は魔族の背骨を避け、腰に近い位置を左の短槍で鋭く突く。


 ザクッ。ズグッ……!


 切っ先は骨のすき間にすっと入った。

 魔族の動きが硬直する。


 魔族はまだ痛みを感じていないのか、背中に違和感があったのか「んっ?」と声を漏らした。


 俺は左手を放し、右の棍棒を全力で振り下ろして後頭部を殴打。


 ゴギンッ!


 金属のぶつかる鈍い音がし魔族が前方に傾く。


「かはっ!」


 魔族は倒れない。右足を前に出して姿勢を立て直そうとした。

 だが、自分の身に何が起こったのか正しく理解できていないらしく、全身をけいれんさせながら、両手をゆっくりと頭の方に上げる。


 動きが止まった!

 必殺技を決めるチャンス!


 俺は棍棒を振り上げ、降り始めるが、3割ほどで力を急反転。棍棒を再びスイング開始位置に戻す。

 全身の筋肉が絞られ、体内で筋繊維がみちみちと鳴るかのようだ。


「う、お、おおおおっ!」


 俺は力を解放し、全力で振り下ろす!


 ゴルフで飛距離を伸ばすダブルポンプスイングという技法があり、その応用だ。停止している目標に対して、威力を増大させることができる。

 かつてショート動画で見た記憶による、現代知識無双だ!


 ベギャンッッ!


 兜がひしゃげる音と「ぎゃっ!?」という短い悲鳴が混ざった。


 ドサンッ!


 魔族は顔から地面に激しく叩きつけられて、手足を力なく投げだした。小刻みで速いけいれん。演技ではない。


 だが、油断はしない。


 俺は魔族の兜を強引に引っ張って脱がし棍棒を振り上げる。


「ぶちのめす!」


 短い毛の生えた後頭部に、棍棒を振り下ろす。


 ゴグシャッ!


 頭蓋骨の砕けた手応えがあった。

 死んだ可能性が高い。

 仮に生きていたとしても、負傷が原因ですぐに死ぬ。

 血や脳がこぼれてくれば確実性は上がるが、あまりグロい光景は見たくない。


 しかし、回復して反撃してくる可能性は捨てきれない。


 死亡時に自動発動する蘇生魔法がかかっている可能性がある。種族として再生能力を有している可能性もある。

 体の構造や骨格が異なる場合もある。脳の代わりになる器官を有している可能性だってゼロではない。

 レベル41とは、そういう存在だ。


 だから油断は禁物。


 俺は短槍を心臓の位置に突き刺す。血が勢いよく出てくる。つまり、心臓はまだ血液を全身に送る役目を続行している。


「グロいのは苦手だが……!」


 棍棒を振り上げて両手で握り、後頭部に全力で振り下ろす。


 グシャッ!


 先ほどより柔らかい手応え。脳を守る骨は既に砕けていたようだ。

 ドロッとした黒い液体が地面に広がっていく。


 俺は魔族ジャルガンの死体から目を離さずにスキルを使用。


「『Xitter(エクシター)』オープン」


 左手にスマホサイズの黒い金属板を出現させ、『おすすめユーザー』一覧からジャルガンのアカウントを選び、過去の発言を見る。



────────────────────

■ジャルガン@最強の魔防壁 3分前

殺さずになぶり、死ぬまで広場に晒しておけ!

────────────────────

■ジャルガン@最強の魔防壁 2分前

くくくっ。貴様はそうやって命乞いをする女を、いったいどれだけ我らに差し出してきたのだ? 報いを受けるときがきたようだな

────────────────────

■ジャルガン@最強の魔防壁 2分前

(くくくっ。豚め。気づかれていないつもりか? 

壁の向こうにひとり潜んでいるな。

殺気を完全に殺している。

人間にしてはなかなかやるようだ。

だが、残念だったな。俺は人間より遙かに耳がいい。

隙を晒して誘い出してみるか)

────────────────────

■ジャルガン@最強の魔防壁 1分前

(さあ、背中を晒してやったぞ。

5重の魔力防壁で守られた私に、人間の攻撃など効かぬということを思い知り、絶望するがぎゃっ?!

がっ、な、なんだ。この痛み)

────────────────────

■ジャルガン@最強の魔防壁 52秒前

(さ、刺さってる?!

な、なんだ。うぐっ。

だ、だが、この程度、私の再生力なら……)

────────────────────

■ジャルガン@最強の魔防壁 40秒

(ぐぎゃっ!

あっ、頭が……燃えるように、熱い……。

ありえ、ない……。

5属性以上の同時攻撃でしか、私は……)

────────────────────

■ジャルガン@最強の魔防壁 16秒

(めpゅっ@)

────────────────────



(……竜王からもらったものだし、やはりただの棒ではないか。今まで使った感じだと攻撃力が上がっているようには思えないし、今も魔族の肉体の損傷は少ない……。防御無効化の特殊効果でもあるのか? 魔族の心の声は途絶えている。死んだはずだが、念のためにDMを送っておくか)


 俺は、『Xitter(エクシター)』の画面にある封筒の形をしたアイコンをタップする。



────────────────────

■自分

おい。

ゴキブリ駆除薬みたいな名前のゴミ魔族。

聞こえるか?

格下のザコ人間から後頭部に不意打ちを喰らった気分はどうだ?

お前は発情期の雌豚みたいにケツを振っていて隙だらけだったぜ。

ところで、どうして頭の中にゴブリンのクソを詰めてたんだ?

俺の言葉を理解するだけの知能はあるか?

────────────────────



「よし。既読がつかない。死んでいる。煽りメッセージに何かしらの反応をすれば、通知で分かるからな。もうこいつは放置でいい」


 俺は黒い板を袖の内側にしまうと息を大きく吐き、額に浮かんでいた汗を拭う。


 親しくない相手に対してXitter(エクシター)を使用すると、スキルパワーを大きく消耗するから、かなり疲れる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ