5-5. 新たなぶちのめしの予感? 妹に近づく男の影
サリナは村から少し離れた林の中で祖母と二人で野菜や野草を育てて自給自足の生活をしていたため、長距離を旅した経験はなく、体力も他の誰よりも劣っていた。
背負っていて分かったんだが、尻も太もももやせ細っている。俺特性の山羊チーズをたくさん食べさせて体重と体力をつけさせよう。
平地に出てからは彼女を下ろし、自分の足で歩いてもらった。
街道に出ると全体の移動速度が上がった。彼女は早歩き気味になり、息を切らした。
街道とはいえ右手の林に沿ってなだらかに湾曲しているので、進行方向への視界は閉ざされがちで、木陰になるため薄暗い。
サリナがすぐに疲労で遅れがちになったので、再び俺が背負って運ぶ。
少し休憩したらまた自分の足で歩いてもらい、これを繰り返す。
魔界まで旅ができるのか不安だが、少しずつ体力をつけてもらうしかない。
背負って何度目かの時、サリナが「申し訳ないです……」と湿った声を漏らした。
「気にするな。山道に比べれば街道は楽過ぎて体力が余っていたところだ。さっきも言ったが、サリナくらいの重さなら3人背負っても俺は山道を歩ける。それよりも、ほら」
俺は、街道から外れて、数メートル先にそびえる壁のような林に近づく。
「葉っぱを一枚とってくれ。緑色の元気なやつだ」
「はい。これでいいですか?」
「ああ」
俺は葉っぱを笛にして鳴らそうと思ったが、両手は背負ったサリナの太ももに回しているから使えない。
「その葉っぱを俺の唇に当ててくれ」
「……食べるんですか? 私の知らない薬効がある葉っぱ?」
「いや、違う。ほら。当てたら、葉っぱが落ちないように、人差し指と中指で押さえてくれ」
「はい……。こうですか?」
俺は返事の代わりに、口をすぼめて息を吹く。
ピュイーッ!
「わ。凄い。なんですか、今の?」
サリナが驚く。
そして、前方を進んでいた馬上の男が振り返り「何事だ?」という視線を向けてくる。笛の音は蹄の音に紛れず、しっかり届いていたらしい。
しかし、すぐに「なんだ。何か起きたわけじゃないのか」と呆れたような顔をして、体の向きを直した。
前列で雑談していたメイとソフィアさんが歩調をゆるめ、俺たちの近くまで下がってきた。
「私もできますよ!」
メイも葉っぱをとり、笛を鳴らした。父から俺に教えられた葉っぱ笛は、妹にも教えてある。
ソフィアさんも真似するが上手くいかないようだ。
俺の唇から葉っぱが離れた。上の方から、すーっ、すーっと息の漏れる音がする。サリナが自分でも試しているようだ。
「できません。アレルさん。もう一度、お手本を見せてください」
「ああ」
再び俺の唇に葉っぱが当てられた。
間接キスに照れる価値観はないのかなと思っていると、実妹のメイが俺をじーっと見つめてくる。
そして、街道をはずれて葉っぱを採ってくると「はい。サリナちゃん! こっちがおすすめだよ」と渡した。
それからメイは何度もチラチラと見てくるようになった。
ああ。そういえば、ユーノをおんぶしてやったときも、メイがふてくされたときあったな。構ってもらえないと寂しがるような年頃なのだろう。
あとで時間があったら、メイを構ってやるか……。なんて考えていると、メイと同じような年頃の従者の少年が前方からやってきて「メイ! 俺にも教えてくれよ!」と、前歯のない笑みを浮かべた。
チャンスだ。メイ教えてやれ。騎士の従者をしているんだから庶民ではないだろうし、良家のボンボンかもしれない。仲良くなって嫁げ。
待て。違う。逆だ。
相手が金持ちだったら持参金もたくさん必要になる。そんな金はうちにはない。嫁いだら駄目だ。
俺は、少年に向かって「俺が教えてやるよ」と声をかけた。
少年は「要らねえ」と走り去った。
色気づきやがって。くそが……。
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■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
……お前、このガキ、ぶちのめすだろ
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■自分
……それはどうかな。
俺は妹に、近い年ごろの男と仲良くなってもらいたいと思ってる
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■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
でも、
「俺の美しい母さんの娘に手を出したら、ぶちのめすぞ」
って言って、ぶんなぐるだろ?
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■自分
そっ、それはどうかな……
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