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4-3. 顎傷のジャックを脅す

「ヨッシュのところに行ってくる。別れを惜しんでくれるそうだ」


「こんなに暗いのに?」


「うん。心配要らないよ。母さん。暮らし慣れた村だしね」


 俺は家族に嘘を告げると家を出で、納屋付近の暗がりに潜む。

 レストが近寄ってきたから、その体も利用して、俺は身を隠す。


 山村の屋外に人工的な明かりはない。星明かりだけだ。物陰に潜んでじっとしていれば、見つからない。


 足音を殺すために俺は鹿革の靴を脱いだ。

 棍棒と短槍の固定を確かめ、武器がぶつかって鳴らないようにする。


 しばらくすると、不審な人影が近寄ってきた。人相ははっきりしないが、確かめる必要はない。足を引きずっている。顎傷のジャックだ。


 強姦するなら今日がチャンスだと判断したのだろう。あいつは今頃、この家には母さんとユーノしかいないと思っている。


 まったく、この社会の倫理観はどうなっているんだ。後ろ盾のない女は泣き寝入りするしかないから、犯し放題かよ。洋の東西を問わず中世的な価値観では、女は常に強姦の危機と隣りあわせだったという説もあるしな……。


 俺はレストの肩を叩いて、追随するよう命令し、音もなく移動開始。

 ジャックがゲートに達する前に柵を跳び越えて、背後に回る。


 手を伸ばせば届く位置に俺が接近したことを、ジャックは気づいていない。


 ジャックはゲートを開け、俺の家の敷地に一歩踏み入った。


 よし。不法侵入と強姦未遂の確定だ。


 俺は背後からジャックの口を押さえる。


「……ッ!」


 ジャックが暴れる。しかし、元傭兵とはいえ今では脚を負傷して満足に歩けない身だ。若く体力にあふれる俺には逆らえない。

 俺は強引に押さえつける。


「声を出すな。出せば、殺す。苦しんで溺れ死ぬことになるぞ」


「……!」


「強姦は死刑だ。ここまで来て言い訳が通じると思うな。死にたくなかったら、黙って俺に従え」


 俺は木製の短槍でジャックを突き、移動を促す。


「……ぐ」


「お前の家に戻れ。いいか。亀が甲羅に首をしまうように、ゆっくり大人しく家に向かえ。一歩でも道をはずれたり、子育て中のツバメのように声を出したら殺す。理解したなら、ゆっくりと一度だけ頷け」


「……」


 俺が手を放すとジャックは歩きだした。

 俺は後ろをついていく。


 俺は身を低くし、無関係な村民に目撃される可能性を少しでも減らす。

 ジャックをじゅうぶんに監視できるのなら、木陰や小屋の陰などを利用して、身を隠した。


 熟練の羊飼いは、夜中に一頭の羊を起こすことなく、群れの中を歩いて渡れるくらい、音を殺す術に長けている。


 ジャックが暮らす小屋についたので、入室を促す。

 中は土間になっていて、石と土の炉端がある。

 家具や食器は最小限で、山村にありふれた貧しい生活を送っている。

 奥の部屋に藁の寝床でもあるのだろう。


「殺しはしない。だが、少しでも騒いだら殺すからな」


 俺はジャックを部屋の奥に行かせる。

 俺は出入り口近くに立ち、棍棒を右手に持ち、月明かりに晒す。


「……。抵抗はしない」


 なるほど。元戦士なだけあって肝は据わっているらしく、悲鳴をあげはしない。


「不法侵入と強姦未遂だ。指の数本が落とされる罪だとは分かっているな?」


「けっ。何を言っている。俺は、聖戦に赴く者を激励しようと――」


「神に誓って司教様の前で同じことが言えるか? ラルム様の魔法は嘘を暴くぞ。それに、レストは人間の嘘の匂いを見抜く」


「……ッ!」


 レストにそんな能力はない。だが、賢い相棒は俺の言葉を理解しているのか、鼻先をジャックに近づけて、すんすんと鳴らした。


 俺はゆっくりと前に移動し、不愉快ではあるが左手でジャックの顔をつかむ。右手に持つ棍棒の先端を、ジャックの腹に押しつけ、グリグリひねる。


「な、何をする」


「昼間の裁判で俺が村長の腹を打つところを見ていただろう。デバフされた状態であの威力だ。今なら、お前のすべての内臓を破壊し、背骨を折ることができる。簡単には死ねないぞ。長く苦しむことになる」


「や、やめろ……。俺を殺せば、そんなことできるのは、この村でお前ひとりだ。すぐにバレるぞ」


 俺は水魔法でジャックの体内から水分を奪う。


「う、うあ……」


「この木の棒は、司教様に祝福してもらった。これに触れた状態で嘘をつくと、命が減るぞ。さあ、俺の家族に近寄らないと誓え」


「わ、分かった。ラルム神に誓う。二度とお前の家族には近づかない……!」


 俺はさらにジャックの水分を奪う。


「嘘だな。お前は元戦士なんだろ? だったら誓うのはラルムではなく、戦の神リュテのはずだ。それとも、戦士には他に守護してくれる神がいるのか?」


「う、嘘じゃない! 戦士や傭兵やリュテを信仰するが、ラルムだって信仰する!」


「息が切れて、めまいがするだろ。体がだるくなってきただろ? この木の棒は司教様に祝福されている」


 棍棒にはなんの能力もないが、俺が水分を奪っているからジャックは脱水症状になりかけているはずだ。

 医学知識がないのだから、水魔法の応用で脱水症状にされているとは気づかないだろう。


「二度と俺の家族に近寄らないと誓え。でなければ死ぬぞ」


「誓う。本当だ。リュテ神に誓う……! 傭兵の神メルセにも誓う! 残った最後の足にも誓う! 信じてくれ!」


「そうか。その言葉が本当なら、いずれ回復するだろう」


 俺はジャックに水分を戻し、手を放す。


「いいか。誓いを忘れるな。この祝福を受けた棒は、ヨッシュに預ける。もしお前が誓いを破れば、待っているのは身の破滅だ」


「分かっている。本当だ。信じてくれ……! お前のことを侮っていた。だが、お前のことは認めた。逆らわない。許してくれ……」


「信じよう。だが、聖女の家族に手を出すことの罪深さは忘れるなよ」


「あ、ああ。もちろんだ」


「分かったならそれでいい。/

 :俺は背を向けるフリをして、中断。

 /おっと。ムカデがいた」


 ドゴンッ!


 足下に棍棒を振り下ろした。


 棍棒を上げると、土間になっている地面に、小さなくぼみができていた。


「済まないな。ムカデに刺されたら大変だからな」


「お、おう……」


「もし悪い虫が出たら呼んでくれ。今のは片手だから大した威力にはならなかったが、両手で本気を出せば石も砕ける」


「あ、ああ……」


 これでジャックは毎日、足下に残った棍棒の威力を目の当たりにすることになる。


 俺は踵を返し、ジャックの家を出た。


 おそらくジャックは安堵しているだろう。俺は家の中に小声でダメ押しの一言を投げこむ。


「そうだ。俺の下の妹のユーノも棍棒を使うぞ。討伐推奨レベル5の地走り大鴉の頭蓋骨を粉砕するくらいの威力だ。薪割りで困ったら頼ってもいいぞ」


 これだけ脅しておけばじゅうぶんだろう。ジャックが母さんを襲うことはない。



────────────────────

■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

え? 殺さんの?

────────────────────

■自分

ああ。強姦未遂だ。殺すほどの罪ではない

────────────────────

■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

誓いを破ったらどうするんだ?

────────────────────

■自分

その可能性は低い。

人間の価値観だと、神への誓いに背くことは、まさに神に逆らう破滅の行為だ。こいつにそんな度胸はない。

仮に誓いを破られたとしたら、そのときは地の果てまででも追いかけて撲殺する。

回復魔術師を雇って回復させながら、何度でも殴る

────────────────────

■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

そうか

────────────────────

■自分

もし母さんが陵辱されたら、そのときはお前の力で過去に介入して、ジャックを殺してもらう。頼んだぞ。

『力がほしいか……』の言葉に甘えさせてもらう

────────────────────

■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

お、おう。

とりあえず眠くなってきたから寝るわ

────────────────────

■自分

ああ。俺も意識が途切れるまで回想するよ

────────────────────

■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

我を『Xitter(エクシター)』に登録するところまでは回想しろよ。

それまで寝るのは許さん

────────────────────

■自分

マジかよ……

────────────────────

■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ

ぐーぐー。ボクも寝るー

────────────────────

■自分

おう。ケルリル。寝言だと思うが、お休み

────────────────────

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