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1-3. ぶちのめし計画を立てる

「他人のつぶやき(エクシート)を覗くと疲れるが、確かめる。『Xitter(エクシター)』オープン」


 俺は『おすすめユーザー』一覧の中からボッグ@宿屋店主という文字を見つけたので、それをタップする。



────────────────────

■ボッグ@宿屋店主 18分

(きひひっ。

あのガキが床に放り投げていった革袋の中には金が入っているんだよな?)

────────────────────

■ボッグ@宿屋店主 17分

(……きひひっ。思ったとおり。銀貨がたっぷり。

タルソー銀貨、トレノ銀貨。

きひひっ。アレンドガルド銀貨やパレンミラ銀貨まである!

これは俺がいただいておくぜ。

代わりに石を入れておいてもバレないだろう。

このガキは追放されたんだし、

女たちに嫌がらせをされたと思いこむだろう。

きひひっ……)

────────────────────

■ボッグ@宿屋店主 2分

「きひひ。行ってらっしゃいませ……」

────────────────────

■ボッグ@宿屋店主 2分

「ひいっ! い、行ってらっしゃいませ!」

────────────────────

■ボッグ@宿屋店主 1分

(目つきの悪いガキだな!

14か? 15か?

追放されたくせにいきがってんじゃねえぞ!)

────────────────────

■ボッグ@宿屋店主 今

(いつまで俺の宿の前に立ってんだよ。あのカス!

だせえ髪型しやがって。どうせ自分のナイフで切っただけだろ。

俺の店の前で散髪してんじゃねえだろうな?

客が寄りつかなくなったら、どうするんだ!

ジャルガンの野郎に頼んで殺してもらうか?

そうだ。

魔族に差しだす娘を用意できなかったのは、こいつのせいにしてやる!)

────────────────────



 俺は声には出さなかったが、眉毛がピクリと動く程度には怒りが表情に表れただろう。


 魔族に差し出す娘?


 なるほど。こんな魔界のそばにあって城壁すらないような町が滅びていないのは、魔族と内通しているからか。


「あの、きひひ骸骨じじい……。……ぶちのめすか」


(力を貸してやろう)


(力が欲しいか? くれてやる)


(我が名を呼べ……)


(さあ、光の力に目覚めるのです。アレルよ)


 暇人どもめ……!

 俺をからかって遊んでやがる!


 戦闘中に話しかけるなって言ったから、戦闘前に話しかけてきやがる!


 あいつらの脳内通話は俺への一方通行だ。超越者同士では会話できないらしい。

 つまり、あいつらの脳内通話は俺に集中する。うざい。


「きひひ骸骨じじいをぶちのめすだけなのに、超越者の力なんて借りる必要ないだろ……。しかし、じじいが言ってたジャルガンってのは誰だ? ……ん?」


 北の上空に黒い点を発見。何かの群れが飛んでいる。綺麗な隊列を組んでいるとは言いがたい。


 俺は宿の横に隠れる。


「建物が邪魔で、接近に気づくのが遅れた。なんだ、あれは。上空100メートル、距離は200くらいか。翼の生えた人型をしているように見える。魔族か?」


 俺の本業は羊飼いなので、定期的に遠くの空を見る癖がついている。

 鳥がどう飛んでいるのかを見れば、ある程度の危険を予知できるからだ。


 上空で鳥の群れが旋回していれば、その下に食料があることを意味する。鳥の食料とは生き物の死体のことだ。つまり、戦争やモンスターの襲撃があったことを意味する。


 森や平原の上に鳥の群れが一斉に飛び立つ場合は、地上で狩りが行われている可能性が高い。


 街の上を鳥が大量に飛んでいれば、そこでは(えき)(びょう)が流行り、無数の死体が転がっている可能性がある。


「魔族の勢力圏から真っ直ぐ向かってきている。/

 :俺は右手の親指と人差し指で輪を作り、その狭い穴を右目で覗く。

 /間違いない。魔族だ。アレがきひひ骸骨じじいの言っていたジャルガン?」


 俺はスキルを使用し、封書の形をしたアイコンをタップすると、過去にメッセージをやりとりしたことのある者のリストを表示し、ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王を選択。


 こいつがいわゆる、俺たち人類にとって倒すべき最大の敵だ(国教でそう教えられている)。俺はこいつの勢力を削ぐための魔族討伐の旅、通称『聖戦』に参加している途中だ。


 俺は魔王と1対1のメッセージ交換を始める。



────────────────────

■自分

魔王、ちょっといいか?

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■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

くくくっ……。

どうした?

────────────────────

■自分

人間と内通している魔族はいるか?

────────────────────

■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

くくくっ……。

我のことか?

────────────────────

■自分

お前以外で

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■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

くくくっ……。

知らん

────────────────────

■自分

無理してくくくっ……て言わなくてもいいんだぞ

────────────────────

■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

そうか。流行の挨拶かと思ったぞ

────────────────────

■自分

ジャルガンって魔族、ぶちのめしてもいい?

お前と仲いいやつ?

────────────────────

■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

我が魔族からも恐れられていて、仲のいいやつがいないこと知ってて煽ってる?

────────────────────

■自分

くくくっ……。

すまん。

とりあえず、ぶちのめしていいってことが分かればじゅうぶんだ。

ありがとうな

────────────────────

■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

待て。

部下に調べさせた

────────────────────

■自分

お前……。

会話してくれる部下、いたんだ……

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■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

マジで煽ってきてるな、お前ー

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■自分

からかわれた仕返しだ

────────────────────

■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

ならいい。

ジャルガンとかいう魔族のレベルは41だ。

人間基準だとかなり強いだろ?

────────────────────

■自分

41!

40越えなんて、普通に名前が知れ渡るレベルだ。

そんな上級魔族が人間との取り引きに来る?

人間の言葉を話せる知能があるからか……?

────────────────────

■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

勝てそうになかったら我を呼べ。

魔王降臨してやんよ

────────────────────

■自分

やめろ。人間世界が混乱に陥る。

魔王城で引きこもってろ

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■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

くくくっ。

よかろう。お前が来るのを楽しみにして待っててやる

────────────────────



 よし。魔族殺しの許可はもらえた。相手は格上だ。工夫してボコろう。


 だが、宿屋は犯罪者とはいえ、そう簡単にボコれない理由がある


 実は聖者や勇者の行動は、聖戦監視官と呼ばれる役人に監視されている。そいつに見られると面倒になるためだ。


 なぜ監視しているのかというと、一部の勇者たちが聖戦という名目で略奪行為をするためだ。お行儀の悪い勇者たちは行く先々で民家のタンスをあさったり壺を割ったり宝箱の中身を盗んだりする。


 勇者や聖者は『教会から』任命されて聖戦に参加している。そいつらが悪さする可能性があるから『国が』聖戦監視官を派遣している。彼らには他にも役割があるがいったんそれは置いておく。


 なにはともあれ、聖戦監視官に見られること前提で、合法的にぶちのめす必要がある。


 俺はボロ宿の陰に隠れて、北の空の様子をうかがう。


 飛来するものが近づくにつれて、だんだんシルエットがはっきりしてきた。

 先頭を飛んでいるのは背中に翼が生えた、人に近い形状の生き物だ。あれが魔族ジャルガンLv41だろう。


 ジャルガンの後方に人間の子供くらいのもいる。小さめの翼が生えている。

 手には槍や剣を持ち、猿のような骨格をしており、頭部に角があり、ギラついた目と大きく裂けた口の典型的な悪魔タイプモンスター。


 全部で7体。

 どいつも黒い体で、肩や腰など体の一部にだけ金属の防具をまとっている。


(レベル41魔族だけでも厄介なのに、おまけが6体か。面倒だな。苦戦したら超越者たちが力を貸そうとしてくるし、撤退を視野に入れるか)


 この世界のレベルは個人の成長度合いを示す指標ではなく、強さの目安だ。

 柔道や剣道などの段位のように、評価基準があってレベルが認定されている。


 俺は最後に測定した時点でレベル32だ。それから大幅な成長はしていないから、今も似たような値だろう。


 歴史的な経緯は知らないが、人類がレベルという評価基準を用いてしばらくすると、魔族も同じ概念を使用し始めたらしい。魔族はシンプルな方法で、レベルを定めている。

 殺した人間のレベル、プラス1ということにする。それだけだ。


 つまり、ジャルガンは低く見積もっても、レベル40の冒険者を倒せる強さ。人間基準だと、どこのギルドでもエースになれる。

 実際はもっと高レベルの可能性がある。


 レベル41の魔族にレベル32の俺が勝つには、相当な工夫が必要だ。

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