4-1. 幼なじみと友情を確かめあう
閃くことのあった俺は、ジャックにぎりぎり聞こえるか聞こえないかという声量で、ヨッシュに話しかける。
「……ヨッシュ。俺は今晩、旅立つよ」
「随分と急だな。明日じゃなかったのか? 日が長くなってきたとはいえ、夜の旅は危険だぞ」
「ああ。聖戦は治安維持を兼ねているからな。夜間に移動してモンスターや夜盗をおびき寄せるほうがいいらしいんだ」
「なるほど。しかし、サーラさんとユーノはふたりだけで大丈夫か? うちに来てもらうのはどうだ? サーラさんは俺やアンナにとっても母みたいなものだし、ユーノも妹みたいなものだ」
「……そうだな。明日から頼むよ」
「明日から? 今日からでもいいぞ。なあ、アンナ?」
「ええ」
「いや、明日からだ。世話になるんだし、母さんには湯あみをしてもらうよ。誤解するなよ。別に母さんは汚くないからな。礼儀として、清潔にするだけだから?」
「分かってる」
「アンナも、気を遣わせることになって、悪いな」
俺は後ろのアンナに声をかけるために振り返る。同時に、さりげなくジャックとの距離を確かめる。
「アレルがそんなこと言うなんて、明日は雨ね。ありがと。水瓶を外に出しておくね」
ジャックからはじゅうぶんに離れているので、俺は声を小さくして前言を撤回する。
「……やはり、世話になるのは遠慮するよ。お前とアンナの新婚生活を邪魔するのは忍びない」
「水臭いこと言うなよ。俺たちは兄弟みたいなものだろ。メイが聖戦に行くのなら、俺にも少しくらい貢献させろよ」
「ああ。日中に母さんとユーノが困っていないか、様子を見てくれ。お前に余裕があるときだけでじゅうぶんだから」
「俺もアンナも、それくらい言われなくてもするつもりだ。家のことは心配するな」
「ありがとう。魔族から金銀財宝を奪えたら、アンナに首飾りでも贈るよ」
「ありがとう。ガーネットがいいわ。ガーネットを身につければ、いつまでも健康でいられるんでしょ?」
「おい、アレル。俺にも財宝を寄越せよ。フェニックスの尾羽や、矢の尽きない弓か……。なんでも切れるナイフもいいな。毎日卵を産む鶏でもいいぞ」
「男に宝物を贈る男がいるかよ」
「なんだと、おい」
笑いながら肩をどつかれたから、俺も笑いながらどつき返す。
それぞれの家に向かう別れ道だ。俺たちは立ち止まる。
数か月か一年を超えるか、期間は分からないがしばしの別れだ。死別の可能性もある。
全員それは分かっている。
「アレル。お前、童貞だろ? 死ぬ前にアンナとヤっていくか? 一晩くらい貸すぞ」
パアンッ!
アンナがヨッシュの尻をフルスイングで叩いた。
女性の権利が弱い時代や社会なので、ヨッシュの発言のようなことは、実際に行われる。
俺たち3人が気心の知れた幼馴染みでなければ、本気にされかねない冗談だ。
「女を知らずに死ぬのは怖い。アンナ。頼む」
アンナが俺の背後に回り込んでくるから、俺は動かずに待つ。
「棒が邪魔」
俺は腰の後ろに引っかけてある短槍と、念のために右腰の棍棒を手に持つ。
パアンッ!
尻を叩かれた。まあ、これが俺たちの友情確認だ。
「生きて帰ってきたら、ヤらせてあげるから。死なずに帰ってきなよ」
アンナがいつものぶっきらぼうな言い方なんだけど、予想外の発言だ。
ヨッシュが慌てて「アンナ?!」と叫んだ。
「馬ー鹿。冗談だって。でも……」
アンナは俺に上半身を寄せてきた。親愛のハグだろうから受け入れたら、頬に軽く触れるだけのキスをしてきた。
俺の魅力的な母さんと違って、アンナは正面から抱きあっても胸の弾力が伝わってくるほどの大きさはない。
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■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
お前の回想、マジでたまにイラッとくるな
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■自分
は? 何がだよ
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「ラルム様ほどの効果はないだろうけど、私なりの加護。無理せず生きて帰ってきなよ?」
「ああ」
俺はアンナにキス仕返す。
さらに、照れくさいが、俺はヨッシュともハグした。
そして、互いの頬に触れあうキスをした。
別に、俺たちに友情以上の感情はない。これが、この辺りの文化だ。
俺たちは分かれた。
不思議だな。精神年齢が離れているから、俺はふたりとは対等な友人関係にはなれないと幼いころは思っていた。
しかし、俺は彼らのことを下に見ることはなく、友人としてありふれた当たり前の感情を抱いた。
もしかしたら、彼らの存在が俺の精神年齢を若返らせてくれたのかもしれない。
いや、きっとそうだ。
ありがとう。ヨッシュ。
ありがとう。アンナ。
俺の旅立ちの理由は、90%が母さんと一緒に暮らすためで、9%がメイをひとりで旅立たせるわけにはいかないからで、まあ、残りの1%を、お前たちが暮らすこの世界から、少しでも魔族の脅威を減らせるように、頑張るというか、なんというか。
とにかく、ありがとう。最高の友よ。
俺は旅の心構えみたいなのができたつもりだったが、いま改めてできたよ。




