3-6. カス村長がやべえこと言うから、演技で騙す
村長の庭で待っていたのは身なりの良い神官と、護衛の騎士だった。神官は街で見かける司祭より身なりが良く、頭の上に金色の冠が載っているから司教だろう。
光沢のある司教服と、陽光を反射して煌めく甲冑が、俺の異世界に対する解像度を急激に鮮明にしていく。
司教は60歳くらいだろうか。寿命が短い世界だからあまり見かけない高齢者だ。彼は従者の手を借りて仮ごしらえの台に立つと、手で十字を切り、よく通る声で話し始める。
「村の者よ。これは慈愛の女神ラルム様の言葉と思って、心して聞くのです。私は王都アレンドガルドのラルム教会からの使いです」
ふむ……。
王都の名前はアレンドガルドか。
俺の名前アレルと少し似ているな。多分、最初の国王がアレンみたいな名前で、そいつが作った都市という意味の言葉だろう。
それはそうと、あの司教が乗っているのは、薪に使えそうな木材だ。
(ロリコン村長め。台座にできるだけの木材が余っているのに、俺に小枝を割り当てやがって……。ぶちのめすぞ)
俺はそんなことを考えながら、司教の言葉を他人事として適当に聞き流した。
しかし、次の言葉は無視できない。
「この村から魔族を討伐する聖女が現れると神託がありました。10歳以上の生娘を集めるのです。聖女候補にはこれより王都に向かい、大司教様による儀式で『スキル』を授かり、魔族討伐の旅『聖戦』に出てもらいます」
村人たちがざわめき始める。
10歳以上の生娘?
俺の妹のメイが該当する。あいつが聖女候補?
俺の家の事情を考慮すると、メイは手放したくない。ようやく日帰りならひとりで羊を連れていけそうなくらいになってきたんだ。貴重な労働力だ。
いずれ、父さんが俺に遊牧ルートを譲ってくれたように、俺も同じことをしようかと検討し始めていたのに……。
2、3年でいいんだ。そうしたら、ユーノが10歳になる。メイは結婚し、ユーノに羊とルートを譲ればいい。
それからさらに2、3年で俺がユーノの結婚資金を稼ぐ。
家に残った俺と母さんがいつまでも仲良く幸せに暮らす……。
それが、我が家の未来だったのに……。
「アレル。良かったな。メイちゃんが魔族討伐の聖女になれるぞ。これは名誉なことだ」
村人が話しかけてきたが、その声は俺の耳を通り抜けていき、名誉という言葉がひっかかって残った。
名誉?
名誉あることなのか?
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■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
なあ、よく聞くけど、聖戦ってなんだ?
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■自分
ああ。教会用語だ。
人間と魔族は対立しているだろ?
国家が主導して軍隊が衝突することを戦争という。
それとは別に、教会が主導して勇者や聖女と呼ばれる少数部隊が、魔界で適当な魔族を暗殺してくることを、聖戦と呼んでいるんだ。
それとは別に冒険者が魔界に行って金銀財宝を奪ってくる略奪行為は、冒険とかクエストとかと呼ばれている
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■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
つまり、国家、教会、個人によって、略奪行為の呼び方が変わるということか
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■自分
そういうことだ。
結局、貧しい世界だからみんな理由をつけて己を正当化して、他者から奪うんだよ
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「おい、アレル」
「……!」
考え事をしていたら、いつの間にか村長宅前に集まっていた村人は大半が立ち去っていた。
俺の肩を掴んで揺さぶっていたのは、脂ぎった顔で息の荒いおっさん、ロリコンクソやろうこと村長だ。
村長がでっぷりとした二重顎を俺の耳に近づけ、小声でささやく。
「アレル。聞いたな。メ、メイちゃんはまだ、しょ、処女だよな。お、お前が性欲処理のために悪戯したとか、そういうことは、な、ないよな?」
「当たり前だ……」
「お前の家は借金もあって生活が苦しい。働き手を失うわけには、いかないよな?」
「……ああ」
横顔に吹きかけられる荒い吐息から逃げたかったが、無視できない話題なので俺は耐える。
「解決策があるぞ。アレル」
「……?」
「わしに、メイちゃんを喰わせろ!」
「……は?」
「聖女の条件は10歳以上の生娘だ。だ、だったら、わしが一晩かけて処女を奪い、子種をたくさん注いでやれば、ぐふふっ……。聖女の資格はなくなる。村の労働力は増える……!」
な、何を言っているんだ。こいつ。
俺は、驚きのあまりぶちのめすぞと言えなかったほどだ。
「メイちゃんもユーノちゃんも、む、村の大事な一員だ。聖戦に参加させて、魔族に食われてしまうのは、も、勿体ない。だ、だから、わしが愛してやるのだ! ぐふふっ!」
頭が熱い。
駄目だ。我慢できない。
ガッ!
俺は棍棒を握った。
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■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
来た!
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■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
やったあ!
ぶちのめしだーっ!
わんわん! わんわん!
嬉しすぎておしっこ止まらない!
わおーん! わおーん!
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■自分
……おしっこ出過ぎじゃね?
起きたら、レストが隣で干からびていたら、やだなあ……
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ぶちのめそう。そう思ったとき、冬の到来を告げるかのように、冷たい風が手の甲を撫ぜた。
ふと、先日、母さんが俺に子作りの練習を迫ってきて、手に触れてきたときのことを思いだした。
……そうだ。我慢しろ。俺がここで村長をぶちのめしたら、母さんたちが生きていけなくなる。
俺は棍棒から手を放し、顔を上げる。
すると、視界の片隅で馬車の旗がはためき、青地に白い聖杯の紋章が見えた。
「……!」
俺は咄嗟に思考を巡らし、今、最良と思えるやり方で怒りを吐きだす。
「ふざけるな! 村長! あんたは俺の妹、聖女候補のメイの処女を奪おうというのか! 村の労働力を増やすために、処女をはらませるというのか!」
俺は叫んだ。羊飼いの声量、なめんなよ。俺は地平線に囲まれた原っぱで羊を呼ぶことだってあるんだ。
もくろみ通り声は遠くまで響き渡り、ラルム教会関係者にまで届く。
司教に指示されたらしき身なりの良い男たち――おそらく教会に仕える騎士――が駆け寄ってくるのが、視界の隅に見える。
村長は俺の態度が急に変わったことに戸惑っているらしく、何も言い返せない。ただ、予想外の相手から反撃をくらった怒りで顔を赤く染めているだけだ。
「お前はただ、幼い子に非道を働きたいだけだ! 魔族の討伐は、我らラルム様から祝福を受けた人類の悲願にして宿命! 魔族を倒す聖女の力を奪おうとするのは、国家への! いや! 慈愛の女神ラルム様に対する反逆だ! お前は悪魔を崇拝する異教徒だ!」
俺は村長の胸ぐらを掴み、同時に額を相手の額に押しつけるようにして顔を近づける。これで、村長は俺を振り払わない限り、駆け寄る騎士たちが見えないはずだ。
「だ、黙れ! アレル! 貴様! 村長のわしに逆らうのか! メイがモンスターに喰い殺されるくらいなら、わしが先に味わってやろうというのだ!」
「貴様は、自分の歪んだ性欲を発散するために、ラルム様の神託を汚すのか! それは理性ある人のすることじゃない! 獣の所業だ!」
俺はラルム教をまったく崇拝していないが、熱狂的に叫んだ。
効果は抜群だ。
ついにこの場まで駆けつけた騎士が、村長の後ろから首に腕を回して、俺から引き剥がす。
「話は聞かせてもらった。よくぞ言った! 少年よ!」
「魔族討伐は我らラルム教徒の宿願! 聖務である!」
もうひとりが手を貸し、騎士たちは村長を地面に押さえつけた。
「うぐわあっ! な、何をする!」
よし。これで、神託に背く行為を試みた村長は破滅だろう。
無罪放免にならないよう、ダメ押しをしておくか。
激怒は俺の本心だから、演技する必要もなく、声は荒々しくなる。
「12歳のメイだけでなく、ユーノまで! あの子はまだ8歳だぞ! 妹をお前にやるものか! あの子は俺が良き相手を探す! お前の嫌がらせで越冬用の薪を貰えなかったが、俺は兄として妹たちを護る! 妹の幸せを願う! そ、それが、俺にとってラルム様の教えから感じた、慈愛の心だ……!」
ちょっと過剰に感情を出しすぎたか?
金髪さらさらのイケメン騎士が俺の肩に優しく手を置く。
「少年よ。落ち着け。君の信仰心と家族への愛はラルム様にも届いただろう」
「す、すみません!」
俺は今ごろ騎士に気づきましたと言わんばかりに目を見開いてみた。
「村長のことは私たちに任せてくれ。光輝なる王アレンの直系たる我なら、この領地の領主ではなくとも代わりに裁判をする権利がある。この男にはふさわしい処罰を与えることを、我が家名に誓おう」
「ありがとうございます!」
よし。なんか知らんけど、村長より遥かに偉い人っぽい。
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■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
きゅーん……。
ぶちのめし……。どうしちゃったの?
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■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
我慢できる理性があったのか……。
騎士の剣を奪って村長を刺すくらいはしろよ
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■自分
お前の俺に対する認識、マジでなんなんだよ。
もし妹が強姦されたら、お前の言うようにしただろうが、この時点で村長は言動が不愉快なだけで、何もしていない。
……思いだしてきた。この翌日だ。
今、騎士が裁判をするって言ってただろ?
そのときに棍棒でぶちのめした
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■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
やったあ!
肉の塊がパーンって破裂するの楽しみ!
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■自分
そこまではしない……
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